子供が起こした事故やトラブル、親の監督責任はどこまで?

 

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この記事の執筆者

川島 浩(弁護士)


子供が起こした事故やトラブル、親の監督責任はどこまで?

自分の子供が起こしたトラブルについて、親の責任はどこまで及ぶのでしょう。

2015年4月、事故を引き起こしてしまった児童の親の監督責任をめぐって最高裁が下したある判決が注目を集めました。

これまでその範囲が曖昧で議論の対象となってきた「監督責任」をめぐって、今後司法の判断が変わるかもしれません。

親の監督義務の有無が焦点

親の監督責任

「かわいい子には旅をさせよ」とは言うものの、家の外で子供が事故や事件に巻き込まれやしないか、我が子を育てる親にとって心配は付き物です。

さらに我が子が事件・事故の被害者になるだけでなく、加害者となる可能性だってあります。

「何が危険で、何が危険ではないか」を判断できない子供が引き起こすトラブルは予期できないものが多く、とんでもない重大事故に発展することも少なくありません。

子供が起こしたトラブルについて、親にはどこまで責任が及ぶのでしょうか。

民法713条では、

「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」

と定められています。

未成年者が責任能力を持たない場合はその賠償責任を問われない、ということです。

これまでの判例によると、責任能力を持たない未成年者はおおむね12歳未満とされているようです。

続いて714条では、こう定められています。

1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を追わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2.監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

「責任能力のない未成年者の親権者」は、日頃から注意して人身に危険が及ばないように行動するべきであると子に対して指導監督する義務があり、これを怠っていると「監督義務を怠った」とされ、親の賠償責任が発生します。

すなわち、責任能力のない未成年者が起こした事故・トラブルの損害賠償をめぐる裁判では、その監督義務者(親)に監督義務があったか、あるいは監督義務を履行していたかどうかが争点になるのです。

従来の判例では「監督義務を果たしていた」と証明することは非常に難しく、親に対して賠償命令が下された例が多数ありました。

2008年に兵庫県神戸市で起きた、自転車に衝突され転倒した散歩中の女性(当時67歳)の意識が戻らないまま寝たきりになった事故をめぐる裁判では、ヘルメットを着けずに下り坂を時速20〜30キロで走行していた男児(当時11歳)の両親が監督責任を怠っていたとして、9,500万円の損害賠償が命じられました(神戸地裁2013年7月4日判決)。

またもっと以前の例ですが、子供同士の「インディアンごっこ」で自分の子供が放った矢が相手の児童の左目に突き刺さって失明した事故をめぐる裁判では、加害児童が弓矢を持って外出するのを視認した母親が「外出を許可する代わりに弓矢の使用を禁じる約束」を子供と結んでいたという事実から、母親が親権者として監督義務を果たしていたことが認定され、母親の監督責任を否定しました(最高裁1968年2月9日判決)。

サッカーボール事故をめぐって下された最高裁の新たな判断

そんな中、2015年4月9日に下された、子供が起こしたとある加害事故における親の監督責任をめぐる最高裁の判決が注目を集めました。

2004年2月25日の夕方、愛媛県今治市の小学校の校庭で、当時小学5年生の男児が友人とサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていました。

画像引用元:朝日新聞

引用元:朝日新聞


男児が蹴ったボールがフェンスを超えて道路へ転がり、そこを通りがかったバイクがボールを避けようとして転倒しました。バイクを運転していた80代の男性は足を骨折して寝たきりとなり、事故の1年4ヶ月後に亡くなりました。

ボールを蹴った男児の両親に男性の遺族が損害賠償を求めて訴えを起こし、1審・2審では「監督義務を怠った」として男児の両親に計約1100万円の賠償を命じていました。

1・2審では、サッカーゴールの後ろに事故現場の道路があった(ボールが道路に飛び出す危険性があった)ことから、男児の両親には「本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴らないよう指導する監督義務」があり、両親に対する損害賠償請求を一部認めていました。

しかし今回最高裁は、男児たちは児童らのために開放されていた校庭で使用可能な状態で設置してあったゴールで「日常的な使用方法として」遊んでいたこと、ゴールと道路の間にはネットフェンスと幅1.8メートルの側溝がありボールが道路に飛び出すことが常態であるとはいえないことから、男児がゴールに向けてボールを蹴った行為は「通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない」1・2審の判断を覆しました。

さらに「親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は、ある程度一般的なものとならざるを得ない」として、具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められないかぎり、通常は危険性がないとされる行為によって人身に損害を与えた場合は子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない、という従来と異なる新しい基準を提示し、両親の監督責任を認めませんでした。

今回の判決でこれから何が変わる?

判決

今回の判決で特筆すべき点は、「本来危険ではない行為で責任能力のない者が偶然人身に損害を与えてしまった場合は、監督者の責任は問われない」とする判断を最高裁が初めて下したことです。

これまでは、親が監督責任を果たしたと証明できることが難しく、加害者側が敗訴する例が多くありました。

故意ではなかったにもかかわらず我が子が起こしてしまった事故が大事になり、それまで平穏だった家庭の生活が一変する、といった場合も少なくありませんでした。

今回の判決により、そうした悲劇が起こる可能性が小さくなるかもしれません。

子供のトラブル以外の事例にも影響を与えるかもしれません。

人口の少子高齢化が進む現代の日本では、認知症の高齢者が引き起こした事故で、その介護者が監督責任を問われる事例も想定されます。

実際、2007年に愛知県大府市で起きた、認知症の男性(当時91歳)が徘徊中に電車にはねられて死亡した事故では、JR東海が遺族に遅延損害の賠償を求めて提訴し、1審で91歳の妻と63歳の長男の監督責任が認定され720万円の賠償命令が下されました(名古屋地裁2013年8月9日)。

この判決はのちに「高齢介護の現状にそぐわない判決だ」として各所で批判の声が挙がりました。

2審では一部にJR側の落ち度を認めたものの妻に監督義務者としての責任を課して359万円の賠償命令を下しました(名古屋高裁平成26年 4月24日判決)。長男は監督義務者に該当しないとして、監督責任は認定されませんでした。

しかし、最高裁では、妻は監督義務者に該当するものの、監督義務を履行していたとして、JRの請求を認めず、JR側の全面敗訴となりました (最高裁平成28年3月1日判決)。

一方で、被害者側にとっては今回の最高裁判決は苦いものになる可能性があります。

未成年者による偶然の加害事故では、当事者の子供にもその親にも賠償責任を問うことができない可能性が生じたからです。こうしたケースでの被害者側へのケアは今後の課題ともいえます。

今回は未成年者の加害事故における監督責任についてみてきました。

幸せな家庭生活が、不運の重なりである日一変する可能性があります。

そのような悲劇が生じないことをこれからも祈るばかりです。

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川島 浩(弁護士)

川島 浩(弁護士)

2010年12月、弁護士登録後、都内の法律事務所勤務を経て、2014年2月独立。大和法律事務所開業。「クライアントの皆様がどんなことでも相談できるような存在であり続ける」弁護士を目指し、日々の業務に取り組む。趣味はスポーツ観戦、歴史、釣り、お酒。第一東京弁護士会 犯罪被害者に関する委員会委員。第一東京弁護士会 若手会員委員会委員。著書に「ビクティム・サポート(VS)マニュアル -犯罪被害者支援の手引き-」(共著)がある。電話・メールによる無料法律相談を受け付けております。事務所ホームページの問い合わせ欄よりお気軽にお問い合わせください。
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