弁護士保険とは?
弁護士保険(弁護士費用保険)とは、日常生活や仕事・事業でトラブルが発生した際に、弁護士へ相談・依頼するときの費用(相談料・着手金・報酬金など)をカバーするための保険です。
「弁護士に相談したいけれど、費用が心配で泣き寝入りしてしまう」というケースは、決して少なくありません。
弁護士保険に加入しておけば、所定の条件を満たすトラブルについて、弁護士費用の一部または全額の補償を受けられるため、費用面のハードルを下げて早めに専門家へ相談しやすくなるというメリットがあります。
どのようなトラブルが対象になるのか
弁護士保険は、個人・事業者を問わず、幅広い法的トラブルを対象としています。代表例としては、次のようなものがあります。
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労働トラブル:解雇・残業代の未払い・パワハラ・セクハラ など
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男女・家族のトラブル:離婚、養育費の不払い、ストーカー行為 など
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相続トラブル:遺産分けをめぐる親族間の争い など
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住まい・近隣トラブル:騒音、悪臭、ペットの問題、敷金返還のトラブル など
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お金のトラブル:貸したお金が返ってこない、悪質な投資勧誘による被害 など
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インターネット関連トラブル:SNSや掲示板での誹謗中傷、なりすまし、写真の無断利用 など
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医療・美容に関するトラブル:施術や治療のミスをめぐる紛争 など
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事業者側のトラブル:取引先との契約トラブル、従業員との紛争、不当・悪質クレーム、著作権侵害 など
このように、弁護士保険は従来から存在している自動車保険の特約(交通事故専用)とは異なる商品であり、日常生活やビジネスのなかで起こりうる幅広い法的リスクに備える保険です。
弁護士費用の目安と「泣き寝入りゾーン」
弁護士に依頼する際の費用は、事件の内容・難易度・弁護士ごとの料金体系によって大きく異なりますが、おおよその着手金の目安としては次のようなイメージです。
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離婚調停:40〜60万円程度
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解雇などの労働紛争:50〜80万円程度
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金銭貸借をめぐる紛争:35〜50万円程度
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相続トラブル:50〜120万円程度
このように、比較的身近なトラブルであっても、弁護士費用は数十万円単位になることが珍しくありません。
一方で、争っている金額がそれほど大きくない場合、「弁護士に依頼しても、回収額と費用が同じくらいになってしまう」というゾーンが生じます。これがいわゆる「泣き寝入りゾーン」です。
弁護士保険に加入していれば、このゾーンに該当するトラブルでも、費用倒れを恐れずに弁護士へ相談・依頼しやすくなるため、実質的に泣き寝入りを防ぐ効果が期待できます。
弁護士保険の基本的な仕組み
弁護士保険のしくみは比較的シンプルです。
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加入者が毎月一定の保険料を支払う
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法的トラブルが発生したときに、弁護士に相談・依頼を行う
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所定の条件・上限の範囲内で、相談料や着手金などが保険金として支払われる
多くの商品の場合、次のような費用が補償の対象となります。
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初回・継続の法律相談料
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訴訟・調停などを依頼する際の着手金
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解決後に支払う報酬金
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裁判所に納める実費(印紙代や郵券代など) など
保険料は1か月あたり1,000〜4,000円程度に設定されている商品が多く、「月々少額の負担で、万一のときの大きな費用リスクを抑える」という性格の保険です。
なお、一般的な弁護士保険は掛け捨てとなっているため、途中で解約しても、それまで支払った保険料が戻ることはありません。
偶発事故と一般事件の区分
弁護士保険では、トラブルの内容に応じて、多くの商品で**「偶発事故」と「一般事件」**という区分が設けられています。
偶発事故
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イメージ:突然の事故によって発生したトラブル
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具体例
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自動車・自転車による交通事故
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落下物によるケガ
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上階からの水漏れによる被害
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ペットが他人にケガをさせた場合 など
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偶発事故については、商品によっては弁護士費用が全額補償されるものもあり、一般事件と比べて補償割合が高く設定される傾向があります。
一般事件
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イメージ:事故以外の法的トラブル全般
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具体例
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離婚・相続などの家族トラブル
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近隣トラブルや欠陥住宅などの住まいの問題
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残業代未払い・不当解雇などの労働問題
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詐欺やネット被害、債権回収 など
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一般事件に関しては、すべてを全額補償するのではなく、一定の自己負担や限度額が設定されていることが多い点に注意が必要です。
付帯サービスとして利用できるもの
弁護士保険には、保険金の支払い以外にも、トラブル予防や初動対応に役立つサービスがセットになっているケースがあります。代表的なものは次のとおりです。
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弁護士直通の相談ダイヤル
法律問題にあたるかどうか、今後どのように対応すべきかといった相談が、電話で行えるサービスです。 -
弁護士紹介サービス
保険会社の提携弁護士を紹介してもらえるため、自分で弁護士を探す手間を省くことができます。 -
会員カード・ステッカーの提供
「弁護士保険加入者であること」を示すツールとして利用でき、不当な要求などの抑止につながる場合があります。 -
法律セミナー・トラブル予防講座
弁護士によるセミナーや勉強会に参加でき、トラブルを未然に防ぐ知識を身に付けることができます。 -
アプリによるチャット相談・オンライン相談
スマートフォンアプリから、提携弁護士へ手軽に相談できるサービスです。 -
専門ダイヤル(税務相談・冤罪対応など)
税務相談、痴漢・万引き冤罪への初期対応など、特定分野に特化した窓口を用意している商品もあります。
