正当な解雇理由かどうかの判断基準とは?違法解雇・不当解雇にならないための条件や注意点を解説

「問題社員をクビにしたい…」

「経営状況が悪化しているので、人員整理を行わなければならない,,,」

企業運営において、時には従業員を解雇する必要に迫られる場合があります。

しかしながら、どれだけ従業員に非があるように思えたり、致し方ない理由で行う解雇であっても、不適切な手続きや理由に基づく解雇は「不当解雇」とみなされるため注意が必要です。

解雇を検討する際は、解雇理由が法律的に正当であるかどうかを正確に把握し、適法なプロセスを遵守することが欠かせません

解雇理由が正当であるかどうかの判断には法的知識を求められるため、専門家にサポートを依頼しつつ慎重に対応していく必要があります。

本記事では、正当な解雇理由の判断基準と、違法解雇・不当解雇にならないための条件や注意点について解説します。

適切な解雇手続きを実施するためにも、本記事を参考にしてみてください。

こんな疑問にお答えします

Q.解雇理由が適切かどうか何で判断すればいいでしょうか?

A.解雇理由が適切であるかどうかは「客観性合理性」や「社会的相当性」などが求められます。ほかにも、解雇の予告や不当な扱いをしていないか、適切な手続きを踏んでいるかが重要になるでしょう。もし、解雇理由に違法性が確認されれば、不当解雇とみなされる可能性があります。解雇の正当性の判断には法的知識が求められるため、事前準備を行い専門家に頼りながら慎重に手続きを進めていくことが重要です。

解雇するためには正当な理由と手続きが必要になる

企業が従業員を解雇するにはどのような場合においても正当な理由が必要です。正当な理由であるためには「客観性・合理性」を満たさなくてはなりません。

解雇理由における客観性・合理性とは

労働契約法では、解雇の理由として「客観的に合理的な事由が存在し、社会通念上相当であること」が求められます(※)。

(※)厚生労働省 労働契約の終了に関するルール

具体的には以下のような点を指し、主観的な感情や不当な理由に基づかない形で解雇を行う必要があるのです。

客観性

  • 企業外の第三者から見ても明確で理解できること。
  • 具体的な事実やデータに基づいていること。
  • 個人的な感情や偏見に影響されず、一貫した基準に基づいて行われること。

合理性

  • 企業運営上の必要性や労働者の行動に対する相応の対応として、社会通念上妥当であること。
  • 問題解決のための最終手段として適切な場合にのみ適用されること。
  • 労働者に対する過剰な負担を課さない、比例の原則に基づいた対応であること。

これらの条件を満たさない不当な理由での解雇は、労働者から訴訟を起こされるリスクがあり、場合によっては解雇の無効や損害賠償の支払いを命じられる可能性があるでしょう。

不当解雇で企業が訴えられた場合の対処法やリスクを減らす方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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就業規則に解雇理由を記載することが義務付けられている

労働基準法では、使用者が従業員を解雇する際の条件や理由を就業規則に明記することが義務付けられています。これは、従業員が自身の権利と職場での義務を理解するためです。

明確な基準が示されていれば、解雇が公平なものであるかどうかを評価しやすくなり、企業と労働者の間のトラブル防止につながるでしょう。

これから従業員の解雇を考える際は、自社の就業規則の解雇条件が明示的なものになっているかを今一度確認してみてください。

労働者から解雇理由の証明を求められたら証明書を発行する義務がある

労働基準法第22条では、労働者が解雇理由について説明を求めた場合に、企業は明確な理由を記載した証明書を発行する義務があるとされています。

万が一、不当であると労働者が感じた場合は、この証明書を基に労働審判や裁判の申し立てが可能になります。

解雇の3つの種類

解雇は、従業員と雇用者との間の労働契約を終了させる行為であり、その種類と理由は多岐にわたります。

解雇の種類

1.普通解雇

普通解雇は、従業員の能力不足や成績不良など、従業員自身に起因する理由により行われます。

ただし、問題社員であればいつでも誰でも簡単に解雇できるというわけではありません。従業員に改善の機会を提供する必要があるほか、解雇の意向を事前に通知し、その理由を明確に説明しなければなりません。

普通解雇の特徴は、以下のとおりです。

定義

従業員の能力不足、成績不良、業務上のミスなど、従業員自身に起因する理由によって行われる解雇のこと。

理由

従業員のパフォーマンスが業務要件を満たしていない場合や、職務遂行能力が不足している場合に適用される。

普通解雇のプロセス

解雇の意向を事前に通知し、その理由を明確に説明する必要がある。

法的要件

解雇は最後の手段として考慮されるべきで、事前に従業員に対して警告を行い、改善の機会を与える必要がある。通知は書面で行うことが望ましく、理由を具体的に記載する必要がある。

