社会保険と国民健康保険の違いを詳しく!個人事業主(フリーランス)への切り替え手順や任意継続制度についても

健康保険は、社会保険と国民健康保険に分かれますが、明確な違いや特徴を正確に理解している方は意外に少ないかもしれません。

特に個人事業主(フリーランス)として働く際の保険選択は、将来にわたる健康と経済の安全を左右する重要な決定です。

本記事では、社会保険と国民健康保険の基本的な違い、会社員から個人事業主(フリーランス)に切り替える際の手順、任意継続制度について解説します。

こんな疑問にお答えします

Q.社会保険と国民健康保険は何が違いますか?

A.社会保険と国民健康保険では、以下の点で異なります。

  • 加入対象者
  • 医療費の自己負担割合
  • 各種手当
  • 保険料の負担と計算方法
  • 扶養に対する扱い

社会保険に比べて国民健康保険の保障は不足している、と感じる方は多いかもしれません。
保障の手厚さを補うには、任意保険への加入が推奨されます。将来ご自身や家族が安定した保障を得るためにも、任意保険は役に立つでしょう。

社会保険と国民健康保険の違い

社会保険と国民健康保険の違いは、以下のとおりです。

社会保険 国民健康保険
加入対象者 会社員、一部のパート・アルバイト 社会保険など他の医療保険制度、医療費補助制度を利用していない国民
医療費の自己負担割合 3割負担 3割負担
各種手当 出産手当金・傷病手当金・生涯手当金:あり

出産一時金:原則50万円

出産手当金・傷病手当金・生涯手当金:なし

出産一時金:原則50万円

保険料の負担と計算方法 負担:会社と折半
計算方法:保険料率や年齢、標準報酬月額によって算出される
負担:全額負担
計算方法:前年の所得と被保険者数、被保険者の年齢によって算出される
扶養に対する扱い あり。配偶者と一部の親族が扶養に入れる 扶養の概念がない。家族全員が加入する

詳しく見ていきましょう

加入対象者

社会保険と国民健康保険の加入対象者は、以下のように違いがあります。

  • 社会保険:会社員、一部のパート・アルバイト
  • 国民健康保険:個人事業主(フリーランス)、無職、退職者

社会保険は、会社員や一部のパート・アルバイトが加入する保険で、国民健康保険は自営業者や個人事業主(フリーランス)、無職、退職者が加入する保険です。

社会保険の加入対象

社会保険の加入対象者になる条件は、以下の基準があります。

  • 雇用保険の被保険者であること:会社員(正社員、契約社員、パート・アルバイト)であること
  • 週の所定労働時間が20時間以上、または月額賃金88,000円以上で、2か月を超える雇用の見込みがあるもの
    学生でないこと
  • 従業員数が101人以上の事業所で雇用されていること(※2024年10月からは「従業員数51人以上」に変更)

これらの条件を満たす人は、社会保険へ加入することになります。

国民健康保険(国保)の加入対象

国民健康保険は、以下の条件を満たす人が加入することになります。

社会保険など他の医療保険制度、医療費補助制度を利用していない国民

国民健康保険は、社会保険の適用を受けない人たちが対象です。具体的には、自営業者、個人事業主(フリーランス)、パートやアルバイトで社会保険の適用がない人、退職後の人、または失業中の人などが含まれます。

医療費の自己負担割合

医療費の自己負担割合は、社会保険・国民健康保険ともに同じです。

  • 未就学児:2割
  • 6歳〜69歳以下:3割
  • 70歳〜74歳以下:2割負担(ただし、現役と同じ所得を有する人は3割負担)

各種手当

社会保険と国民健康保険では、手当が以下のように異なります。

  • 社会保険:出産手当金・傷病手当金・障害手当金:あり
  • 国民健康保険:出産手当金・傷病手当金・障害手当金:なし

傷病手当金は、業務外の病気やケガで療養しなければならないときの手当金が受けられる制度です。出産手当金は、出産以前の42日から出産日の翌日以降56日までの間で、給与の支払いがなかった期間に対して受けられる制度です。

