判例で学ぶ眺望権―眺望権の保護と景観権との違い

判例で学ぶ眺望権―眺望権の保護と景観権との違い

ベランダからの眺めが気に入りマンションを購入したのに、なんとすぐ向かい側に高層マンションが建つことに。

このままではせっかくの眺めが台無しになってしまう……。

そんなとき、眺望権の侵害を理由に裁判を起こすことはできるのでしょうか?

今回は眺望権について、実際の判例を交えながら解説します。

眺望権とは

眺望権とは、建物の所有者などが、そこからの風景等の眺望を他の建物などに妨害されることなく、これまで享受してきた一定の景色を眺望できる権利のことをいいます。

しかし、眺望権は法律上に規定されている権利ではなく、裁判においてもほとんど認められていないのが現状です。

日照権との比較

眺望権と同じような考え方の権利として、日照権が挙げられます。

しかし、日照権が保護されるべき権利として確立したものであるのに対して、眺望権は日照権よりも保護の必要性が低いと考えられています。

これは、日照権が侵害された場合には心身の健康に直接影響を与える可能性が高いのに対して、眺望権が侵害された場合は心理的充足感を阻害するに過ぎず、日常生活に深刻な影響をもたらさないと考えられているためです。

景観権との違い


眺望権と類似の概念として、景観権が挙げられます。

景観権とは、自然の景観や歴史的・文化的景観を享受する権利のことを指します。

眺望権が建物などの特定地点からの眺めをいうのに対し、景観権は地域の街並みや自然の風景全体について地域住民が持つ権利とされています。

なお、国立マンション訴訟(最高裁判所H18.3.30)では、地域住民が景観を享受する利益(景観利益)は法律上保護に値するとしながらも、景観利益を超えて「景観権」という権利性を有するものを認めることはできないと示されています。

眺望の利益の認定基準

眺望の利益は、どのような場合に認められうるのでしょうか。

後ほど紹介する大阪地裁の判決(H20.6.25)では、眺望の利益に関して以下のように言及されています。

眺望利益は、その特定の場所からの眺望の点で格別の価値をもち、このような眺望利益の享受を一つの重要な目的としてその場所に建物が建築された場合のように、当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の享受が社会観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有するものと認められる場合に限って、法的に保護される権利となるものと考えられる。

眺望の利益が保護される具体的な要件としては、

①眺望価値のある景観が存在すること

②当該場所の価値が景観眺望に依存していること

③眺望保持が周辺土地利用と調和を保つこと

④眺望享受者が当該場所を占有するにつき正当な権限を有すること

が必要であるといえます。

したがって、一般に住宅地における眺望は、別荘地や観光地における眺望ほどには格別の価値を見出しがたいとされています。

また、眺望権の侵害については、これを侵害する行為がすべて違法な不法行為となるわけではありません。

眺望権の侵害行為が社会的相当性を逸脱し、眺望利益が受忍限度を超えて侵害された場合において、初めて違法性が認められるのです。

眺望地役権の設定

眺望を保護するために、取りうる手段はないのでしょうか。

この場合、「眺望地役権」(ちょうぼうちえきけん)を設定することが有効です。

民法では、別の土地の所有者同士で独自のルールを設定できることが規定されています(民法第280条)。

第二百八十条  地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。

ここで、建物の所有者と周辺の土地の所有者との間で、「一定範囲の土地について、nメートル以上の建築物は建てない」というように、眺望を確保することについて取り決めます。

これを「眺望地役権」といいます。

眺望地役権があれば、これに違反する建築を差し止めることができるようになるのです。

なお、眺望地役権の合意内容は、そのままでは合意した当事者にしか適用されません(民法第177条)。

すなわち、合意をした土地所有者から土地を購入した第三者に対しては、眺望地役権を主張することができないのです。

第百七十七条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

この場合、眺望地役権の登記を行うことによって、第三者にもこのルールを適用させることができます。

当事者同士の合意により眺望を確保した場合には、眺望地役権を設定し、登記をしておくことで、眺望を保護することができるのです。

眺望権の判例


建物からの眺望を巡って争われた裁判例について見ていきましょう。

損害賠償請求が認められた事例①(大阪地裁H4.12.21)