2.懲戒解雇

懲戒解雇は、従業員が重大な違反行為や不正行為を行った場合に適用されます。

たとえば、業務上の義務違反、会社規則の重大な違反、不正や窃盗などが理由となり得ます。懲戒解雇を行うには、事前に違反行為を厳密に調査し、証拠を確保したうえで、合理的な関連性を立証しなければなりません。

懲戒解雇の特徴は、以下のとおりです。

定義

従業員が重大な規則違反や不正行為を行った場合に、その行為を理由として行われる解雇のこと。

適用理由

会社規則の重大な違反、職務上の義務違反、窃盗や詐欺などの犯罪行為、職場内での暴力行為、機密情報の漏洩などが該当する。

懲戒解雇のプロセス

違反行為に関する厳密な調査を行い、事実関係を明らかにする必要がある。従業員に対して、違反行為に関する説明の機会を提供し、その反論を聞くことが求められる。

法的要件

違反行為と解雇の間に合理的な関連性が必要。解雇の理由を具体的に記載した書面の通知が必要とされる場合がある。

3.整理解雇

整理解雇は、経済的理由や業務の必要性により、職場での人員削減を余儀なくされる場合に行われます。企業が経営難に陥ったり、事業再編や業務の縮小が行われる場合などがこれに該当します。

予告期間の遵守適切な退職金の支払いなど、解雇を行う従業員の保護のために適切なステップを踏んで手続きを進めていく必要があります。

整理解雇の特徴は、以下のとおりです。

定義

企業の経済的理由や事業再編、業務の必要性の変化により、人員削減を行う際に適用される解雇のこと。

適用理由

経営難、事業の縮小や撤退、技術革新による業務プロセスの変化、経済状況の悪化などが該当する。

整理解雇のプロセス

人員削減の必要性を慎重に検討し、解雇を避けるための代替策(再配置や自主退職の促進など)が求められる。対象者の選定には、客観的かつ合理的な基準を設ける必要がある。

法的要件

解雇の理由を具体的に記載した書面の通知が必要。予告期間の遵守や適切な退職金の支払いなど、法律に基づく手続きを遵守しなければならない。

企業は、解雇を検討する際にそれぞれの条件を遵守し、適切なプロセスを踏まなければなりません。

①普通解雇が認められる要件と、解雇が無効になる具体的なケース

それでは解雇が認められる要件と解雇理由例を具体的に見ていきましょう。

まずは普通解雇を行う場合です。解雇の中でももっとも多いのが普通解雇といわれていますが、対象となる事案の範囲が広いため、慎重に手続きを行うことが必要です。

普通解雇の要件

普通解雇が有効になるためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。

客観的合理性

解雇理由が社会通念上合理的であり、客観的に見て妥当なものであることが求められます。従業員の能力不足、業務上のミスなどが例として挙げられるでしょう。

社会的相当性

解雇が従業員の生活や社会生活に与える影響を考慮し、その重大性を総合的に判断したうえで、解雇が社会通念上許容される範囲内であることが必要です。

解雇の予告または予告手当の支払い

解雇を行う場合、原則として30日前の予告が必要です。予告ができない場合には、予告期間に相当する平均賃金を支払う必要があります。

手続きの適正

解雇の理由を明確にし、事前に従業員に対して説明を行うなど、適正な手続きを踏まなければなりません。また、組合員の場合は、労働組合との事前協議が必要になる場合もあります。

これらの要件は、不当解雇を防ぎ、労働者の権利を保護するために設けられています。企業側は、これらの要件を遵守することで、合法的かつ公正な解雇を行うことが可能になります。

普通解雇が無効になるケース

以下のようなケースは上記の要件を満たさず、普通解雇が無効と判断される場合があります。

  • 業務上の軽微なミスや、個人的な好き嫌い、不当な差別等の理由での解雇
  • 解雇を行う前に改善の機会を提供していない
  • 解雇の予告がなされていない(労働基準法では、解雇の30日前に予告するか、あるいは30日分の平均賃金を支払う必要があるため)
  • 手続きに不備がある
  • 差別的または不当な理由による解雇
  • 病気や怪我が理由での解雇(労働者が病気や怪我で休業している場合、一定期間(通常は3ヶ月)は解雇保護の期間があり、この期間内に解雇された場合、解雇は無効になることがある)

