残業代請求をした後の反論・支払いまでの期間などよくある質問集

 

最近、スマートフォンで『2048』というパズルゲームをダウンロードしました。

単に画面を上下左右にスワイプするだけのシンプルなゲームなのですが、実に奧が深くてすっかりハマってしまいました。おかげで、最近では毎日の昼休みがあっという間に過ぎてしまいます。

まさに時間泥棒なので手放しでオススメはできないのですが、ご興味がある方は調べてみてください。

て、未払残業代の請求についてお話をしてきましたが、今日は、労働者が残業代を請求したその後がどんなふうになるのか、四方山話的に紹介していきたいと思います。

会社からの反論あれこれ

こちらがいくら周到な準備をして会社に未払残業代を請求したとしても、会社が黙って請求の満額を支払ってくることは、正直いってほとんど期待できません。

会社側としてもそれなりの言い分があるからです。

中には反論として筋が通っているものもありますが、言いがかりにしか過ぎないようなものも多いといえます。

会社がどのような反応をしてくるか、いくつか例を挙げたいと思います。

「時効だから」

「計算編」でお話をしましたが、未払残業代の時効は2年ですので、会社が「ここからここまでは時効だから払いませんよ」と時効を援用した場合には、会社の反論としてはほぼパーフェクトであり、労働者側としてはまず太刀打ちできません。

よっぽど会社の労務管理がひどくて精神的苦痛を受けた、という場合には、不法行為に該当して時効が3年となる場合もありえますが、それはレアケースだと考えてください。

「あなたは管理監督者だから残業代は発生しない」

次にありがちな反論としては、「あなたは管理監督者だから残業代は発生しない」というものです。

もし、会社が言うように労基法上の労働時間等の適用除外に該当するのであれば、その反論は成立します。

労基法41条2項は、こう定めています。

第41条 この章※……で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の1に該当する労働者については適用しない。
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

(※「この章」とは「第4章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」を指します)

この「監督若しくは管理の地位にある者」は、縮めて「管理監督者」と呼ぶことが多いですが、この「管理監督者」というのは、一般的な管理職と言われてイメージするよりはかなり狭い範囲を指す言葉です。

「管理監督者」に該当するためには、具体的には、経営者と一体的な立場であるといえるほどの職務内容や責任・権限が与えられていること、待遇や勤務態様について他の労働者とは違う優遇措置があることなどが必要とされています。

そう考えると、一定程度の規模の会社で、課長や係長などを「管理監督者」だといって残業代の対象外にすることは本当はできないといえます。

また、管理監督者に該当するとしても、深夜労働に対する割増賃金(25パーセント部分のみ)は発生するとされています。

他の割増賃金が労働者の長時間労働を抑制しようという目的であるのに対し、深夜割増賃金は午後10時から翌日午前5時までという時間帯に着目した手当であり、その性質が異なるからです。

「もう払っているでしょ」

固定残業代やみなし残業の制度を採用している会社では、残業に見合うだけの給料を払っている、という反論がありえます。

これらについては計算編でお話したとおりですが、実際の残業時間や割増賃金額が、契約での取り決めよりも多ければ、その差は未払残業代として請求できるんでしたね。

また、「営業手当」とか「管理職手当」とかが「残業代見合いなんだ」、という反論もありえます。

しかし、労働契約書に明記されているとか、就業規則で定められているとか、明確な根拠がなければこの主張は成り立ちません。

文書化された根拠もないのにこのような主張をしはじめたのであれば、会社は反論材料が少ないのだなと思ってもらっていいでしょう。

「勝手に働いていた」「そもそも働いていない」

「残業命令をしていないのに勝手に(自主的に)残業した」という反論をされることもあるでしょう。

この反論については、認められた事例が全くないわけではありません。

以前にも紹介しましたが、会社が残業を強く禁止していたにもかかわらず、その方針に反して残業をした労働者について、未払残業代の請求が認められなかったという裁判例があります。

ただし、これもかなりのレアケースで、実際には会社が指示していないとはいっても、現実には黙認している状況である場合がほとんどです。

よほどしっかり残業を禁止しない限り、会社は労働者の残業を黙認していると言われても仕方がありません。

また、会社の反論としてもっとも無理筋と思われるのは、「そもそもちゃんと仕事をしていなかった」という主張です。

勝手に早出してきているとか、仕事が遅いとか、無断で外出しているとかといったことを取り上げて、労働者側の主張する残業時間を少しでも削ろうとしてきます。

この主張が認められるのは、会社側が明確な証拠を示せた場合のみですが、それを明確にデータで示すことができる場面は限られています。

上司に目をつけられていて、休憩のために席を立つ時間を克明に記録されていたとか、パソコンのログを取ってみたら仕事中にエッチなサイトばかり見に行っている証拠が出てきたとか、労働者側として痛いところを突かれる場合もないわけではありませんが、労働者が本人なりに精一杯仕事をしている限り、会社としてはそもそもちゃんと仕事をしていない証拠を示すことはできないはずです。

このあたりは、以前の記事「仕事が遅いから残業代は出せない」は正当な理由になるのか」も参考にしてみてください。

請求が認められないケースはあるのか

ここまで述べてきたとおり、労働者の残業代請求に対する会社の反論によって、請求が全く認められないケースというのは相当限定されていることがおわかりいただけたかと思います。

