不当解雇で会社を訴えられたら?判断基準や企業に求められる訴訟時の対応、予防策まで

不当解雇で会社を訴えられたら? 判断基準や企業に求められる訴訟時の対応、予防策まで

「従業員の勤務態度が悪い」

「期待したパフォーマンスを発揮してくれない」

といった理由で、従業員の解雇を考えたことはありませんか?

従業員の解雇を巡るトラブルは、企業の労務トラブルの中でも最も深刻な問題の一つで、対応には細心の注意が必要です。

合理的な理由なしに、あるいは適切な手続きを経ずに従業員が職を失った場合、従業員から不当解雇を主張され訴訟に発展するケースも多く、敗訴した場合には解雇期間中の給与(バックペイ)や損害賠償金など、多額の金銭負担を抱えることになります。

本記事では、不当解雇で会社が訴えられた際にとるべき適切な対処法や予防策、訴訟時のポイントを解説しますので、解雇トラブル時の対応を万全にするためにもぜひ最後までお読み下さい。

こんな疑問にお答えします

Q.不当解雇として会社が訴えられたらどうすればいいですか?

A.従業員に不当解雇を訴えられたら、まずは訴えの内容について早期に事実確認し、今後の対応について弁護士へ相談することをおすすめします。訴訟に発展する前に和解が成立すれば問題ありませんが、裁判になった場合は慎重に進めなくてはなりません。

不当解雇の定義と判断基準

不当解雇が認められるケースの中で最も多いのが、労働契約法に対する違反によるものです。

従業員の解雇については、労働契約法第十六条で以下のように示されています。

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

引用:e-GOV 法令検索|労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)

つまりは経営者・企業側が解雇したいという理由のみで行う解雇は不当解雇だと判断される可能性があります。

どうしても解雇を行わなければならない客観的かつ合理的な理由があり、それらが社会通念上必要なものである場合にのみ、正当な解雇として認められるのです。

では実際にどのような場合に不当解雇であると判断されやすいのか、ケース別に具体的にご紹介していきます。

これから従業員の解雇を検討されている方は、以下の記事でどのようなものが正当な解雇理由として認められるのかより詳しく解説していますので、併せてご覧ください。

関連記事

正当な解雇理由かどうかの判断基準とは?違法解雇・不当解雇にならないための条件や注意点を解説

「問題社員をクビにしたい…」 「経営状況が悪化しているので、人員整理を行わなければならない,,,」 企業運営において、時には従業員を解雇する必要に迫られる場合があります。 しかしながら、どれだけ従業員に非があるように思え …

勤務態度を理由に解雇するケース

「遅刻を頻繁に繰り返す」

「上司の指示・業務命令に従わない」

「協調性がなく他の社員とよくトラブルを起こす」

このようなケースは一見従業員側に非があるように思われますが、企業側は容易に解雇を行うことはできません。

客観的・合理的な理由かつ社会通念上必要なものであると認められるためには、以下のような要素を基準にして総合的に判断されます。

  • 勤務態度不良の程度や回数・期間
  • 勤務態度不良に対するやむを得ない理由の有無
  • 企業側による指導の有無、その内容や回数・期間
  • 会社に及ぼした影響の程度

あきらかに従業員側に非があると思われる場合でも、勤務態度改善のための指導やサポートを企業側が怠っていたり、指示・業務命令内容が正当なものでない場合、不当解雇とみなされる可能性が高まるでしょう。

能力不足を理由に解雇するケース

「社員が仕事についてこれていない」

「目標数値が達成されていない」

など従業員の能力不足や成績不良がみられる場合でも、会社側による十分な指導で改善の見込みがあったと判断される場合、不当解雇と判断される可能性が高くなります。

特に新卒入社や未経験入社の社員には、業務に必要な技術や知識を身につけるための時間とサポートが必要です。

一方で即戦力が求められる中途採用者あれば、能力不足による解雇が正当なものである認められるケースが多いです。ただし、成績評価基準が合理的なものと認められない場合は、不当解雇として判断される可能性もあるため注意が必要です。

