他人の加害行動によって精神的苦痛を受けた場合は、苦痛の程度に対する慰謝料の請求が可能です。
ただし、今受けている苦痛が慰謝料請求の対象となるかは、法的根拠を満たしていることが必要です。
本記事では、どのようなケースで慰謝料請求が可能なのか、また慰謝料請求の流れを解説します。
何らかの被害で苦痛を感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
こんな疑問にお答えします
Q.精神的苦痛を理由に損害賠償請求は可能なの?
A.一定の条件を満たせば慰謝料を請求できます。具体的な法的根拠は、民法で定められています。
慰謝料の請求が認められる例は、暴力や傷害、ハラスメント、不当解雇などの労働問題、浮気や不倫、プライバシー侵害や名誉毀損、交通事故によって被った精神的苦痛が挙げられます。
精神的苦痛で慰謝料を請求するには、精神的苦痛を受けたことの証拠集めや加害者との話し合い、最終的に裁判へ移行することになります。
ただ、被害者にとっては、相手と直接会って話したり裁判手続きをすることは大きな負担となってしまいます。これ以上の苦痛を負わないためにも、弁護士の力を借りることも視野に入れてください。
精神的苦痛とは
精神的苦痛とは、痛みや悲しみ、恐怖などのストレスによって生まれる苦痛を指します。
心理的苦痛とも呼ばれ、メンタルヘルスでも用いられる言葉です。法律関係においては、精神的損害ともいわれます。
精神的苦痛が続くことで、以下のような症状が起こりやすくなります。
- 気分の低下や落ち込み
- 体重の減少、食欲不振
- 体重の増加、過食
- 熟睡できなくなる、夜中に目が覚めてしまう
- 1日中眠気が取れない
- これまで楽しめたことが楽しめなくなる
このように、精神的苦痛はメンタル面だけでなく、身体の不調にも影響を及ぼしてしまいます。
心身を守るためにもストレスに早めに気づき、苦痛の原因をできるだけ早期に取り除くことが望ましいのです。
精神的苦痛を理由に慰謝料請求は可能なのか
では、精神的苦痛の原因が他人の行為によるものや、外部からの損害を被ったものの場合、慰謝料を請求することは可能なのでしょうか。
結論として、一定の条件を満たせば慰謝料を請求できます。
まず、一般的に慰謝料と呼ばれるものは「精神的苦痛に対する損害賠償」のことを示します。
民法上では、精神的苦痛を理由とする損害賠償が認められる法的根拠として、民法709条と710条、民法415条が挙げられます。それぞれ確認していきましょう。
民法709条による規定
民法709条において、損害賠償に関する法的根拠を次のように定めています。
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用:民法|e-Gov法令検索
ここでいう不法行為とは、他人の不条理な行為や違法行為によって損害を受けた場合における根拠となるものです。
不法行為を行った加害者は、被害者に対して不法行為責任を負うことになります。つまり、損害を金銭に換算して賠償させるということです。
民法710条による規定
民法710条では、709条の中に規定されている財産権侵害の有無を問わず、精神的損害も含まれることを示しています。
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
引用:民法|e-Gov法令検索
この規定では、民法709条で示したような不法行為によって精神的苦痛を受けた場合に、損害賠償請求ができることを意味しています。
例えば、配偶者の不倫によって精神的ショックを受けた場合は、与えた側は償いとしてお金を支払うことになります。これが、一般的にいう慰謝料です。
民法415条による規定
慰謝料を請求する法的根拠として、民法415条の債務不履行も挙げられます。
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
引用:民法|e-Gov法令検索
債務不履行とは、何らかの契約によって相手に債務を負っている人が、定められた期日に支払いをしないことを指します。
この行為によって損害が生じた場合は、損害賠償請求の対象になり得ます。
規定上、債務不履行による損害に精神的苦痛を含むことは明記されていません。
しかし、債務不履行によって精神的苦痛を被っているようであれば、慰謝料請求が認められる可能性があるとされています。
このように、民法では損害賠償請求の根拠となる規定を定めているのです。
精神的苦痛で慰謝料を請求できる5つのケース
では、具体的にどのような行為を受けた際に精神的苦痛に対して慰謝料請求が認められるのか、5つのケースを例に見ていきましょう。
暴力・傷害
暴力や傷害を加えられたことによって受けた精神的苦痛は、加害者に対して慰謝料の請求ができます。
そもそも、人に暴力や傷害を加える行為自体、刑法の暴行罪・傷害罪という犯罪に当たります。
