SNSやYouTubeなど、誰もが自分の考えや思いを自由に発信できる時代となりました。その反面、悪意のある書き込みや心無いコメントが増えているのも事実です。
誹謗中傷など悪質な嫌がらせに悩まされている方は、発信者情報開示請求で加害者を特定し法的措置を検討している方も多いでしょう。そこで気になるのが、情報開示請求にかかる費用です。そもそも費用が発生するの?と疑問を抱く方もいるでしょう。
本記事では、発信者情報開示請求にかかる費用相場について解説します。
ネットトラブルに悩まされている方は、ぜひ参考にしてみてください。
こんな疑問にお答えします
A.発信者情報開示請求を自分で行う場合の費用相場は、事案によって異なりますが10万円〜30万円程度です。
手続きには裁判所とのやりとりが発生するケースが大半で、開示請求を行う上で注意すべき点もあります。弁護士のサポートを受けることも視野に入れてみましょう。
発信者情報開示請求にかかる費用相場
発信者情報開示請求にかかる費用相場は、自分で行う場合と弁護士に依頼する場合とで異なります。
まずは、自分で行う場合の相場を紹介します。
発信者情報開示請求を自分で行う場合の費用相場は、10万円〜30万円程度です。
厳密にかかる費用はケースバイケースですが、大体このくらいが目安です。
開示請求の手順は、以下の2段階です。
- サイト管理者に対する開示請求
- プロバイダに対する開示請求
それぞれの手順とかかる費用を解説していきます。
サイト管理者へ開示請求した際にかかる費用
発信者の氏名や住所を特定するには、まず書き込みが行われたサイト管理者に対して、発信者のIPアドレスや発信時間などの開示請求を行います。
このとき、サイト管理者に任意で開示を求めることもできますが、応じてもらえることはほぼありません。
裁判所の手続きを行う必要があると理解しておきましょう。
サイト管理者へ任意で開示請求する場合
まず、任意で開示請求を行う際にかかる費用は、発信者情報開示請求書をサイト管理者へ送付する数百円程度の郵送代です。
発信者情報開示請求書を送付する際は、以下の書類を用意します。
- 本人確認書類
- 発信者情報開示請求書に押印した印鑑の印鑑登録証明書(3ヶ月以内)
- 権利侵害を証明する資料(URLではなくスクリーンショットの印刷分など)
- その他必要に応じた書類
ここで、発信者情報開示請求書を送付できるのは、本人または弁護士など代理人に限られることに注意してください。
しかし残念ながら、サイト管理者側にも発信者の個人情報を守る義務があるため、応じてもらえる可能性は低いでしょう。
そこで、裁判所からサイト管理者に対して発信者のIPアドレスや発信時間などの情報開示をするよう命令してもらう必要があります。
仮処分命令の申立で開示請求する場合
裁判所を通じて発信者のIPアドレスや発信時間の開示を求める際は、仮処分命令の申立を行います。
仮処分命令では、以下の費用がかかります。
送達用予納郵券:1,000円程度
担保金:10〜30万円程度
上記を見る限り、担保金が大半を占めていることが分かりますね。
裁判所が仮処分を認めた場合、まず担保決定が行われます。
そこで決められた金額を担保として納める必要があるのです。
プロバイダへ開示請求した際にかかる費用
IPアドレスを無事に取得できたら、次はプロバイダに対して発信者の氏名や連絡先の開示請求を行います。
プロバイダとは、回線とインターネットを繋げる役割を担う事業者のことです。例えば、フレッツ光やOCNが代表例です。
プロバイダへの開示請求も同様に、裁判所の手続きを利用するケースがほとんどです。ここでは、任意で求める場合の費用から解説します。
任意で開示請求を行う場合
プロバイダの場合、問い合わせフォームを設けているところが多く、そこから連絡すれば費用負担はありません。
繰り返しになりますが、プロバイダに関しても任意で簡単に応じてもらえることはほとんどなく、裁判所の手続きを行う必要があります。
発信者情報開示請求訴訟を行う場合
