なぜ交通事故の示談金や慰謝料を増やすのに弁護士が必要なのか

 

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この記事の執筆者

木下慎也(弁護士)


交通事故被害に遭った場合、示談を自分で行う場合と、弁護士に任せた場合では、もらえる賠償額に大きな差が出るケースがあります。

ここではケーススタディを使って、弁護士が介入することで、どういった部分で有利な解決に至りやすいのかを説明していきたいと思います。

ケーススタディ

Aさんは42歳の女性です。

夫であるBさん(45歳)と長男であるC君(18歳)がいる家庭で、主婦業をしんがらパートをしていて、毎月15万円の収入があります。

ある日、Aさん自転車パートに向かうため、青信号で交差点を渡ったところ、同じく青信号で右折進行してきた車とぶつかって点灯し、激しく首を打ち付けてしまいました。

事故後、Aさんは病院で、頚椎捻挫で全治2種間の安静加療と診断されました。

Aさんは、自宅で安静にしていましたが、2週間たっても首を動かすと痛みが伴うことから、再度病院で精密検査を受けました。

すると新たに「頚椎ヘルニア」と診断され、「全治3ヶ月」と診断されました。

Aさんは、新たに保険会社にその後の治療費と休業損害をを支払ってもらえないか訪ねました。

しかし、「頚椎ヘルニアは事故によるものではなく、加齢に伴う痛みによる可能性が高い」と指摘され、これ以上は支払えないと断られてしまいました。

Aさんは、弁護士に依頼することは大袈裟だと思ったので、自分で保険会社と示談交渉しようと考えています。

実損と物損

交通事故の損害には人損と物損と呼ばれるものがあります。

人損というのは、人間が怪我を負ったり、後遺障害を残してしまうことによる損害です。

これに対し、物損とは器物の損壊に関する損害です。

人損で相手に請求できるもの

治療費

交通事故によって怪我をした時の治療費は、事故に起因する損害として相手方に請求することができます。

ただし、治療費として請求できるのは、基本的には改善の効果が認められている期間に限られるので注意が必要です。

もし、Aさんが3ヶ月治療を続けても痛みがとれず、医師もこれ以上治療を続けても効果が期待できないと診断した場合、その診断日が症状固定日(後遺障害が確定する基準日)として定められます。

症状固定になると、症状固定日以降の治療は、治療しても効果を期待できないものと考えられますから、原則として相手方に治療費を請求することはできなくなります。

入通院慰謝料

治療のために入院や通院をすることになった場合、その期間に応じて慰謝料を請求することができます。

入院や通院を余儀なくされること自体が大きな苦痛と考えれるからです。

入院や通院がどれぐらい期間に及ぶか、またその事故にあった人が一家の家計においてどのような役割を果たしていたかなど具体的な事情によって、入通院慰謝料の金額も変わってきます。

休業損害

交通事故の後、治療のために働けなかった場合、会社などからその期間の給料が支払わなければ、加害者に対して休業損害としてその補償を請求することができます。

仮に治療のために有給休暇を消化していたような場合は、事故さえなければ、治療に有給休暇を利用しなくてもよかったと考えられるので、相手方に対して休業損害を請求できる可能性があります。

後遺障害慰謝料

治療を続けた後、これ以上改善が見込めないとなれば、症状固定となり、その後、後遺障害が残ることがあります。

身体に後遺障害が残ってしまった場合は、そのこと自体に精神的苦痛が認められて、慰謝料を請求することができます。

後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害の程度によって異なってきます。

逸失利益

逸失利益というのは、その事故がなかった場合、本来であればその人が普通に働いて受け取れていたはずの利益のことです。

事故の後、治療しても、完治しなかった障害が認められる場合には、事故により後遺障害が残ったもとして、逸失利益が支払われます。

これから仕事をしていくうえで、事故による後遺障害のために労働能力が低下したものとみなして、100%の労働収入による収入との差額を損害として請求できるのです。

どのぐらい労働能力が低下したとみなされるかは後遺障害の程度によって異なりますから、これによって逸失利益の金額も異なってきます。

また、不幸にして被害者が亡くなってしまった時にも、事故がなければ将来得られるはずの収入について、逸失利益が認められます。

物損で相手に請求できるもの

車両が修理不可能なほどに壊れていて、買い換えるしかない場合、または修理費が事故車両の事故時の時価額を上回る場合は、原則として「全損」として、事故時の車両の時価額が損害となります。

一方、車両が修理可能であって、修理費が買い換えるよりも安く済む場合には、修理にかかる費用が損害として認めれます。

お互いの責任を相殺する「過失相殺」

交通事故の場合、お互いに交通ルールを守りながら、一定の注意義務を守ることが求められることが多く、どちらか一方当事者だけが、100%落ち度を認められることは比較的少ないです。

