裁判で訴えたいが相手の名前や住所がわからない時はどうすればよいのか

 

藤井弁護士

この記事の執筆者

藤井 寿(弁護士・公認会計士)

裁判で訴えたいが相手の名前や住所がわからない時はどうすればよいのか?

裁判を起こして争いたい相手がいるのに、その人の名前や住所が分からないという場合、どうしたらよいのでしょうか?

相手の名前や住所が分からなくても、訴訟を起こすことはできるのでしょうか?

今回の記事では、名前や住所が分からない相手と裁判で争う方法について解説します。

相手の名前や住所が分からないケースとは

トラブルとなっている相手の名前や住所が分からないというケースは、実は数多く存在します。

例えば、セクハラやパワハラをした相手を訴えたいと思った場合、その上司の名前までは分かっていても、住所までは分からないことが多いでしょう。

また、裁判所で離婚を争いたいと考えても、別居している場合は相手の現住所が分からない、ということも珍しくありません。

裁判を起こすためには相手の名前と住所が必要

それでは、裁判を起こすためには、相手の名前や住所を知る必要があるのでしょうか?

答えは「イエス」です。

裁判を起こすためには、裁判所に「訴状」を提出しなければいけません。この「訴状」という書類には、相手の名前や住所、電話番号、FAX番号、勤務先の住所や電話番号を書く欄があります。

このうち、「相手の名前と住所」は必ず書かなくてはいけません。

ここでいう「住所」とは、「生活の本拠にしている場所」つまり「実際に現在生活をしている場所」を意味します。例えば、札幌の会社に勤務しているAさんが、1年間だけの転勤で東京のマンションに住んでいる場合を考えてみましょう。

この場合、実際にAさんが生活をしている場所は、東京のマンションです。よって、訴状の住所としては「東京のマンションの番地と部屋番号」を記載します。住民票を札幌に残したままであっても、妻や子供が札幌に住み続けている場合であっても、やはり東京のマンションが住所地となります。

つまり、裁判を起こすためには、「形式的に役所に登録されている住所」ではなく、「実際に生活をしている場所」が必要となるのです。

裁判で名前と住所が必要とされている理由

訴状
なぜ裁判ではこのような不便な制度を採用しているのでしょうか?

その理由は、「本人が知らないうちにいつの間にか裁判が始まっていた、ということを防ぐため」です。

裁判所では、訴状を受け取るとすぐに、訴状に記載されている住所に「送達」を行います。

送達とは、「あなたに対して裁判が起こされましたので、直ちに準備をしてください」ということをお知らせする通知です。

この通知がきちんと届かなければ、本人が知らないうちに裁判が始まってしまいます。

もしもあなたが日本のどこかで「1,000万円を貸したから返してくれ」という裁判を起こされていて、知らないうちに敗訴の判決が出てしまえば、あなたは何の覚えもない1,000万円を支払わなければいけなくなります。

これでは、不当な判決が日本中にあふれてしまいます。

このような事態を防ぐために、「裁判が起こされた際には、きちんと相手の住所に訴状を届けて、裁判が始まったことを知らせなくてはいけない」という制度を採用しています。

相手の名前や住所を調べる方法

それでは、相手の名前を住所が分からない場合はどうやって調べたらよいのでしょうか?

自分で調査する

裁判の相手となる人物が親族であれば、ご自身で戸籍や住民票を取り寄せて調べることができます。

ただし戸籍や住民票には個人情報が含まれていますので、取り寄せることができる人物は親族の一部に限定されています。

全く赤の他人の住民票や戸籍は、勝手に取り寄せることはできません。

戸籍は、直系の尊属(父母や祖父母)や卑属(子供や孫)でかつ血族である者、配偶者(夫や妻)に限り、取り寄せることができます。

住民票は、住民票に記載されている方と同一世帯の人物に限り、取り寄せることができます。

弁護士に相談する

弁護士に裁判を依頼すると、弁護士があなたの代わりとなって裁判に関する様々な手続きを行います。

相手の名前や住所が分からない場合にも、弁護士が様々な方法で調査を行います。

このとき弁護士が使う方法が「職務上請求」や「弁護士会照会」です。

職務上請求とは、「弁護士が職務のために必要な場合に住民票や戸籍等を取り寄せることができる」という制度です。

弁護士であれば、職務に必要な範囲に限り、赤の他人の戸籍や住民票を取り寄せることができるのです。

もちろん、法律で認められた正当な権利ですので、個人情報保護法に反することはありません。

弁護士会照会とは、「裁判などの依頼を受けた弁護士が、裁判の証拠や資料を集めるために、所属する弁護士会を通じて、企業や団体に対して事実を調査することができる」という制度です。

