今回は、不倫による賠償請求をめぐる二つの民事訴訟判例をご紹介します。
不倫訴訟における賠償請求のポイント
ここでまず、「不倫が違法行為であり、慰謝料請求できる根拠」について確認します。
不倫とは、「配偶者がありながら、配偶者以外の相手と自由意思で肉体関係をもつこと」です。
また、不貞行為は不倫だけでなく、強姦など片方が一方的に性的関係を強要した場合も含みます。
この場合、強姦の被害者は自由意思ではなく性交渉を強要されたため、不貞行為を働いたとはみなされません。
民法770条1項には、裁判上の離婚が可能な事由として、以下の事項が挙げられています。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
不倫や不貞行為は、上記のうちの一番目に当たります。
つまり、婚姻関係が継続されている時には双方に貞操義務が生じ、このときに不貞行為を働くことは不法行為になります。
また、民法709条は不法行為を働いた相手方に慰謝料を請求できる根拠条文です。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法770条1項によって不倫・不貞行為は民法上の不法行為になるので、不貞を働いた相手に賠償を請求することができます。
これらを踏まえて、判例を見ていきましょう。
「枕営業は不倫ではない」!?
最初に紹介するのは、東京地裁で下された仰天の判例です。
複数の全国紙に取り上げられたので、ご存知の読者も多いかもしれません。
銀座のとあるクラブの女性店員と男性客が7年間にわたって不倫関係を続けていたとして、男性の妻が店員に対して400万円の慰謝料を求めていた裁判でした。
男性の意見陳述書によると、平成17年8月頃にクラブの閉店後にママと2人で食事をし始めて性的な関係を持ち、以来月に1, 2回逢瀬(おうせ)を重ねていたそうです。
被告の店員は「不貞行為を働いたのは自分ではなく別の女性」だと主張し、全面的に争う姿勢を見せていました。
さて、今回の訴訟の判決はどうなったのでしょうか。
驚いたことに、東京地裁の始関正光裁判官は、被告の女性店員が争点にあげていた「男性客と女性店員の間に不倫関係があったかどうか」については触れませんでした。
そして、「仮に肉体関係があったと仮定したうえで」次のような判決事由を述べました。
まず、一般にクラブのホステスやママが自分を指名してくれたり何度も来てくれたりする客を集めるために様々な営業活動を行い、その中で客と性交渉をする「枕営業」をする者が少なからずいることは「公知の事実」だと指摘しました。
その上で、ママの行為はあくまで枕営業という「営業活動の一環」であって、不倫関係ではない。
そのために客の妻が不快に思い精神的苦痛を受けたとしても、原告に対する不法行為にはあたらない。
さらに、客はクラブ通いの代金の中から間接的に枕営業の対価を支払っていると考えることができるので、クラブのママやホステスが客と関係を続けていたとしても枕営業と認められた場合には客の妻に対する不法行為には当たらない、という判断を下したのです。
今回の場合も、被告と男性客の関係は典型的な枕営業であり、被告のママが夫の妻に対して不法行為をしたとは認められない、よって、原告に請求権は生じない、としたのです。
その後、「これ以上嫌な思いをするのが嫌になった」と原告が控訴しなかったため、判決が確定しました。
今回の訴訟では、「被告と男性客の関係が枕営業にあたるかどうか」という原告・被告の双方とも持ち出していなかった争点を裁判官が自ら取り上げ、判断したという点も珍しいケースだとして注目を集めました。
男女の性的関係が不倫か営業か、区別を示した判例はあるのか。不倫訴訟に詳しい田村勇人弁護士は「直接争われた事例は聞いたことがない」。ただし、「既婚者と関係を持てば、遊びだったか愛情があったかを問わず配偶者に慰謝料を払う義務がある」とした1979年の最高裁判決以降、既婚者と知って関係を持てば賠償責任を負うとの考えは定着しているといい、ホステスに慰謝料の支払いを命じた判決もある。
引用元:朝日新聞デジタル
不倫された側にとってはこれほど苦々しい判決はないでしょう。
今後、似たような訴訟が起きた場合に、裁判所がどのような判断を下すのか気になります。
また、この訴訟では妻に対するクラブのママの行為が問題になりましたが、夫である男性客がママと関係をもったことは妻への不貞行為です。
「お店の姉ちゃんとエッチしても合法なんだ!」という考えは誤りですのでご注意を。
離婚や不倫訴訟に詳しい田村勇人弁護士によると、判例では、女性が相手を妻帯者と知って肉体関係を持てば、2人は共同で妻への賠償責任を負うのが一般的だ。売春など妻帯者側の責任が重い場合、女性の賠償額は安くなる傾向があるが、基本的に不法行為と判断されるという。今回の判決は「従来の判断の枠組みと違い、社会通念からも行き過ぎと感じる。特殊な事情があったのかもしれないが、この判断が定着するとは思えない」と話す。
引用元:朝日新聞デジタル
一線を超えなくても……プラトニックな関係でも慰謝料44万円!
次にご紹介するのは、肉体関係を持たないプラトニックな関係をめぐる裁判です。
2014年3月、夫と親密な関係になり精神的苦痛を受けたとして、夫の同僚女性を相手取り大阪府内の女性が220万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は44万円の賠償を命じました。
被告が夫に何度も肉体関係を迫られながら巧みにかわしてきた一方、それでも被告は夫のアプローチをはっきりと拒絶せず逢瀬を重ねて二人きりの時間を過ごしたことから、「夫の妻に対する冷たい態度と被告との関係には因果関係がある」と判断しました。
夫が東京勤務の同僚女性と知り合ったのは2009年4月頃でした。
最初は仕事上のやり取りをする関係でしたが、翌年秋ごろから夫が夫婦関係について女性に相談するようになったそうです。
2011年6月頃から出張時にお互いの元を訪れるたびに食事をともにするようになり、そのうちに「好きになった」と夫は女性に思いを告げました。
これに対して女性は「奥さんがいる人はそういう対象として見られない」とかわしましたが、その後も夫からのアプローチは止みませんでした。
先程述べたように、その関係が不倫関係にあたるかどうかは両者の間に「自由意思による肉体関係」があったかどうかで判断されます。
今回の訴訟でも、男性と被告の同僚女性の間に肉体関係があったかどうかが争点になりました。
新大阪駅からの車中で夫が行為に及ぼうとした状況について、同僚女性が声を上げて抵抗したことなどを事実と認め、肉体関係の可能性を否定。
花火大会を観覧した前後についても、夫がビジネスホテルに到着した記録が残っていることや、別れ際に女性がキスを避けたことから、肉体関係を「認めるに足る証拠はない」と判断した。
さらに、滋賀県内のホテルでの出来事についても、別々のエレベーターで居室に向かったことや、2人のチェックアウトに2時間以上の差があることなどを列挙。「同僚女性が夫と肉体関係にならないよう警戒しており、2人が肉体関係を有するに至ったとは認められない」と結論づけた。
引用元:産経WEST
しかし、誘いを断った後も同僚女性が夫と二人きりで会い続けたことを「社会通念上相当な男女の関係を超えたものと言わざるを得ない」「家庭内で問題を抱える夫に無謀な期待を抱かせた」と指摘しました。
結局、肉体関係がなかったとはいえ同僚女性の行為と夫の原告に対する態度には因果関係があるとして、被告に44万円の支払いを命じました。
同僚女性は、判決を不服として控訴したそうです。
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