【盗難・窃盗被害】盗まれたお金は戻ってくるのか?

藤井弁護士

この記事の監修者

藤井 寿(弁護士・公認会計士)

近年の日本社会においても未だ無くならない、最も古典的な犯罪である窃盗。

一番イメージしやすいのは手ぬぐいや風呂敷を鼻の下で結んだ、ひげ面の泥棒でしょうか……もちろん、今どきそんなわかりやすい犯人はいません。

しかし、残念ながら、相変わらず窃盗事件はたくさん起きているという事実は存在します。

最近では防犯カメラなどの普及により減少傾向ではあるものの、平成30年の窃盗の認知件数は約58万件にも上ります(令和元年版 犯罪白書)。

これは、交通事故(過失運転致傷)などを除いた一般刑法犯の認知件数のうち71.2%を占めることになります(平成30年)。

日頃、犯罪なんてニュースの中のことだと思っている人も多いかもしれませんが、実は空き巣・万引きといった窃盗の被害は、決して縁遠いものではありません。

では、いざそんな窃盗の被害にあったとき、犯人が捕まれば盗まれた物やお金は戻ってくるのでしょうか。

犯人が盗んだものを売ってしまっていたり、隠し口座に保管してしまっていたら?

はたまた使い切ってしまっていたら?

受刑中の刑務所の中からも返済させられるのか……?

このような様々な疑問について、今回は見ていこうと思います。

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こんな疑問にお答えします

Q: 【盗難・窃盗被害】盗まれたお金は戻ってくるのか?

国が刑事責任を追及して犯人が刑罰に処せられることがあっても、盗まれた物やお金に関しては、民事上の請求権に基づいて返還請求訴訟や損害賠償請求訴訟を起こし勝訴しても、犯人に支払能力や資産が無い場合は、取り立てようと思ってもなかなか難しく、結果泣き寝入りとなってしまうことが多そうです。

弁護士をつけずに本人で訴訟などを行う方法もありますが、やはりそこは法律の専門家である弁護士の力を借り、犯人からの回収可能性などを考慮しながら方策を検討することが、費用対効果の観点から望ましいと思います。弁護士に相談する場合には、弁護士保険がおすすめです。保険が弁護士費用の負担をしてくれるので助かります。

そもそも窃盗とは、どんな犯罪なのか

窃盗罪とは、名前の通り何かを「盗む」というとてもシンプルな犯罪です。

刑法235条においては、

他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する

と記されています。

そして、犯罪には構成要件と呼ばれる犯罪が成立する条件があり、それらがすべて揃うことで初めて犯罪が成立します。

窃盗罪の場合は「他人の占有する財物」を「不法領得の意思をもって」、「窃取」することではじめて窃盗罪が成立するということになります。

しかし、「他人の占有する財物」を「不法領得の意思をもって」、「窃取」する……と言われてもなかなか理解し難いと思いますので、それぞれを詳しくみていきましょう。

他人の占有する財物

「他人の占有する財物」における他人の占有というのは、他人の財産であるということが一般的ですが、例えば貸したり預けたりしているというような、他人の占有する自己の財物という場合も該当するので注意したいところです。

これはあまり広く知られていないことですね。

また、ここでの財物とは、基本的には形のある有体物が該当します。

しかし、固体・液体・気体すらも空間の一部を占める有形的存在とみなされるため、財物ということになります。

不法領得の意思をもって

次に「不法領得の意思をもって」ですが、これは簡単に言えば「自分のものとしてその物の経済的用法に従って利用処分する意思」のことです。

器物損壊罪と使用窃盗(初めから返すつもりで一時的に使用するにとどまるもので、罰せられない)と区別されるのはここの違いです。

窃取

最後に「窃取」とは、占有者の意思に反して目的物を自己または第三者の占有に移すという意味です。

必ずしもひそかに取ることを意味しません。

しかし、反抗を抑圧する程度の暴行や脅迫により奪い取ったり、脅し取ったり、だまし取る方法も存在するため、暴行・脅迫・欺罔を手段としないという広い意味合いがあります。

そして、この物の占有を移す手段の区別において、窃盗罪(235条)・強盗罪(236条)・恐喝罪(249条)・詐欺罪(246条)というように分けられます。

刑法では返却の義務についての規定はない

六法全書窃盗罪がどのような犯罪かが分かったところで、次は窃盗の罪を犯した犯人が捕まった場合どうなるかを見ていきましょう。

刑法上の窃盗罪には前述のように、10年以下の懲役または50万円以下の罰金という刑罰が定められています。

しかし、刑法は罪を犯した者に対する国家からの刑罰を定めたものですので、そこに窃盗した財物に関する返却の義務というものは規定されておらず、民事上のルールに則って解決されることになります。

民事訴訟で勝てば戻ってくるのか

犯人は、盗んだ物の所有権や不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)によって、被害者へ盗んだ物を返還したり、損害賠償をする義務があります。