しかし、会社としては、もうひとつとっておきの作戦があります。

それは、請求を黙殺することです。

労働者が請求してきたけれど、会社としては無反応を通すということは、ありえないことではありません。

労働者が法的手段に訴え出てこない場合についてはなおさらです。

さすがに裁判を起こされれば会社側も出て行かざるをえませんが、それまでは黙ってやり過ごそう、というケースは、多少ですがあります。

ここで、時効のことを思い出してください。内容証明郵便を送付してから6か月は、時効の完成が猶予されるんでしたね。

労働者側としても、会社が動かない場合に備えて、内容証明郵便で通知する裏では、裁判手続の準備を進めておくのがよいでしょう。

労働者本人が請求するのと、弁護士を通じて請求するのとでは違う?

ここまで、残業代請求の仕組みをずっと述べてきましたが、ここで身も蓋もないことを言います。

労働者本人が未払残業代を請求することには、どうしても限界があるといわざるを得ません。

第一には、単純になめられるということがいえます。

先ほど述べたとおり、会社は一定程度の反論をしてきますし、場合によっては無反応ということもありえます。

そのうえ、訴訟ならともかく、その前の交渉段階から弁護士が出てくる場合もあります。

弁護士が出てきたら、なおさら交渉力に差が出てしまうのは仕方のないことだといえます。

なめられるというのは少し違ってきますが、弁護士が出てきた場合、法律の適用や今までの経験等によってある程度の結果の見立てを行い、その結果予想を見据えて交渉や訴訟に臨みますので、落としどころをさぐることに長けているといえます。

悪く言えば、丸め込まれる可能性がある、ということです。

第二に、労働者個人で資料を収集するのは大変難しいということがいえます。

タイムカードや就業規則などをこっそりコピーして持ち出せればいいですが、なかなかそう簡単にいくことではありません。

また、会社が「残業申請書」とか「残業指示書」とかといった資料を持っていて、どこかの段階でそういう資料を満を持して出してくることもあります。

弁護士であれば、会社との交渉や、弁護士会や裁判所の制度を利用して、会社に資料を出させることができ、それによって結果に差が出ることもあるといえます。

反論ではなく反撃してくることも


今までは会社側の反論について述べてきましたが、会社があらぬ方向から反撃してくることもあります。

会社に在籍したまま残業代請求をした場合に限ってのことですが、さまざまな理由をつけて報復人事や懲戒処分、ときには解雇をしてくる可能性が考えられます。

労働者がどんなに模範的な働き方をしていたとしても、全くミスをしないことはありえないですよね。

そのような、取るに足らない些細なことを針小棒大に取り上げて反撃をしてくる事例というのは少なからずあります。

会社がより周到であれば、査定を下げたり、ちょっとしたミスを事細かに記録したりすることで、反撃が正当にみえるような材料を集めていることもあるでしょう。

このような報復人事や懲戒処分、解雇などについては、会社に抗議しただけでそれを撤回することはまずありえませんので、必然的に裁判外の交渉やあっせん、または裁判上の請求によって撤回や無効を求めるしかなくなってしまいます。

しかし、会社との間でそのような対立構造になってしまうと、会社との信頼関係が破壊され、ほとんどの場合、復職(雇用継続)は困難となります。

会社との関係がこじれてしまった場合は、交渉過程で、解決金の支払いと退職を前提とした解決案が示され、最終的には金銭的な解決と引き換えに、退職に至るケースがほとんどだといわざるを得ません。

未払い残業代の請求が解決するまでの期間は?

これについてはみなさん気になるでしょうが、会社の対応によりけりですので、一概には言えないところです。

交渉だけでも数か月を要することはザラにありますし、これが労働審判になればさらに3か月程度、訴訟になれば半年以上の時間が掛かります。

これを自分ひとりで準備して交渉して訴訟して、ということになれば、さらに時間と労力を取られることになるでしょう。

また、会社との間で一定の合意に至ったとしても、会社に資力がない場合ですと、分割払いを要求されたり、その分割払いすらおぼつかなかったり、最悪倒産してしまうこともありますので、会社が認めてくれたから無事解決、万歳とは言い切れません。百里を行く者は九十里を半ばとするくらいの気持ちが必要です。

逆に、よほど会社に反論の余地がない場合などでしたら、それほどの時間も掛からずに支払われることもあります。

会社にとっても、交渉に時間を要することはストレスになるので、認めるべき部分については最初からきちんと認めてしまうほうがいい場合も少なくないからです。

未払い残業代の支払いをするかしないかも含めて、弁護士などの専門家に相談するのがベターですね。

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平賀 律男(パラリーガル)

平賀 律男(パラリーガル)

1982年,北海道生まれの33歳。北海道大学大学院法学研究科にて労働法を専攻し,修士号を取得。2008年からは,パラリーガル(法律事務秘書)として法律事務所に勤務し,企業法務・破産管財などの法律実務に携わるかたわら,在野の労働法研究者としての活動も続けている(2005年より日本労働法学会会員)。著作(共著)に『ワークルール検定問題集』『おしえて弁護士さん 職場のギモン48』(以上,旬報社)『18歳から考えるワークルール』(法律文化社)など。好きな食べ物はラーメン。
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