前科や前歴(逮捕歴)は私生活や就職に影響する?

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この記事の執筆者

川島 浩(弁護士)

何か事件を起こしたりして法を犯し、その後逮捕され、裁判において有罪になるとその人には前科がつきます。

また、前科と似た言葉で、前歴というものが存在することはあまり知られていないかもしれません。

有罪は免れて、前科がつかなかった場合であっても、前歴はついていた…なんてことは大いにあり得ることです。

それでは、前科と前歴はいったいどう違うのでしょうか。

そして、前科がつくと、その後の生活ではどのような影響が出て、何が不利になるのでしょうか。

今回は、それらを詳しくみていきましょう。

こんな疑問にお答えします

Q:前科や前歴(逮捕歴)は私生活や就職に影響する?

A:川島 浩(弁護士)

前科や前歴がついていることを申告しなければいけないケースはほとんどありません。 その為、制約はほとんどないと考えても良いですが、一度でも周囲にその事実が知れてしまえば、様々な場所で生きにくい思いをしなければないことも多く、罪によっては偏見も多いと言えます。

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似ているようで違う?前科と前歴の違い

そもそもどこからが前科になり、どこからは前歴なのでしょうか。

そして、前科と前歴の違いは何なのでしょうか。

法律上一義的に決まっているとはいえませんが、簡単に言ってしまえば、有罪判決を受けた人には前科が付き、無罪や不起訴になったものの逮捕はされたり、被疑者として捜査の対象となったことのある人には前歴がつくのです。

逮捕をされると、おおまかに起訴され裁判に掛けられるか、あるには不起訴となり裁判に掛けられずに済むかのどちらかになります。

起訴されなかった人は、不起訴処分を受けるわけですが、その不起訴を受ける理由には、犯行に関わっている可能性がないと判断された場合の嫌疑なし、犯行を行ったという可能性はありますが、それを立証する証拠が少ない場合の嫌疑不十分、犯行自体は行われているものの、比較的罪が軽い場合や、被疑者が深く反省している場合の起訴猶予、などといった三つの理由があります。

不起訴処分となる理由の三つのうち、起訴猶予の割合は、約90%を占め得ているため、起訴されなかった場合でも、前歴はついているという人がほとんどなのです。

こうした理由で、前歴は逮捕されたり、被疑者として捜査対象になったけれども、不起訴になった人、裁判で無罪になった人につきます。

その一方、前科がつく場合は、有罪判決を受けた人につきます。

いわゆる刑罰のイメージに近い懲役や禁錮などの実刑なら、前科者の想像がつきやすいでしょう。

しかし、有罪判決には罰金刑や科料などの場合、公開の公判を行わず、簡略的に書類で起訴をする略式起訴を行う場合があります。

そのため、スピード違反や器物損壊罪というような比較的軽い犯罪であっても、罰金刑を受けてしまえば、その時点で前科者となってしまうのです。

前科や前歴が付くと何が不利になるのか?

それでは、前科や前歴がついていることで、日常の生活においてはどんなことが不利になってしまうのでしょうか?