むしろ逮捕されたタイミングで犯人に盗んだ物や現金・預貯金といったお金がある場合は、犯人側が罪を軽くしてもらいたいがために犯人、またはその親族などから任意で、物の返還や弁済をしてもらえる可能性もあります。

しかし、任意で物やお金を返してもらえない場合は、民事上の請求権に基づいて被害者が、犯人に対して盗まれた物の返還請求訴訟や損害賠償請求訴訟を起こすことになります。

この場合、通常は請求に理由があるため、被害者が勝訴し犯人が敗訴するので、これに従い犯人は被害者に対し盗んだ物の返還義務や損害賠償義務を負うこととなります。

しかし、ここが重要なポイントで、あくまで裁判所の判決は物を返還したり損害を賠償する義務があるというお墨付きを与えるにとどまり、裁判所が自ら物を取り上げたりやお金を取り立ててくれるわけではないということです。

この時、窃盗された財物そのものがあれば、持ち主である被害者に返却され、そのものが無くなっていても、相応の金銭によって損害が賠償されることになります。

多くのケースで、銀行口座に盗んだ金銭がすぐに入金されていたり、被害品が高級品といったようなものの場合は、事件の捜査の過程で見つかっていれば証拠として警察に押収されているので、その場合は比較的被害者に返ってきやすくなります。

しかし、捜査の過程では被害品が見つかっておらず、さらに他に判明している犯人の財産では到底損害を賠償し切れない場合、これはかなり厳しい状態です。

被害者自らが、回収できる犯人の財産などを、多額の費用を投じて探さなくてはいけないケースも多々存在します。

また、そうして調べた上げた結果、盗まれた金銭が犯人によって浪費されていたり、外国へ送金されたせいで追跡が困難となってしまったり、犯人に返済能力が無い場合は本当にどうしようもなく、無いところからは取れないということで、泣き寝入りするしかないのです。

こうなると、裁判を起こすなどの法的な手段をとるための弁護士費用や、犯人の財産を探すための調査費用などだけがかさみ、結果的に盗まれた物の価値や金銭以上の出費となってしまう可能性が高くなります。

※関連ページ→「弁護士費用の相場と着手金が高額になる理由

また、現在の日本の制度では犯人に強制労働をさせることで損害を賠償させることはできません。

全く支払いがなされないまま、損害賠償命令などを勝ち取った判決が効力を有する10年間待っているだけでは、それは紙屑となってしまい、民事裁判を行ったこと自体の意味すらもなくなってしまうでしょう。

弁護士をつけずに本人で訴訟などを行う方法もありますが、やはりそこは法律の専門家である弁護士の力を借り、犯人からの回収可能性などを考慮しながら方策を検討することが、費用対効果の観点から望ましいと思います。

弁護士に相談する場合には、弁護士保険がおすすめです。保険が弁護士費用の負担をしてくれるので助かります。

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泣き寝入りしないためにはまず警戒を!

これまでの内容をまとめると、国が刑事責任を追及して犯人が刑罰に処せられることがあっても、盗まれた物やお金に関しては、民事上の請求権に基づいて返還請求訴訟や損害賠償請求訴訟を起こし勝訴しても、犯人に支払能力や資産が無い場合は、取り立てようと思ってもなかなか難しく、結果泣き寝入りとなってしまうことが多そうです。

そして、以下のような高額の被害事例もあるため、日頃から注意が必要です。

一人暮らしの高齢女性を狙って、被告人が警察官の犯罪捜査を装うなどの巧妙な手口でキャッシュカードを窃取した上、共犯者が現金自動預払機から現金を引き出すという窃盗の事案。
職業的かつ計画的犯行であって、犯行態様はかなり悪質であること、現金の被害も合計624万円と大きいこと、被告人は同種を含む累犯前科を有することを考えると、被告人の刑責は重いとして、被告人を懲役3年6月に処した事例。

引用元:刑事事件弁護士中村国際刑事法律事務所

こうした事例をみて、もしも自分が624万円もの大金を窃盗されたとして、どこかに隠されるなり、もう使われて金はないと言われ、この被害額が1円も返ってこないと考えたら、いったいどんな気持ちになるでしょうか。

泥棒・空き巣は普段我々があまり意図しない発想で、様々なポイントを逃さずチェックしているといいます。

例えば狙われやすい家の特徴として、

・公園やコンビニが近くにある家(誰が何をしていても不審でないため、下見に最適)
・線路近くにある家(住宅への侵入時の破壊音を電車の通過音がかき消すため、また駅近くの場合逃走しやすいため)
・警備会社とセキュリティー契約している家(セキュリティー契約するということはそれなりの資産がある証拠)
・観光名所近くの家(不特定多数の人が集まるので、不自然な挙動で侵入する家を物色していても目立たないため)
・二世帯住宅の家(物音に無頓着になりがちなため)

などが挙げられるようです。

こうした内容を目にするだけでも、日ごろから防犯意識が高まるのではないでしょうか。

やはり、被害額が返ってくることを期待するのでなく、まずは被害に遭わないことが大事です。

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