差別的な理由に基づくケース

正当な解雇事由の一例として経営不振等の理由による整理解雇・リストラがありますが、解雇の人選は慎重に行わなければなりません。

労働基準法第三条において、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由とした差別的な扱いは禁止されています。

また、性別を理由とする差別や、女性の婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い男女雇用機会均等法によって禁止されています。

この他にも、客観的・合理的理由がなく特定の人物や部署に対して解雇を行う場合も、差別的な解雇として不当だと判断されるケースがあるため注意が必要です。

権利行使に対する報復的な解雇に該当するケース

例えば以下のようなケースは、労働関係法上で労働者が行使できる正当な権利として認めれていて、これらを理由に解雇を行うことは禁じられています。

これらの権利行使があった後に解雇を行った場合、法令で禁止された解雇理由に該当すると判断される可能性があるため十分な注意が必要です。

解雇に必要な手続きに違反しているケース

解雇理由が合理的なものであったとしても、雇用契約や人事規定に定められる解雇手続きが適切に守られなかった場合、その解雇は不当とされることがあります。

たとえば、適切な警告が行われなかった場合や、あらかじめ定められた解雇予告期間を守らなかった場合などです。

不当解雇が認められた際に会社側が抱えるリスク

不当解雇が認められたということは、解雇が法律上無効となり、企業側はさらなる対応や経済的負担を求められることになります。

従業員の復職を命じられる場合がある

不当解雇が認められた上で、従業員が復職を希望している場合、裁判所や調停機関の決定に従って従業員を元の職場、または同等の地位に復職させる義務を負います。

今後も雇用が継続するわけですから当然ながら給与の支払いは続きますし、当人の職場復帰のためのサポートにとどまらず、配置先のチーム・他の従業員への影響まで考慮していかなくてはなりません。

解雇期間中の未払い給与(バックペイ)の支払い

裁判所や調停機関は、解雇されていた期間の未払い給与(バックペイ)の支払いを命じることがあります。

雇用が無効になったということは雇用契約が継続していることになるわけですから、解雇日以降は賃金が未払いであったことになり、企業側はこれを補償する義務を負います

どうして解雇した社員に賃金を払わないといけないの?

従業員は解雇期間中に一度も出勤・業務をせず会社に何の利益ももたらしていませんが、それができなかったのは会社の責任だったことになるわけです。

バックペイには給与の他に、ボーナス、福利厚生、その他の補償を含む場合があり、紛争が長引くほど高額なる可能性があります。1000万円を超えるような高額な支払いを求められるケースも珍しくありません。

損害賠償額や付加金、解決金の支払いの可能性

企業が敗訴した場合、バックペイに加えて、従業員の精神的苦痛や名誉損傷に対する損害賠償を支払う必要が生じる場合があります。

さらに解雇理由が特に悪質なケースでは、懲罰的な意味を込めた付加金の支払いを命じられることもあるでしょう。

これらの賠償は、従業員が経験した不利益や苦痛に対する補償となるもので、通常のバックペイや給与の支払いを上回ることがあるため、会社にとって大きなリスクになり得ます。賠償金額はケースにより異なりますが、賃金数ヶ月〜数十ヶ月相当が相場です。

また、和解に至った場合でも相当割合の解決金を支払う必要があります。紛争を早期に解決できるメリットがある一方で、企業側に一部正当性が認められる場合でも解決金が発生する可能性があるため、和解の判断は慎重に行う必要があるでしょう。

