大家さんが修理してくれない!賃貸人の修繕義務はどこまで?

 

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この記事の執筆者

福谷 陽子(元弁護士)

アパートやマンションなどの賃貸借契約を締結しているとき、物件に不具合が発生することがあります。そのようなときには、賃借人は、賃貸人に対して修繕を請求することができます。

しかし、賃貸人が修繕に応じてくれないこともありますし、修繕の範囲について、争いが発生してしまうこともあるでしょう。

そんなとき、どうしたら良いのでしょうか?

今回は、賃貸人の修繕義務の範囲について、解説します。

賃貸人の修繕義務とは

賃貸借契約を締結している場合、賃貸人には「修繕義務」があります。

賃貸人は、賃借人に対し、物件を使用収益させるべき義務を負っています(民法601条)。

その義務の実現方法として、物件に不具合が発生した場合には、適正な方法で使用収益ができるように、修繕しなければならないのです。

民法では、次のように規定されています。

民法606条
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。

2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない

たとえば、居住用のアパートやマンションを賃貸している場合に雨漏りなどの不具合が発生したら、賃貸人は速やかに修繕しなければなりません。

賃貸人の修繕義務の範囲

物件に不具合が発生したとき、賃借人が賃貸人に修繕を求めても、賃貸人が「そのようなことは、修繕義務の内容に入らない」と主張して、トラブルになることが多いです。

具体的にどのようなケースで賃貸人に修繕義務が発生するのでしょうか?

使用収益に耐えうるかどうかが基準となる

賃貸人において、修繕義務が発生するかどうかの基準となるのは、「修繕をしないと、賃借人が契約の目的に従った使用収益をすることができないかどうか」です。

修繕をしないと契約の目的を達成できないなら賃貸人は修繕義務を負いますし、修繕しなくても使用収益ができるなら、賃貸人は修繕義務を負いません。(東京地裁平成25年1月29日)。

雨漏りや配水設備の故障が発生している場合には、通常居住や店舗営業等の契約目的を達成できないでしょうから、賃貸人に修繕義務が発生します。

これに対し、内壁が少し破損しただけの場合などには、それによって契約目的の達成が困難になるわけではないでしょうから、賃貸人に修繕の請求ができない可能性が高くなります。

修繕義務の程度

賃貸人に修繕義務があるとしても、どこまで修繕しなければならないか、という問題があります。

たとえば、配水設備が故障したときに、全面的に最新の設備に入れ替える必要があるのかなどのことです。

賃借人にしてみると、できるだけ良い設備に換えてほしいと思うでしょうけれど、賃貸人からすると、最低限の補修で良いのではないかと考えることでしょう。

法律上は、賃貸人の修繕義務の範囲は、「使用収益ができる状態にするために必要な限度にとどまる」とされています。

最新の利便性の良い設備に変更する必要はなく、最低限、居住の用を満たすだけの修理をすれば足ります。

天災などのケース

賃貸物件の不具合や故障は、地震や火災などの天変地異により、発生することもあります。

このように、不可抗力によって不具合が起こった場合にも、賃貸人の修繕義務は発生するのでしょうか?

これについては、肯定的に理解されています(大審院大正10年9月26日)。

天災によって屋根が壊れて雨漏りが発生するようになったケースなどでも、賃借人は賃貸人に修繕を求めることができます。

費用がかかりすぎる場合

物件によっては、修繕に高額な費用がかかる場合があります。物件自身が老朽化してほとんど価値がなくなっているにもかかわらず、修繕に過大な費用がかかる場合でも、賃貸人に修繕義務があるのでしょうか?

