労働審判制度のメリット・デメリットと弁護士費用の相場

 

労働審判制度のメリット・デメリットと弁護士費用の相場
最近まで暖かかった札幌もついに真冬日(最高気温が氷点下の日)を迎え、一気に冬らしくなってしまいました。

大雪が降る日には空が真っ暗になり、私は何でこんなところに住んでいるのだろうという根本的な疑問を持ってしまうのですが、そのあとの一面の雪景色を見ると綺麗だなあと思ってしまうのが悔しいところです。

今年最後の記事は、労働審判制度についてです。平成18年に導入されたこの制度ですが、年々申立件数が増え、ここ数年は3000件台で横ばいと、すっかり定着した感があります。労働審判の件数の推移導入から10年を迎えるにあたって、改めてこの労働審判制度の概要や弁護士費用などについてご説明させて頂きます。

労働審判制度とは?

この労働審判制度というのは、個々の労働者と会社(使用者)との間に生じた紛争を、紛争の実情に即して、迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とした制度です(労働審判法1条)。

「紛争の実情に即して」とは、通常の民事訴訟のようにガチガチの事実認定と法適用によって結論を出すのではなく、事例に応じて最も適切と思われる結論を柔軟に示すということであり、この制度の最も特徴的な部分となっています。

労働審判手続の進み方と期間

問題解決までの過程は3段階に分かれます。

裁判官と労使双方の専門家で構成される労働審判委員会が、まずは1回目の期日で両当事者に主張や反論を口頭で行わせ、そのうえで、

①労使双方を交えた話し合いや、労使それぞれから個別に意見や解決方針の聞き取り(審尋)を行うことで当事者間に合意が形成(調停成立)できるように試みます。

調停の段階では、原則として、他方は部屋の外で待機し、部屋に残った側は労働審判委員会に対し、絶対に譲れない点や、妥協可能な点などを伝え、その後は入れ替わりという流れを繰り返します。

そして、②もし3回目の期日で調停が成立しなかった場合には、それまでの両当事者の主張や明らかになった事実等を踏まえて結論を示す(審判)という仕組みになっています。

調停(①)には、通常の民事訴訟における和解と同様に、当事者に対する強制力があります。

審判(②)についても、通常の民事訴訟でいう判決と同様の法的効力があるのですが、③当事者がその審判の内容に異議がある場合など2週間以内に異議申し立てを行い、審判は失効して、通常の民事訴訟へと移行します。

これを図で示すと、このような感じになります。
労働審判の流れ画像を拡大する
引用元:裁判所のHP

労働審判手続においては、原則として3回以内の期日で、調停(①)と審判(②)のどちらかの結論を出すのがルールです。

そして、書面による主張は原則として「申立書」と「答弁書」のみであり、当事者の主張は基本的に口頭で行わせることとなっています。

これらのことから、審理期間は平均で約70日と、長期化しがちな訴訟よりもずっと迅速な紛争解決が可能となっています。労働審判の流れ

しかし、この「3回以内」というのは、労働審判手続による紛争解決にとって、逆に大きなネックにもなります。

例えば、労使双方の言い分があまりに食い違っている場合は、3回以内の期日では合意に至ることが困難であり、そのような状態で審判が示されても当事者から異議が出て、結局は通常の訴訟へと移行してしまうことが多いのです(その場合、紛争が余計長期化するともいえます)。

また、判断に長時間を要する複雑な事案は、3回の審理では時間が到底足りないので、労働審判による解決はそもそも向きません。

事案の性質上労働審判にそぐわないと判断されれば、労働審判を行わずに通常訴訟へ移行することもあります(労働審判法の条番号から「24条終了」と言われます)。

なお、この労働審判手続の期日は、各地の地方裁判所(一部の支部も含む)で、平日に開かれます。

労働審判も通常の訴訟などと同様で、都合が悪いから土日に予定を入れてほしい、などということはできません。

ただ、裁判所に行くのは3回(申立書の提出を入れると4回)だけですし、本人が出席することが望ましいとはいえ、どうしても予定がつかなければ弁護士だけが出席することも可能ですので、弁護士とよく相談してみるのがよいでしょう。

労働審判と相性の良いトラブル

労働審判の様子(再現)※裁判所のHPより

労働審判の様子(再現)※裁判所のHPより


労働審判手続に向いているかどうかというのは、事件の類型である程度決まってきます。

例えば、労働審判の約半数は、「不当解雇」「雇止め」など、労働者としての地位を確認する事案が占めていますが、これはまさに労働審判に向いている類型だといえます。

通常訴訟であれば「解雇は無効だから原職復帰させなさい」という硬直的な判断しかできないのに比べて、労働審判では「解雇は無効っぽいけど労働者としても会社に戻る気がない」といった場合に、原職復帰ではなく和解金による解決を提示する、などといった柔軟な解決ができるからです。

また、すでに金額が決まっている「賃金・退職金」等の支払いを請求する事案も、その金額が確からしいことと、それが実際には支払われていないということを示しさえすれば結論は明らかとなるので、これも労働審判に向いているといえます。

