解説!養育費用の強制執行(差し押さえ)に必要な条件と手続きは?

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この記事の執筆者

福谷 陽子(元弁護士)

養育費の強制執行(差し押さえ)に必要な条件と手続きの流れ

離婚するときに養育費の取り決めをしても、支払いが止まってしまうことがあります。

相手に督促をしても無視をされたり、連絡さえもとれないこともあるでしょう。

厚生労働省の「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、母子家庭で養育費を受け取れている割合は28.1%。約7割以上の母子世帯は養育費を一度も受け取ったことがないという実態です。

参考:厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」

このような場合、相手の資産を差し押さえることにより、養育費を取り立てることが可能です。

ただ「差し押さえと言われても、なんだか難しそう…」「自分にできるかな?」と不安になる方もいらっしゃるかもしれません。

そこで今回は、養育費の強制執行(差し押さえ)に必要な条件と手続きの流れについて解説します。

こんな疑問にお答えします

Q.養育費を差し押さえをするときの流れを教えてください。

A.基本的な流れは、以下のとおりです。

  1. 相手の資産や勤務先を調べる
  2. 送達証明書と執行文を取得する
  3. 地方裁判所に申立をする
  4. 「陳述催告の申立」を行う
  5. 債権差押決定を受ける
  6. 送達通知書、陳述書を受けとり、取り立てを行う
  7. 取立届を提出する

債権差し押さえにかかる期間の目安は、だいたい2週間程度です。ただし、差し押さえができないケースもあるので注意が必要です。その場合の対策も知っておきましょう。

大前提として離婚しても養育費は支払ってもらなければならない

まず、大前提としてお伝えします。

離婚しても養育費は支払ってもらう必要があります。

そもそも養育費とは、子どもの監護や教育に必要となる費用のこと。子どもが経済的自立をするまでに支払ってもらう費用を指します。

養育費には、教育費以外にも、医療費や食費など衣食住に関するお金が含まれます。

子どもと離れて暮らす親は、離婚したとしても親として変わりはなく、養う義務は当然あります。

しかし、冒頭にもお伝えしたように、約7割以上の母子世帯は養育費を一度も受け取ったことがないのです。

養育費の未払いは違法

ここで「養育費の未払いは違法かどうか?」という疑問が生じます。

結論、養育費の未払いは法律上で義務違反となるので違法となります。

養育費の支払い義務は、養育費をもらう権利者が養育費を支払う相手に請求したときとなります。

養育費に関する取り決めをしたにもかかわらず、養育費が支払われないという状態は違法といえるでしょう。

そのため、強制執行(差し押さえ)にて養育費を取り立てることが可能となるのです。

養育費の差し押さえについては、次の章から詳しく解説しますね。

養育費用の強制執行(差し押さえ)とは?

離婚の際に養育費の取り決めをしても、残念ながら、離婚後に未払いになってしまうことは多いのです。

「支払ってくれないから、仕方がない」と思って諦めてしまう方もいらっしゃいますが、養育費の請求は法律で認められた権利です。

諦める必要はありません。

そこで、養育費をきちんと回収する方法を考えましょう。

相手が支払をしないとき、強制的に養育費を支払わせる方法があります。

それが、養育費の「差し押さえ」です。

差し押さえは、債務者(義務を負っている人)が任意で支払いをしないときに、債務者の財産や資産を差し押さえることにより強制的に支払いをさせる方法です。

養育費支払を取り決めた場合、相手は養育費支払の義務を負います。

取り決めをしたにもかかわらず支払いをしないのであれば、相手の資産を差し押さえることができます。

差し押さえをしたら、差し押さえた財産を回収したり、差し押さえた財産を売却したりして、未払になってしまった養育費を回収することができます。

養育費用の強制執行(差し押さえ)の対象になるものは?

それでは、養育費の差し押さえをしようという時、どのようなものを差し押さえることができるのでしょうか?