法律上、賃貸人が修繕することによって採算が取れなくなるような場合、賃貸人には修繕義務が発生しないと考えられています。

たとえば東京高裁昭和56年2月12日判決においては、「修繕に不相当に多額の費用がかかる場合、賃料の金額に照らして採算がとれない費用の支出が必要な場合」における賃貸人の修繕義務が否定されています。

古い物件に居住していて賃料も低いケースなどでは、たとえ物件に不具合が発生しても、賃貸人に修繕を請求できない可能性があります。

賃借人の責任による場合

賃貸人は賃借人に対し、物件を使用に耐えうる状態に維持する義務を負いますが、賃借人自身が故意過失によって物件を毀損したり滅失させたりした場合にまで修繕義務を負うというのは不合理です。

そのような場合には、賃貸人の修繕義務が免除されるか、義務内容が調整される(修繕義務の範囲が小さくなる)可能性があります。

ケーススタディ(エアコンが壊れたケース)

たとえば、エアコンが壊れたケースを考えてみましょう。

故障したエアコン

この場合、エアコンが備え付けのものだったのか、賃借人が持ち込んだものかによって異なってきます。

もともと備え付けのエアコンで、賃貸借契約書や重要事項説明書において「エアコンは設備である」ということが書かれている場合には、エアコンの修繕は賃貸人の負担となります。

これに対し、賃借人が持ち込んだり購入したりしたものであれば、賃貸人には修繕義務が認められません。

この場合、エアコンは賃借人の固有の財産であり、そもそも修繕が必要な「物件の不具合」には該当しないからです。

また、本来賃貸人の負担となるべきケースでも、賃借人の故意や過失によって毀損された場合には、賃貸人は修繕義務を負いません。

賃借人が修繕することはできるのか?

物件に何らかの不具合が発生したとき、賃貸人に修繕を求めても、応じてくれないことがあります。このようなとき、賃借人が自ら修繕することはできるのでしょうか?

賃貸借契約では、賃借人が勝手に物件に変更を加えることは認められていませんし、契約終了時には「原状回復義務」もありますから、修繕できないとも思えます。

ただ、修繕ができないと、賃借人は、ずっと使用に耐えない物件内で居住や店舗営業などを継続しなければならないことになり、不利益が大きくなります。

そこで、賃貸人が修繕に応じない場合、賃借人が自ら修繕をすることも認められています。

現行民法には賃借人の修繕権についての規定はありませんが、通説ではこれが認められていますし、改正民法では賃借人の修繕権を明確化する予定です。

賃借人が修繕した場合の費用について

賃借人が自分で修繕をすると、費用が発生します。

賃借人が負担した費用は、賃貸人に請求することができるのでしょうか?

この点については、民法に規定があります。

民法608条では、賃借人が賃借物について賃貸人が負担すべき必要費を支出したときに、賃貸人に償還請求ができるとしています。この「必要費」には、修繕費用も含まれます。

そこで、賃借人が自分で雨漏りや配水設備などの必要な補修をしたら、その費用を賃貸人に請求できます。

家賃の支払を拒絶することはできるのか

基本的に、拒絶は可能

賃貸人が物件の修繕に応じないので、賃貸借契約の目的を達成することができないとき、賃借人は、家賃の支払を拒絶することができないのでしょうか?

このような場合、賃貸人は自分の義務を果たしていないのですから、賃借人だけが家賃支払いの債務を履行しなければならないというのは不合理です。

そこで、裁判所は、賃貸人が必要な修繕をしなかったために賃借人が物件の使用収益をできなかった場合、「使用が不可能になった限度で」賃料の支払い義務を免れると判断しています(大審院大正5年5月22日)。

ただし、これによっても必ずしも全額の賃料支払いを免れるわけでは無く、使用収益ができなくなった限度でのみ家賃が減額されるだけなので、注意が必要です。

「使用収益ができなくなった限度」についての判断は非常に難しく、賃借人が勝手な判断で賃料の一部や全部の支払を拒絶すると、賃貸人から裁判を起こされて、未払賃料を請求される可能性もあります。