したがって、損害の公平な分担の観点から、事故が起こったことに対して、自分がどれだけ責任を負っているからによって、請求金額が減額されることがあります。

これを「過失相殺」と呼びます。

過失相殺の割合については、事故状況や事故の車種(たとえば四輪車対四輪車か、四輪車対自転車か)などによって、ある程度の基準が定められています。

Aさんが自分で対応した場合の解決例

人損

Aさんが保険会社と交渉した結果、やはり新たな治療費の支払は認めてもらえませんでしたが、1ヶ月分の休業損害として、パート収入と同額の金15万円と、1ヶ月分の入通院慰謝料として、金12万円(1日4000円)を支払ってもらえることになりました。

ただし、自転車に乗っていたAさんも歩行者のような交通ルール上の弱者ではなく、一定の注意をしながら横断歩道を渡るべきであったとして、Aさんは保険会社から10%の過失相殺を主張されました。

Aさんには、過失相殺の意味がよくわからなかったし、専門家が説明することなので、そんぐらいが相場なのだろうと考えて了解しました。

物損

Aさんが乗っていた自転車は完全に壊れてしまいました。

少し高価な電動式の自転車で、修理すると5万円かかるのですが、中古自転車の価値が3万円と評価されたので、物損は3万円と算定されました。

ただし、Aさんはこちらにも過失相殺が適用されると説明されました。

結果

結局、治療費を支払ってもらえないAさんは、途中で通院をやめてしまいました。

そして、Aさんは新たな治療費は支払ってもらわなかった代わりに、保険会社から、人損として、休業損害15万円と入通院慰謝料12万円を合わせた27万円と、物損としての3万円を合わせた30万円から、10%の過失相殺をされた合計27万円を受領しました。

Aさんとしては、もう少し治療したかったですが、保険会社から、これ以上は治療費を支払ってもらえないと言われたし、27万円はAさんにとって貴重なお金でした。

弁護士に頼んでも費用もかかるし、どのぐらい違いがあるのかよくわからず、なんとなく敷居が高くて面倒なので、これで保険会社と示談しました。

ただ、交通事故から半年たった現在も、Aさんは首に痛みが残っていて、もう少し自費で通費した方が良いのか悩んでいます。

自分で示談交渉して得られた金額

・休業損害 15万円
・入通院慰謝料 12万円
・物損 3万円
・過失相殺 -3万円(-10%)

合計27万円

Aさんが弁護士を介入させた時の解決例

症状固定

Aさんは弁護士に関する情報を得て、甲弁護士の法律事務所を訪れてみました。

Aさんに依頼をうけた甲弁護士は、すぐにAさんの主治医と面談して、Aさんの治療の状況や今後の改善の見通しを確認しました。

その結果、Aさんのレントゲン写真を見せてもらいながら、Aさんのヘルニアは、事故時の外傷によるものであって、加齢に伴ういわゆる経年変化によるものではないことを教えてもらいました。

また、現在Aさんは電気治療などによって、少しずつヘルニアが改善しており、少なくとも3ヶ月は治療を継続した方がよい旨の医学的な意見を伺うことができました。

甲弁護士は、医師に意見書を作成してもらい、早速保険会社と交渉して、3ヶ月はAさんの治療を継続することを認めてもらいました。

その結果、Aさんは、3ヶ月間治療費を支払ってもらいながら通院を続けて、かなり首の痛みが改善しました。

そして、3ヶ月後、医師から症状固定の診断を受けて、残存する痛みについて、後遺障害診断書を作成してもらいました。

休業損害

Aさんは、3ヶ月分の休業を余儀なくされましたから、この間のアルバイト収入と同額の45万円の休業損害が認められました。

入通院慰謝料

Aさんは、3ヶ月分の通院を余儀なくされましたから、この間入通院の慰謝料が認められました。

ただ、甲弁護士は、保険会社の基準ではなく、裁判所が用いる基準で計算して慰謝料を請求しましたので、入通院慰謝料だけで、72万円(1日8000円)の請求が認められました。

また、この間の通院に要した交通費として合計8万円も認めてもらいました。

後遺障害に関する損害

症状固定後のAさんの痛みについて、医師に作成してもらった後遺障害診断書をもとに調べてもらったところ、Aさんにはむち打ちによる神経障害が残るとして、後遺障害14級との診断がなされました。