まず、相手の所有物であることが必要です。

相手以外の家族名義の預貯金などは、差し押さえることができません。

反対に、相手名義であれば、大抵のものは差し押さえることができます。

差し押さえの対象となる資産にどのようなものがあるのか、確認しましょう。

・預貯金

・積立金

・生命保険

・株券、投資信託

・給料

・売掛金

・ゴルフ会員権

・出資金

・不動産

・車、バイク

・現金

・貴金属、骨董品、絵画など

相手が養育費を滞納したときに、上記のような資産を持っていたら、差し押さえによって養育費を回収することができます。

財産分与の対象にならないものも、差し押さえができる

離婚時に財産分与をすることが多いですが、財産分与の対象になるのは、夫婦共有の財産です。

この際、相手の特有財産は対象になりません。

たとえば、相手が独身時代から持っていた預貯金や独身時代から加入していた生命保険、相手が親からもらった資産や相続した遺産などは、財産分与から外れます。

相手が高額な資産を持っていても、それが特有財産であればもらうことができません。

これに対し、養育費滞納にもとづく差し押さえの場合には、特有財産かどうかは関係ありません。

そのため、相手が独身時代から持っていた預貯金や生命保険、親から引き継いだ不動産などを所有していたら、それらを差し押さえることも可能です。

養育費用の強制執行(差し押さえ)ができるケースとできないケース

○と☓

差し押さえをすると相手が養育費の支払をしない場合にも回収ができるので、とても効果的ですが、残念ながら差し押さえができないケースもあります。

差し押さえを行うには「債務名義」が必要になります。

差し押さえは強制執行の一種ですが、強制執行をするためには「債務名義」が必要となります。

債務名義というのは、「強制執行をしても良いですよ」というお墨付きのようなものです。

具体的には、以下のような書類が債務名義となります。

・履行(強制執行認諾条項付)

・離婚調停の調停調書

・養育費調停の調停調書

・離婚審判の審判書

・養育費審判の審判書

・離婚訴訟の和解調書

・離婚訴訟の判決書

手元に上記の書類があれば、それを債務名義として、相手の資産を差し押さえることができます。

反対に、債務名義がない場合は差し押さえはできません。

たとえば、離婚時に相手と養育費の取り決めをしたけれど、それを単なる合意書にして自分たちで署名押印しただけの場合(公正証書にしなかった場合)です。

単なる合意書は債務名義ではないので、強制執行力が認められません。

また、離婚時に口頭で養育費の取り決めをしただけで、合意書を作成していないケースでも、もちろん差し押さえはできません。

協議離婚の際には、後に相手が支払いを滞納する可能性を考慮して、離婚公正証書を作成しておくべきということを覚えておきましょう。

養育費用の強制執行(差し押さえ)ができない場合の対処方法

それでは、離婚時に離婚公正証書を作成しなかったために差し押さえができない場合、もはや支払ってもらうのを諦めるしかないのでしょうか?

そのようなことはありません。

この場合、「養育費調停」をすることにより、差し押さえに必要な債務名義を得ることができます。

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離婚の際に、当事者間の合意書しか作成しなかった場合に限らず、そもそも養育費の話合いをしなかった場合でも、養育費調停を利用することができます。

