名誉毀損は時効がある!誹謗中傷や悪質行為に法的措置がとれる期間とは?

名誉毀損によって苦しんだ被害者にとって、加害者を処罰したいという気持ちは大きいものです。

ただ、「名誉毀損罪で犯人を処罰するといっても、いつまでに行えばいいの?」「被害を受けてから時間が経過しているけど、訴えることはできるの?」と、法的措置をとるためのタイミングに迷っている方もいるでしょう。

結論をいうと、名誉毀損罪で法的措置をとるには「時効」があるためタイミングが重要です。

そこで本記事では、名誉毀損罪の時効を解説し、ネット犯罪における注意点も紹介します。

悪質な誹謗中傷に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。

こんな疑問にお答えします

Q.名誉毀損罪で加害者を訴えようと思います。時効はありますか。

A.刑事と民事でそれぞれ時効が定められています。刑事上における名誉毀損の時効は「公訴時効は3年」「告訴期間は6ヵ月以内」、民事上で損害賠償請求が可能な期間は「加害者を知ってから3年間」です。ネット上で被害を受けた場合は、犯人特定にかかる期間も考慮する必要があります。
いずれの手続きにおいても、法律的な判断をする必要があります。少しでも負担を軽減するためにも、法律のプロである弁護士に相談することをおすすめします。

そもそも名誉毀損とは?

名誉毀損とは、人前で具体的な事実を述べてけなし、相手の名誉を傷つける犯罪行為です。

刑法では、次のように定められています。

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法 | e-Gov法令検索

ここでいう事実とは、内容が真実かデタラメかどうかは関係なく、相手の社会的評価を下げる内容であることで違法行為として成立します。

たとえば、「〇〇は過去に刑務所に入っていた前科者だ」「〇〇は会社のお金を騙し取った詐欺師だ」などは、相手の社会的評価を下げるものとなるため名誉毀損罪となる可能性があります。

名誉毀損罪は、SNSやネット掲示板といったインターネット上のトラブルでも成立する犯罪です。

不特定多数の人が閲覧できるネット上で他者の評価を落とすような誹謗中傷を行った場合、加害者を名誉毀損の罪で処罰できる可能性があります。

近年、誹謗中傷による名誉毀損は増加傾向にあります。

SNSを通して悪口を書き込んだり、ネット掲示板で不利益になる情報を流したり、被害者を苦しめる執拗な嫌がらせ行為は社会問題となっているのです。

名誉毀損の成立要件や具体例については、こちらの記事で詳しく解説しています。

ご自身の状況が該当するかどうかの確認も含め、参考にしてみてください。

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名誉毀損の時効は刑事と民事で異なる

名誉毀損の被害者にとって、加害者を訴えたいという気持ちがあるのは当然でしょう。

そこで注意したいのが、名誉毀損には「時効」があるということです。

名誉毀損における時効は「刑事」と「民事」で異なります。それぞれ見ていきましょう。

刑事上における名誉毀損の時効

刑事上における名誉毀損の時効は、以下のように定められています。

  • 公訴時効は3年
  • 親告罪の告訴期間は6ヵ月以内

公訴時効とは、犯罪が終わったときからカウントして一定期間が過ぎてしまうと加害者を罰することができなくなる期間のことです。

たとえば、ネットで誹謗中傷を受けて名誉毀損として訴えたい場合は「犯罪が終わったタイミング=書き込みが終わったとき」から3年で公訴時効が完成します。

つまり、犯罪があった日から3年が過ぎると、加害者を処罰できなくなってしまいます。

また、告訴期間についても意識しなければなりません。

名誉毀損は、親告罪に該当します。

親告罪とは、被害者の告訴がない限り検察側は起訴できない犯罪のこと。

親告罪において告訴できる期間は「犯人を知った日から6カ月」と定められています。

名誉毀損で公訴を提起するには、犯人を知ってから6ヶ月以内に「犯人を罰してください」と告訴状を提出しないと、裁判にかけることが難しくなってしまいます。

ただ、ネット書き込みの場合は投稿者が誰なのか分からないケースもあるでしょう。

告訴できる期間は犯人を知った日からスタートなので、投稿者の名前や住所までは分からなくても、「アカウントを認識できた時点」と判断されることが一般的です。

刑事責任を問うのであれば、「犯人を知った日から6ヶ月以内に告訴状を提出する」「3年以内に公訴提起する」と覚えておきましょう。

民事上における名誉毀損の時効

名誉毀損は、民事上においても時効があります。

民事上における名誉毀損の時効は、損害を受けてから(加害者を知ってから)3年間です。

民事上で加害者に問える責任は損害賠償請求なので、名誉毀損で加害者に損害賠償請求ができる期間は加害者を知ってから3年間と覚えておきましょう。

また、加害者が分からないままのときもあるでしょう。

その場合は違法行為が行われてから20年間が過ぎると、民事責任を問えなくなってしまいます。

ネットでの名誉毀損の場合、不法行為があったこと自体に気が付かなかったということも少なくありません。

時間が経過してしまった不法行為を訴えたい方は、時効を考慮してすぐにでも行動を起こすことをおすすめします。

名誉毀損を含む不法行為は、被害者にとって大きな苦痛となります。精神的苦痛を理由に請求できるケースについては、以下の記事でまとめています。参考にしてみてくださいね。

