見たことがない就業規則に効力はない?周知義務や方法について解説!?

就業規則の周知義務。見たことがないのその規則に効力はある?

就業規則の就業規則と罰則

※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。

みなさんは、ご自身が所属している会社の就業規則を閲覧したことがありますか?入社時に少し見て以来閲覧したことがないという方がほとんどではないでしょうか?

普段仕事をする際には特に気にすることもないかもしれませんが、休暇や給与などをめぐって万が一会社と揉め事になった際、この就業規則が焦点になることはあります。

この記事では、就業規則がどういう条件下で効力を持つのかについて、主に周知義務やその方法に焦点を当ててご説明していきます。

そもそも就業規則とは何のためにあるのか?

就業規則とは、労働条件や職場規律などについて会社が定める規則のことです。

たとえば、労働者が100人いる会社があるとして、その100人全員の労働時間がバラバラで、賃金の決め方もバラバラで、給料日もバラバラで……ということはまずあり得ないですよね。

それは、会社が就業規則を作ることによって、その会社の労働者に適用される一般的な労働条件を定めているからです。

労働者は、入社するにあたって、会社との間で労働契約を締結するわけですが、基本的には「就業規則の労働条件がそのまま労働契約の内容になる」ことになっています。

だから、わざわざ労働者一人ひとりとの間で個別に細かい労働条件について合意する必要はない、という仕組みになっているのです。

就業規則で規定されなければならないこと

就業規則には、さまざまな労働条件が規定されています。会社が必ず規定しなければいけないものは、以下の3つです(労働基準法89条)。

①始終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する事項
②賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切・支払時期、昇給に関する事項
③退職・解雇に関する事項

これらの他にも、退職金の決定方法、労災や私傷病(ししょうびょう。仕事以外の理由で生じたけがや病気のことです)を負った労働者に対する保障、表彰や懲戒処分など、いろいろな労働条件について定められています。

前回の記事(ボーナス支給日前に退職届を出したら支払い無し!これって違法?)でも就業規則の例を紹介しましたが、そのように、社員みんなに適用させたい労働条件を定めるのが就業規則なのです。

就業規則がない会社もある?

ところで、皆さんがお勤めの会社には、就業規則はありますか? 

「就業規則なんか知らない」、「見たことがない」、という方もいらっしゃるかもしれません。

小さい会社(常時労働者が10人未満)ですと、就業規則自体がないという会社もありますが、それ以上の規模の会社ですと、必ず就業規則を作らなければいけない決まりになっています。

では、就業規則を閲覧したことがない場合であっても、その規定が労働条件になるのでしょうか。

冒頭で、「基本的には就業規則の労働条件がそのまま労働契約の内容になる」と言いましたが、法律でちゃんとその根拠が定められています。労働契約法7条の本文を見てみましょう。

労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。

この規定から、就業規則の労働条件が労働契約の内容になるためには、

①就業規則に合理的な労働条件が定められていること
②使用者が就業規則を労働者に周知させていたこと

以上の2つの条件が必要であるとわかります。

効力を持つ条件①「合理的な労働条件」とは?

ここで、①の「合理的な労働条件」という条件は、なんとも抽象的ではありますが、裁判実務では、個々の規定について労働者側と会社側の利益を比較して判断するのが一般的です。

たとえば、就業規則で「残業命令権」を定めようとした場合、会社側の「残業させたい」という利益と、労働者側の「私的な時間を奪われたくない」という利益がぶつかりあうこととなりますが、会社側の生産目標達成のためには会社に残業命令権を与えることにも合理性が認められる、といった具合です(日立製作所武蔵工場事件・最高裁第1小法廷平成3年11月28日判決)。

効力を持つ条件②「周知させていた」とは?

そして、②の「周知させていた」という条件が、今回一番の問題です。

労基法では、就業規則を周知する方法として以下の3つを定めています。

①見やすい場所へ掲示したり備え付けたりする
②労働者に書面を交付する
③労働者がパソコン等の機器を使って内容を確認できるようにする

基本的にはこれらいずれかの方法に従って、会社は、労働者が就業規則の内容を知ろうと思えば閲覧することができる状態にしておかなければなりません。

ですから、たとえば「就業規則を金庫に入れて厳重に保管しておく」とか、「社長の机の引出しに入っていて、就業規則を見せてほしいとは言いだしづらい」とかいう状態ですと、これでは周知させていたとは到底言えません。

周知義務を怠った場合の会社への罰則

ちなみに、労働者に対する就業規則の周知が不十分で、会社が周知義務を行っている場合には、単に労働者に対する効力がないだけでなく、その会社は30万円以下の罰金に処されることもあります。

労働者が単に読んでいなかっただけの場合

では、会社は周知義務を怠っていなかったが、労働者が内容を知らなかった、という場合はどうでしょう。

これは、労働者が現実に就業規則の内容を知っていたかどうかにかかわらず、基本的には就業規則の効力が発生します。

つまり、内容を知らなかったのが会社のせい(周知義務を怠っていた)なら就業規則の効力は発生せず、労働者のせい(単に読んでいなかっただけ)なら効力が発生する、と言えます。

就業規則の周知義務に関する判例

ただし、就業規則が周知されていたか否かが争われた裁判例では、第一審で周知されていたと認められたものが、第二審では周知が不十分であったと判断されて、結論がひっくり返った例も多々あります。

たとえば、労働者には就業規則の存在を知らせず、会社の共有フォルダに就業規則をこっそり入れておいたというような微妙な場合ですと、結論がどちらに転ぶかは分からないとしか言いようがありません。

とにかく、会社としては、労働者が自分で自分の労働条件を理解できるように、内容を説明することも含めて、就業規則を周知させることが必要だと言えます。

就業規則を読んでいないと他にも損をしているかもしれません

この記事では、就業規則がどういう条件下で効力を持つのかについて、主に周知義務やその方法に焦点を当ててご説明してきましたが、いかがだったでしょうか?

就業規則がちゃんと周知されている会社にお勤めなら、これを機会に、必ず一度は就業規則に目を通してみましょう。

実は知らなかったあんな手当やこんな休暇があるかもしれませんよ。

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