営業妨害を受けても「相手を特定できない」「事を大きくしたくない」といった理由で、泣き寝入りするしかないと考えている方も少なくないのではないでしょうか?その気持ちはわかりますが、問題を放置してしまうとブランドイメージの低下など事業活動へ重大な損害を及ぼしかねません。
損害が発生した場合は適切なプロセスを踏むことで、法的手段を通じた損害賠償を請求できる可能性があります。場合によっては、行為者に対して刑事告訴の申し立てもできるかもしれません。
実際にこれらの手段を取る際には、法的知識を含む適切な対処方法を理解する必要があります。
本記事では、営業妨害を受けた際の損害賠償請求や刑事告訴の手順、および相談先について詳しく解説します。
こんな疑問にお答えします
Q.営業妨害をされて被害が生じました。どのような手段で対処するのが有効ですか?
A.営業妨害された際には、まずは被害内容を整理したうえで、内容証明郵便を送付して法的手段に入る前の警告を行うのが有効です。それでも解決しない場合や事態が悪質な場合は、民事訴訟、刑事告訴に進みます。それぞれの手段には注意すべき点があるので、専門家のサポートを受けながら慎重に進めていく必要があるでしょう。まずは営業妨害の内容と問える罪の種類を把握し、被害内容を具体的に整理してみてください。
営業妨害の定義と例
営業妨害はその名の通り他者の営業活動を不当に妨げる行為を指しますが、法律上で「営業妨害」としての具体的な定義があるわけではありません。
営業妨害に該当する例としては以下のようなものがあげられます。
- インターネット・SNS上での虚偽の情報や悪意あるコメントの書き込み
- 執拗なクレーム、迷惑電話
- 店内で喧嘩等の騒動を起こす行為
- 殺害予告や爆破予告
- 企業・個人のなりすまし行為
このように営業妨害に該当するケースは幅広く、その内容によっては民事上の不法行為として損害賠償請求ができたり、次に解説する業務妨害罪として刑事事件に問える可能性があります。
営業妨害行為は「業務妨害罪」として犯罪となる可能性がある
営業妨害行為は刑法上は「業務妨害」にあたります。業務妨害罪は他人の業務を妨害する行為に対して定められた犯罪で、その内容や手段に応じて3つの類型に分かれます。
偽計業務妨害罪
偽計業務妨害罪とは、他人の業務を妨害する目的で虚偽の事実を告知したり、または公衆に不実のことを告知し、結果として他人の業務を実際に妨害する犯罪のことです。刑法第233条に該当します。
偽計業務妨害罪に対する罰則は、3年以下の懲役または禁錮、もしくは50万円以下の罰金、これらの併科と定められています。
偽計業務妨害罪が成立するには、以下の要素が必要です。
偽計の使用
虚偽の事実の告知や不実の情報の公表など、他人を欺くための行為であること。
業務妨害の目的
行為者が他人の業務を妨害する意図を故意に持っていること。業務妨害の目的がない場合、この犯罪は成立しない。
業務妨害のおそれ
偽計の使用により、実際に他人の業務が妨害されるおそれがあること。具体的な業務妨害が発生している場合はもちろんのこと、妨害が発生するおそれが生じた時点で偽計業務妨害罪が成立する可能性がある。
たとえば嘘の情報を通報して警察を出動させたり、飲食店に嘘の予約をいれる行為などが該当します。
威力業務妨害罪
威力業務妨害罪とは、暴力や脅迫、その他の威力を用いて他人の業務を妨害する犯罪のことです。刑法第234条により規定されており、偽計業務妨害罪と並んで業務妨害行為として認められます。
威力業務妨害罪に対する罰則は、3年以下の懲役または禁錮、または50万円以下の罰金が科されます。
威力業務妨害罪が成立するためには、以下3つの要素を満たさなくてはなりません。
威力の使用
行為者が暴力、脅迫、またはそれに類する威力を使用すること。単なる言葉のみの脅迫や圧力でも、それが威力として機能し、相手を実質的に制約する場合に成立する可能性がある。
業務妨害の意図
他人の業務を妨害する意図を持って行動していること。その行為によって直接的または間接的に業務を妨害する目的であること。