養育費調停をすると、調停内で相手と話し合い、養育費の金額について取り決めることができます。

決まった内容については、調停調書になるため、債務名義として認められます。

相手が調停に来ない場合や話合いがまとまらない場合も大丈夫です。

このような場合、手続きが当然に「養育費審判」に移行して、裁判所が相手に対し、審判で支払い命令を出してくれるからです。

審判が出ると「審判書」が発行されますが、審判書も債務名義となり、差し押さえの基礎とすることができます。

しかしながら、離婚時に公正証書等の債務名義を手に入れていない場合には養育費調停をしなければならず、大変な手間が掛かります。

協議離婚をするなら、必ず強制執行認諾条項付の離婚公正証書を作成しておきましょう。

養育費用の強制執行(差し押さえ)の種類

公正証書や調停調書、審判書、判決書などの債務名義を手に入れたら、差し押さえをすることができますが、差し押さえには、いくつかの種類があります。

債権執行と不動産執行、動産執行の3つです。

以下で、それぞれについて説明します。

債権執行

公正証書や調停調書、審判書、判決書などの債務名義を手に入れたら、差し押さえをすることができますが、差し押さえには、いくつかの種類があります。

債権執行と不動産執行、動産執行の3つです。

以下で、それぞれについて説明します。

債権執行

債権執行とは、相手の債権を差し押さえることです。

債権というのは、何かを求める権利のことです。

債権執行は、相手が第三者に対して有している権利を差し押さえることを意味します。

具体的に差し押さえの対象になる債権は、以下のようなものです。

・預貯金払い戻し請求権

・生命保険の解約返戻金請求権

・敷金返還請求権

・給料支払い請求権

・売掛金請求権

このように、「預貯金」や「給料」は債権執行の1種です。

養育費の滞納があったときには、債権執行を行うことが非常に有効です。

債権執行をするときには、相手が債権を持っている宛先に連絡を入れて、そこから直接支払をしてもらいます。

たとえば、銀行預金を差し押さえる場合を考えてみます。

銀行は、本来預金者である相手に対し、預金の払い戻しをしなければなりません。

預金を差し押さえると、差し押さえた権利者は銀行から直接払い戻しを受けることができます。

本来相手が銀行に対して支払い請求できた権利を、差し押さえによって債権者が取得したことになります。

給料などでも同じで、銀行が相手の勤務先に変わるだけです。

債権執行をするときには、必ず支払いに応じるべき「第三者」がいます。

このような支払いに応じるべき第三者のことを「第三債務者」と言います。

そこで、債権執行には債権者と債務者(養育費未払いの相手)、第三債務者(銀行や勤務先、生命保険会社など)の三者が登場します。

不動産執行

不動産執行とは、相手の不動産を差し押さえて競売にかけて、売却したお金で債権回収する方法です。

競売をしなければならないので、債権執行よりも時間も手間も費用もかかります。

ただ、不動産は高額で売れることが多いので、多額の債権の回収をするときに向いています。

たとえば、財産分与や慰謝料などのまとまったお金を払ってくれないときには、不動産執行が有効ですし、養育費でも、滞納額が大きいのであれば、不動産執行によってまとめて回収することができます。

動産執行

動産執行は、相手が所有している動産を差し押さえる手続きです。

動産というのは、不動産以外の「物」の資産です。

たとえば現金や貴金属、骨董品や絵画、パソコンや家具家電などが動産です。

車も動産扱いとなります。

動産を差し押さえた場合にも競売にかけるのですが、動産を売ってもあまり高額にならないことが多く、保管費用もかかり、回収までに時間もかかるので、あまり大きな効果を上げることは難しいです。

ただ、動産執行をすること自体が相手に対するプレッシャーとなり、相手が任意の支払いに応じるきっかけになることはあります。

養育費用の強制執行(差し押さえ)にもとづく差し押さえ①給与差し押さえ

給与明細と札束

養育費を滞納されたとき、差し押さえの対象として最もお勧めなのは、相手の給料です。

養育費は、月々支払いを受けるお金で、1回の金額はそう大きくはありません。

そこで、給料から継続的に支払いを受けることにより、確実に回収しやすくなります。

将来分の差し押さえができる

養育費にもとづいて給料を差し押さえる場合には、将来分の差し押さえができます。

本来、差し押さえを行うとき、差し押さえることができるのは、既に支払期限が到来している分だけです。

まだ支払わなくても良い部分についてまで、差し押さえてしまうことはできません。

将来分については、その支払期限が来たときに、あらためて差し押さえの申立をしなければなりません。

これに対し、養育費では例外的に将来分の差し押さえができるので、一度給料の差し押さえをしたら、その後はその都度差し押さえの申立をしなくても、毎月自動的に給料から養育費の支払いを受けられるようになります。

相手の手取り額の2分の1まで差し押さえができる

養育費を原因とする場合、相手の給料の多くの部分を差し押さえることができる点も、メリットです。

給料は、労働者が生活するために重要なお金なので、差し押さえができる範囲が限られています。

相手の給料から税金や健康保険料、通勤手当を差し引いた手取金額が33万円以下の場合、その4分の1までしか差し押さえることができません。

手取り額が33万円を超える場合には、33万円を超える部分を全額差し押さえることができます。

これに対し、養育費にもとづいて給料を差し押さえる場合には、相手の手取り額が33万円以下の場合でも、手取り額の2分の1まで差し押さえることができます。

たとえば、相手の手取り額が20万円の場合、一般的な債権なら4分の1の5万円しか差し押さえることができませんが、養育費場合には2分の1である10万円まで差し押さえることができるのです。