裁判所では、プロバイダに対して発信者の個人情報を開示するよう求める「発信者情報開示請求訴訟」を起こします。
発信者情報開示請求訴訟でかかる費用相場は、以下の通りです。
送達用予納郵券:6,000円(裁判所によって異なる)
最終的に裁判所にて開示請求が認められれば、プロバイダ側から発信者の氏名・住所・メールアドレス等の個人情報が開示されます。
以上が、発信者情報開示請求を行う流れと費用相場です。
開示請求にかかる期間は、事案によって異なりますが大体9〜10ヶ月程度とされています。
2022年10月の改正後の発信者情報開示命令も利用できる
2022年10月に改正された発信者情報開示命令という方法もあります。
改正後の開示命令の主な特徴は、従来2回に分けて裁判所での手続きをしなければならなかったところを、改正後は1回の裁判手続きで発信者の特定が可能になった点です。
【従来の発信者情報開示請求の流れ】
①サイト管理者を相手方とする仮処分の申立
②プロバイダを相手方とする訴訟提起
→加害者特定
【改正後の発信者情報開示命令】
①発信者情報開示命令に関する裁判手続き
→加害者特定
改正後では、開示命令の申立に伴う「提供命令」や「消去禁止命令」の申立を行えるようになったため、この時点で加害者特定が可能になりました。
提供命令:サイト管理者に発信者が利用するプロバイダ情報を提供するよう命じること
消去禁止命令:プロバイダにログイン履歴を消さないよう命じること
※提供命令と消去禁止命令は、開示命令を申し立てないと行えません。
改正後はサイト管理者への申し立てた裁判所で、加害者特定に必要な手続きの全てをまとめて処理できるのです。
では、改正後の費用相場面を具体的に見ていきましょう。
発信者情報開示命令の裁判手続きにかかる費用は、以下のとおりです。
サイト管理者に対する申立の印紙代:1,000円
プロバイダに対する申立の印紙代:1,000円
提供命令申立の印紙代:1,000円
消去禁止命令申立の印紙代:1,000円
郵便料:サイト管理者とプロバイダへ各数千円前後(裁判所によって異なる)
郵便料の納付については、裁判所の「郵便料の納付について」をご覧ください。
裁判所で開示が認められれば、発信者の氏名や住所が入手できます。申立内容によっては電話番号やメールアドレスまで開示されます。
発信者情報開示命令で発信者特定までにかかる期間は、3〜6ヶ月と従来の開示請求よりも短期間で進みます。
発信者情報開示請求にかかる費用相場|まとめ
従来の開示請求と新制度の方法の費用相場を表にまとめました。
開示請求の方法 | 内訳と費用相場 |
---|---|
従来型の発信者情報開示請求 | サイト管理者に対し仮処分命令を申立てる際の費用 収入印紙代:2,000円程度 予納郵券:数千円程度 担保金:10万〜30万円程度 プロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を起こす際の費用 |
2022年10月の改正後の発信者情報開示命令 | サイト管理者に対する申立の印紙代:1,000円 プロバイダに対する申立の印紙代:1,000円 提供命令申立の印紙代:1,000円 消去禁止命令申立の印紙代:1,000円 サイト管理者とプロバイダへ予納郵券:数千円前後 |
従来の方法と改正後の方法のどちらを選択すべきかというのは一概に言えず、事案によって異なります。
確実にトラブルを解決するためにも、専門家に相談して進めてみてください。
発信者情報開示請求を弁護士に依頼した場合の費用相場
これまでの解説を見る限り、被害者がサイト管理者やプロバイダに直接交渉しても応じてもらえないケースが多く、裁判所とのやりとりは避けられなくなります。
慣れない手続きが重なることに対し、弁護士への依頼を検討している方もいるでしょう。そこで気になってくるのは費用面ですよね。
基本的に、弁護士費用は「着手金」と「報酬金」の2種類に分けられます。
着手金とは、弁護士にトラブル解決を依頼した際に支払うもので、報酬金は事件終了後に支払うものです。
