【判例つき】脅迫罪はどこから?成立要件と慰謝料や証拠について

 

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この記事の執筆者

福谷 陽子(元弁護士)

脅迫罪と強要罪と恐喝罪の違い

他人を脅すと、脅迫罪が成立してしまいますが、具体的にどのようなケースで脅迫罪が成立するのかについては、あまり正確に理解されていないことが多いです。

たとえば、どのようなことを言ったら脅迫罪になるのか、電話やメール、ネット上の投稿などでも脅迫罪が成立するのかなど、脅迫罪の成立要件を確認しておきましょう。

また、脅迫罪が成立すると、民事責任も発生して、慰謝料の支払が必要になるケースもあります。

慰謝料の相場や脅迫罪の証拠の集め方についても、確認しておきましょう。

今回は、脅迫罪の成立要件や慰謝料などについて、解説します。判例もご紹介するので、是非とも最後までお読み下さい。

脅迫罪とは

脅迫罪の成立要件

「脅迫罪」というと、「人を脅したときに成立する罪」というイメージがありますが、具体的にどのようなときに成立するのか、もう少し正確に押さえておきましょう。

脅迫罪は、以下の場合に成立します(刑法222条)。

本人や親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加えることを告げて、人を脅迫した場合

以下では、もう少し細かく、要件を確認していきましょ害を加える旨を告知して人をう。

「生命、身体、自由、名誉または財産」

まず「生命、身体、自由、名誉または財産」に対する害悪の告知が必要です。

これらとは無関係なことを言っても、脅迫罪が成立しません。

具体的には、以下のような言動があると、脅迫罪になる可能性があります。

・生命への害悪告知
→「殺すぞ」、「お前の親を殺すぞ」、「妻子どもを殺す」、など

・身体への害悪告知
→「ケガさせるぞ」、「痛い目を見させるぞ」、「殴るぞ」、「お前の子どもを傷つけるぞ」、など

・自由への害悪告知
→「帰れると思うなよ」、「お前の子どもをさらうぞ」、など

・名誉への害悪告知
→「ネットでばらまくぞ」、「公表するぞ」、「世間の目にさらすぞ」、など

・財産への害悪告知
→「お前の財産を奪うぞ」、「家を燃やすぞ」、など

害悪の告知

次に、「害悪の告知」であることが必要です。

生命や身体、自由、名誉、財産に関することであっても、それらに危害を加える内容でなければ、脅迫罪は成立しません。

「害悪」に該当するかどうかは、客観的に判断されるので、被害者が「脅迫」と感じても、「脅迫」にならないことがあり、その判断は、状況によって異なります。

たとえば、若くてたくましい体格の男性が「ケガをさせるぞ」と言った場合と、小学生低学年くらいの子どもが「ケガをさせるぞ」と言った場合とでは、客観的に見ても、被害者が感じる恐怖感が異なります。

そこで、前者の場合には「害悪の告知」になりますし、後者の場合には「害悪の告知」になりません。

脅迫される人

相手とのパワーバランスによって
害悪に該当するかが異なる

また、適法な権利の行使であっても、脅迫になる可能性があります。

たとえば、相手に対し「裁判に訴えるぞ」と言っただけで、脅迫とみなされてしまう可能性もあるので、注意が必要です。

対象は、本人または親族

また、脅迫の対象になるのは、本人または親族です。

つまり、本人でも親族でもない友人や恋人に対する害悪の告知をしても、脅迫罪にはなりません。

この点に関して、法人に対する脅迫罪が成立するかどうかが問題になります。

脅迫罪は、基本的に本人または親族に対する害悪告知がないと成立しないので、法人は対象にならないのが原則です。

ただ、後に紹介するとおり、判例は、法人への害悪の告知であっても、それがその害悪の告知を受けた個人(法人の代表者や代理人など)の生命や身体、自由、名誉、財産に対する害悪の告知になるなら、その個人に対する脅迫罪が成立すると判断しています。