不当解雇を巡るトラブル対応で訴訟結果に関係なく発生する費用負担

不当解雇を巡るトラブルにおいては、賠償額等以外にも訴訟の結果に関係なく企業が負担しなければならない費用があります。

弁護士費用

不当解雇の申し立てがなされた場合、企業は通常、弁護士へ対応を依頼することになります。

弁護士とのやり取りを円滑に進めるために、どのような費用がどれだけかかるのか、あらかじめ理解しておくことが重要です。

弁護士費用には、一般的に以下のようなものが含まれます。

相談料

弁護士が事件に関する相談を提供するための費用。30分あたり5,000円~数万円が相場。

着手金

弁護士が事件を引き受ける際に前払いで支払う費用。相場は依頼者が得ようとする経済的利益の2%~8%程度で、弁護士費用の大部分を占める要素。

時間報酬

弁護士が実際に費やした時間に基づく報酬。文書の作成、証拠の収集、裁判所での代理など、事件処理に関連するすべての作業が含まれる。

成功報酬

事件に勝訴した場合にのみ支払われる可能性がある追加報酬。依頼者が得ようとする経済的利益の2%~16%程度が相場で、弁護士費用の大部分を占める要素。

これらの費用は依頼内容の複雑さや期間、依頼する法律事務所や契約形態によって大きく異なりますが、基本的には高額に及ぶケースが多く、総額で数十万円〜数百万円かかることことになるでしょう。

一般的な弁護士費用に関しては以下の記事で詳しく説明しているので、あわせて参考にしてください。

関連記事

弁護士費用の相場が知りたい!相談費用・着手金・成功報酬など詳しく紹介

  弁護士に対して、「客から高い報酬を貰って儲けすぎ」というイメージを持たれている方は、多いのではないでしょうか? しかし弁護士は弁護士で、一定の報酬を貰わないと弁護士事務所が経営できないという切実な事情も存在 …

法務や人事などの従業員コスト

不当解雇の申し立てに対処する過程では、法務部や人事部などトラブル対応にあたる人材、そのほかトラブル関係する従業員などの、多くの時間とリソースを費やすことになります。

対応を弁護士へ依頼する場合においても、法務や人事はトラブルの内容をとりまとめ、内部調査や必要な文書の準備を実施しなければなりません。場合によっては特定のケースに対処するために、外部から一時的なサポートを雇う必要が生じたり、従業員が法的な手続きや裁判に適切に対応するために、特別な研修や準備に時間を費やす必要も出てくるでしょう。

また、訴訟対応が発生することで本来進めるべき業務がストップしてしまったり、異例の対応による従業員への精神的な健康被害が発生するリスクも考慮しなければなりません。訴訟対応により長時間労働が発生すれば、企業側にとっても単純にコストが嵩むことにもなります。

不当解雇を主張された後の流れ

不当解雇を主張された場合の対処法は、事案の内容等による労働法の違いによって変わることがありますが、一般的な流れとしては次のようになります。

従業員との交渉

従業員が不当解雇を主張した場合、まずは従業員と直接交渉していくことが考えられます。裁判等に至る前に双方が満足できる解決策を見つかれば和解が成立し、リスクを避けられるかもしれません。

まずは主張の内容を確認したうえで、企業側としては解雇の有効性を持って反論し、交渉内容として「従業員の復職」「補償金の支払い」「その他の条件に関する合意」を提示していくことになります。

とはいえ、解雇の有効性を自社のみで判断することは困難でしょうし、和解に至るのも容易ではありませんなるべく早い段階で弁護士等の専門家への相談を開始し、訴訟を見据えた対応の準備を行っていくことをおすすめします。

労働審判

直接交渉によって問題が解決しない場合は、次のステップとして労働審判の申し立てが考えられます。

労働審判とは、労働問題に特化した迅速な手続きを提供するための制度のことです。原則として3回の審理で終結し、数ヶ月以内に結論が出るのが一般的です。審判の結果を待たず、審判途中に調停案に合意することで解決を図るという手段もありえます。

次のステップである訴訟の場合だと、毎月1回程度、解決するまで終わり無く続いていくため、労働審判を活用して早期の解決を目指すメリットは大きいでしょう。

とはいえ、訴訟の場合と同様に、準備に多くの負担を要するため覚悟は必要です。

訴訟

労働審判を経ても双方の間で納得のいく解決が得られない場合は、最終手段として訴訟が考慮されます。

訴訟は労働審判よりも時間とコストがかかる可能性があり、解決までに1年以上を要する長期的な争いに発展するケースも珍しくないですが、不当解雇の申し立てに関して最終的な法的判断を得られます。

