SES契約はグレー?派遣の資格は?はびこる違法行為とトラブル

SES契約 二重派遣

IT業界で働くシステムエンジニアにとって、プログラミングをはじめとするIT技術と同様に大切なのが、契約関係の手続きです。

IT業界の契約形態は建設業界と同様にいわゆるゼネコン構造となっています。

SES契約 指揮命令

特に大規模なシステム開発を行う際には、発注者がシステムエンジニアを集める必要があります。一時的に大量のエンジニアが必要になる場合もあります。

自社の社員だけではエンジニアが不足するため、複数の下請け企業(1次下請け、2次下請け)社員や個人事業主、派遣社員などを募集し、数十名〜数百名のチームを組むことがあります。

それによって、必要とするスキルを持つ人材を集めることができます。

企業側としては、自社でエンジニアを育成することは労力と時間がかかります。

効率的にスポット契約としてエンジニアを調達できるSES契約には大きなメリットがあります。

働く側としても、独立前のスキルアップや、正社員という立場ながら様々な企業で経験を積んだり、企業の文化に触れられるため、メリットもあるでしょう。しかし、この際に契約形態によって、

「契約上の作業責任者が誰か?」

「プロジェクト現場における指揮命令権は誰にあるのか?」

などを契約上明確にしておく必要があるのです。

特にIT業界でスタンダードとなりつつあるSES契約について、その問題点と気をつけるべきポイントを解説します。

そもそもSES(システムエンジニアリング契約)って何?

SESとは、「システムエンジニアリングサービス」を略した言葉で、 SES契約とは、昨今SIer業界の、エンジニア不足を反映し、システム開発を行うために、エンジニアの作業工数を(基本的には常駐で)提供する契約形態です。

SESとは、エンジニアが働く時の契約の一種のことを指します。

相手方の企業(クライアント企業)に対して技術者を派遣し、その企業に常駐しながら業務を行うという形態です。

つまり、その技術に詳しい方を派遣しますので、その分のお金をいただきますね、という形です。業界全体として、自社採用によるエンジニアの確保に苦労しているという状況もあり、エンジニアの工数を、採用することなしに確保できるSES契約は、発注側としては非常に魅力的であると言えます。

特に、金融系システムや、基幹系システムは、開発に多大な工数と人月がかかり、プログラミング言語も、古い言語が使われていることも多い為、エンジニアリソースを確保するのが、困難な情勢となっています。SESは、そのような発注側のニーズを汲み取って発展したビジネス形態と言えます。

また、受注側としては、「業務請負契約」により、完成物に責任を持つよりも、「業務委託契約」で、あくまでエンジニアの能力・工数だけを提供する方が、リスクマネジメント上望ましいため、受注側としてもメリットがあると言えます。

エンジニアとして、SES契約で働く場合、受注側企業の雇用下で、社員として労働することになります。多くの場合は正社員としての雇用になるため、雇用環境が安定することが、エンジニアとしてのメリットとも言えるでしょう。

SES契約は法律のグレーゾーン?派遣とどう違う?

派遣とSESは指揮命令権限に違いがあります。

SES契約の指揮命令権は雇用者のSES企業にあり、派遣契約の指揮命令権は発注元にあります。

SESの主な契約内容は技術力の提供となっており、指示命令権はSES企業にあります。休日出勤・残業などの命令はクライアントにはできません。

一方、派遣契約では発注元企業が指示命令権を持ちます。

そのため、残業などの指示は発注元企業が出すことができます。

SES契約は、「業務委託契約」によって定義され、基本的には、「作業時間あたり○○円」といった形での報酬支払い契約を結びます。

ただし、発注者からの指示を、受注側雇用のエンジニアが、直接受けてしまうと、「実質的には派遣」とみなされます。

(契約上の作業責任者に指揮命令権があるため、2次請けの会社所属のシステムエンジニアは、1次請けの会社から指示を受けて作業をすることになり、発注者からの指示を直接受けないことが原則となります。)

SESの提供会社は、派遣業の免許を持っていない場合もあり、それどころか、他社の社員をさらに他の会社に派遣する「SES契約」に名を借りた「多重派遣」が行なわれている場合もあります。

労働者派遣免許を持たない場合、多重派遣が行われている場合、いずれも、エンジニアは違法行為の被害者となっている可能性があります。

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SES契約で働くときはこんなことに気をつけよう!

「SES契約」の契約の元、自身が労働者として働く場合には、以下のような点に気をつける必要があります。

・完成物に責任を持たない「業務委託契約」、であるにもかかわらず、実質的に成果物を求められる状態になっていないか

・自身と発注元の間に2社以上挟んだ形による「多重派遣」が行われ不当に中間搾取が行われていないか。

・発注元から直接指示が行われ、事実上、派遣社員として業務を行なわされていないか。

・事実上発注元からの直接雇用と同様の労働をしていたにもかかわらず、賃金に差があったり、不当な雇い止めが行われたりしていないか。

IT業界で働くシステムエンジニアにとって、上記のいずれかまたは複数に該当しているという方は意外と多いのではないかと思います。

最後に実際の裁判事例について見てみましょう。

松下プラズマディスプレイ 偽装請負事件の実際の判例

判例の要約

松下プラズマディスプレイでは、発注元である松下より、直接的な指示が原告に行われていたにもかかわらず、市場環境の変化により、原告の解雇を行った。

高裁では原告側の主張が全面的に認められ、事実上社員として労働しており、直接雇用が確認され、解雇無効の判決が出た。

しかしながら、最高裁では、偽装請負であるということは認定されたものの、直接雇用と解雇無効までは認められず、慰謝料が一部支払われるにとどまった。

日本労働弁護団HPからの判例の引用

2009年12月18日、最高裁判所は、いわゆるPPDP(旧松下PDP)偽装請負事件について、旧松下PDPの雇用責任を認めた大阪高等裁判所2008年4月25日判決を破棄し、被上告人である吉岡力氏の労働契約上の地位確認請求を棄却する判決を下した。

大阪高等裁判所は、旧松下PDPが労働者を受け入れるために締結していた契約は、脱法的な労働者供給契約であり、職業安定法44条及び公序良俗に反して無効であるとした。そして、旧松下PDPと吉岡氏の間には事実上の使用従属関係があり、黙示の労働契約関係が成立しており、旧松下PDPの解雇ないし雇止めを権利濫用として無効とした。

ところが、最高裁判所は、旧松下PDPが吉岡氏を受け入れたことを「労働者派遣法の規定に違反していたといわざるを得ない」としながら、「労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のないかぎり、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元の雇用契約が無効になることはない」とし、さらに旧松下PDPが吉岡氏の採用に関与しておらず、給与等の額を事実上決定していた事情もうかがわれないとして、両者間に「雇用契約関係が黙示的に成立したものと評価できない」とした。

そして、最高裁は、旧松下PDPが吉岡氏との間には、あくまで平成18年1月31日までとする有期雇用契約が成立しただけだ、として雇用契約上の地位確認請求を棄却した。

上記の判例を見ても、最終的にはシステムエンジニア個々人は非常に立場が弱く、「会社は守ってくれない」という現実が浮き彫り担っているかと思います。

システムエンジニア(SE)がSES契約で契約トラブルに備える方法

個人事業主のシステムエンジニアはもちろん、会社所属のシステムエンジニアも労働トラブル、契約トラブルに備える必要があり、その1つの手段として、「弁護士保険への加入により弁護士を味方につける」という方法があります。

所属会社や発注元に対する「泣き寝入り」を防ぐ有効な手段の1つとなるため、今後IT業界で働くシステムエンジニアの加入者が大幅に増えるものと予想されます。

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