害悪を告知したら、既遂になる

さらに、脅迫罪は「害悪を告知」した時点で成立します。

実際に、被害者が畏怖(恐怖)することまでは必要ありません。

そこで、脅迫罪には未遂罪はありません。

脅迫行為を行った時点で、完全な罪が成立します。

以上が、脅迫罪の基本的な成立要件です。

脅迫罪の法定刑

脅迫罪が成立する場合の法定刑(刑罰)は、以下の通りです。

2年以下の懲役または30万円以下の罰金(刑法222条)。

親告罪ではない

犯罪行為には「親告罪」という種類のものがあります。

親告罪とは、被害者が刑事告訴をしない限り、起訴されないタイプの犯罪です。

しかし、脅迫罪は、親告罪ではなく「非親告罪」となります。

つまり、他人を脅迫すると、相手が刑事告訴をしていなくても、警察に逮捕されて、刑事裁判の被告人になってしまう可能性があります。

手紙、電話、メール、ネット上の投稿で脅迫罪が成立するか

相手に対し、直接脅し文句を言った場合に脅迫罪が成立することはイメージしやすいですが、手紙や電話、メールやネット上の投稿(SNSやブログなど)でも、脅迫罪が成立するのでしょうか?

これらについても、内容次第では脅迫罪が成立します。

たとえば、手紙で脅迫状を送った場合、メールで「殺す」と書いて送った場合、SNSやブログなどで「家に火をつけてやる」「あいつの子どもを障害者にしてやる」などの文章を載せただけで、脅迫罪が成立してしまうこともあります。

さらに「態度」によっても脅迫罪が成立する可能性があります。

相手に何も言っていなくても、殴るそぶりをしたり、相手を帰さないように威圧的に立ちはだかったりするだけで、脅迫罪が成立してしまう可能性があります。

脅迫罪が成立する範囲は非常に広いので、くれぐれも注意が必要です。

強要罪との違い

土下座を強要する人

義務のない行為をさせたかどうか

脅迫罪とよく似た犯罪に、「強要罪」があります。

強要罪は、脅迫罪の隣に規定されていて、「脅迫の罪」の章に規定されています。

つまり、脅迫罪の仲間として取り扱われているということです(刑法223条)。

強要罪は、相手本人や親族の生命・身体・自由・名誉・財産に害悪を与えることを告知して、相手に義務のない行為を行わせたときに成立します。

脅迫罪との違いは「義務のない行為をさせたかどうか」ということです。

単に相手を脅しただけなら脅迫罪ですが、何らかの行為を無理にさせた場合には強要罪になります。

強要罪が成立するケース

それでは、具体的にどのようなケースで強要罪が成立するのでしょうか?

たとえば、「土下座しないと殺すぞ(殴るぞ)」と言ったり、そのような素振りを見せながら無理に土下座をさせると強要罪になります。

単に「土下座して謝れ」と言うだけでは、強要罪は成立しませんので、注意が必要です。(ただし、強要未遂罪が成立する可能性があります。)

「会社を辞めないと、不倫を公表するぞ」などと言って無理矢理辞職させた場合にも、強要罪が成立する可能性があります。

さらに、メールなどで「ブログの記事を消さないと、家に火をつけるぞ」などと連絡して、ブログ記事を消去させたときにも、強要罪が成立します。

未遂罪の有無

脅迫罪には未遂罪がありませんが、強要罪には未遂罪があります(刑法223条3項)。

強要罪は、相手に義務のないことを強要する犯罪なので、相手を脅迫しても、相手がその行為を行わない場合、強要未遂となるためです。

たとえば「会社を辞めないと、不倫を公表するぞ」と言って脅したけれども、相手が仕事をやめなかった場合には、強要未遂となります。

まとめると、以下のようになります。

・単に脅迫しただけの場合→脅迫罪
・相手を脅して何らかの行為を無理矢理にさせようとしたけれども相手が実際にはその行為をしなかった場合→強要未遂罪
・相手を脅したところ、相手が本当にその行為をしたとき→強要罪(既遂)