いくら従業員の勤務態度に問題があったとしても、簡単に解雇を行えるわけではありません。その程度や改善機会提供の有無、解雇に向けたプロセスを含め、総合的にその正当性が判断されます。

②懲戒解雇が認められる要件と、解雇が無効になる具体的なケース

次に懲戒解雇です。普通解雇と比較するとケースは限定的ですが、同じく適切なプロセスを経て進めていかなければなりません。

懲戒解雇の要件

懲戒解雇は、以下の項目をすべて満たす必要があります。

客観的に合理的な理由の存在

懲戒解雇は、従業員の職務上の義務違反や不適切な行動に基づくものである必要があります。たとえば、重大な職務怠慢、職場内での重大な不正行為、会社の規則やポリシーの重大な違反などが該当します。

社会通念上相当であること

解雇の理由や状況が、一般的な社会の常識や価値観に照らしても適切であると認められなければなりません。たとえば、一度の軽微な違反で直ちに懲戒解雇に至るのは、社会通念上相当と認められにくい場合があります。

適切な手続きの実施

解雇前に、事実関係の確認、従業員への説明および弁明の機会の提供など、公正な手続きを踏むことが必要です。懲戒解雇を決定する場合は、就業規則に具体的な要件を定めなければなりません。また、その就業規則を従業員に周知していることが原則になります。

懲戒解雇が無効になるケースは?

以下のようなケースは上記の要件を満たさず、懲戒解雇が無効と判断される場合があります。

  • 従業員の行為が解雇の対象となるほどの重大性がない場合
  • 解雇前に従業員に対して適切な警告や指導がなされていない場合
  • 従業員に弁明の機会の提供がない場合
  • 性別、年齢、国籍、宗教、障害などに基づく差別的な理由がある場合

懲戒解雇については適切な内容が就業規則等に定められていて、あらかじめ従業員に十分に周知されていることが必要です。

③整理解雇が認められる要件と、解雇が無効になる具体的なケース

整理解雇は普通解雇、懲戒解雇と異なり、従業員に非がなく会社都合で行う解雇です。そのため普通解雇や懲戒解雇に比べて基準が厳しくなります。

整理解雇の要件

整理解雇は、会社の経営状況の悪化や業務量の減少などの理由により、やむを得ず行われる解雇です。正当性を示すには、厳格な基準を満たさなければなりません。

必要性の要件

企業の経営状況が、労働者を解雇せざるを得ないほど悪化していることを明確にする必要があります。解雇を避けるためのあらゆる手段が尽くされていることが求められます。

選考基準の合理性

解雇する労働者の選定基準が合理的であること、公平に適用されていることが要求されます。

手続きの適正性

解雇に至るまでの過程で、労働組合や労働者との十分な協議が行われ、適切な手続きが踏まれていることが必要です。

解雇回避努力

企業側が解雇を避けるために可能な限りの努力をしたことを証明できなければなりません。

整理解雇が無効になるケース

整理解雇は、次のような場合に無効になる可能性があるでしょう。

  • 経済的困難の実態が客観的に認められない場合
  • 解雇以外の合理的な対策が取られていない場合
  • 労働者側への十分な説明や、労働組合等との適切な協議が行われずに整理解雇が進められた場合
  • 解雇対象者の選定基準が不透明である場合(特定の労働者に対する差別的な選択、個人的な偏見に基づく選択が行われた場合)

解雇理由の通知方法と注意点

解雇を実行するには、従業員に解雇理由を事前に通知しなければなりません。ここからは、通知方法と注意点を紹介します。

解雇理由の通知は会社側の義務である

労働契約法やその他の労働関連法では、解雇理由の通知を従業員に対する会社側の義務として定めています。

解雇の正当性を評価する上で、解雇理由は明確かつ具体的でなければならず、従業員に対して適切に通知されなければなりません。

解雇理由通知の具体的な方法

解雇理由の通知は、文書で行うことが一般的です。口頭での告知は「聞いた聞いていない」の水掛け論に発展しやすく、トラブルになりかねません。

通知書には、解雇の日付、解雇理由の詳細、および解雇理由に至った具体的な事情や例を含めてください。

文書による通知は、後のトラブルを避けるためにも重要なので必ず作成しましょう。

(解雇理由通知の記載サンプル)

〇〇殿 解雇理由証明書

 

⚫年⚫月⚫日 ⚫⚫株式会社 代表取締役⚫⚫⚫⚫ 印

 

当社が⚫年⚫月⚫日付で貴殿に予告した解雇については、下記の理由によるものであることを証明します。


就業規則⚫条⚫号(・・・・・・・・・)に該当するため。
具体的には次のとおり。
・・・・・・・・・

 