裁判所は提出された証拠と法律に基づいて判断を下し、場合によっては損害賠償の支払いや従業員の復職などを命じられることがあるでしょう。

訴訟の中では、裁判官によって和解を勧められることがあります。双方の状況にもよりますが、ここで和解が成立すれば会社がリスクを背負う可能性は低くなるでしょう。

いずれにしても、不当解雇は多くの法的要素を含みます。専門家にサポートを依頼し、労働関係法に基づいて慎重に対応する必要があるでしょう。

不当解雇で訴えられた場合の対応ポイント

不当解雇で訴えられた場合には、企業として以下の対応ポイントを押さえることが重要です。

訴訟内容をいち早く確認し、訴状目的の把握に努める

訴えが提起されたら、まずは訴訟内容と訴状の目的を正確に理解しましょう。

訴えの理由や従業員が求める救済措置、裁判所への請求内容などが記載されています。これらの情報を正確に把握することで、対応策の立案につなげられるでしょう。

特によく確認しておきたいのが、地位確認請求の有無です。

地位確認請求とは、解雇の無効を主張し会社への復職を要求するものです。この有無により、単純な金銭的な請求ではなく、敗訴後の復職義務まで見据えて対応していく必要性を判断できます。

早期に弁護士へ相談する

不当解雇訴訟には複雑な法的要素が含まれるため、早期に弁護士に相談することが重要です。弁護士に相談せずに対処しようとすると、回避できたはずのリスクやコストが発生しかねません。

相談先は企業法務、労務トラブルに精通した弁護士を選定するのがベストです。

上場企業や大企業などで法務部や専門人材が配置されている場合でも、自社の通常業務の範囲を超える異例の労務トラブルまでは対応できないケースが多いでしょう。そもそも顧問弁護士を雇っていないことも多い中小企業であれば、なおさら弁護士のサポートが不可欠となります。

当メディアでは弁護士への無料相談におすすめの窓口も紹介していますので、参考にしてください。

関連記事

弁護士の無料相談のおすすめの窓口は?対応できる範囲や事前準備を解説!

離婚や相続、労働問題や交通事故など、トラブルに巻き込まれることは少なくありません。 そんなときにおすすめなのが、弁護士への無料相談です。 弁護士へ無料相談することで、トラブルの全体的な見通しや解決策のアドバイスを受けられ …

有効な解雇であることを主張するための証拠を収集する

有効な解雇を主張するためには、解雇が正当な理由に基づき、適切な手続きに従って行われたことを示す証拠が必要です。

有力な証拠の例には、以下のようなものが挙げられます。

従業員のパフォーマンス評価記録

  • 定期的なパフォーマンスレビューの記録
  • 従業員に対するフィードバックや警告の文書化
  • 改善が必要とされた範囲とそのための努力がどの程度行われたかを示す記録

従業員とのコミュニケーション記録

  • 解雇前に行われた警告や改善の機会に関する通知
  • 従業員との面談や評価面談の記録
  • メールや手紙などの書面でのコミュニケーション

解雇の理由となった具体的な事件や行動の記録

  • 違反行為や不適切な行動に関する具体的な事例
  • 社内ポリシーや規則違反に関する報告書
  • セキュリティカメラの映像、電子メールの交換、目撃者の証言など具体的な証拠

会社の人事方針や従業員ハンドブック

  • 解雇の手続きや基準に関する規定が書かれたもの
  • 従業員に対する期待やルールが記された文書
  • 従業員がこれらの方針やルールに同意したことを示す書類

解雇に至るまでの手続きの記録

  • 解雇決定の過程で行われた手続きの詳細
  • 従業員に対する正式な通知書類
  • 従業員が提出した反論やその他の対応に関する記録

企業側はこれら複数の証拠を十分に用意し、解雇の正当性を論理的に説明できれなければなりませんが、有効な証拠として利用できるかどうかの判断という観点においては法的知識が求められますので、早期に弁護士にサポートを依頼しておくことが重要になります。

