高度プロフェッショナル制度で対象になる人・職種とメリット・問題点を考える

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藤井弁護士

この記事の監修者

藤井 寿(弁護士・公認会計士)

高度プロフェッショナル制度で対象になる人とメリット・問題点を考える

安倍政権が成長戦略の目玉に位置付けている労働基準法改正案、「高度プロフェッショナル制度」別名、ホワイトカラーエグゼンプションと呼ばれています

野党から「残業代ゼロ法案」「過労死促進」などと強い批判を浴びたことなどもあります。

高度プロフェッショナル制度は、2019年4月1日の改正労働基準法の施行、「働き方改革法」のひとつであり、「プロフェッショナル」と呼ばれる一部の職種の方たちに対して、従来の労働基準法に縛られない、自由な働き方を実現するための制度と言えます。

一定の年収を超えるホワイトカラー(いわゆるオフィスワーカー)に労働基準法における労働時間規制を適用しないことが定められています。

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高度プロフェッショナル精度による労働時間規制の移り変わり

高度プロフェッショナル制度とは、所得の高い労働者を労働時間規制の対象から外す、という制度ですが、実は、これに似たような制度がすでに労働基準法に定められています。

労働時間短縮の実現を目指して「週40時間労働制」が労働基準法に規定されたのは昭和62年ですが、これと同時に「専門業務型裁量労働制」という制度も導入されたことはあまり知られていないかもしれません。

この専門業務型裁量労働制というのは、その名のとおり専門的な職種の労働者について、実際に何時間働いたとしても(逆にあまり働かなかったとしても)、労使協定によって定められた時間働いたものとみなす、という制度です。

なぜこのようなことが許されるかというと、例えば研究者やデザイナー、あるいは弁護士などといった専門的な仕事は、業務を自分のペースややり方で進めるという性質があるので、雇用主による厳格な労働時間規制にはそぐわないといえるからです。

また、平成10年には、会社の中枢部門で企画立案に携わる労働者についても、仕事の量より質や成果によって評価されることが多いことから、同様に実際の労働時間とは関係なく定められた時間労働したものとみなす「企画業務型裁量労働制」という制度が導入されました。

現在は、これら「専門業務型」と「企画業務型」の2つの裁量労働制が、みなし労働時間の対象として定められています。

なぜ高度プロフェッショナル精度で裁量労働制を定めたいのか

企画業務型裁量労働制

労働基準法は、戦後間もなく、一次・二次産業の労働者がほとんどだった昭和22年に制定された法律であり、そもそも労働時間規制になじむ働き方をしている人が多くを占めていました。

しかし、その後三次産業の労働者が徐々に増え、さらに、それらの労働者の能力評価の視点が仕事の「量」から「質」へと変化してきました。

それによって、労働時間の長さではなく仕事の成果によって労働者の待遇を決めたいというニーズが現れたのです。

これは会社側だけの問題ではなく、短時間の労働で成果を上げる有能な労働者より、ダラダラ残業をして労働時間が長い労働者のほうが収入が多くなるという矛盾も解消されることから、労働者にとっても一応メリットのある話ではあるといえるでしょう。 

※関連ページ→「「仕事が遅いから残業代は出せない」は正当な理由になるのか

これ以降、日本の経済界は、ホワイトカラー労働者に対して裁量労働制を活用できるようにしたい、という方向へシフトするようになりました。

平成18年頃の第1次安倍政権のとき、「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入が提唱され、そのときは頓挫しましたが、今回「高度プロフェッショナル制度」と名前を変えて再登場し、導入されました。

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高度プロフェッショナル制度はどんな人や職種が対象になるの?