業務妨害のおそれ
具体的な業務妨害が発生している場合はもちろんのこと、妨害が発生するおそれが生じた時点で偽計業務妨害罪が成立する可能性がある。
たとえば、店舗前でのデモによって客の出入りが妨げたり、工場の敷地内に無断で侵入し機械を破壊して生産活動を停止させるような行為が該当します。殺害予告や爆破予告といった行為も威力業務妨害に該当します。
電子計算機損壊等業務妨害罪
電子計算機損壊等業務妨害罪は、コンピューターやそのシステムに対する不正な操作を行い、他人の業務を妨害する行為に対して適用されます。刑法第234条の2に定められています。
電子計算機損壊等業務妨害罪に対する罰則は、5年以下の懲役または禁錮、または100万円以下の罰金です。システムを対象とした妨害行為は影響の範囲が広く、偽計業務妨害罪、威力業務妨害罪と比較して刑罰の内容が重くなっています。
電子計算機損壊等業務妨害罪が成立するためには、以下の要素が必要です。
コンピューターの不正使用
コンピューターやその他の電子計算機の機能を不正に使用すること(例:不正アクセス行為やウイルスの送信)。
データの改ざんや消去
コンピューターに保存されているデータを不正に改ざん、消去、またはその利用を妨害すること。
業務の妨害
上記の行為によって、実際に他人の業務を妨害する結果またはそのおそれが生じること。
たとえばホームページの内容を勝手に改ざんしたり、会社のシステムにウイルスを送りつけて感染させる行為、ハッキング行為などが該当します。
営業妨害行為は業務妨害罪以外の犯罪となるケースも
営業妨害行為はその内容によっては、以下のような業務妨害罪以外の犯罪にも該当する可能性があります。
- 信用毀損罪
- 名誉毀損罪
- 脅迫罪
- 強要罪
- 暴行罪・傷害罪
- 器物損壊罪
- 不退去罪
- 公務執行妨害罪
営業妨害で刑事告訴を行うメリットと手順
営業妨害の被害を受けた場合は上記で説明したとおり業務妨害罪やその他の犯罪に問える可能性があり、被害事実を捜査機関に申告し処罰を求めること(刑事告訴)ができます。
業務妨害罪は「親告罪」ではないため、被害の内容によっては自ら刑事告訴を行わなくとも、警察側で捜査が進んでいく場合もあります。しかしながら営業妨害の実態としては、ネット上の脅迫や店舗でのクレームなど外からは知り得ないものも多いため、被害者自らが申告を行わないと警察も動いてくれない可能性が高いです。
刑事告訴することで、加害者に対して適切な罰を求められ、法的拘束力を伴った今後の業務妨害行為の防止に期待できるでしょう。
ただし、告訴を行っても検察が起訴すべきだと判断しなければ刑事裁判には進めません。また刑事裁判に進んだ場合も、判決が出るまでに長期間を要する可能性があることは念頭に置いておきましょう。さらに、裁判によって有罪判決が下されるかどうかはもちろん保証されません。
そのため刑事告訴を有効に進めるためには、必要なステップを理解し入念に準備を行っていく必要があります。
証拠収集を行う
警察に被害の事実を認めてもらい刑事告訴を受理してもらうためにも、妨害行為の証拠集めは非常に重要なステップとなります。目撃者の証言、写真やビデオ映像、通信記録、業務妨害の影響を受けた結果の記録など、証拠になりうるものはできる限り多く収集しておきましょう。
告訴状を作成する
告訴状には、被害者の情報、被告訴人(業務妨害を行ったとされる人)の情報、業務妨害行為の具体的な内容と証拠を明記します。定められた書式はありませんが、加害者に対して刑罰を求める旨を明記し、被害事実をなるべく具体的に記載しましょう。ただし、どのような事実に基づいてどの犯罪が成立するといった法的な要件を理解していないと告訴状の作成は難しいです。告訴状の作成は弁護士等の専門家に依頼することをおすすめします。
警察へ提出する
告訴状を最寄りの警察署に提出します。警察が告訴を受理すれば、事実関係を調査した後、必要に応じて検察官に事件を送致します。しかしながら、実際にはなかなか刑事告訴を受理してもらえないケースが多いのも事実です。告訴を受理してもらうには証拠収集や告訴状の内容が重要なりますので、早い段階から弁護士にサポートを依頼していくのが無難でしょう。