証人尋問に適切な人材を選定し、事前準備を行う

訴訟過程では、証人として尋問される可能性のある従業員や管理職の選定を行い、尋問に向けた十分な事前準備を行うことが重要です。

不当解雇を巡るトラブルについて具体的に把握できている人物を選定するのはもちろんのこと、会社側の主張を裁判所に対してわかりやすく説明できるか、感情的にならずに説明できるかといったポイントも重要になってきます。

証人尋問にあたっては、弁護士から証人へ質問を行う内容を事前に決め、内容の理解と証言の練習を徹底しておくことが肝心です。

和解の可能性を探る

訴訟途中では、主に証人喚問前後のタイミングで、裁判所側から和解案の提示がなされることが一般的です。

正当だと思って解雇した従業員に和解金を払うのは納得いかない、という考えはよく理解できますが、訴訟にかかる時間的・金銭的コスト、敗訴した場合に発生する賠償金額を鑑みれば、和解を選択して早期解決を図ることも有効な選択肢として考えられます。訴訟の結果にかかわらず、企業に及ぶ評判や従業員との関係に与える影響を最小限に抑えることもできるでしょう。

事前に弁護士に相談しておけば、和解交渉の過程で重要なポイントを教えてくれるだけでなく、企業の利益を守るための最適な和解条件を交渉してくれるでしょう。特に注目したいのは、以下のような条件が和解案に盛り込まれているかどうかです。

  • 和解内容に関する口外禁止条項
  • 和解後の誹謗中傷の禁止等に関する誓約

会社としては自社の正当性を主張する準備を進める一方で、和解の可能性を探る姿勢も持ち合わせておくことが、最終的に会社・元従業員の双方を守ることに繋がるでしょう。

不当解雇訴訟を未然に防ぐための方法

ここまで解説してきた通り、一度不当解雇として訴えられてしまえば、結果にかかわらず金銭・時間の両面で膨大なコストが発生します。

企業の労務管理としては、不当解雇訴訟を未然に防ぐためにも、解雇を避けるための代替手段を探求し、従業員との合意を形成することが重要です。ここでは退職勧奨や、解雇以外の代替策に焦点を当てて解説します。

退職勧奨による合意退職を促す

どうしても従業員に退職して欲しい場合、解雇という形をとらず、双方が合意したうえで退職を促すという方法もあります。

退職勧奨と呼ばれ、会社都合でありながら、従業員に対して自発的に退職を選択させるために使用される手段です。不当解雇訴訟のリスクを低減するために有効な手段となるでしょう。

退職勧奨を成功させるためのキーポイントは以下のとおりです。

退職勧奨の理由を明確に説明する

組織の経済状況、人員再編の必要性、またはその他のビジネス上の理由など、退職勧奨の理由が何にあたるのかを明確に説明する必要があります。

公平かつ十分なインセンティブを提供する

退職勧奨を受け入れることに対するインセンティブを提供することで、従業員が自発的に退職を選択する可能性が高まります。

インセンティブの内容や金額は、客観的に公正だと判断されるものでなくてはなりません。かつ、従業員に納得してもらえるレベルを満たすために、 条件を小出しにして段階を追って交渉していく必要があります。

退職勧奨のインセンティブとしては退職金の上乗せを行うことが一般的ですが、それ以外も健康保険の延長、キャリア支援サービスといった追加条件を含めることも検討できます。

退職干渉が完全任意であり、圧力や強制でないことを示す

退職勧奨を行う際は、従業員が退職勧奨を受け入れるかどうかは完全に任意であることを明確にし、圧力や強制がないことを保証しなければなりません。

退職推奨は受け取り方によってはパワハラと捉えられてしまう可能性があるからです。

関連記事

退職勧奨は行為自体が違法?パワハラ?強要されたらどうする?