障害手当とは、病気やケガによって仕事や日常生活が困難になった際に、障害厚生年金に記載される障害よりも軽い障害が残ったときに受け取れる手当金です。

社会保険に加入している場合、上記の手当金を受け取れます。

一方で、国民健康保険ではこのような手当がありません。

なお、出産一時金は、社会保険・国民健康保険共に原則50万円が支給されます。

保険料の負担と計算方法

社会保険と国民健康保険では、保険料の負担額や計算方法が以下のように違いがあります。

社会保険の保険料と計算方法

社会保険加入者の場合、支払う保険料は会社と折半です。

社会保険の計算方法は、保険料率や標準報酬月額によって計算されます。

社会保険料=標準報酬月額×保険料率+介護分保険料(満40歳以上)

標準報酬月額:4月〜6月の給与額の平均額から算出される

保険料率:年齢や加入する健康保険組合によって異なる

上記に加えて、満40歳を迎えた月より介護保険料が加算されます。

参考:令和5年度保険料額表(令和5年3月分から)

国民健康保険の保険料と計算方法

国民健康保険の保険料は、全額自己負担です。
保険料は「医療分」「支援分(後期高齢者支援金分)」「介護分保険」の3つで構成されています。

国民健康保険料=医療分保険料+支援金分保険料+介護分保険料(満40歳以上)

医療分・支援分・介護分の各保険料は「所得割」「均等割」「平等割」の各金額の合計を組み合わせます。

  • 均等割:世帯の国保加入人数×均等割額
  • 平等割:各市町村(特別区を含む)で定められた金額×世帯人数
  • 所得割:前年の所得額×料率

国民健康保険料は、加入者の所得に応じて負担する所得割額と、加入者一人ひとりが均等に負担する均等割額によって構成されています。また、40歳〜64歳の方は、介護保険料が加算されます。

保険料率は、居住する市区町村によって異なります。一定期間の所得金額が基準を下回る世帯の場合、保険料が減額される制度が適用されます。減額基準についても、市区町村に確認してみてください。

扶養に対する扱い

社会保険と国民健康保険では、扶養の概念が大きく異なります。

社会保険での扶養

社会保険では、配偶者と一部の親族が扶養に入れます。

扶養に入れる親族の条件は、以下のとおりです。

  • 被保険者と同居していること
  • 被保険者の配偶者、子ども、孫、兄弟姉妹
  • 被保険者と同居し、被保険者の収入により生計を維持する人(被保険者の三親等以内の親族、事実上婚姻関係と同様の人、配偶者が亡くなった後の父母および子ども)
  • 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)、被保険者の年間収入の2分の1未満