そこで、養育費未払いの場合に給料を差し押さえると、非常に効率的に未払分を回収することができます。

ボーナス分も差し押さえ対象となる

相手が給与所得者の場合、年に2回程度、ボーナスが出ることが多いですが、ボーナスも差し押さえの対象になります。

ボーナス月には、通常の給料とボーナスを足した金額の手取り額をもとに、差し押さえる部分を計算します。

給料額とボーナス分の手取り額が33万円以下ならその2分の1の金額を差し押さえることができますし、33万円を超えている場合その全額を差し押さえることができます。

たとえば、6月分の給料(20万円)とボーナス(30万円)あわせて手取り50万円の場合、33万円を超える17万円を差し押さえることができるのです。

養育費がある程度滞納されていたとしても、何度かボーナス月を迎えると十分に回収できます。

相手が任意で支払ってくることも多い

相手がサラリーマンや公務員の場合には、給料差し押さえを受けていることを勤務先に知られたくないことが普通です。

また、毎月給料を差し押さえられて手取額が減るのも、うんざりするものです。

そこで、養育費未払いにもとづいて給料を差し押さえると、相手の方から「任意で支払いをするから、給与差し押さえを取り下げてほしい」と頼んでくることが大半です。

中には、取り下げだけをさせて支払をしなかったり仕事を辞めてしまったりする悪質な人もいますが、上場企業のサラリーマンや公務員ならば、そう簡単に辞めることはできません。

このように、給与差し押さえをすると、相手の方から支払いをしてくる可能性があることも大きなメリットとです。

養育費用の強制執行(差し押さえ)にもとづく差し押さえ②預貯金・生命保険の差し押さえ

養育費を滞納されたとき、相手がサラリーマンであれば、まずは給料差し押さえが効果的ですが、相手が自営業者の場合や相手の勤務先がわからない場合などもあります。

そのような場合には、相手の預貯金を差し押さえることが効果的です。

預貯金は、比較的簡単に差し押さえができますし、費用もあまりかからず、回収も早いからです。

同じように、相手が積立型の生命保険に加入している場合にも、解約返戻金を差し押さえることが効果的です。

生命保険を差し押さえると、生命保険を強制解約して、解約返戻金相当額を受けとることができます。

預貯金や生命保険を差し押さえると、相手に与えるインパクトが大きく、差し押さえ後は相手が改心して支払いをしてくることもあります。

そこで、養育費を滞納されたときには、まずは相手の給料か預貯金、もしくは生命保険を差し押さえる(これらはすべて債権差し押さえです)ことを検討すると良いでしょう。

債権差し押さえの注意点

以下では、養育費を滞納されたときに債権差押を行うときの注意点を説明します。

どこまでの特定が必要?

差し押さえをするためには、相手の資産を特定することが必要です。

裁判所の方から、「この人にはこのような資産があるから、差し押さえると良いですよ」と教えてくれることはないからです。

そこで、預貯金や給料、生命保険などを差し押さえるときには、債権者が対象の資産を探さなければなりません。

この際、どこまでの特定が必要なのでしょうか?

預貯金については、金融機関名と支店名までの特定が必要です。

預金の種類や銀行口座の種類、口座番号までの特定は不要です。

「〇〇銀行の〇〇支店の口座」であれば、定期預金でも定額貯金でも普通預金でも当座預金でも、すべての銀行口座を差し押さえることができます。

給料差し押さえの場合なら、勤務先の会社名と所在地を特定する必要があります。

生命保険の場合には、加入している生命保険会社の特定が必要です。

保険の種類や証書番号までの特定は不要とされることが多いですが、必要だという説もあります。

東京地方裁判所では、証券番号の特定は不要だという運用をしています。

そこで、できれば詳しく特定している方が望ましいですが、無理なら生命保険会社の特定だけでも差し押さえができる可能性が高いです。

相手の銀行口座にお金がないときはどうなる?

預貯金を差し押さえたとき、銀行口座内にお金がないときがあります。

この場合、差し押さえの効果はどうなるのでしょうか?