賃貸人の修繕義務違反を理由として賃料支払いを拒絶するなら、その具体的な方法について、弁護士に相談をしてアドバイスに従うことをお勧めします。

賃料減額請求について

ところで、賃借物の一部が滅失した場合には、賃借人は、滅失した部分の割合に応じて賃料の減額を請求することができるとされています(民法611条1項)。

また、残った部分だけでは契約目的を達成できない場合、賃借人は契約を解除することも可能です(同条2項)。

滅失のケースだけではなく、毀損や不具合の場合にも、この規定を類推して賃料減額請求をすることが認められると考えられています(東京地裁平成10年9月30日)。

この規定に基づいて賃料減額請求をした場合の賃料減額の効果は、物件の滅失時または毀損時に遡及します。

修繕義務を免除する特約の有効性

賃貸借契約を締結する際、特約で、賃貸人の修繕義務を免除することがあります。

一度、賃貸借契約書を確認してみましょう。

賃貸借契約書

そこで「賃貸人の修繕義務を免除する」とか「修繕は賃借人の負担とする」などと書かれた条項があると、修繕義務免除特約がついているということです。

このような特約は、有効なのでしょうか?

賃貸借契約においては、賃借人が非常に強く保護されていて、賃借人に不利益な特約は無効となることがあります。

しかし、賃貸人の修繕義務を免除する内容の特約は、基本的に有効であると考えられています。

ただ、どのような特約内容でも有効になるわけではありません。

最高裁においても、修繕義務免除特約は、賃借人が一切の汚損や破損箇所を自分の費用で修繕し、物件の状態を維持すべき義務を負うものではないと判断されています(最高裁昭和43年1月25日)。

大きな欠陥や破損があった場合には、特約があっても無効となり、なお賃貸人が修繕義務を負うというのが裁判所の立場です(東京高裁昭和51年9月14日)。

そこで、修繕義務免除特約があるとしても、賃借人が行うべき修繕は、日常のちょっとした修繕が主となり、屋根の改修などの大修繕が必要なケースなどでは、やはり賃貸人が修繕すべき義務を負います。

民法改正によって何が変わるのか?

ところで、現行の民法は改正される予定となっており、改正民法は2020年4月1日に施行される予定です。

改正民法においては、賃貸人の修繕義務の規定が、以下のように改正されます。

民法606条
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要になったときは、この限りでない。
2 賃貸物の修繕が必要である場合において、次のいずれかに該当するときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
ア 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかか わらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
イ 急迫の事情があるとき。

改正民法では、「賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要になったとき」には賃貸人の修繕義務が免除されることを定めています。これは、現在は解釈によって運用されているものを明文化する規定です。

また、現行の民法においては、賃借人の修繕権は規定されておらず、解釈によって認められていますが、改正民法においてはこちらも明文化されます。

民法改正によっても、修繕権の範囲や内容が大きく変わるわけではありませんが、より明確になると考えると良いでしょう。

まとめ

賃貸借契約を締結している場合、賃貸人が修繕義務に応じないなら、賃借人としては、

①家賃支払いを一部拒絶すること
②自分で修繕して費用を請求すること

の2種類の対応方法を選択することができます。

ただし、自己判断で勝手に賃料支払を拒絶したりすると、裁判トラブルになってしまう可能性もあります。

物件が毀損したり不具合が発生したりして困ったときには、弁護士に相談すると良いでしょう。

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福谷 陽子(元弁護士)

福谷 陽子(元弁護士)

京都大学法学部卒。在学中に司法試験に合格し、2004年に弁護士登録。その後、弁護士として勤務し、2007年、陽花法律事務所を設立。女性の視点から丁寧で柔軟なきめ細かい対応を得意とし、離婚トラブル・交通事故・遺産相続・借金問題など様々な案件を経験。2013年、体調の関係で事務所を一旦閉鎖。現在は10年間の弁護士の経験を活かしライターとして活動。猫が大好きで、猫に関する記事の執筆も行っている。
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