様々な観点でそれぞれをみていこうと思います。

就職に与える影響

まず、就職の場合はどうなのでしょうか。

企業に前科や前歴が知られることがあるのでしょうか。

実は、一般の企業では、前科・前歴の有無を確認する方法はなく、本人からの申告に頼らざるを得ません。

その際に、あるにもかかわらずないと言ってしまうと、経歴詐称となり、経歴詐欺は解雇理由となりえ、場合によっては詐欺罪に問われる可能性もあります。

では、企業側から前科・前歴を確認されなくても、自分から申告する必要があるのでしょうか。

一般的に、履歴書には学歴、職歴、そして賞罰を書くことになっているため、もし前科があるのであれば、賞罰の欄に記入しないといけません。

罰の記入内容は一般的には前科(有罪以上の判決を受けたことがある等)となっているので、記入対象は前科者であり、前歴者は記入の必要はありません。

ここが前科者の不利な点です。

しかし、昨今賞罰の記入欄がしっかりと設けてある履歴書は少なく、記入欄もない履歴書に前科・前歴をわざわざ自分から書く必要はありません。

ただ、賞罰の記入を会社が事前に要求していたり、記入欄があるのに賞罰なしと書いたりしてしまった場合は、先ほどと同じ経歴詐称になります。

また、懲役刑などによって履歴書に空白期間が生まれていると、その間のことを企業が確認する可能性は十分にありえます。

さらに、そもそも前科・前歴があるためにその職に就くことができないなど、不利になる職業もあります。

弁護士・弁理士・教員の場合、禁錮以上の前科者は国家資格を剥奪され、再度受験する権利を失うことになります。

その他国家資格を必要とする職業の中で、資格によっては、禁錮以上の前科者に欠格事由に当てはまりますが、数年間後に解除されるものもあります。

また、金融に関する仕事の身元調査は厳密に行われていることが多く、前科があると、とても不利になってしまうと考えられます。

そして、警備員の場合も警備業法により、禁錮以上の前科者は刑の終了から5年間は警備員の仕事に就くことができない、とされているため不利だといえるでしょう。

子供に与える影響

次に、子育てにおいてはどうなのでしょうか。

例えば、学校などの教育機関内で、親の前科・前歴が判明することは通常まずありえませんが、うわさ話で話が広がることは考えられ、居心地はあまり良くないはずです。

また、親の前科・前歴で就職に不利になることは考えられます。

例えば、前述のように金融機関は身元調査が厳しいため、前科を持つ親であった場合、不採用の理由となる可能性はあるでしょう。

さらに、警察関係も、前科・前歴のデータがそこに残っているため、不利になる可能性があります。

逆に、このような職業以外では、特に不利になることはないかもしれません。

結婚相手や人間関係に与える影響

次に、人間関係においてはどうでしょうか。

例えば、いざ結婚をしようという時、前科・前歴は婚約相手にバレるのでしょうか。

現時点では一般人が誰かの前科・前歴を調べられる公的なサイトなどが存在しないため、普通に生活しているだけでは、事件が報道されていた場合などを除いてバレる可能性は高くありません。

しかし、結婚してからの先のことを考えるのであれば、婚約相手とその両親くらいには全てを打ち明けておいたほうが常識的には良いでしょう。

特に罪が重い場合は、婚約相手の両親が反対をする可能性が高くなると考えられるため、結婚へのハードルは高くなり不利になるといえるでしょう。

誠意を伝えるしかありません。

では、反対に前科・前歴を理由とした離婚は成り立つのでしょうか。

離婚の原因は五つの民法で定められており、その五つ目には、その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき、とあります。

一般論では前歴程度では認められにくく、前科の場合でもスピード違反から殺人まで犯罪の内容が幅広く考えられるため、殺人や強盗といった重い前科は別として、ケースバイケースになるでしょう。

その他(信用など)の面での影響

次に、生活の様々なシーンにおいてはどうでしょうか。

例えば、前科・前歴がある場合でも、ローンは組めるのでしょうか。

通常はローンを組むことができるでしょう。

クレジットカードや住宅ローンの審査の際に参照する個人信用情報機関には前科・前歴の有無は載っていないのです。

ただ、服役中にカードの支払が滞り、その結果ブラックリストに載ってしまっていることや、単純に就職が難しく安定収入が少ないといった理由で、審査が通らないということはあるようです。

そして、前科・前歴があっても、特別な規定がない限り、生活保護などの社会保障も受けられます。

全ての国民は法の下に平等であり、差別されることはありません。

そのため、国や自治体に認定さえされれば、受けることができます。

逮捕が就職先にバレたらクビになるの?

ここまで、前科・前歴による影響を「就職・子供・人間関係(結婚)・その他の信用」で解説してきました。

そのうえで「逮捕が就職先にバレたらクビになってしまうのか?」と不安を抱える方も多いでしょう。

基本的に、逮捕を理由とした解雇は労働契約法に違反する可能性があります。

ただし、会社によって決められた就業規則によって異なるため注意が必要です。

会社員の場合は就業規則によって異なる

会社員で何かの罪で逮捕された場合に下される処分は、所属している会社の就業規則によって異なります。

ただ多くの会社では、社員が罪を犯したことによって有罪となった場合に懲戒解雇ができると就業規則で取り決めているところが多い傾向にあります。

逮捕をきっかけに解雇されることがある

不起訴処分の場合は前科はつきませんが、逮捕されることで結果的に懲戒解雇になることもあります。

たとえば、逮捕後に勾留が認められてしまった場合です。

そもそも、勾留されてしまうと起訴・不起訴が決まるまで最大23日間は外部との連絡はとれなくなります。当然、会社と連絡をとることができなくなるため、無断欠勤が長引くことで解雇の可能性も高くなるでしょう。