預貯金口座に該当がないケースや預貯金口座内に残高がない場合には、差し押さえをしても回収ができません。

銀行から「銀行口座がありません」「残高がありません」という回答が返ってくるだけで、現実の回収はできないことになります。

差し押さえの効力が及ぶのは差し押さえの通知が送達されたときですから、そのときの残高が0円なら、一切支払いを受けることができません。

ただ、毎月決まった頃に給料が入金されるので、決まったタイミングで差し押さえをすると、効果的に回収ができるケースもあります。

このような場合には、狙ったタイミングで差し押さえの効果を発生させることができます。

そのためには「執行官送達」という方法を利用します。

執行官送達をすると、予め決まった日に銀行に裁判所の書類を送達し、そのときに効果を発生させることができます。

給料が入金される日に送達をすると、確実に多くの金額を差し押さえることができるので非常に効果的です。

相手が仕事を辞めたらどうなる?

給料を差し押さえるときには、相手が退職する可能性が問題となります。

いったん給与差し押さえをすると、相手が退職するまでの間は給与もボーナスも差し押さえることができますが、退職されると、その後は支払いを受けられなくなります。

ただし、相手が退職金を受け取るときには、退職金も差し押さえ対象となります。

退職金については、税金などを差し引いた手取り額の2分の1まで差し押さえることが可能です。

この場合には、手取り額の33万円を超える部分ではなくなるので、注意が必要です。

それでも、慰謝料などの一般的な債権の場合には、手取りの4分の1までしか取り立てできないので、養育費の場合には有利になります。

相手が再就職した場合には、新しい勤務先までには給与差し押さえの効果が及ばないので、改めて給与差し押さえの手続きをしなければなりません。

そのためには、新しい勤務先を突き止めて、裁判所に申立をする必要があります。

相手が逃げることはあるのか?

債権差し押さえをするとき、相手が逃げたらどうなるのかも心配かもしれません。

基本的に、債権の差し押さえをするとき、相手が逃げても関係ありません。

相手の住所と財産内容がわかっていたら、相手がいなくても差し押さえができるからです。

ただ、相手が財産隠しをしてしまった場合には、そうはいかなくなります。

そこで、相手が預貯金を出金したり生命保険を解約したり、会社を辞めたりする前に早めに差し押さえを成功させることが必要です。

養育費を差し押さえをするときの流れ

判決

以下では、実際に差し押さえをするときの手続きの流れを順に確認していきます。

相手の資産や勤務先を調べる

差し押さえを行うときには、まずは相手の資産内容や勤務先を調べる必要があります。

たとえば、預貯金を差し押さえるにしても、金融機関名と支店名が必要になります。

ただし、ゆうちょ銀行(郵便局)の場合には支店を特定する必要がありません。

相手が利用している金融機関が分からない場合には、やみくもに差し押さえの申立をすることも可能ですが、差し押さえをすると費用も手間もかかります。

勤務先については、相手の後をつけたり、共通の知り合いに聞いたり、探偵社に依頼したりして、突き止める方法が考えられます。

送達証明書と執行文を取得する

強制執行を行うときには、「送達証明書」と「執行文」いう書類が必要です。

送達証明書は、債務名義が相手に届けられたことを証明する書類です。

執行文は「この債務名義によって強制執行をしても良いですよ」という意味合いの書類です。

これらの書類は、債務名義を発行した機関に申請して、発行してもらう必要があります。

公正証書なら公証人役場に、その他のケースなら家庭裁判所に「送達証明書申請書」「執行文付与申請書」を提出して、交付してもらいましょう。

地方裁判所に申立をする

債務名義、送達証明書、執行文の3種類の書類が揃ったら、裁判所で「差し押さえの申立」をします。

申立をする裁判所は、相手の住所地を管轄する地方裁判所です。

家庭裁判所ではないので、注意が必要です。

また、以下の書類が必要となります。

・申立書と当事者目録

当事者目録には、債権者(申立人)と債務者(未払いを起こしている相手)、第三債務者(銀行や生命保険会社、勤務先など)を記載します。

・請求債権目録

請求債権目録には、未払いになっている養育費とその金額を記載します。

・差し押さえ債権目録

差し押さえ債権目録は、相手が第三債務者に対して有している債権の内容を記載します。

たとえば預貯金や給与債権、生命保険の解約返戻金請求権などです。

・第三債務者の商業登記簿謄本(資格証明書)

