2015年秋、「プロ野球選手が野球賭博を行なっていた」という衝撃的なニュースがこの秋世間を席巻しました。
さらに、2016年4月、バトミントン男子の桃田賢斗選手も以前違法カジノ店に足を運び、賭博行為を行っていたとして話題を集めています。
この勝負事についてお金を賭けて楽しむ「賭博」(とばく)という行為、実は日本では刑法で定められた犯罪なのです。
これを聞いて
「えっ友達と賭け麻雀して遊ぶのも犯罪なの?」
「じゃあパチンコや競馬はどうして犯罪じゃないの?」
「公営カジノを作ろうとしている話はどういうことなの?」
「そもそもなんで賭博は犯罪なの?」
と疑問に感じた方も多いと思います。
そこで今回は「そもそもなぜ賭博は法律で禁止されているのか」について考えてみます。
賭博行為は戦前から処罰の対象だった
現行の刑法では、賭博行為は刑法第185条・第186条で禁止されています。
第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
第186条 常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
185・186条に相当する行為はそれぞれ「単純賭博罪」「常習賭博罪」(どちらも時効は3年)と呼ばれています(186条2項は「賭博開帳図利罪」とも呼ばれています)。
旧刑法の185条には「偶然ノ輸贏(意味:勝ち負け)ニ関シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ為シタル者ハ五十万円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス」とあることから、現刑法の「賭博」とは「偶然で決まる勝負事についてお金を賭けて楽しむ行為」だと考えられています。
昭和25年の最高裁の判例は、賭博を処罰する根拠として、賭博が「諸国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめる」こと、「健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風(憲法二七条一項参照)を害する」こと、「暴行、脅迫、殺傷、強窃盗その他の副次的犯罪を誘発」すること、そして「国民経済の機能に重大な障害を与える恐れ」があること、を挙げています。(昭和25年11月22日、最高裁)。
ただし、この最高裁判断が下された昭和25年当時はまだ敗戦から間もなく、現代と比べて社会が混乱していた時代でした。
賭ける額が大きくなるほど上記のように懸念されたトラブルが起きる可能性も高くなることを考えると、法律によって賭博行為自体を規制する必要があったのかもしれません(旧刑法185条が施行されたのは明治15年でした)。
宝くじ・競馬・パチンコの類はなぜ違法ではないのか
刑法で賭博行為が処罰対象となっている一方で、日本には競馬・宝くじ・パチンコ等の公に認められている賭博行為があります。
三競オート(競馬・競艇・競輪・オートレース)と宝くじ・スポーツ振興くじ(toto)は一般に「公営ギャンブル」と呼ばれています。
それぞれに監督省庁が存在し、国庫などの収入源の一部となっています。
これらはそれぞれに特別法が定められており、刑法185・186条の対象外となっているのです(刑法187条では「富くじ発売の罪」が定められており、無許可で富くじに加担することは犯罪となっています)。
また、パチンコ・パチスロ店は一般に「三店方式」と呼ばれる以下のような営業形態で刑法185・186条に抵触することを回避しています。
2.客が景品を換金所(1.のパチンコ店とは別法人)に持って行って、現金と交換する
3.問屋が換金所から景品を買い取り、パチンコ店に卸す
換金所がパチンコ店と別法人である理由は、風俗営業法第23条で「客に提供した商品を(遊技場営業者が)買い取ること」が禁止されているからです。
だから賭け麻雀は違法です
麻雀は多少の実力も伴いますが、偶然の勝敗にあたるゲームです。
そして、宝くじ・競馬・パチンコのように公営ギャンブルでもなく、刑法185・186条を回避していない賭け麻雀は違法にあたるのです。
そして、麻雀店が勝敗によって景品を提供することも違法にあたります。(景品の出るような麻雀大会では参加者から財物をもらっていないので賭博罪にはあたりません。)
同じ理由で、野球賭博も違法となります。
しかし、今回の野球賭博事件のニュースを見て「元締めがヤクザだったから捕まったのでは?」と思ったかもいらっしゃると思いますが、そんなことはありません。
2006年には千葉県栄町の消防本部の職員14人が昼食代約1000円をかけて、夏の高校野球の優勝校を当てる賭博をし、書類送検されるような事件もありました。大きなニュースになっていないだけで、他にも同じような事件は度々起こっています。
身内内で行う賭博で実際に捕まる可能性はかなり低いものですが、0ではないということです。
近年摘発が相次ぐ「オンラインカジノ」って?