前科にだってプライバシー権は認められている

最後に、前科があるとどうしてもその過去を掘り返されてしまうことがありますが、そんなときに参考にしたい判例をみてみましょう。

京都の自動車教習所の教官が、前科があったことを理由に解雇された事例です。

前科がプライバシーにあたるかどうかが裁判の争点となりましたが、第二審で一部プライバシーを認めるという判決が出ました。

前科者照会事件-昭和56年4月14日最高裁判決
事案某自動車教習所から解雇されたの技能指導員Xが、解雇された教習所に対して解雇が無効として地位保全の仮処分を裁判所に申し立て申請争っていました。その後、教習所側の弁護士は、弁護士法23条に基づき、その所属する弁護士会を介して市内の区役所に、中労委、裁判所に提出することを理由として、Xの前科及び犯罪歴について照会をかけました。その結果、同所から弁護士会宛に、Xの前科前歴についての回答がありました。
弁護士を通じてXの前科前歴を知った教習所は、これらの前科前歴についての経歴詐称を理由にXに対して予備的解雇を通告しました。
Xは、自身の名誉、信用、プライバシーに関係する「自己の前科や犯罪を知られたくない権利」を侵され、予備的解雇を通告されたことで幾つもの裁判等を抱え多大な労力・費用を要することになり、この原因は前科前歴を回答した区長の過失にあるとして、市に対して損害賠償を求めました 。第一審・第二審第一審では、「個人のプライバシー等が侵されることがあるのはやむを得ない」とし、弁護士会からの法律に基づく照会について、公務所は応ずる義務があるわけで、区長には故意または過失はないとして、X敗訴の判決となりました。
控訴審判決では、第一審判決を一部変更し、前科や犯罪経歴の公表については、法令の根拠のある場合とか、公共の福祉による要請が個人のプライバシーの権利に優先する場合であり、本件の場合はそうではなかったとして区長の行為の違法性を認め、Xの請求を一部認めました。

この裁判は、最高裁で上告が棄却され、第二審のXの請求が一部認められた形で確定していますが、プライバシーに関わる個人情報においても、その内容によってはバランスをとって対処しなければならないという良い例でしょう。

最後に

前科・前歴がついていても、多少制約はあれども、困難は意外にも少ないようにも思えます。

しかし、現実はそれほど甘くなく、一度でもその事実が知れてしまえば、様々な場所で生きにくい思いをしなければないことも多く、罪によっては偏見も多いようです。

不利な人生を歩まないためにも、前科・前歴のつかない人生をおすすめします。

逮捕による社会復帰や再就職の不安は弁護士に相談してみよう

就職において、前科がないに越したことはありません。

逮捕されるような罪を犯さないことが一番ですが、もし万が一逮捕されてしまった場合は一度弁護士に相談してみてください。

弁護士に相談することで、前科がつく可能性を低くすることができ、今後の就職に関するアドバイスをもらえて非常に有効です。

弁護士への相談窓口については、以下の記事で解説しています。あわせてご覧ください。

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記事を振り返ってのQ&A

Q:前科と前歴の違いは?
A:有罪判決を受けた人には前科が付き、無罪や不起訴になったものの逮捕はされたり、被疑者として捜査の対象となったことのある人には前歴がつきます。

Q:前科や前歴が付くと何が不利になる可能性があるのか?
A:就職、子供、結婚相手や人間関係、信用面などに影響がある可能性があります。

Q:前科に対して、プライバシー権は認められているか?
A:京都の自動車教習所の教官が、前科があったことを理由に解雇された事例です。プライバシーに関わる個人情報においても、その内容によってはバランスをとって対処しなければならないという良い例でしょう。前科がプライバシーにあたるかどうかが裁判の争点となりましたが、第二審で一部プライバシーを認めるという判決が出ました。

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今回はそんな、いつ必要になるかわからない正当防衛の詳しい定義や、正当防衛が認められるための法律上の条件をみていくことで、皆さんにも正しい知識をお伝えできたらと思います。