第三債務者が銀行や生命保険会社、相手の勤務先の会社などの法人である場合には、その法人の商業登記簿謄本(全部事項証明書、履歴事項証明書等)が必要です。

また、債権差し押さえを申し立てるときには、以下の費用が必要です。

・申立手数料

申立には手数料が必要です。4,000円を、収入印紙の形で支払います。

申立書に貼付して提出すると良いでしょう。

・郵券切手代

相手や第三債務者に書類を送達するための郵便切手代が必要です。

内訳と金額は裁判所によりますが、2,000~3,000円くらいです。

陳述催告の申立について

債権差し押さえをするときには「陳述催告の申立」を行います。

これは、第三債務者に対し「債権があるかどうか、あるとしたらどのような内容か、また、支払いに応じる意思があるか」を回答するよう求めるものです。

陳述催告申立をしておくと、第三債務者に差し押さえの決定書が送達された後「〇〇の預貯金が〇〇円分あります。支払う用意があります。」などと回答してもらえるので、差し押さえがスムーズに進みます。

債権差し押さえ決定を受ける

申立後、誤字脱字や表記の訂正などをすると、裁判所が債権差し押さえの決定をします。

すると、裁判所からすぐに裁判所から第三債務者に「債権差押命令書」が送られます。

この時点で、銀行の預金口座などの取引は停止され、相手は出金できなくなってしまいます。

その1週間後、裁判所から債務者に対し「債権差押命令書」が送られます。

そして、銀行等の第三債務者から裁判所に対し「陳述書」が送られてきます。

これは、陳述催告の申立をしたことに対する回答です。

送達通知書、陳述書を受けとり、取り立てを行う

債務者が債権差し押さえ命令書を受けとると、裁判所から債権者宛に、「送達通知書」と「陳述書」が送られてきます。

債務者に送達してから1週間が経過したら、債権者は取り立てをしても良いことになっています。

そこで、送達通知書に書いてある日付から1週間を経過したら、銀行や生命保険会社、相手の勤務先などに連絡を入れます。

銀行などであれば必要書類に記入をして払い戻しを受けられますし、生命保険会社なら、保険を解約して解約返戻金を受けとることができます。

給料を差し押さえた場合には、その後、相手の勤務先から月々給料や賞与の一部(差し押さえた部分)を支払ってもらうことができるようになります。

取立届を提出する

差し押さえによって、未払分を全額支払ってもらえたら、裁判所に「取立届」を提出します。

預貯金残高が足りないなどの事情で、一部の回収しかできなかった場合には、裁判所に「取立届」と「取下書」「債務名義還付申請書」を提出します。

差し押さえにかかる期間の目安

債権差し押さえにかかる期間の目安は、だいたい2週間程度です。

申立から1~3日後に債権差し押さえ命令が出て、その1週間~10日後くらいに債務者に債権差し押さえ命令書が送達されます。

その後、第三債務者と話し合って、支払いを受けるイメージです。

債権差し押さえは、不動産差し押さえや動産差し押さえと異なり、あまり時間がかからない強制執行の方法です。

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養育費用の強制執行(差し押さえ)は、自分でできるのか?弁護士に依頼すべきか?