被害者は身体的被害だけでなく精神的にも大きなダメージを受けるため、慰謝料請求が認められているのです。
さまざまなハラスメント
ハラスメントによって受けた精神的苦痛に対しても、慰謝料を請求できる可能性があります。
ハラスメントの種類はさまざまですが、人格権侵害の不法行為に当たります。
例えば、職場での性的言動によるセクハラ、上司からのパワハラを始め、配偶者や交際相手からのモラハラといったものがイメージしやすいでしょう。
労働問題(不当解雇)
労働問題によって精神的苦痛を受けた場合にも、慰謝料を請求できる可能性があります。
最も代表的なものは、不当解雇による苦痛です。
会社が労働者に対して正当な理由なく解雇することは、不法行為に該当します。
見に覚えのない突然の解雇は、労働者にとっては私生活にも支障が出る重大な苦痛でしょう。
また、労働問題に関しては給料未払いや残業代未払いのトラブルもあります。
これは、債務不履行に当たるため、慰謝料の請求の対象となり得ます。
慰謝料の金額は状況次第で異なりますが、精神的苦痛の程度が重大であるほど高額になりやすいとされています。
浮気・不倫
浮気や不倫によって受けた精神的苦痛も、慰謝料請求が認められます。
婚姻している夫婦には、配偶者以外の人と肉体関係を持たない「貞操義務」という権利があります。この権利を放棄することで、不貞行為と見なされます。
もし、不貞行為を行った場合は権利を侵害したことになるため、不貞行為によって精神的苦痛を受けた場合に慰謝料の請求ができます。
ただし、状況によっては慰謝料を請求できないケースもあります。
慰謝料を請求できるケースとそうでないケースについては、下記の記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
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プライバシーの侵害や名誉毀損
プライバシーの侵害や名誉毀損によって受けた精神的苦痛に対しても、慰謝料の請求ができます。
プライバシーの侵害とは、本人が公にしていない私生活を第三者が無断で公開する不法行為です。
SNSが普及した現代では、プライバシーの侵害に関する被害は増加しており、私生活の情報だけでなく住所や電話番号まで公開されたという事例も少なくありません。
また、名誉毀損による不当行為によって心に深く傷を負ったり、社会的地位に影響が出る被害も増えています。
名誉毀損とは、不特定多数の人が認識できる公の場で事実を摘示しながら他人の名誉を傷付け、社会的地位を低下させる違法行為です。
一例として、ネットの掲示板で他者を誹謗中傷する内容の投稿をした、前科があると記載したビラを撒いたなど、人の信頼や評価を傷つける行為が挙げられます。
こうした行為は、被害者に精神的苦痛を与えるものとされ、慰謝料請求が認められやすくなります。
インターネットが普及した昨今では、SNSのコメント機能を使って攻撃する誹謗中傷が多発しています。
被害に遭った際の具体的な対策については、こちらの記事で解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
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このように、プライバシーの侵害や名誉毀損罪が成立する場合にも慰謝料が請求できるのです。
交通事故
交通事故による被害によって受けた精神的苦痛に対しても、慰謝料請求ができます。
ただでさえも精神的負担のかかる交通事故。
ケガの痛みや通院への負担、外出に対する恐怖を感じるようになるなど、トラウマとなることも少なくありません。
事故の程度に限らず、大なり小なり被害者は精神的苦痛を被ってしまいます。そうした苦痛から、加害者に対して慰謝料の請求ができるのです。
精神的苦痛で慰謝料請求するときの流れ
では、精神的苦痛によって慰謝料を請求するにはどのような流れで手続きを進めるのでしょうか。
今、苦痛を感じている最中の方もいらっしゃると思います。ぜひ参考にしてみてください。
精神的苦痛を受けたことの証拠を集める
まず、精神的苦痛を受けたことの証拠集めです。
集めた証拠は裁判になった際の有力な情報となるため、できる限りたくさん集めておくことをおすすめします。
精神的苦痛の程度は、人からは目に見えないものです。
正当な額の慰謝料を請求するためには、加害者や裁判官が苦痛の状況を理解できるようにできるだけ多くの証拠を集めるようにしましょう。
証拠集めの方法は状況にもよりますが、以下を参考に集めてみてください。
被害の種類 | 効果的な証拠 |
---|---|
ハラスメントや暴力・傷害による精神的苦痛 | 録画・録音 心療内科で治療した際は、医師の診断書 |
浮気・不倫による精神的苦痛 | 写真・LINEメッセージ・SNSのコメント・通話記録 |