損害賠償請求を並行して行う
刑事告訴と平行して損害賠償請求を行うと、示談交渉が進みやすい可能性があります。
刑事告訴は刑法に則って加害者に対し刑罰を求めるものですが、損害賠償請求は民事上の手続きで、加害者に損害に対する金銭的な補償を求めるものです。
加害者は「なんとか刑事罰は避けたい」という感情から、金銭による解決手段を提示することでそれに応じやすくなる可能性があります。
被害者としても、刑事告訴による訴訟手続きは時間的にも精神的にも大きな負担になりえますから、示談による和解という道を探るメリットも考えてみてよいでしょう。
営業妨害で損害賠償請求を行う流れ
先に解説したとおり、営業妨害に対しては民事上の手続きとして損害賠償請求という手段をとることもできます。
法的手段に移る前に取りうる選択肢と合わせて、その流れを解説します。
①加害者を特定する
被害を訴えるためにも加害者を特定する必要があります。
店先での被害の場合は直接加害者から情報を聞き出す手段もありますが、トラブルを避けるためにも速やかに警察に通報しましょう。逃げられてしまった場合は目撃者の証言を残しておいたり、防犯カメラの映像を警察へ提出するのが有効です。
インターネットやSNS上での被害の場合、加害者の特定は困難に思えますが、発信者情報開示請求という手段で特定が可能です。
サイト管理者やプロバイダ等に対して、書き込みを行った人物に関する情報の開示を求めることができます。個人情報も関連してくるため一般に任意での開示請求は困難ですが、仮処分命令や訴訟の申立を行うことで、法的な拘束力を持って開示を行えます。ただし裁判所との複雑なやり取りが発生するため、手続きは弁護士に依頼することをおすすめします。
発信者情報開示請求にかかる費用や手続きの流れは以下の記事で詳しく解説しています。
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②証拠収集を行い損害額を算定する
営業妨害を巡る裁判においては、相手方が自身の行為を否定し損害賠償を拒否してくるようなケースも容易に想定されます。
被害に遭った事実を明確にし、それらを裏付けるための十分な証拠を用意することが重要です。また、請求する損害額はそれらの証拠に基づいた妥当な金額である必要があります。
この内容が裁判の結果を大きく左右しますので、トラブルを認識した時点
③内容証明郵便を送付する
加害者の特定や証拠収集等の事前準備が終わったら実際に損害賠償請求の手続きに入っていきますが、内容証明郵便という書面による手続きを介して行われるのが一般的です。
内容証明郵便は送付した文書の内容と送付日時が公的に証明される郵便サービスのことで、発生した事実を証拠として残すためにも役立ちます。営業妨害の事実を記載し、行為者に対して損害賠償請求や示談を求める文書を送付できます。
内容証明郵便を送付することで、裁判手続きに入る前の警告にもなり、相手方に圧力をかけられます。この時点で相手が事実を認め示談に応じれば、裁判に進むことなく早期に問題を解決できる可能性があるでしょう。示談交渉により和解がかなった場合は、後のトラブルを避けるためにも示談書という形で書面に記録しておくのが有効です。
内容証明郵便の送付は比較的費用が低く、手続きも簡単なのも特徴の一つです。ただし、以下のようなデメリットもあるので注意してください。
- 法的強制力がない:受取人に対して法的な強制力を持つわけではない。相手の行動を強いるものではない。
- 相手の反応を予測できない:内容証明郵便を受け取った相手が、積極的に対話や解決に応じるとは限らない。
- 解決に時間がかかる場合がある:内容証明郵便を送付しても、相手からの応答を待つ必要があり、それに対する対応を再考する必要が出てくる可能性がある。問題の早期解決が困難になる場合がある。
内容証明郵便については以下の記事でより詳しく解説しています。