弁護士

債権差し押さえをするとき、自分でできるのかが不安になることが多いでしょう。

債権差し押さえは、強制執行の中でも最も簡単ですし、自分でやろうと思えばできます。

実際に弁護士に依頼せず、自分で申し立てている方もいらっしゃいます。

しかし、自分でやってみると書類の不備などが多く発生し、何度も訂正を求められたりして、決定が下りるまで時間がかかる可能性があります。

すると、相手がその間に財産隠しをしてしまうかもしれません。

そうなってしまうと差し押さえをする意味が全く無くなってしまいます。

また、事前に送達証明書や執行文を集めないといけないのも手間です。

弁護士に依頼すれば、自分は何もしなくても、スムーズかつ確実に相手の資産や給料を差し押さえることができるので、非常にメリットが大きいです。

そこで、差し押さえをする際には、弁護士に依頼することをお勧めします。

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弁護士費用の相場

弁護士に債権差し押さえを依頼するときの弁護士費用は、事務所によって大きく異なります。

着手金と報酬金がかかるケースが多いです。

着手金5万円、成功報酬が回収した金額の10%という事務所、着手金は請求金額の4%、報酬金は回収金額の4%という事務所などがあります。

具体的な金額は、相談の際に弁護士に確認しましょう。

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少額訴訟という手も

未払養育費の回収をするためには、少額訴訟という手続きも役立ちます。

少額訴訟とは、60万円以下の金銭支払いを請求するための裁判手続きで、通常裁判を非常に簡単にしたものです。

少額訴訟をすると、1日で判決までしてもらうことができます。

また、相手が裁判所に出頭してくるため、裁判官が間に入って和解を進めて話合いが成立し、相手から任意で支払ってもらえることもあります。

また、少額訴訟は弁護士に依頼せず、自分で行うことができますし、むしろその方がお勧めです。

そこで、養育費の滞納額がある程度多くなっているときには、まずは少額訴訟をして、未払分を支払ってもらうことも視野に入れて検討すると良いでしょう。

養育費用の強制執行(差し押さえ)まとめ

今回は、養育費の未払いが起こったときの差し押さえ手続きについて解説しました。

養育費を支払ってもらえなくなったからと言って、諦める必要はありません。

今回の記事を参考にして、確実に養育費の未払いを防ぎましょう。

養育費未払いの問題を相談するなら弁護士へ

養育費が未払いの状態は、生活の困窮にもつながってしまいます。

ご自身の生活のためにも、なるべく早く離婚問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。

  • 適切な回収方法を教えてもらえる
  • 相手と直接交渉してもらえる
  • 法的手続きを一任できる

弁護士に相談することで、最適なアドバイスをもらえ相手と交渉を行ってくれます。

もし、相手が支払いに応じない場合は調停や審判といった法的手続きも行ってくれます。

弁護士への相談方法

ただ、弁護士へ相談するといっても「どのように探せばいいのか分からない」と不安を抱える人も多いでしょう。

弁護士の相談ができる窓口は、以下の5つがおすすめです。

  • 弁護士会による法律相談センター
  • 法テラス
  • 自治体の法律相談
  • 弁護士保険
  • 各法律事務所

それぞれの窓口の特徴や利用方法については、こちらの記事を参考にしてみてください。

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弁護士に相談する場合には、弁護士保険がおすすめです。保険が弁護士費用の負担をしてくれるので助かります。

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記事を振り返ってのQ&A

Q.養育費が支払われないとき、強制的に支払ってもらうことはできますか?
A.可能です。養育費の支払い義務は、養育費をもらう権利者が養育費を支払う相手に請求したときとなります。養育費に関する取り決めをしたにもかかわらず、養育費が支払われないという状態は違法といえるでしょう。
差し押さえをしたら、差し押さえた財産を回収したり差し押さえた財産を売却したりして、未払いの養育費を回収することができます。

Q.養育費の差し押さえをしようという時、どのようなものを差し押さえることができるのでしょうか?
A.相手の所有物であることが必要です。相手以外の家族名義の預貯金などは、差し押さえることができません。

Q.差し押さえができないケースもありますか?
A.債務名義がない場合は差し押さえはできません。また、離婚時に口頭で養育費の取り決めをしただけで合意書を作成していないケースでも、もちろん差し押さえはできません。

Q.離婚時に離婚公正証書を作成しなかったために差し押さえができない場合、もはや支払ってもらうのを諦めるしかないのでしょうか?
A.諦める必要はありません。「養育費調停」をすることにより、差し押さえに必要な債務名義を得ることができます。

Q.養育費を差し押さえをするときの流れを簡単に教えてください。
A.以下の流れで進めます。

  1. 相手の資産や勤務先を調べる
  2. 送達証明書と執行文を取得する
  3. 地方裁判所に申立をする
  4. 「陳述催告の申立」を行う
  5. 債権差押決定を受ける
  6. 送達通知書、陳述書を受けとり、取り立てを行う
  7. 取立届を提出する

債権差し押さえにかかる期間の目安は、だいたい2週間程度です。