殺害予告はどのように処罰される?問われる罪や逮捕基準を徹底解説

殺害予告は、多くの人に恐怖や不安を与える行為です。
これまでにも、殺害予告のニュースを目にしたことがある人は多いでしょう。

現在は、誰もが気軽にインターネット上へ書き込みができる便利な時代です。
しかし、それと同時に殺害予告などで悪用されるケースも相次いでおり、大きな問題となっています。

本記事では、殺害予告はどのような罪に問われるかを紹介します。
逮捕される基準も紹介するので、ぜひ最後までお読みください。

こんな疑問にお答えします

Q:殺害予告は、どのような罪に該当しますか?逮捕される基準はありますか?

A:殺害予告は、下記の罪に該当する可能性があります。

  • 脅迫罪
  • 強要罪
  • 威力業務妨害罪
  • 偽計業務妨害罪

逮捕されるのは、日時や対象者名を明示した殺害予告を行った場合です。
なお、漠然とした内容の殺害予告、匿名での殺害予告も逮捕の対象になる可能性があります。

殺害予告で問われる罪

殺害予告で問われる罪は、下記の通りです。

脅迫罪

殺害予告は、脅迫罪に該当します。

脅迫罪とは、人の生命・身体・自由・名誉もしくは財産に害を与えることを伝えて脅した場合に成立する犯罪です。
また、被害者の親族に同様の行為を行った場合も、脅迫罪に該当します。

「お前を殺すぞ」「お前の子どもを殺してやる」といった殺害予告は、人もしくはその親族の生命に害を与えて脅す行為なので、脅迫罪が問われます。

脅迫罪

刑法222条
生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
引用元:刑法|e–Gov法令検索

強要罪

殺害予告は、強要罪に問われることもあります。

強要罪とは、人の生命・身体・自由・名誉もしくは財産に害を加える旨を告知して脅迫し、義務のないことを行わせた場合もしくは権利を妨害した場合に成立します。

例えば、殺害予告をしたうえで「殺されたくないなら金を払え」などの要求をすれば、強要罪になります。

なお、被害者の親族に対して殺害予告を行い本人に義務のない行為を強要した場合も、強要罪に該当します。

強要罪

刑法223条
生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。
引用元:刑法|e–Gov法令検索

威力業務妨害罪

そして、威力業務妨害罪が問われることもあります。

威力業務妨害罪とは、威力を用いて他者の業務を妨害する犯罪です。

殺害予告によって「お店などを休業・閉業に追い込む」「本来不要なコストをかけて警備員を配備させる」という結果になれば、それは威力による業務妨害にあたります。

威力業務妨害罪

刑法234条
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例(三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金)による。
引用元:刑法|e–Gov法令検索

偽計業務妨害罪

殺害予告に対して、偽計業務妨害罪が問われる場合もあります。

偽計業務妨害罪とは、他人の無知や勘違いを利用することで業務を妨害する犯罪です。

嘘の殺害予告によって警察、関係施設などが警備のために通常の業務を妨害されたケースは、偽計業務妨害罪に該当します。

偽計業務妨害罪

刑法233条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法|e–Gov法令検索

殺害予告は損害賠償責任の対象にもなり得る

殺害予告は、損害賠償責任の対象にもなり得ます。

民法上、殺害予告は「不法行為」にあたります。不法行為を行った人物は、損害を被った相手に対して賠償をしなければなりません。

殺害予告は、以下のような損害を他者に与えます。

  • 精神的損害
  • 警備に掛かるコスト発生
  • お店の休業や客足減少による利益低下

精神的損害に対する慰謝料を請求できるほか、警備を手配する費用などの本来は不要だが生じたコスト、事業者が休業・閉業に追い込まれた場合の利益減少分についても請求することができます。

殺害予告はこのような損害を発生させるので、損害賠償責任も問われるのです。

殺害予告はいたずらであっても処罰される

いたずらで殺害予告をした場合でも、処罰の対象になります。

「ストレスのはけ口だった」「本当に殺害をするつもりはなかった」という弁解は認められません。

なぜなら、いたずらかどうかは本人以外の人にとって判別がつかず、殺害予告の行為自体が他者を畏怖させるからです。
そのため、いたずらによる殺害予告でも結果的に各罪の要件を満たしていれば、脅迫罪・強要罪・威力業務妨害罪・偽計業務妨害罪が成立します。