照会を受けた相手には、原則として回答をする義務があります。

これらの2つの方法については、次の項目で詳しく説明します。

探偵に依頼する

探偵に依頼すると、特定の人物の身元調査や行方不明となっている人物の追跡を行ってもらえます。

探偵に依頼するケースが多いのは、不貞行為(不倫)の慰謝料の請求を検討されている方です。

不貞行為の証拠集めを探偵に依頼すると、別居している相手の住所地だけでなく、不倫相手の名前や住所も調査してもらえます。

興信所に調査してもらう

興信所でも、探偵と同様に、身元調査や人物探しを扱っています。

探偵と興信所では、名前は異なりますが、業務内容はほぼ同じです。料金設定にも大差はありません。

ただし、どの探偵事務所に依頼するのか、どの興信所にお願いするのかによって、調査方法や調査期間が異なります。

探偵や興信所に依頼する際には、料金設定をきちんと確認しておきましょう。

弁護士はどのように調査するのか

住所を調べる弁護士
弁護士に依頼した場合は、具体的にどのように調査が行われるのでしょうか?

例えば、「相続のトラブルについて裁判で争いたいが、疎遠となっている親族の名前や住所が分からない」というケースを考えてみましょう。

まず住民票や戸籍を取り寄せる

まず弁護士は、職務上請求として戸籍を取り寄せます。

戸籍を取り寄せると、親族関係を正確に把握することができます。

親族関係が判明すれば、裁判の相手となる人物を特定することができます。

また、「戸籍の附票」や「住民票」を取り寄せることにより、裁判の相手となる人物の住所を調べることができます。

戸籍の附票とは、「戸籍に記載されている人の住所の変遷を記録したもの」です。

弁護士会照会による調査を行う

「住民票に記録されている住所に、実際には相手が住んでいなかった」ということは珍しくありません。

例えば、相手が引っ越したばかりでまだ住民票を移動させていない場合や、短期の転勤で敢えて住民票を移動させていない場合などが考えられます。

このような場合は、弁護士会照会による調査を行います。

もし相手の携帯電話の番号が分かっていれば、その携帯電話会社に対して照会を行い、契約している住所を開示するように問い合わせをします。

銀行口座が分かっている場合には、銀行に対して照会を行います。

相手の勤務先が分かっている場合には、勤務先に対して照会を行うこともできます。

その他にも、相手がマンション等の不動産を持っている場合には、その不動産の登記簿を取り寄せることにより、相手の住所を調べることができます。

弁護士に依頼する際の注意点

弁護士会照会は、あくまで「依頼を受けたトラブルを解決するための制度」です。

弁護士は、「法的トラブルを解決するための必要最低限の資料」しか取り寄せることができません。

つまり、弁護士は単純な身元調査を行うことはできません。

もしもあなたが「裁判は自分で起こそうと思っているが、相手の住所が分からないので、弁護士に頼んで戸籍と住民票だけ取り寄せてもらおう」と考えても、弁護士はこのような依頼を受けることはできません。

弁護士に依頼する際には、単純な事実調査ではなく、トラブルの解決そのものを依頼することを検討しましょう。

会社を訴える場合に必要な情報

会社を訴える場合は、「その会社の本店の所在地」が住所地となります。

本社の所在地は、会社の登記簿を見れば分かります。

よって、企業を相手に裁判を起こす場合には、住所が分からないというトラブルに悩まされることはありません。

それでも住所が判明しなかった場合

いずれの方法を用いても相手の住所が判明しなかった場合には、どうしたらよいのでしょうか?

どうしても住所が分からない場合は、勤務先に送達するという方法や、裁判所などへの掲示によって送達の効力を発生させる送達方法である「公示送達」を利用するという方法があります。

ただし、いずれも例外的な手段であり、認められるためには法律に厳格なルールが定められています。

このような例外的な手段を認めてもらうためには、やはり法律の専門家である弁護士の力が必要となります。

相手の住所が判明しないことでお悩みの方は弁護士に相談しましょう。

まとめ

裁判を起こすためには、相手の名前と住所を知ることが必要となります。

しかし相手の名前や住所が分からなくても、諦めることはありません。

弁護士に裁判を依頼すれば、職務上請求や弁護士会照会を用いることにより、相手の名前や住所を調査してもらうことができます。

相手の携帯電話の番号や銀行口座が分かっている場合は、名前や住所を突き止めることができる可能性は高くなります。

会社を相手に裁判を起こす場合には、住所が分からないということはありません。

相手の名前や住所が分からなくてお悩みの方は、まずは弁護士に相談してみましょう。

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藤井 寿(弁護士・公認会計士)

藤井 寿(弁護士・公認会計士)

東京大学教養学部卒。リンクパートナーズ法律事務所所属。弁護士と公認会計士の両資格を保有する数少ない「ハイブリッド法曹」として活躍中。企業法務から個人の相続問題、交通事故等幅広い案件を扱う。桐蔭横浜大学法科大学院客員教授。防衛省再就職等監察官(非常勤)。
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