以上

解雇理由証明書の書式は以下からダウンロードできます。

厚生労働省:解雇理由証明書

解雇理由は証明書に記載されている内容に限定される

解雇理由は、証明書に記載されている内容に限定され、解雇後に新たな理由を追加することは原則として認められません。

会社側が解雇の正当性を主張する際は、解雇時に従業員に通知した理由に基づいて行います。したがって、解雇理由の記載にあたっては十分な慎重さと正確性が求められます。

解雇理由の判断に迷った際の対処法

ここまで解雇の定義や正当な解雇として認められるための要件について説明してきましたが、実際にそれらを判断するのは法的知識を求められ容易なものでは有りません。

解雇を検討する際は、あらかじめ自社で十分な準備を行ったうえで、専門家にアドバイスを受けながら慎重に進めていくことをおすすめします。

具体的に会社側で行うべきことを紹介しましょう。

あらかじめ解雇理由に関する証拠を残しておく

解雇の決定を下す前に、従業員の行動やパフォーマンスに関連する具体的な証拠を集め、記録しておくことが重要です。

たとえば、業務の遂行状況、過去の評価、警告や指導の履歴、同僚や管理者からの報告などが含まれます。

これらの証拠は、解雇理由が合理的かつ客観的であることを証明するのに役立つでしょう。

解雇理由の証拠を集めるには、以下のような手段があります。

録音

従業員とのやり取りを通じて生じた問題や対応を録音しておきましょう。録音は相手の許可を得なくても違法にはなりません。ただし、録音内容に個人情報が含まれる場合は個人情報保護法に則った注意が求められます。

指導内容の記録

職務違反や不適切な行動に対する警告を文書化し、従業員に通知しておきましょう。

とはいえ、突発的に指導の必要が生じるケースもあると思いますので、後からでもその内容をメモしておいたり、指導を行った従業員から報告書を作成して送ってもらうのも有効です。加えて改善を促すための指導やカウンセリングの機会を設け、その内容を詳細に記録しておくとよいです。

また昨今はチャットツールやメールでのコミュニケーションも増えています。指導内容に関するメールやチャットの履歴をスクリーンショットやプリントアウトで保管しておきましょう。

労務トラブルに精通した弁護士に早期に相談する

解雇理由に関する判断が難しい場合や、労務トラブルが予想される場合は、早期に労務問題に精通した弁護士に相談してみてください。

解雇理由の正当性の判断には法的知識が求められ、自社のみで行うことは容易でなくリスクもはらみます。

弁護士に相談することで、解雇理由の妥当性を評価し、法的リスクを最小限に抑えるためのアドバイスを提供してくれます。また、解雇プロセスを適切に管理し、必要な手続きをサポートしてくれるでしょう。

労務トラブルに備え、弁護士保険に加入しておこう

労務トラブルは予期せず発生することがあり、特に法務部や顧問弁護士を持たない中小企業にとっては大きな負担になりかねません。

そこでおすすめしたいのが弁護士保険です。

事前に弁護士保険に加入しておくことで、労務問題が発生した際の法的支援費用をカバーできます。労務問題のリスク管理において有効なツールとなり得るでしょう。

法人・個人事業主の方で法的トラブルにお困りの場合には、法人・個人事業主向けの弁護士保険がおすすめです。

弁護士保険による労務トラブルの解決事例はこちらから。

記事を振り返ってのQ&A

Q.解雇理由における客観性合理性とは何ですか?
A.解雇理由における「客観性」と「合理性」とは、公平かつ妥当であることを意味し、主観的な感情や不当な理由に基づかないことを示します。

Q.解雇にはどのような種類がありますか?
A.普通解雇、懲戒解雇、整理解雇があります。

Q.解雇理由の通知方法と注意点を知りたいです。
A.解雇理由の通知は、文書で行うことが一般的です。通知書には、解雇の日付、解雇理由の詳細、および解雇理由に至った具体的な事情や例を含めてください。口頭での告知は「聞いた聞いていない」の水掛け論に発展しやすく、トラブルになりかねません。
また、解雇の正当性を主張する際には、解雇時に従業員に通知された理由に基づいて行います。したがって、解雇理由の記載にあたっては十分な慎重さと正確性が求められます。

Q.解雇理由の判断に迷った際はどうすればいいでしょうか?
A.解雇の決定を下す前に、従業員の行動やパフォーマンスに関連する具体的な証拠を集め、記録しておくことが重要です。また、解雇理由に関する判断が難しい場合や労務トラブルが予想される場合は、早期に労務問題に精通した弁護士に相談してみてください。