法定刑の違い

脅迫罪と強要罪とでは、刑罰の内容も違います。

当然、義務のない行為を無理矢理に行わせせた強要罪の方が、責任が重くなります

強要罪の法定刑は、3年以下の懲役刑です。

脅迫罪(2年以下の懲役または30万円医科の罰金)より刑期が長くなっていますし、罰金刑はありません。

恐喝罪との違い

恐喝する男
脅迫罪とよく混同される犯罪としては、恐喝罪もあります。

恐喝罪と脅迫罪の違いについても、確認しておきましょう。

財物を交付させたかどうか

恐喝罪とは、人に暴行や脅迫を行うことにより、財物を交付させる行為や、財産上の利益を得る行為です。

脅迫罪との違いは、財物を交付させたり、財産上の利益を得たりしたかどうかという点です。

「財物の交付」とは、お金やその他の財産的価値のあるものを渡すことです。

たとえば、現金をまきあげたり預金を振り込ませたり、不動産の名義を換えさせたり、価値のある絵画や骨董品を取り上げたりすると、恐喝罪になります。

また、「財産上の利益を得る」、という場合には、直接ものの交付を受けない場合も含まれます。

たとえば、相手を脅して借金を免除させた場合や、購入した商品の代金を支払わせたりした場合にも、恐喝罪が成立します。

未遂罪の有無

恐喝罪には、脅迫罪と違って未遂罪があります。

恐喝の場合、相手を脅しても、思ったように財物を交付してもらえなかったり債務免除してくれなかったりする可能性があるからです。

たとえば、「100万円支払わなかったら、お前と家族を殺すぞ」と脅したけれども、被害者が支払をせずに警察に行った場合には、恐喝未遂罪となります。

法定刑の違い

脅迫は、単純に相手を脅すだけの行為ですが、恐喝は、相手を脅してお金を無理矢理払わせたりするわけですから、当然恐喝罪の方が、罪が重くなります。

脅迫罪は2年以下の懲役または30万円以下の罰金刑であるのに対し、恐喝罪の場合には、10年以下の懲役となります。

刑期が大きく伸びている上に、罰金刑もなくなっています。

お金を目的にして人を脅すと、非常に重い刑罰が適用される可能性があるので、十分注意が必要です。

脅迫罪で逮捕されるパターン

脅迫罪で逮捕されるとき、どのようなパターンが最も多いのでしょうか?

ほとんどのケースは、被害者が被害届を出すことにより、被疑者が逮捕されます。

確かに、脅迫罪は、親告罪ではないので、刑事告訴をしなくても、警察が自主的に捜査を進めて被疑者を逮捕することができます。

しかし、実際には、被害者が申告をしない限り、警察の方から脅迫事件を見つけ出してくれることはほとんどありません。

脅迫は、通常人に見つからない場所でこっそりと行われることが多いからです。

公衆の面前で脅迫していたら、周囲の人が気づきますし、脅迫の効果も薄くなるでしょう。

ただ、脅迫罪で逮捕するために、刑事告訴は不要ですから、被害者が被害届さえ出せば、逮捕につながる可能性は十分にあります。

脅迫罪の刑罰の相場

脅迫罪が成立すると、実際にはどのくらいの刑罰が科されることが多いのでしょうか?

以下で、パターン別に確認していきましょう。

初犯の場合

脅迫罪で初犯の場合、起訴されないことも多いです。

およそ半数の事件は不起訴になっています。

微罪で本人も十分反省しており、被害者としても、さほど怒っていない場合などでは、不起訴処分になりやすいのです。

また、起訴されたとしても、略式裁判になることが多いです。

略式裁判とは、100万円以下の罰金刑が適用される場合にのみ利用される刑事裁判の手続です。

実際に裁判所で期日が開かれることがなく、裁判所から罰金の納付命令が送られてくるので、その支払をしたら、刑罰を終えたことになります。

ただ、略式裁判の罰金刑でも、前科はつきます。

※関連ページ→「前科や前歴(逮捕歴)は私生活や就職に影響する?

また、犯行態様が極めて悪質なケースでは、次に説明するように、通常の裁判となる可能性もあります。

悪質な場合や同種の前科がある場合

初犯でも、脅迫行為が非常に悪質なケースや、同種前科(脅迫罪や強要罪など)がある場合には、略式裁判にはしてもらえない可能性が高いです。

その場合、通常裁判が開かれて、裁判所の法定で、裁判官の面前で裁かれます。

裁判の結果、懲役刑が選択されることもありますが、よほど前科がたくさんある場合でもなければ、執行猶予がつきます。

執拗に脅迫行為を繰り返している場合や、ストーカー規制法違反などの別の犯罪が同時に成立してしまうケースなどでは、実刑になりやすいです。

脅迫罪が成立したときの民事責任

脅迫罪というと、刑事責任の方に関心が向かってしまうことが多いのですが、脅迫罪が成立する場合には「民事責任」も発生します。

民事責任とは、損害賠償義務のことです。

犯罪を犯すことにより、他人に損害を発生させたら、加害者は被害者に対し、賠償金を支払わなければなりません(民法709条)。

そして、脅迫罪が成立する場合、通常は、被害者に具体的な出費が必要となる損害は発生しません。

たとえば、傷害罪なら治療費などが必要ですし、窃盗罪なら盗んだものを返したり、価格賠償したりしなければなりませんが、脅迫の場合、そういった目に見える損害が発生しないのです。

そこで、脅迫罪の場合の「損害」とは、「慰謝料」のこととなります。

脅迫罪の被害を受けたら、加害者に対して慰謝料請求することができます。

脅迫罪の時効

脅迫の犯人を刑事裁判で裁いてもらったり、損害賠償請求をしたりするためには、いつまでに手続きをすれば良いのでしょうか?