近年、国外で開設されたインターネットサイトに国内の自宅やネットカフェからアクセスして賭博行為を行う「オンラインカジノ」が問題となっています。
賭博開帳の仕組みの立証が難しく、賭博罪での摘発が難しいのです。
賭博行為を行なったインターネットサイトが海外サーバー上にあったとしても、賭博行為の一部が国内にて行われた場合は刑法185条の賭博罪が成立しますし、賭博場開張行為罪の一部が国内にて行われたことが明らかになった場合には同186条2項の賭博場開張図利罪が成立します。
つまり、現行の法律ではオンラインカジノも犯罪なのです。
一方で2015年10月には「一定の場所を確保し賭博場を開いたとは認められない」として、電子空間は賭博場に当たらない、すなわち賭博開帳図利罪は成立しないとする判決が下されました(2015年10月28日、福岡地裁)が、控訴審以降で判決が覆される可能性もあり、今後の裁判の行方が注目されます。
日本にも導入間近!? カジノ解禁の是非
日本ではこの10年間、カジノの解禁を検討する議論が続けられてきました。
カジノとは、客が金銭を賭けてポーカーやルーレットなどのゲームを楽しむ場所です。
海外でカジノが合法化されている国は北中米・ヨーロッパ・東南アジアを中心に120カ国以上あり、カジノが非合法である日本はどちらかといえば少数派です。
「日本でもカジノが解禁される」と聞くと、ラスベガスの華やかな光景が日本にも訪れるのではないかと胸を躍らせる方も少なくないでしょう。
従来の公営ギャンブルと同様に、特別法を制定すれば日本でも合法的にカジノを運営することができます。
実際、2013年にはカジノを中心とした複合観光施設の整備を促す「統合型リゾート(IR)整備推進法案」が、超党派の議員連合「国際観光産業振興議員連盟」によって初めて国会に提出されました。
アベノミクスの成長戦略の一環として、安倍晋三内閣は2020年東京五輪開催に合わせて日本でのカジノ解禁を目指していました。
2015年にはその数が1900万人に達するといわれている訪日観光客を取り込むことでその経済効果が期待されています。
しかし自民党と連立与党を組む公明党内に反対論が根強いことなどから、13,14年と法案は提出されながらも成立しませんでした。
2015年の通常国会でも自民党・維新の党・次世代の党の3党が法案を提出しましたが、安全保障関連法案の審議が優先された結果当国会での成立は断念されました。
カジノ解禁反対派の意見としては、
「マネーロンダリング(犯罪行為で得た不正資金、賄賂、テロ資金など口座から口座へと転々とさせ、資金の出所や受益者をわからなくする行為)など犯罪の温床になる恐れがある」
「ギャンブル依存症などへの対策の整備が不十分で、公正な社会秩序の維持が確保できる保証がない」
などがあります。
時事通信社が2015年4月に実施した世論調査では、IR整備推進法案に対する賛否を尋ねたところ反対が62.4%を占め、賛成(27.9%)を大きく上回りました。
このように、日本におけるカジノ解禁をめぐる議論は今のところ賛否が大きく割れています。
日本経済新聞は2014年7月27日付の社説で、やや前のめり気味なカジノ解禁議論をこのように論評しています。
高齢化や人口減に悩む地方の自治体などが、カジノの誘致を疲弊した経済を立て直す起爆剤にしたいという思いは理解できる。新たな観光客が訪れ、地元の雇用が増えるという側面はあるだろう。
ただ、日本にはすでに競馬や競輪などの公営ギャンブルに加え、パチンコ店なども身近にある。厚生労働省の調査では、日本のギャンブル依存者の割合は諸外国に比べて高い。実際にギャンブルで多重債務や家庭崩壊に追い込まれる人は少なくない。
カジノの解禁は、こうした傾向をさらに強める心配がある。賭博依存への対応に支払う社会的、経済的コストは大きい。推進派の構想では、カジノの収益の一部を依存症の対策にあてるというが、本末転倒ではないだろうか。
最後に
いかがでしたでしょうか。
賭博罪が制定された当時と比べて賭博をめぐる社会情勢は大きく変わりましたが、賭博行為のもつ悪影響に対する懸念はいまだ世の中に根強く残っています。
東京五輪開催が近づくにつれて盛んになってきたカジノ解禁議論をきっかけに、賭博との付き合い方について社会全体で見つめ直すべきかもしれません。
何か事件を起こしたりして法を犯し、その後逮捕され、裁判において有罪になるとその人には前科がつきます。
また、前科と似た言葉で、前歴というものが存在することはあまり知られていないかもしれません。
有罪は免れて、前科がつかなかった場合であっても、前歴はついていた…なんてことは大いにあり得ることです。
それでは、前科と前歴はいったいどう違うのでしょうか。
そして、前科がつくと、その後の生活ではどのような影響が出て、何が不利になるのでしょうか。
今回は、それらを詳しくみていきましょう。
「弁護士費用保険の教科書」編集部

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