※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。 さて、今日は退職勧奨(退職勧告)についてです。 退職勧奨は会社が従業員に自主退職してもらいたいがために、退職を進め …

また一度退職勧奨を受け入れてもらったとしても、後になって結局訴訟に発展するケースもあります。

退職干渉を成立させる場合退職合意書という形で文書にまとめることが一般的ですが、その中に紛争の蒸し返しの防止に関する条項を盛り込んでおくと効果的でしょう。

解雇・退職勧奨以外の代替策を検討する

解雇や退職勧奨は、企業にとっても従業員にとっても最終手段であるべきです。可能な限り、以下に示すような代替策を検討してみてください。

再配置

従業員を異なる部署や役職に再配置することで、スキルや経験を企業内の別領域で活用することを模索できます。一方的に再配置を行うのではなく、従業員に希望する部署や役職をヒアリングしてみることが有効でしょう。

一時的な勤務時間の短縮

経済的な理由や事業のダウンサイズが必要な場合、一時的に勤務時間を短縮することでコスト削減を図りつつも従業員を解雇せずに済む場合があります。

スキルアップや相談機会の提供

パフォーマンスの問題が原因で解雇を検討している場合、従業員に研修や追加教育等のスキルアアップの機会を提供することで、問題を改善し従業員を保護することが可能になります。また先に説明したように、最終的に解雇を行う場合も、研修や教育の実施の有無・程度が重要な要素になります。

いずれの方法をを採用するにしても、従業員とのコミュニケーションが鍵になります。企業に求められる適切な労務管理として、日頃から従業員が労務環境について相談しやすい環境を整えておくことが大切です。

不当解雇を巡る弁護士の活用方法

繰り返しになりますが、不当解雇を巡る問題では弁護士によるサポートが必要不可欠です。

不当解雇を主張されたらなるべく早期に弁護士に相談する

万が一不当解雇の申し立てを受けた際には、とにかく早期に弁護士に相談しておくことが重要です。

コストを削減したいという気持ちはわかりますが、自社のみで不当解雇トラブルに対処することは不可能だと考えておいたほうが無難です。

トラブルが長期化すれば時間的コスト・人的コスト負担が増えるだけでなく、最終的に敗訴した場合に最も大きな割合を占めるバックペイの金額も膨れ上がってしまいます。

トラブルを認知した時点で、早急に専門家に頼りましょう。

できれば解雇前のタイミングで弁護士に相談しておく

さらにいえば、解雇を実施する前に弁護士に相談することが望ましいです。

弁護士は、解雇の正当性を確認し、法的要件に適合しているかを評価してくれます。ほかにも、従業員との交渉や退職勧奨など、解雇を避けるための代替手段についても助言してくれるでしょう。

不当解雇訴訟リスクに備え「弁護士保険」に加入しておく

弁護士保険への加入も、不当解雇を巡るリスク管理の一環として考慮すべき選択肢です。

弁護士保険は、訴訟が発生した場合にかかる弁護士費用や訴訟費用をカバーする保険商品です。特に、中小企業やスタートアップなど、法務部門や顧問弁護士を持たない企業にとって、弁護士保険は訴訟リスクへの備えとして非常に有効です。

弁護士保険を検討する際は、法人・事業者向けの弁護士保険がおすすめです。

不当解雇トラブルを弁護士保険で解決した事例こちらからご覧いただけます。

記事を振り返ってのQ&A

Q.不当解雇で訴えられたら、まずどうすればいいですか?
A.初動対応としては訴えの内容をよく確認したうえで、早急に弁護士に相談してください。自社のみで従業員との交渉や訴訟を進めることは困難です。その後の流れとしては従業との直接交渉、労働審判、訴訟の順番で選択肢が考えられますが、なるべく段階で双方が満足できる解決策を見つかれば、和解が成立しリスクを避けられるかもしれません。

Q.不当解雇に該当するかどうかの判断基準はありますか?
A.客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効であると、労働基準法に定められています。具体的には、十分な研修・教育を行わずに能力不足・勤務態度不良と判断するケースや、差別的な解雇、権利行使に対する報復的な解雇、手続き的違反による解雇などです。、解雇理由が合理的であるか否かの判断には、複雑な法的判断が求められるため、専門家に頼ることをおすすめします。

Q.不当解雇訴訟を未然に防ぐための方法はありますか?
A.退職勧奨による合意退職を促したり、従業員の再配置や一時的な勤務時間の短縮、スキルアップ機会の提供など、代替手段がいくつか考えられます。