脅迫罪には、時効があります。

ただ、その期間は、刑事責任と民事責任とで考え方が異なっています。

脅迫罪で刑事罰を与えてもらうための刑事責任については、犯罪行為時から3年です。

この場合の時効を、公訴時効といいます。

公訴時効とは、検察官が起訴することができる期間に関する時効です。

これに対し、被害者が加害者に対して賠償金の請求をするための時効は「損害発生と加害者を知ったときから3年」です。

そこで、脅迫を受けたけれども、相手が誰かわかっていない場合には、加害者が判明してから3年間、慰謝料請求ができることになります。

相手が始めから判明している場合には、脅迫行為を受けたときから3年以内に慰謝料請求する必要があります。

脅迫罪の証拠

脅迫の被害を受けた場合には、証拠を集めることが重要です。

証拠がないと、被害届を提出しても警察は動いてくれませんし、相手に民事的な慰謝料請求することもできないからです。

脅迫罪の証拠としては、以下のようなものがあります。

・相手から届いた脅迫文書
・相手から届いた脅迫メール
・相手が脅迫していることがわかるSNSやブログ、掲示板などの各種の投稿画面
・LINEなどのチャット
・相手が脅迫しているところを録音・録画したデータ
・相手から脅迫されているところを見た目撃者や脅迫の状況を知っている知人の証言

脅迫されて、加害者を訴えたいと思ったら、まずは上記のような証拠を探して手元に集めましょう。

証拠がないときの対処方法

脅迫の被害を受けたとき、相手に刑事責任を負わせたり、慰謝料請求したりしようとしても、手元に脅迫の証拠がないケースがあります。

このような場合、どのように対処すべきかが問題です。刑事罰を与えたい場合と、慰謝料請求したい場合とに分けて、説明をします。

刑事罰を与えたい場合

まずは、相手を刑事裁判にかけて、刑事罰を与えたいケースです。

●警察に相談に行く
この場合、まずは警察に相談に行きましょう。

たとえ証拠がなくても、話が相当程度具体的であれば、警察に話を聞いてくれる可能性があります。

特にストーカー行為を受けている場合などには、早期に相談に行くことにより、重大な結果を避けることができる場合もあります。

また、脅迫が度重なっているときには、早めに相談に行っておくことで、次回脅迫を受けたときに証拠をとることができて、立件につながることがありますし、相手に余罪があり、捜査を進めてもらえる場合もあります