ここからは、上記2種類の費用がどの段階でいくらかかるのか紹介していきます。
サイト管理者やプロバイダへの開示請求する場合の弁護士費用
おさらいになりますが、発信者を特定するには「サイト管理者」と「プロバイダ」に開示請求を行う必要があります。
前項でお伝えした通り、サイト管理者やプロバイダは任意で開示請求を行っても応じてもらえないケースがほとんどです。
裁判所の手続きが必要になると覚えておきましょう。
任意で開示請求する場合にかかる弁護士費用
まず、任意で開示請求する際にかかる弁護士費用の相場です。
着手金:5〜10万円程度
報酬金:10〜20万円程度
トラブル内容や事案の複雑さによって費用が異なります。実際にかかる金額は、法律事務所で確認してみましょう。
裁判上の開示請求でかかる弁護士費用
続いて、裁判上の開示請求でかかる弁護士費用についてご紹介します。
前項でお伝えした通り、サイト管理者やプロバイダは任意で開示請求を行っても応じてもらえないケースがほとんどです。
サイト管理者に対しては仮処分命令の申立をし、プロバイダに対しては発信者情報開示請求訴訟を起こす必要があります。
それぞれの手続きで必要な弁護士費用の相場は、以下のとおりです。
【サイト管理者に対する仮処分命令の申立をする場合】
着手金:20〜40万円
報酬金:10〜20万円
【プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟を起こす場合】
着手金:20〜30万円
報酬金:10〜20万円
2022年10月の改正後の発信者情報開示命令を利用する場合
2022年10月の改正後の発信者情報開示命令を利用する際の弁護士費用の相場は、以下のとおりです。
着手金:10〜30万円
報酬金:10〜20万円
改正後の方法は、まだ開始されたばかりということもあるため従来の方法を選択した方がよいケースも考えられます。
どちらで進めるかは、弁護士に相談して決めてみてください。
損害賠償請求をする場合の弁護士費用
トラブルの内容によっては損害賠償請求を検討している方もいるでしょう。
発信者情報開示請求によって発信者を特定した後、不法行為として損害賠償を請求できます。
弁護士に一任することで、開示請求後の対応もまとめて依頼できます。
損害賠償請求の訴訟を依頼した際の弁護士費用の目安は以下のとおりです。
着手金:20〜30万円
報酬金:法律事務所や事案によって異なる
報酬金については法律事務所によって異なりますが、勝訴した金額の16%が目安です。
また、一般的に誹謗中傷に対する慰謝料は、10〜70万円の範囲に留まるケースが多いようです。
実際の金額は、法律事務所に相談してみましょう。
発信者情報開示請求を弁護士に依頼するメリット
ここで、開示請求を弁護士に依頼するメリットを解説します。
手続きの速さと確実性
一番のメリットは、手続きの速さと確実性です。
裁判所の手続きには法律の専門知識が不可欠なので、法律のプロに一任した方がスムーズです。
また、IPアドレスには保存期間があるためスピード感が重視されます。
ほとんどのプロバイダは、IPアドレスを3か月から半年しか保存していません。
保存期間を過ぎると発信者特定は困難となるため、効率よく進めないといけません。
弁護士であれば、スピード感を持って不備なく解決を目指せます。
開示請求後の対応も一任できる
先ほどお伝えした通り、弁護士であれば開示請求後の損害賠償請求の対応も行ってもらえます。
被害者側からすると、加害者と直接やりとりすること自体は精神的負担が大きいものです。
弁護士に依頼することで、加害者と被害者が顔を合わせることなく対応を一任できます。
必要あれば刑事告訴も対応してもらえる
刑事告訴にも対応してもらえる点もメリットです。
トラブル内容に事件性や犯罪性が考えられる場合、法の裁きが必要になるケースも少なくありません。
こうした場合は、弁護士に依頼すれば刑事告訴も可能です。
開示請求にかかった費用を加害者に請求することは可能?