あまり相性が良くないトラブル

他方で、「就業規則の不利益変更」とか「整理解雇」、また「パワハラ・セクハラ」とかといった、そもそも複雑な争点を持つ事案は、労働審判で合意をまとめたりするのはかなり困難だといえます。

ただ、これらの事案についても、あっさり和解が成立してしまうこともあるので、ハナから門前払いということはあまりないようです。

そして、「未払い残業代請求」については、これは微妙なところです。

本来であれば、労働時間数とか、そもそも労働時間かどうかとかについてきっちりと事実認定したうえで未払残業代の金額が決まるものなので、3回の期日では互いに立証・反証しきるのは難しいといえます。

しかし、労働者が必ずしもきっちりとした事実認定による解決にこだわらず、和解的な解決でもよいと考え、使用者側(会社)も未払いの事実を認め和解的な解決に同調するような場合であれば、ざっくりとした解決金の支払いでおしまいにする、というニーズもあります。

これこそ「紛争の事情に即して」柔軟な判断が求められるところだといえます。

調停前置主義は適用されるの?

知っている人は知っているけれど、なじみのない人は全く知らない「調停前置主義」という言葉があります。

これは、法的紛争をいきなり訴訟提起によって解決するのではなく、原則として最初に調停の申立てをして、まずは調停手続による解決を試みなさいね、という決まりのことです。主に「家事事件」と呼ばれる家庭内の紛争(離婚や相続など)においてそのようなしくみが取られています。

これは、家庭の問題であれば紛争解決後も人間関係が続いていくことから、いきなり裁判に訴え出て対立を決定的なものとするよりも、まずは話し合いによる解決を試みることが、当事者間の人間関係において好ましいといえるからです。

労働審判については、民事訴訟を起こす前に必ず労働審判を申し立てなさいとか、民事調停を申し立てなさいとかいう決まりはありません。

なので、話し合いで済ませたいのか、迅速な解決を求めるのか、時間を掛けてもきっちり白黒つけたいのか、といったニーズの違いによって、好きな手続を選ぶことができます。

労働審判に掛かる費用

労働審判制度の費用
労働審判を申し立てるにあたっては、通常の民事事件を提起するときと同様、裁判所に手数料を支払う(収入印紙を申立書に貼って提出する)必要があります。

ただし、労働審判は、民事訴訟の半額の手数料で提起することができます。

具体的には、請求金額が100万円までなら10万円ごとに500円ずつ、それを超えると20万円ごとに500円ずつと、ちょっと変則的な増え方をしていきます。裁判所ウェブサイトの「手数料額早見表」も参考にしてみてください。
 
また、書類を当事者に郵送するための郵便切手も併せて提出する必要があります。
この金額は、各地方裁判所によってまちまちなので、事前に確認すべきでしょう。

弁護士に依頼した場合の費用相場

そして、弁護士に依頼する場合には、弁護士費用も当然掛かります。

弁護士費用は各事務所によってまちまちなので一概には言えませんが、相場観としては、相談料だけなら0~1万円程度、労働審判を申し立てるとなると、着手金として請求額の8~15パーセント程度、成功報酬として請求額の16~25パーセント程度が相場となります。

仮に200万円の未払退職金請求をするとなると、裁判所への申立手数料として1万円、弁護士への着手金として20万円前後、全額回収できた場合の成功報酬として40万円前後。

全体の2~3割くらいは費用になってしまうというふうに考えていただければよいかと思います。

弁護士に依頼するべきか自分だけで挑むべきか

この労働審判という手続は、申立書・答弁書が出たあとは、基本的には口頭で主張を行い(口頭主義)、事実関係の調査は審判委員会からの質問等が中心となっています(職権主義)。

カッチリとした書面で主張を積み上げていくわけではなく、労働者個人で答弁書や証拠などの書類を用意すれば一人でも対応しやすい手続きです。実際に1割弱のほどの方が弁護士をつけずに労働審判に挑んでいらっしゃいます。

ただし、何が争点でそれをどう主張・立証していくかとか、そもそもこの事案は勝ち筋なのかどうかなど、弁護士でないと判断が難しい部分が多々あります。また、ほとんどの場合において相手側も弁護士をつけてきます。

そのような理由から、多少費用が掛かるのは仕方ないとして、プロにサポートしてもらうのが得策だと思います。

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平賀 律男(パラリーガル)

平賀 律男(パラリーガル)

1982年,北海道生まれの33歳。北海道大学大学院法学研究科にて労働法を専攻し,修士号を取得。2008年からは,パラリーガル(法律事務秘書)として法律事務所に勤務し,企業法務・破産管財などの法律実務に携わるかたわら,在野の労働法研究者としての活動も続けている(2005年より日本労働法学会会員)。著作(共著)に『ワークルール検定問題集』『おしえて弁護士さん 職場のギモン48』(以上,旬報社)『18歳から考えるワークルール』(法律文化社)など。好きな食べ物はラーメン。
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