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ネット書き込みによる名誉毀損を訴えるには注意が必要

名誉毀損を訴えるには、刑事・民事の時効以外に注意したい点があります。

それは、ネットの書き込みによる名誉毀損を訴える際に発信者情報開示を求めて、犯人を特定するケースです。

ネットでの誹謗中傷は、匿名で行うことが大半です。

犯人が分からなければ法的措置をとることが困難になる恐れがあるため、発信者情報開示請求をして相手の情報をプロバイダから開示してもらう必要があります。

ネットの誹謗中傷を訴えるには発信者開示請求をする必要がある

発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法の手続きのことです。

訴えたい書き込みが行われたサイト管理者に対してIPアドレスの開示を求め、そのIPアドレスをもとに通信事業者であるインターネットプロバイダを特定し、その事業者に対して犯人の名前や住所を開示してもらいます。

発信者情報開示の手続きは、プロバイダに任意で応じてもらえることはほとんどなく、裁判所の手続きが必要になるケースが大半です。

発信者情報開示で犯人を特定するには半年以上かかることも

発信者情報開示でプロバイダから開示してもらうまでの期間は、一般的には半年以上、スムーズにいっても4ヶ月はかかるといわれています。

2020年10月以降に改正された発信者情報開示命令では、それまで二段階必要であった手続きが一度の手続きでまとめられましたが、それでも開示までに3ヶ月を要すると考えておいた方がいいでしょう。

IPアドレスの保存期間にも注意する

さらに、プロバイダによるIPアドレスの保存期間にも時間制限があります。

ほとんどのプロバイダは、IPアドレスを3か月から半年しか保存していません。

この保存期間を過ぎると発信者特定は難しくなり、損害賠償を請求できない可能性が高くなります。

名誉毀損の公訴時効は3年です。

発信者情報開示の手続きで半年以上かかることを考慮すると、早期に動いた方が得策といえるでしょう。

また、発信者情報開示で犯人を特定するには一定の費用がかかります。

自力で行うか専門家に依頼するかによっても費用が異なるので、ご自身の状況や予算に合わせて検討してもいいでしょう。

発信者情報開示にかかる費用相場については、こちらの記事をご覧ください。

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名誉毀損の時効までに法的措置をとる流れ

では、名誉毀損の時効が完成するまでに法的措置をとる流れを「刑事」と「民事」に分けて解説します。

刑事告訴の流れ

刑事告訴で加害者を処罰する基本的な流れは、以下のとおりです。

  1. 被害証拠を集めたうえで警察に相談する
  2. 告訴状を提出する

繰り返しになりますが、名誉毀損は親告罪です。告訴をするには「犯人を知った日から6カ月以内」に行いましょう。

被害証拠を集めたうえで警察に相談する

まず、被害証拠を集めてから警察に相談しにいきましょう。

証拠がなければ警察は捜査を開始することが難しく、法的措置をとれない可能性があるためです。

名誉毀損の被害証拠は、以下のようなものが有効です。

(ネット上の場合)

  • 被害を表す投稿やコメントのスクリーンショット
  • 加害者のアカウント情報やユーザー名の分かるスクリーンショット

(ネット以外の場合)

  • 加害者の発言を録音したもの
  • 目撃者の証言を記録したもの

どのような証拠が有効なのか分からない場合は、警察に尋ねてみてください。

ほかにも、弁護士へ相談して証拠の集め方のアドバイスを得るのもおすすめです。

告訴状を提出する

次に、告訴状を作り警察に提出します。

告訴状には、名誉毀損罪の要件に沿って被害内容を記載します。

告訴の方法は口頭でも問題ありませんが、一般的には告訴状を作成する方が多いでしょう。

告訴状が受理されると、警察側で捜査が始まります。

その後、相手が起訴か不起訴かが判断され、起訴の場合は裁判にて有罪か無罪か判決が下されます。

民事上で損害賠償請求をする流れ

民事上で損害賠償請求をする流れは、以下のとおりです。

  1. 加害者を特定する(発信者情報開示請求をする)
  2. 加害者に損害賠償請求をする(内容証明郵便等も利用する)