弁護士へ一任するメリットがある反面、開示請求を行うにはどうしても費用負担が発生してしまいます。
できることなら、開示請求にかかった費用を加害者に請求したいと思う方も多いでしょう。
結論、開示請求にかかった費用は、加害者に請求できる可能性があります。
先ほど、トラブルの内容によっては民法上の不法行為を理由とする損害賠償請求が認められる可能性があると解説しました。
請求認容額の10%程度であれば、開示請求時にかかった弁護士費用を加害者に請求できる余地があるとされています。
請求できる金額は事案によって異なります。
ただ、過去に開示請求にかかった弁護士費用を全額請求を認めた事例もあるため、自身のケースがどうなりそうかは弁護士に相談してみてください。
発信者情報開示請求にかかる弁護士費用の負担を軽減する方法
加害者へ弁護士費用を請求できるとはいえ、発信者情報開示請求にかかる弁護士費用は安いものではありません。
ここからは、負担を軽減する方法をご紹介します。
法律事務所に見積もりを取り、金額設定の低いところへ依頼する
依頼前に何人かの弁護士に見積もりをとり、その中で安いところへ依頼してみましょう。
法律事務所によっては無料相談を受け付けているところもあります。
弁護士の選び方や無料相談できる窓口については、以下の記事で解説しています。参考にしてみてください。
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弁護士費用に不安を感じたら弁護士保険を活用する
安く依頼できる弁護士を見つけたとしても、やはり弁護士費用に負担を感じる人も多いでしょう。そこでおすすめしたいのが、弁護士保険です。
弁護士保険は、日常生活の個人的トラブルや事業活動の中で発生した法的トラブルに対し、弁護士を利用した時にかかる弁護士費用を補償する保険サービスです。
通常、弁護士を通してトラブルを解決しようとすると、数十万から数百万単位の弁護士費用がかかる場合があります。
弁護士保険に加入しておくことで、法的トラブルが発生した場合に弁護士に支払う費用を抑えられます。
発信者情報開示請求は弁護士の助けが不可欠
発信者情報開示請求の手続き自体は、弁護士に依頼しなくても自分で行うことは可能です。
ただ、サイト管理者やプロバイダが任意で情報を開示するケースはほとんどなく、裁判所での手続きが必須です。
弁護士に依頼することで、裁判所との手続きや開示請求後の対応も一任でき、被害者の負担が軽減されます。スピード感を持って解決を目指せます。
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記事を振り返ってのQ&A
Q.発信者情報開示請求の費用相場を知りたいです。
A.発信者情報開示請求を行う場合の費用相場は、10万円〜30万円程度です。ただし、厳密にかかる費用は事案によって異なります。
Q.発信者情報開示請求は裁判所の手続きは必要ですか?
A.必要となるケースが大半です。サイト管理者やプロバイダへ任意で開示請求をしても個人情報の守秘義務の観点から応じてもらえることは少なく、どうしても裁判所を通して開示請求を行う必要があるからです。
Q.発信者情報開示請求を弁護士に一任した場合の費用相場はどれくらいですか。
A.基本的に、弁護士費用は「着手金」と「報酬金」の2種類に分けられます。以下を参考にしてみてください。
【サイト管理者やプロバイダへ任意で開示請求する場合】
着手金:5〜10万円程度
報酬金:10〜20万円程度
【サイト管理者に対する仮処分命令の申立】
着手金:20〜40万円
報酬金:10〜20万円
【プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟を起こす場合】
着手金:20〜30万円
報酬金:10〜20万円
Q.開示請求にかかった費用を加害者に請求することは可能ですか?
A.請求できる可能性があります。請求認容額の10%程度であれば、開示請求時にかかった弁護士費用を加害者に請求できる余地があるとされています。
Q.発信者情報開示請求にかかる弁護士費用の負担を軽減する方法はありますか?
A.法律事務所に見積もりを取り、金額設定の低いところへ依頼する、または弁護士保険を利用する方法があります。
Q.発信者情報開示請求は、どうしても弁護士に依頼しないと難しいものでしょうか?
A.開示請求の手続き自体は自分で行えますが、裁判所の手続きは法律の専門知識が必要となるため一般の方では難しい部分も出てきます。
弁護士に依頼することで、裁判所との手続きや開示請求後の対応も一任でき、被害者の負担が軽減されます。スピード感を持って解決を目指せます。