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④民事訴訟を提起する
相手方が加害事実を認めなかったり示談交渉が失敗に終わった場合、最終的に民事上の手続きとして訴訟を提起することとなります。
民事訴訟とは、裁判所に訴えを提起し、生じた損害の賠償や行為の差し止めを求める手続きのことです。
裁判所の判断により、損害賠償の支払いや行為の差し止めを法的に強制でき、裁判手続きを通じて問題の公正な解決が期待できるでしょう。
ただし、民事訴訟においてもデメリットや注意点があります。
民事訴訟は、時間がかかるうえに、訴訟費用や弁護士費用など多くの費用が発生します。訴訟が長期化すると、これらの負担はさらに増えてしまうかもしれません。
さらに、訴訟の結果は予測が難しく、期待した結果を得られるとは限りません。裁判所による判断が当事者の期待と異なる場合も十分にありえます。経験豊富な弁護士に相談し、訴訟戦略や可能性についてのアドバイスを受けることが望ましいでしょう。
民事訴訟の流れについては、こちらの記事もご覧ください。
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営業妨害・業務妨害被害に遭ったら早期に弁護士に相談を
営業妨害の被害は、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。
営業妨害の問題は複雑で、法律的な知識を必要とします。弁護士に助けを求めることで解決する最適な方法を提案してくれ、これ以上の被害が出ないよう対処してくれます。
営業妨害・業務妨害を弁護士に相談するメリット
弁護士に相談することで、次のようなメリットが得られます。
- 証拠の収集や保全が難しい場合、法的な手続きを通じて証拠を確保する方法をアドバイスしてくれる
- 証拠の有効性や関連性を評価し、裁判での証拠提示の戦略を立ててくれる
- 訴訟に進む前に和解を試みたい場合、相手方にとって有利な条件を引き出してくれる
- 内容証明郵便の送付や民事訴訟・刑事告訴などの手続き、必要書類の準備、戦略の立案などをサポートしてくれる
- 損害賠償の請求を考えている場合に、損害の詳細な評価を行い、適切な損害賠償額を請求してくれる
弁護士に相談する際は、事前に関連する資料や情報を整理しておくとスムーズでしょう。また、複数の弁護士に相談して信頼を感じる弁護士を選ぶことが重要です。
営業妨害の問題は、企業の信用に影響を及ぼしかねません。早期解決を図るためにも、弁護士から助言を得ることが望ましいでしょう。
被害に備えて弁護士保険に加入しておくのがオススメ
営業妨害の被害に備えて弁護士保険に加入しておくことも、多くの企業や個人事業主にとって賢明な選択といえます。
弁護士保険は、法的な問題が生じた際にかかる弁護士費用をカバーする保険です。
法的トラブルに対応するためには、弁護士に依頼する必要がありますが、高額な費用がかかることが一般的です。弁護士保険に加入しておくことで、これらの費用負担を大幅に軽減できるでしょう。
企業経営は、営業妨害以外にも予期せぬ法的トラブルに巻き込まれる可能性があります。弁護士保険に加入していれば、あらゆるトラブルにかかる弁護士費用を保険が補償してくれます。
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記事を振り返ってのQ&A
Q.営業妨害は、どのような行為がありますか?
A.営業妨害には、偽の情報を拡散する行為やなりすまし行為、店内で騒動を起こす行為が挙げられます。
Q.営業妨害は犯罪として訴えられますか?
A.訴えられる可能性があります。具体的には、偽計業務妨害罪、威力業務妨害罪、電子計算機損壊等業務妨害罪が成立する可能性があるでしょう。
Q.営業妨害に対する法的措置はどのようなものがありますか?
A.内容証明郵便の送付、民事訴訟の提起、刑事告訴があります。それぞれ法的な複雑さを伴うため、弁護士に相談して進めることをおすすめします。