高度プロフェッショナル制度の対象となるのは、今のところ、研究開発や金融、コンサルタントといった高度な専門的知識を必要とする業務に就く年収1075万円以上の労働者とされています。

厚生労働省によると、以下が想定されている職種になります。

 

・金融商品の開発業務

・金融商品のディーリング業務

・アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)

・コンサルタントの業務(事 業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)

・研究開発業務

 

高度プロフェッショナル制度の適用を労働者本人が希望するのであれば、そのほかに職務の範囲を明確にするなどの要件をみたせば、その労働者は労働時間管理の対象から外れることになります。

労働時間が管理されないということは、労働時間の長短と関係なく成果だけによって給与額が決まるというだけでなく、普通の労働者が支払われている時間外・深夜・休日労働の割増賃金はすべて支給されないことになります。

深夜・休日労働割増賃金の対象となる現在の裁量労働制とは異なっており、ここが「残業代ゼロ法案」と批判を受けるゆえんだといえます。

しかし、そのような批判に応えるため、

・始業から24時間以内に継続した休憩時間を確保する

・健康管理時間として、働く時間に上限を設ける

・4週間に最低4日、1年間で104日の休日を確保する

 

のいずれかを、健康維持策として導入しなければならない仕組みです。

当然のことながら、残業代がゼロになるからといって、無限に働いて(働かせて)よいわけではなく、総体的に労働時間規制がなされることが前提となりそうです。

現在の長時間労働の実態は?

高度プロフェッショナル制度の当該対象労働者

そうは言っても、平成26年度の調査(総務省統計局・労働力調査)によれば、雇用者のうち10パーセントほどが月80時間以上の時間外労働をしているようです。

月80時間というと、俗に「過労死ライン」と呼ばれる厚労省の認定基準を満たすほどの数値です(発症前2~6か月間にわたって、月80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症(脳疾患・心疾患)との関連性が強いと評価できるとしています)。

このような過重労働が未だに蔓延しているにもかかわらず、高度プロフェッショナル制度を導入しようとしているのですから、不満が噴出するのは当然だといえます。

「年収1075万円」なんて私には関係ない……?

国税局の調査によると、2013年の給与所得者の平均年収は413.6万円であるとのこと。

一般的なサラリーマンにとっては、年収1075万円はなかなか手の届かない金額です。

では、そんなサラリーマンには、この「高度プロフェッショナル制度」は関係ないと言い切れるのでしょうか。

法案の原文のうち、対象となる労働者の基準の部分を見てみましょう。

労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者1人当たりの給与の平均額をいう。)の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。

ナマの法律の文章はなかなか読みづらいですが、1075万円という年収要件は「年間平均給与額の3倍を上回る水準として厚生労働省令で定める額」として定められました。

また、「書面よる合意によって、職務の範囲が明確に定められている労働者」が条件となりました。

高度プロフェッショナル制度は、「高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者の賃金を減らしてはいけない」という指針となっています。

そのため、対象職種の労働者の賃金、年収が下がらないように注意する必要があります。

 

高度プロフェッショナル人材の対象年収が下がるおそれも

時代の流れにより平均給与額も変わっていくので、省令で随時妥当な基準金額を定めることには一定のニーズがあるとはいえます。

しかし、そのときの政治によって、基準金額が妥当な範囲を超えてグングン下がってくると、いよいよ「残業代ゼロ法」という批判が現実のものとなってしまう可能性があります。

実際、平成18年ごろに「ホワイトカラーエグゼンプション」が厚労省で検討されていた当時には、適用対象者が「年収900万円以上」とされていましたし、当時の経団連からは「400万円」「700万円」といった基準が提唱されたことさえあります。

いったん「年収1075万円」であるとして法案を成立させたうえで金額を下げるという、いわば小さく産んで大きく育てるような制度になってしまうという危険性が完全に排除されたわけではありません。

自立的な働き方ができる労働者にとっては高度プロフェッショナル制度を利用することにもメリットがあります。

しかし、仮に基準金額が下がり、制度の適用が可能な労働者が増えた場合には、いくら本人の希望により適用されるとはいっても、会社に「高度プロフェッショナル制度の適用に合意しろ」と迫られた場合には、それを断るのは至難の業です。

残業代の面でも過重労働の面でも、労働者が会社の食い物になってしまわないような仕組みづくりが必要です。

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この記事の監修者

藤井 寿(弁護士・公認会計士)
東京大学教養学部卒。リンクパートナーズ法律事務所所属。弁護士と公認会計士の両資格を保有する数少ない「ハイブリッド法曹」として活躍中。