さらに、早めに相談に行っておくと、将来相手が脅迫罪やその他の罪で起訴されたとき、相手の罪を重くすることにも役立ちます。

●弁護士に相談に行く
また、弁護士に相談に行くこともお勧めします。

弁護士であれば、ケースごとの状況を把握して、効果的な証拠の集め方を教えてくれたり、被害者自身が見逃していた証拠を指摘してくれたりすることがあります。

また、度重なる脅迫被害を受けていて、実際に身に危険が及んでいるときに、身を守る手段をアドバイスしてくれます。

慰謝料請求したい場合

慰謝料請求をしたい場合にも、弁護士に相談に行くことをお勧めします。

この場合にも、やはり効果的な対処方法を教えてくれますし、被害者自身が見逃している証拠を指摘してもらうこともできるからです。

また、被害者が、証拠になるかならないかわからないと思っている資料がある場合には、弁護士に資料を見てもらうことにより、使えるか使えないかがわかります。

もし、手元に明確な証拠がなくても、脅迫行為が明らかな場合、弁護士に慰謝料請求の手続を依頼することができます。

すると、弁護士名で加害者に内容証明郵便を使って慰謝料の請求書を送ることにより、相手が支払いに応じる可能性があります。

※関連ページ①→「内容証明郵便を弁護士に任せた場合の費用と自分で出す場合の手順
※関連ページ②→「【ケース別テンプレートあり】内容証明郵便の書き方とルール

相手も、弁護士から請求書が届いた以上、支払に応じざるを得ないと考えるからです。

少なくとも、さらなる脅迫行為を止めさせる効果はあるでしょう。

以上のように、脅迫による刑事的な対応や慰謝料請求をするときには、弁護士に相談することが非常に有効なので、是非とも覚えておきましょう。

脅迫罪の慰謝料・示談金の相場

脅迫罪で慰謝料請求するとき、慰謝料や示談金の相場がどのくらいになるのか、確認しておきましょう。

一般的には100万円までの金額となります。

電話で一回だけ脅迫をした、という程度の場合、20~30万円ということもあります。

ただし、悪質なストーカーなどの場合には、200万円や300万円を超えるケースもあります。

脅迫罪の慰謝料は、ケースバイケースで相当異なってくるので、詳しく知りたい場合には、弁護士に相談することをお勧めします。

刑事事件にすべきか、民事事件にすべきか

脅迫を受けたとき、加害者には刑事責任と民事責任が発生しますが、このどちらの責任を追及すべきか、またはどちらも一緒に請求すべきかが問題です。

刑事事件と民事事件の目的と効果を理解しよう

これについては、被害者の考え方によるので、一概に「どうすべき」ということは言えません。

ただ、刑事責任の追及と民事賠償金の請求は、目的や効果が全く異なることを、理解しておく必要があります。

刑事事件の目的と効果

刑事責任追及の目的は、相手に刑事罰を与えることです。

刑事罰が与えられると、相手には一生消えない前科がつきます。

ただし、それだけです。

相手から被害者に対し、謝罪が行われるとは限りませんし(謝罪されることもあります)、お金も支払われません。

また、脅迫罪の刑罰の相場は、上記で説明した通りであり、不起訴になる可能性も高いですし、起訴されても略式裁判となって、罰金刑で終わってしまうことがほとんどです。

しかも、刑事裁判を進めるのは検察官なので、被害者は直接加害者の刑事裁判を進めて責任追及することはでいません。

これだけでは、被害者としては納得できないことが多いのではないでしょうか?

民事賠償責任の目的と効果

これに対し、民事賠償請求の目的は慰謝料の支払いを受けることであり、慰謝料請求をすると、実際に相手からお金が支払われます。

謝罪されるかどうかについては、ケースバイケースです。

しかし、脅迫罪の慰謝料は、先に説明した通り、安くなることも多いです。

やはり、被害者としては納得しにくいかもしれません。

先に刑事告訴して、後に民事責任追及をすることがお勧め

以上を踏まえて、もっともお勧めの方法は、先に刑事告訴を行って刑事責任を追及し、その後、民事賠償請求をする方法です。

被害届ではなく刑事告訴をすべきだというのは、刑事告訴をすると、単に被害届を提出するのとは違い、被害者の被害感情が明確になるからです。

つまり、被害者が怒っていると言うことが、より明らかになります。

このことで、単に被害届を提出するだけの状態よりも、相手の罪をより重くすることができます。

そして、相手は刑事責任を追及されると、処分を軽くするために、被害者と示談をする必要があります。

刑事手続では、被害者と示談ができていると、犯人の良い情状となるからです。

そこで、相手は警察に逮捕されると、「起訴されたくない」と考えて、被害者との示談を望むようになります。

そうすると、犯人の方から「示談してほしい」と頼んでくることも多いです。

この場合、被害者の方が優位な立場になるため、示談金の金額などにおいても、被害者が有利に示談交渉を進めることができます。

確かに、示談してしまうと、相手は不起訴になる可能性が高いので、相手に処罰を与えることは難しくなります。

ただ、示談しなくても、脅迫罪の刑罰はもともと軽いので、被害者が納得できるような処罰が下る可能性は低いです。

そうであれば、被害者にとって、なるべく高額な示談金を獲得する方が有利でしょう。

加害者の刑事手続き中に示談したら、示談時に謝罪させることもできますし、「もう二度としません」という誓約をさせることなども可能となります。

もし、この順番が逆で、先に示談交渉を持ちかけると、相手は支払に応じない可能性が高いですし、もともと脅迫をしてきたような相手であれば、さらなる脅迫を受けてしまうおそれもあります。