木曾御岳山の山並みを重要な目的として社員保養用の別荘を建てた原告が、その後100mほど離れた場所にリゾートマンションが建設されたことによって眺望を阻害されたとして損害賠償を求めた裁判で、裁判所は原告の訴えを認めました。

被害を受けた別荘からの眺望は格別の価値を持っていること、この別荘は眺望の利益享受が重要な目的として建てられていること、リゾートマンションの建築者側が原告の別荘からの眺望に対して何の配慮もせず、事前の説明もなしに付近では見られないような10階建てのマンションを建築したことから、別荘からの眺望が著しく阻害されるに至り、その阻害の程度が受忍限度を超えたものであると認められたのです。

損害賠償請求が認められた事例②(東京地裁H18.12.8)

隅田川花火大会が見えるマンションの部屋を購入した原告が、同じ業者がすぐ近くに別のマンションを建設したことで花火が見えなくなったとして損害賠償を求めた裁判で、裁判所は、請求額を減額しながらも原告の訴えを認めました。

隅田川花火大会を取引先の接待に使うために購入したという原告の事情を知っていたにも関わらず、業者がマンションを建設して眺望を阻害したことが、信義則上の義務に違反すると認められたのです。

売買契約解除が認められた事例(福岡地裁H18.2.2)

「全室オーシャンビュー」を謳うマンションを購入した買主が、ベランダの外に電柱および送電線が見えたことから、眺望に関する説明が事実と異なるとして売買契約を解除し、売主から違約金を請求された裁判で、裁判所は、売主の説明義務違反を理由に売買契約の解除を認めました。

眺望をセールスポイントにしているマンションにおいては、眺望に関する情報は重要な事項であることから、売主側は可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があるとして、売主がこの説明義務を怠ったのは債務不履行にあたるため売買契約は解除できると認められたのです。

損害賠償請求が認められなかった例(大阪地裁H20.6.25)

大阪市に建つ地上28階建てのマンションを購入した原告が、同じ業者が約80mの距離で建てた地上39階建てのマンションのために眺望が悪化したとして損害賠償を求めた裁判で、裁判所は原告側の請求を棄却しました。

業者側は売買契約締結の際に将来建物からの眺望が変わる可能性があることを明示しており、その段階で原告が質問をしたり異議を唱えたりしていなかったことから、原告は説明内容に納得して売買契約を締結したと認められたのです。

裁判にあたってのポイント

建物からの眺望自体が法的に保護されない場合でも、建物の売買時における業者からの不当な説明に対して責任を追及することは可能です。

上記のとおり、説明義務違反による売主や仲介業者の責任が認められた裁判例は多数存在します。

売主や仲介業者の説明義務違反を追及する場合には、売買時の説明やセールストークが証拠として残っているかどうかが非常に重要となります。

裏を返せば、これらの証拠がない場合には立証が非常に困難といえるでしょう。

証拠としては、説明会等の録音やパンフレット等が有効です。

建物を買うときにはこれらの情報をきちんと集め、保管しておくようにしましょう。

まとめ

眺望権は必ずしも保護すべき権利とは考えられておらず、特段の事情がない限り、裁判においても認められることは難しいといえます。

しかし、眺望地役権を設定・登記したり、購入時の業者の説明を記録したりすることで、眺望を保護するための対策を講じることは可能です。

せっかく購入した建物の眺望が損なわれないよう、弁護士等の専門家のアドバイスを受けながら、対策を講じるようにしましょう。

弁護士に相談をする際には、弁護士の費用がかかるケースに備えて、弁護士保険に加入しておくことがおすすめです。

実際に訴訟などになった際の弁護士費用を軽減することが可能です。

また、法人・個人事業主の方には、法人・個人事業主向けの弁護士保険がおすすめです。

今回の記事を参考にして、上手に弁護士保険を利用しましょう。