労働問題(不当解雇)による精神的苦痛 | 会社との雇用契約書、就業規則 解雇通知書・解雇に関するやりとり(メールや文書) |
プライバシー侵害や名誉毀損による精神的苦痛 | ネット上であれば該当画面のスクリーンショット ネット以外であれば、会話の音声データ等 |
被害を受けているときは、証拠集めはさらなるストレスになることも考えられます。
その場合は、弁護士の力を借りることも視野に入れてみましょう。
加害者の情報を調べる
加害者の情報を調べておくことも大切です。具体的には、以下の情報があるといいでしょう。
- 加害者の氏名、住所、連絡先
- 加害者の勤務先
- 交通事故の場合は、加害者の車種やナンバー、加入している保険の名称
また、インターネットトラブルの場合は、加害者の情報が分からないケースもあります。
加害者を特定し慰謝料を請求するためには、情報開示請求を行う必要があります。
情報開示請求の方法については、こちらも記事も参考にしてください。
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当事者同士で話し合う
続いて、当事者同士での話し合いです。
話し合う内容は、被害状況や苦痛を受けた理由、慰謝料を請求する旨や支払う意思の確認です。
とはいえ、ハラスメントやDV、浮気や不倫といった状況を考慮すると、相手と直接会って話すこと自体が負担となるでしょう。
直接交渉が難しい場合は、弁護士を通して話し合ってもらうことも一つの手です。
調停で話し合う
話し合いがうまくまとまらない場合は、調停での話し合いを設けることになります。
調停とは、裁判所を通して話し合う場のことです。
話し合いの場には必ず調停委員が付き、当事者同士で話し合うよりもスムーズに慰謝料について交渉することができます。
話し合いや調停がまとまらなければ裁判となる
調停での話し合いもまとまらない場合は、裁判へ移行することになります。
裁判では、裁判官が双方の主張を踏まえて慰謝料請求が認められるかどうかを判断します。
裁判によって慰謝料の義務が下されたにも関わらず相手が応じない場合は、強制執行の申し立てが可能になります。
精神的苦痛で慰謝料請求する時は弁護士への相談がおすすめ
精神的苦痛に対して妥当な金額の慰謝料を請求するには、できるだけたくさんの証拠があると有効です。
とはいえ、精神的苦痛を受けている最中での証拠集めや交渉、書類作成、裁判手続きは、被害者の負担を倍増させてしまいます。
もし、何らかの精神的苦痛を感じていて慰謝料を求めるなら、ぜひ弁護士へ相談してみてください。弁護士へ相談することで、早期解決の糸口が見つかるかもしれません。
慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼することで、以下のメリットを得られます。
- 交渉や裁判をすべて一任できるため、加害者と直接交渉する際の精神的負担を減らせる
- 経験豊富な弁護士であれば、過去の判例をもとに適切な慰謝料を算出できる
- 精神的苦痛の理由によっては、慰謝料が増額される可能性もある
- 交渉に慣れている弁護士であれば、増額交渉が成功しやすい
全般として、弁護士を通すことで慰謝料を増額できる可能性が高くなります。
一度、弁護士へ相談してみることをおすすめします。
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弁護士保険に加入しておくことで、法的トラブルが発生した場合に弁護士に支払う費用を抑えられます。
精神的苦痛に対する慰謝料請求を考えている場合は、弁護士保険も視野に入れましょう。
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記事を振り返ってのQ&A
Q.精神的苦痛を理由に損害賠償請求は可能なの?
A.一定の条件を満たせば慰謝料を請求できます。精神的苦痛を理由とする損害賠償が認められる法的根拠として、民法709条(不法行為による損害賠償請求)と710条(財産以外の損害賠償請求)、民法415条(債務不履行による損害賠償請求)が挙げられます。
Q.具体的にどのようなケースで慰謝料を請求できるの?
A.暴力や傷害、ハラスメント、不当解雇などの労働問題、浮気や不倫、プライバシー侵害や名誉毀損、交通事故によって被った精神的苦痛が挙げられます。
Q.精神的苦痛で慰謝料を請求するには、どうすればいいの?
A.以下の手順で進めてみましょう。
- 精神的苦痛を受けたことの証拠集め
- 加害者の情報も調べておく
- 当事者同士で話し合う
- 調停で話し合う
- 話し合いに合意できない場合は裁判へ移行
被害状況を考慮すると、相手と直接会って話したり、裁判手続きをするには負担が大きいものです。心身の健康のためにも、弁護士の力を借りることも視野に入れてください。