以上のような理由から、脅迫の被害に遭ったら、まずは刑事告訴をして、その後民事賠償を行う(加害者の方から示談を申し入れてくることも予想される)ことをお勧めするのです。

脅迫罪の判例

以下では、脅迫罪の判例をいくつかご紹介していきます。

脅迫罪の成否が問題になった判例

まずは、刑法上の脅迫罪が成立するかどうかが問題になったケースをご紹介します。

判例1
町村合併に関して住民投票が行われた際、抗争が激化して、反対派のリーダーに対して「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」と書いた書類を送付したことが「脅迫罪」に該当するかが争われた事案があります。
この事件で最高裁判所は、このような書類を送付されたなら、通常は「火をつけられるのではないか」という恐怖心を抱くので、脅迫に該当するとして、脅迫罪の成立を認めました(最判昭和35年3月18日)。

判例2
暴力団組員が、建設会社に対し、「工事を発注しないと、仕事ができんようになるぞ。」と強い口調で言った事例です。
この事例では、法人に対する脅迫罪が成立するかどうかが問題になりました。脅迫罪は「生命・身体・自由・名誉・財産」に対する害悪の告知によって成立する犯罪なので、本来的に法人は対象にしていないと考えられます。
ただ、法人への害悪の告知であっても、それを受けた会社代表者や会社の代理人が自分への害悪の告知と捉えて畏怖する可能性があります。
そこで、裁判所は、法人への害悪の告知が、その言動を受けた個人の生命・身体・自由・名誉・財産に対する害悪の告知になるなら、その個人(代表者や代理人)に対する脅迫罪が成立すると判断しました(最判昭和61年12月16日)。

判例3
かなり古い話ですが、村社会で「村八分にするぞ」と言ったことにより、脅迫罪が成立すると判断された事例もあります(大阪高裁昭和32年9月13日)。
ただ、これについては、現代と社会情勢が大きく異なるので、今同じ事件が起こったときに、脅迫罪が成立するかどうかについては、疑問が残ります。

脅迫による民事損害賠償(慰謝料)が問題になった判例

判例4
犯人が酒に酔った上で、被害者に対し電話をかけ、約30秒間、「ぶっ殺す」「ぶっとばす」などと言い続けた事案です。被疑者は、被害者に謝罪の意も伝えていましたが、裁判所は20万円の慰謝料支払い命令を出しました(東京地裁平成25年8月29日)。

判例5
上司が部下に対し、パワハラを行った事案です。電話をかけて「辞めろ!辞表を出せ!」「ぶっ殺すぞ、お前!」などと言ったところ、裁判所は、70万円の慰謝料支払い命令を出しました(東京地裁平成24年3月9日)。

判例6
いわゆるストーカーの事案です。大学教授が学生に執拗に電話をしたり、結婚を要求したりしていたことが脅迫行為と認められて、250万円の慰謝料支払い命令が出ました(東京地裁平成13年4月27日)。

判例7
犯人が被害者に対して執拗にストーカー行為を継続し、警察から警告を受けたり、仮処分命令を受けたりしても、辞めなかった事案です。この事例で裁判所は、犯人に対し、300万円の慰謝料支払い命令を出しました(大阪地裁平成12年12月22日)。

以上のように、ストーカー行為があると、脅迫罪の慰謝料は高額になる傾向があります。

まとめ

今回は、脅迫罪について、詳しく解説しました。脅迫罪は、意外と簡単に成立しますが、実際に責任追及するとなると、証拠集めが難しくなることも多いです。

刑事責任を追及するのか、民事責任を追及するのかなど、ケースに応じて適切な判断をすることも重要です。

刑事告訴をするにしても、慰謝料請求するとしても、弁護士に対応を任せるのが一番です。

脅迫被害を受けた方や、脅迫行為をしてしまって対応に迷っておられる方は、一度、弁護士に相談されると良いでしょう。

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福谷 陽子(元弁護士)

福谷 陽子(元弁護士)

京都大学法学部卒。在学中に司法試験に合格し、2004年に弁護士登録。その後、弁護士として勤務し、2007年、陽花法律事務所を設立。女性の視点から丁寧で柔軟なきめ細かい対応を得意とし、離婚トラブル・交通事故・遺産相続・借金問題など様々な案件を経験。2013年、体調の関係で事務所を一旦閉鎖。現在は10年間の弁護士の経験を活かしライターとして活動。猫が大好きで、猫に関する記事の執筆も行っている。
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