加入の際には、どのような付帯サービスが自分のライフスタイルと相性がよいかもチェックポイントになります。
弁護士保険で補償されない主なケース
弁護士保険は便利な制度ですが、すべての弁護士費用が補償されるわけではありません。一般的には、次のようなケースが対象外とされることが多いです。
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国・自治体・行政庁を相手とする事件
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株式・投資信託など有価証券投資に関するトラブル
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破産・民事再生・任意整理など、債務整理に関する事件
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刑事事件や少年事件、医療観察事件
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被保険者本人の暴力行為・飲酒運転・詐欺行為・薬物使用など、重大な違法行為に起因するトラブル
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請求額が一定金額(例:5万円未満)に満たない少額のトラブル
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被保険者本人ではなく、家族や第三者が関わるトラブル(別途契約が必要な場合が多い)
また、補償対象となるのは「保険加入後に発生したトラブル」に限られるのが原則です。契約前から続いていた問題は、原則として保険金の支払い対象外となります。
待機期間・特定原因不担保期間とは
弁護士保険には、他の医療保険等と同様に、**「待機期間」や「特定原因不担保期間」**が設定されている商品が多くなっています。
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待機期間
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契約が開始されてから一定期間(例:3か月)は、トラブルが発生しても保険の対象にならない期間です。
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特定原因不担保期間
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離婚・相続・親族間トラブルなど、特定の分野について、より長い期間(例:1〜3年)補償の対象外とする仕組みです。
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一般に、偶発事故についてはこれらの期間が設けられていないか、短めに設定される一方、離婚や相続など、加入前から「兆し」があることが多いトラブルについては、長めの不担保期間が設けられていることが多くなっています。
これは、加入直前にトラブルが顕在化したケースだけを狙って加入することを防ぎ、保険契約者全体の公平性を保つための仕組みです。
弁護士費用特約との違い
自動車保険などに付帯する「弁護士費用特約」と、単独で加入する「弁護士保険」は、似ているようでカバー範囲が大きく異なります。
自動車保険の弁護士費用特約
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主に交通事故で被害者になった場合の弁護士費用を補償
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「もらい事故(自分に過失がない事故)」など、対象が限定されていることが多い
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自動車事故に特化している分、保険料は比較的安価
単独契約型の弁護士保険
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自動車事故だけでなく、労働・近隣・相続・離婚・ネットトラブル・事業上の紛争など、日常生活全般のトラブルを幅広く対象
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自動車事故についても、「被害者・加害者」「過失割合の有無」を問わず補償対象となる商品が多い
交通事故のみを重視するのであれば弁護士費用特約で足りることもありますが、生活全般・事業全般の法的リスクにも備えたい場合は、弁護士保険のほうが適しています。
どんな人に弁護士保険が向いているか
弁護士保険は、次のような方に特に向いていると考えられます。
子育て中の世帯
学校でのいじめ問題、保護者同士のトラブル、マンションの騒音問題など、感情的な対立が法的問題に発展しやすい場面が増えています。冷静に第三者(弁護士)に相談できる環境があることは、大きな安心材料になります。
高齢者・高齢の親を持つ方
相続や財産管理にまつわる問題だけでなく、悪質商法や詐欺被害のターゲットとなるリスクも高まります。判断力が落ちたときに備え、早めに弁護士に相談できる体制を用意しておくことが重要です。
個人事業主・フリーランス・中小企業経営者
契約書のトラブル、取引先との支払いをめぐる紛争、従業員との労務トラブル、悪質クレーマーなど、事業活動には常に法的リスクが伴います。事業用の弁護士保険に加入しておけば、ビジネス上の紛争にも備えやすくなります。
インターネットを頻繁に利用する方
SNSや動画配信、掲示板などを日常的に利用していると、知らないうちに被害者・加害者になってしまうリスクがあります。炎上や誹謗中傷が起きた場合、初動を誤ると被害が拡大しやすく、早い段階で弁護士に相談できる環境が重要です。
弁護士保険の加入条件の一例
弁護士保険に加入するための条件は、保険会社ごとに異なりますが、一般的には次のような条件が設定されていることが多いです。
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成人していること
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日本国内に居住していること
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約款や重要事項説明書の内容を、日本語で理解できること
このほか、商品によっては年齢の上限や、過去のトラブル歴などを条件に含めている場合もあります。実際に加入する際は、各商品の約款・重要事項説明書を必ず確認することが大切です。
加入前に必ず確認したいポイント
弁護士保険の内容は保険会社ごとに細かく異なりますので、検討する際には次の点をチェックしておかれるとよろしいかと存じます。
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どのようなトラブルが補償対象か/対象外か
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1件あたり・年間あたりの補償限度額
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自己負担額(免責金額)の有無と金額
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待機期間・特定原因不担保期間の長さと対象分野
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弁護士を自由に選べるか、紹介のみか、提携事務所に限定されるか
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電話相談やアプリ相談など、付帯サービスの内容
これらを理解したうえで契約すれば、「せっかく入ったのに、使いたい場面で使えなかった」というギャップを防ぐことができます。
法的トラブルに備える一つの選択肢として
現代社会では、働き方の多様化やインターネットの普及などにより、個人・企業を問わず法的トラブルに巻き込まれるリスクが高まっています。
弁護士保険は、そうしたリスクに対して
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弁護士費用の負担を軽くし
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「泣き寝入りゾーン」のトラブルでも専門家に相談しやすくし
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不当な要求やハラスメントに対する抑止力としても機能しうる
という意味で、有効な備えの一つとなり得ます。
もっとも、すべてのトラブルが補償される万能の保険ではありません。補償されないケースや待機期間などの制限もありますので、メリットと注意点の両方を理解したうえで、ご自身やご家族、事業の状況に適した商品を選ぶことが重要です。
必要に応じて、保険会社や保険の専門家、弁護士等にも相談しながら、ご自身に合った「法的リスクへの備え方」をご検討下さい。