国民健康保険

国民健康保険には、扶養の概念がありません。つまり、配偶者や子供がいてもそれぞれが被保険者として保険料を支払う必要があります。

国民健康保険の保険料は、世帯の収入と家族構成によって計算されます。そのため、家族が多いほど保険料が高くなるでしょう。

国民健康保険から社会保険へ切り替える方法

これまで国民健康保健に加入していた方が、社会保険が適用される会社で働き始める場合、国民健康保険から社会保険への切り替えが必要です。

保険の切り替え方法を、対象者(雇用される側)と会社側に分けて解説します。

対象者側の手続き

就職によって勤務先の社会保険に加入した場合は、被保険者は市区町村役場に国民健康保険を脱退する手続きをします。

対象者は、入社する会社に年金手帳(基礎年金番号通知書)とマイナンバーを入社後5日以内に提出します。入社する会社から提示を求められたら速やかに提出しましょう。

会社側の手続き

会社側は、新たに社会保険に加入する従業員に対して、入社日から5日以内に「被保険者資格取得届」を年金事務所に提出します。

従業員が配偶者や子どもなどの扶養家族がいる場合は「健康保険被扶養者届」も一緒に提出してください。

提出期限が雇用した従業員の入社後5日以内と非常に短期なので、提出期限を早めに設定して提出を求めるといいでしょう。

参考:日本年金機構

社会保険から国民健康保険へ切り替える方法

社会保険の適用を受けていた会社員が、個人事業主(フリーランス)に転身したり失業したりする場合、社会保険から国民健康保険に切り替える必要があります。

会社側の手続き

会社側の手続きとして、まず退職した従業員の「被保険者資格喪失届」退職日の翌日から5日以内に日本年金機構へ提出します。

退職した従業員に扶養家族がいる場合は、扶養家族分の健康保険証も返却しなければなりません。

従業員側の手続き

会社を退職する従業員は、これまで加入していた社会保険の資格を喪失します。新たに国民健康保険に加入するか、会社で加入していた社会保険に任意継続するか選択することになります。(任意継続に関しては、後ほど詳しく解説します)

新たに国民健康保険に加入する際は、居住する市町村の役所に行き、資格喪失日(退職日の翌日)から14日以内に届け出ましょう。

新しい国民健康保険証が届くまでは時間がかかる可能性があるため、なるべく早く届け出るようにします。

社会保険を脱退し国民健康保険に切り替えると、保障内容が大きく異なります。個人事業主(フリーランス)の方は、将来の経済的安定を図るために、基本的な保険に加えて任意保険への加入を検討してみるといいかもしれません。

個人事業主(フリーランス)におすすめの保険については、こちらの記事で紹介しています。

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退職後でも社会保険の任意継続は可能?

会社員から個人事業主(フリーランス)になる方は、これまで会社で加入していた社会保険に継続して加入したいという方もいるでしょう。

退職後でも、社会保険(健康保険)の任意継続制度を利用することにより、一定期間であれば元の健康保険に引き続き加入することが可能です。

この制度は、退職後も同じ保険給付を受け続けたいと考える方々にとって非常に便利で、特に会社員から個人事業主(フリーランス)へ転身する方々にとって、保険の切り替え期間中の保障を確保する手段として利用できるでしょう。

ただし、社会保険を任意継続するには、次のことを理解しておく必要があります。

退職日の翌日から最長2年の継続が可能

任意継続の健康保険は、退職日の翌日から利用開始でき、最長で2年間継続することが可能です。

この期間中は、保険の給付内容は変わらず元の健康保険と同等の医療サービスを受けられます。

任意継続の申し込み期限は、退職後20日以内。最寄りの健康保険組合あるいは事業所の健康保険担当窓口に申し込みます。任意継続した場合、配偶者や子どもも社会保険の被扶養者として加入できます。

また、任意継続期間中に被保険者が死亡したり再就職によって社会保険の被保険者となった場合は、任意継続の資格は喪失します。

基本的に保険料は全額負担

任意継続の保険料は、在籍していた健康保険組合やプランによって異なりますが、通常は被保険者が全額を負担する形になります。会社員のときと同様に、保険料を折半することはできません。

そのため、在職中に比べると保険料が高額になることが一般的です。

2年の満了が過ぎると新しい健康保険へ加入しなければならない

任意継続制度の利用期間が満了すると、その後の保険手続きについて対応が必要になります。

任意継続制度を利用している健康保険は最長で2年間の継続が可能ですが、その期間が終了すると自動的にその保険の保障は失われます。

そのため、次のステップとして国民健康保険へ加入するか、新たな雇用に基づく社会保険の加入が必要になるでしょう。

状況に応じて、他の民間保険や保険プランに加入することも選択肢として推奨されます。

任意継続の健康保険が終了する際には、スムーズに保険の切り替えが行えるよう計画を立てる必要があるでしょう。

任意継続を途中でやめたいとき

何らかの理由で、社会保険の任意継続を途中でやめたいときがあるかもしれません。任意継続をやめたいときは、その旨の申し出を行い、受理された翌月から任意継続を脱退できます。

以前までは、任意継続制度に関して特定の事由がない限り資格を喪失できないという制約がありました。つまり、一度任意継続で健康保険に加入すると、通常2年間はその状態を維持する必要があったのです。