民事上においても、損害を受けてから(加害者を知ってから)3年間のうちに行うようにしましょう。

加害者を特定する(発信者情報開示請求をする)

損害賠償を求めるには、まず加害者を特定する必要があります。

ネット上の犯罪は匿名で行っているケースが多く、犯人を特定するには発信者情報開示を進めることになります。

開示請求の手続きは、改正前と改正後の2つの方法があります。

  • (改正前)発信者情報開示請求
  • (改正後)発信者情報開示命令

改正前と改正後では、加害者特定をするための手続きの回数が異なります。

どちらの方法をとることが有効か事案によって異なるため、専門家のアドバイスを受けて進めることをおすすめします。

ネット犯罪で犯人を特定する方法については、こちらの記事でも解説しています。併せてご覧ください。

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加害者に損害賠償請求をする(内容証明郵便等も利用する)

加害者を特定した後は、損害賠償請求をします。口頭でも問題ありませんが、可能な限り書面で請求することをおすすめします。

書面で請求する際は、内容証明郵便を利用するといいでしょう。

内容証明郵便とは、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の書面を送付したか」を証明できる郵便のこと。手元にも控えが残るため、もし相手が「そんなの受け取っていない」「見覚えがない」と言ってきても言い逃れができなくなります。

名誉毀損で内容証明を作成する際は、こちらの記事で詳しい書き方を紹介しています。参考にしてみてください。

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名誉毀損には時効がある!早期解決を目指すなら弁護士への依頼も視野に

名誉毀損で加害者を処罰するには、刑事・民事それぞれに時効があります。

刑事上における名誉毀損の時効は「公訴時効は3年」「告訴期間は6ヵ月以内」、民事上で損害賠償請求が可能な期間は「加害者を知ってから3年間」です。

また、ネット上で被害を受けた場合は、犯人特定にかかる期間も考慮する必要があります。

いずれの手続きにおいても、法律的な判断をする必要があります。

さらに、被害状況によっては精神的負担が増してしまう可能性もあるでしょう。

少しでも負担を軽減するためにも、ぜひ法律のプロである弁護士に相談してみてください。

弁護士へ相談するメリット

名誉毀損の被害を弁護士に相談することで、以下のメリットがあります。

  • 法律をもとにした専門的なアドバイスを受けられる
  • 法的措置の手続きを一任できる
  • 加害者への慰謝料請求にも応じてくれる

法的措置をとるには時効や期間が定められているため、経験豊富な弁護士であればスムーズな解決を目指せます。

法律事務所や窓口によっては、初回無料で相談を受け付けているところもあります。

窓口については、以下の記事を参考にしてみてくださいね。

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通常、弁護士を通してトラブルを解決しようとすると、数十万から数百万単位の弁護士費用がかかる場合があります。

弁護士保険に加入しておくことで、法的トラブルが発生した場合に弁護士に支払う費用を抑えられます。

時効までに名誉毀損の被害を解決するためにも、弁護士保険も視野に入れましょう。

法人・個人事業主の方で法的トラブルにお困りの場合には、法人・個人事業主向けの弁護士保険がおすすめです。

弁護士保険の特徴について詳しくは、こちらの記事で解説しています。

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記事を振り返ってのQ&A

Q.名誉毀損罪で加害者を訴えようと思います。時効はありますか。
A.あります。刑事と民事でそれぞれ時効が定められています。刑事上における名誉毀損の時効は「公訴時効は3年」「告訴期間は6ヵ月以内」、民事上で損害賠償請求が可能な期間は「加害者を知ってから3年間」です。ネット上で被害を受けた場合は、犯人特定にかかる期間も考慮する必要があります。

Q.ネット上の被害で犯人を特定をするにはどのくらいの期間がかかりますか?
A.犯人を特定するには発信者情報開示請求をし、プロバイダから情報を開示してもらう必要があります。犯人特定までにかかる期間は通常で半年以上、スムーズにいっても4ヶ月はかかるといわれています。
2020年10月に改正された発信者情報開示命令においても3ヶ月を要すると考えておいた方がいいでしょう。

Q.過去の誹謗中傷でも名誉毀損罪として訴えることはできますか?
A.どのくらい過去の被害かにもよりますが、名誉毀損罪は親告罪であるため「犯人を知った日から6ヶ月以内」に、告訴手続きをしなければなりません。また、犯人不明の場合においても犯罪が終わってから3年で公訴時効が完成してしまいます。過去の名誉毀損を訴えるには、時効完成までに行う必要があります。