しかし、保険会社は、Aさんの後遺障害と事故との因果関係を争って、後遺障害に関する損害の支払を拒みました。

過失相殺

甲弁護士は、青信号で横断していたAさんについて、過失相殺をすることは不当である旨反論しましたが、保険会社は、過失相殺による減額を譲りませんでした。

裁判による解決

そのため、後遺障害の損害の補償と過失相殺については争いが残ってしまったので、示談ができませんでした。

そこで、甲弁護士は、Aさんに裁判による解決を提案しました。

Aさんは、裁判をしたことがないので、コストや時間がかかることの心配をしましたが、甲弁護士からは

①裁判になると、示談交渉の時には、互譲の精神に基いて請求が認められにくい弁護士費用や遅延損害金などの請求が認められて、プラスも見込めること

②争点はそれほど複雑ではないので、裁判になってもそれほど長期化しない見通しを聞いて、提訴することにしました。

一方、物損だけは別に示談にして、先に損害金を支払ってもらいました。

裁判の結果

裁判は8ヶ月で判決によって終了しました。

主な争点となった後遺障害ですが、Aさんは14級の後遺障害によって、5%の労働能力が減少したことが認められ、将来にわたっての逸失利益として、金45万円の損害が追加されました。

また、後遺障害慰謝料として、さらにAさんは、90万円の損害が認められました。

保険会社の過失相殺による減額の主張は認められませんでした。

一方、甲弁護士の主張どおり、請求額の10%の弁護士費用と年5%の遅延損害金が追加で認められました。

結局Aさんは、以下の損害を請求して、すべて認められました。

弁護士に示談交渉を依頼して得られた金額

・休業損害 45万円
・入通院慰謝料 72万円
・交通費 8万円
・後遺障害逸失利益 45万円
・後遺障害慰謝料 90万円
・弁護士費用 26万円
・遅延損害金 13万円
・物損 3万

合計 302万円

まとめ

このように、全ての事故でこのよな増額が得られるとは限りませんが、事案によっては弁護士が介入するかしないかで、保険会社などに治療費を支払ってもらいながら治療できる期間が長くなるとともに、認められる損害がかなり異なってくることがあります。

今回のケースのように、入通院慰謝料の基準が保険会社の基準か弁護士が使う裁判基準かで異なるだけでなく、そもそも保険会社が認めていなかった後遺障害に関する損害が弁護士の介入後に初めて認めてもらうことも少なくないからです。

また、過失相殺の反論に対して再反論を加えたり、今回のケースのように、弁護士費用を遅延損害金の請求を追加できる可能性があることも見逃せないポイントです。

これらの結果、弁護費用を支払ってもAさんを個人で交渉した解決例より相当有利になる可能性があります。

最も特筆すべきは、Aさんは甲弁護士に代理人になってもらうことによって、ようやく医師が必要と認めた3ヶ月間の治療を受けることができたわけですが、このように、弁護士の介入によって、初めて適切な治療を受けることができて、症状が改善することが多いことも重要です。

金銭の補償も大切ですが、誰にとっても、怪我が完治して健康になることが最も望ましいことだからです。

弁護士費用保険で突然のトラブルの備えを

最後に弁護士費用保険について触れておきたいと思います。

「弁護士費用保険」とは、その名のとおり、いざというときに、「弁護士に仕事を頼む際に必要となる弁護士費用の全部、または一部を肩代わりしてくれる保険」です。

自動車の任意保険でも、事故を起こしたときに弁護士費用が出る「弁護士費用特約」をつけることが可能です。

しかし、それらのほとんどは交通事故などの事故によるトラブルを想定しています。

それ以外の生活の場面にまで保険対象を広げているものもありますが、それでも、「人が傷つく」とか「物が壊れる」といった人身事故や物損事故に限定されています。

実は、そのような事案は、弁護士に寄せられる相談の中でそれほど多いものではありません。

弁護士に寄せられる相談は、金銭トラブル、離婚トラブル、相続トラブル、労働トラブル、ご近所トラブルなど多岐にわたります。

このような事故系以外のトラブルにも保険を適用することができて、もっと気軽に一般の方に弁護士を活用してもらうために生み出されたが、弁護士費用保険になります。

弁護士費用保険に加入することで、何か法的トラブルに巻き込まれても、まずは気軽に弁護士に相談できるような環境を実現して頂ければ幸いです。

>>弁護士費用保険について詳しく見る


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木下 慎也(弁護士)

木下 慎也(弁護士)

弁護士法人リーガルジャパン代表弁護士。大阪弁護士会所属。昭和42年生まれ。平成3年に東北大学法学部卒業後、平成5年に司法試験合格。司法修習を経て、弁護士登録。平成23年に弁護士法人リーガルジャパンを設立。弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方、会社であればその経営方針などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。著書に「かかりつけ弁護士の見つけ方」がある。
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