個人事業主(フリーランス)であれば、経済状況が変わった場合に保険料の負担を減らしたいと感じるときがあるでしょう。

そこで、2022年1月に健康保険法の一部改正が行われ、任意継続の資格喪失を自己都合で行えるようになったのです。

改正以降、任意継続中でも個人の判断で健康保険の資格を喪失し、他の保険制度へ移行することが可能になりました。

個人事業主(フリーランス)が国民健康保険に切替える際は任意保険の加入も検討しよう

個人事業主(フリーランス)や自営業の方にとって、国民健康保険への加入は不可欠です。
しかし、国保は社会保険と比較すると手当が少なく保障が十分ではありません。

これらの不足分を補うには、任意保険への加入が推奨されます。

もちろん、任意なので加入義務はありませんが、将来ご自身や家族が安定した保障を得るためにも、任意保険は役に立つでしょう。

個人事業主(フリーランス)におすすめの任意保険には、以下のような種類があります。

  • 医療保険:高額な医療費に対応する保険
  • 生命保険(終身・定期):長期的な家族の保障や事業資金の保証に利用できる保険
  • 死亡保険:家族の経済的負担をカバーする保険
  • がん保険:がん治療に特化した費用をカバーする保険
  • 国民年金基金:国民年金にプラスして、老後の安定した収入源を確保する保険
  • 就業不能保険:傷病で仕事ができなくなった場合の収入を保障する保険
  • 火災保険・地震保険:財産損失からの復旧を支援する保険
  • 事業リスク保険:事業運営上のリスク(訴訟、事故等)へ対策する保険

個人事業主(フリーランス)におすすめの保険の詳細は、こちらの記事をご覧ください。

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事業リスク対策に弁護士保険がおすすめ

事業活動においては、取引先とのトラブルや労働問題、製品事故や消費者トラブルなどリスクが潜んでいます。

こうしたリスクが発生した場合、多額の費用がかかったり事業存続の危機に直面したりする可能性があるでしょう。

そこで、事業リスクを回避するための任意保険として弁護士保険への加入をおすすめします。

弁護士保険とは、事業活動において発生した法律問題について、弁護士に相談したり訴訟を依頼したりする費用を補償する保険のこと。弁護士保険に加入することで、弁護士費用を抑えられたり、早期に弁護士に相談することで問題を解決しやすくしたりと、経済的・精神的な負担を軽減してくれます。

法人・個人事業主の方で法的トラブルにお困りの場合には、法人・個人事業主向けの弁護士保険がおすすめです。

記事を振り返ってのQ&A

Q.社会保険と国民健康保険は何が違いますか?
A.社会保険と国民健康保険では、以下の点で異なります。

  • 加入対象者
  • 医療費の自己負担割合
  • 各種手当
  • 保険料の負担と計算方法
    扶養に対する扱い

Q.これから企業へ就職します。国民健康保険から社会保険へ切り替えるにはどうしたらいいですか?
A.就職によって勤務先の社会保険に加入した場合は、被保険者は市区町村役場に国民健康保険を脱退する手続きをします。入社する会社に年金手帳(基礎年金番号通知書)とマイナンバーを入社後5日以内に提出します。

Q.会社員から個人事業主(フリーランス)になる予定です。保険手続きを教えてください。
A.会社を退職する従業員は、これまで加入していた社会保険の資格を喪失します。新たに国民健康保険に加入するか、会社で加入していた社会保険に任意継続するか選択することになります。

Q.退職後でも社会保険の任意継続は可能ですか?
A.退職後でも、社会保険(健康保険)の任意継続制度を利用することにより、一定期間であれば元の健康保険に引き続き加入することが可能です。

Q.任意継続をやめたいときはどうすればいいでしょうか?
A.脱退したい旨の申し出を行い、受理された翌月から任意継続をやめられます。

Q.国民健康保険は保障が少ないと聞きました。何か対策はありますか?
A.不足分を補うには、任意保険への加入が推奨されます。任意なので加入義務はありませんが、将来ご自身や家族が安定した保障を得るためにも、任意保険は役に立つでしょう。