殺害予告が発覚するきっかけとは

では、殺害予告が発覚するきっかけとは何でしょうか。

それは、主に3つの要因です。

被害者からの相談

まずは、被害者からの相談です。

名指しをした殺害予告では、本人やその家族が投稿に気付いて警察に相談するケースがあります。

情報を発見した人からの通報

インターネット上に書き込まれた殺害予告に関しては、その情報を目にした人からの通報で発覚することもあります。

実際に、警察庁も「殺害予告の書き込みを発見した際は、直ちに通報を」と呼びかけています。

警視庁|インターネット上における犯行予告への対応

サイバーパトロール

サイバーパトロールとは、インターネット上の違法なサイト・書き込みを検出することです。

各都道府県警察には、サイバーパトロールをする部門が設置されています。

インターネット掲示板やSNSも検出の対象となっているので、サイバーパトロールが殺害予告発覚のきっかけになることもあります。

殺害予告で逮捕されるケース

殺害予告で逮捕されるケースは、以下の通りです。

具体的な書き込みは逮捕される

場所や時間、個人名などを含めて具体的な書き込みをした場合は、逮捕されます。

例えば、「明日、〇〇社の社長を殺す」「〇月〇日の朝に△△駅で無差別殺人を起こす」などは具体的な書き込みに該当します。

漠然とした内容でも逮捕される可能性はある

漠然としていても「現実的に被害が起こる」と思わせるような内容の書き込みをした場合は、逮捕される可能性があります。

特に、被害者・一般市民に大きな不安を与えた場合、本当に実行されれば深刻な被害をもたらす場合については逮捕されます。

匿名で書き込みをしても逮捕される

匿名で書き込みをしても逮捕されます。

投稿者が匿名だった場合は、「発信者情報開示請求」を用いて身元を特定します。

発信者情報開示請求とは、携帯会社・サイト管理者から提供された情報で個人情報が特定できるシステムです。

また、警察は捜査関係事項照会書(刑訴法197条2項)でプロバイダーに投稿者の個人情報開示を求めることができます。

もしプロバイダーが対応しなかった場合は、記録命令付差押許可令状(同法218条1項、99条の2)などにより強制的に情報を開示させて投稿者の身元を特定できます。

記録命令付差押とは、インターネットにつながっているコンピューター・サーバ内の記録データを差し押さえることです。

したがって、匿名での投稿でも逮捕される可能性は十分あるのです。

殺害予告で逮捕されないケース

殺害予告をしても、逮捕されないケースがあります。

それは、「明らかに空想である」と判断できる書き込みの場合です。

例えば、「火星に行って殺人を犯す」「宇宙空間に投げ出して全員殺してやる」のような内容は、実現不可能であることが明確です。

しかし、空想の内容でも個人名などの具体的要素が含まれていれば、罪に問われることもあります。例えば、「来週の月曜日、火星でA(実在する個人の名前)を殺すことにした」という書き込みがされたとしましょう。

この場合、火星に行くことが不可能であるのは明らかである一方、Aさん自身は殺害予告をされたことになります。

そうなれば、Aさんは大きな不安のために出勤できなくなることや警察に告訴することもあるでしょう。もちろん、Aさんへの警備体制も必要になります。

そのため、このような投稿は、罪に問われることがあります。

殺害予告で告訴するのに役立つ証拠とは

殺害予告について告訴して警察に捜査を依頼する際は、その事実の証拠が重要となります。

実際に証拠として提示できるものは、下記の通りです。

  • 殺害予告が書き込まれたWebページのコピー(URLと投稿日時も記載されているもの)
  • 殺害予告が書き込まれたメール等のメッセージのコピー(送信元と宛先のメールアドレス、送信日時が記載されているもの)
  • 殺害予告の前後の文章のコピー(被疑者による殺害予告の投稿や送信が連続で行われている場合)

もし、書き込み自体が削除されてしまった場合は、証拠として残せなくなる恐れがあります。

そのため、証拠についてはなるべく早い段階で手元に保存しておきましょう。

殺害予告への捜査に警察が動かない時の対処法

最後に、殺害予告への捜査に警察が動かない時の対処法を紹介します。

刑事告訴を行う

殺害予告が問われる罪である「脅迫罪」「強要罪」「威力業務妨害罪」「偽計業務妨害罪」は、被害者からの刑事告訴がなくても被疑者を起訴できます。

しかし警察が動かない場合は、被害者本人からも刑事告訴を行う意味があります。

なぜなら、告訴を受けた機関は捜査をする義務があるからです。

刑事告訴を行う際は「告訴状」が必要となりますが、ここであわせて殺害予告の証拠も提出すれば、積極的に捜査をしてもらえる可能性が広がります。

損害賠償請求をする

殺害予告は、民法上の「不法行為」として認定されるので、損害賠償を請求できます。

損害賠償請求をする際は、投稿者を特定して、示談交渉もしくは訴訟の手続きを行う必要があります。

このとき、もしも投稿者が匿名だった場合は、「発信者情報開示請求」などの方法で身元の特定をしなければなりません。

発信者情報開示請求の手続きは弁護士への相談がおすすめ

示談交渉や訴訟、そして発信者情報開示請求の手続きに不安がある場合は、弁護士に相談するのもおすすめです。

弁護士に相談することで2つのメリットがあります。
1つ目のメリットは、迅速かつ着実に発信者情報開示請求の手続きを進められることです。
実は、発信者情報開示請求の際に必要となる「IPアドレス」の情報が保存されている期間は限定的です。そのため、発信者情報開示請求の手続きは一刻でも早く進めなければなりません。
自力で発信者情報開示請求をするとなれば多くの負担が掛かりますが、プロである弁護士の力を借りれば、早い段階で加害者の身元特定につなげられるでしょう。

2つ目のメリットは、発信者情報開示請求後の損害賠償請求や刑事告訴の手続きも弁護士に依頼できることです。
これらの手続きも弁護士に一任すれば、被害者自らが加害者や警察などとの直接交渉をせずに済むので、精神的負担を軽減できます。

関連記事

発信者の情報開示請求の費用相場はいくら?弁護士に相談すべき理由も解説

SNSやYouTubeなど、誰もが自分の考えや思いを自由に発信できる時代となりました。その反面、悪意のある書き込みや心無いコメントが増えているのも事実です。 誹謗中傷など悪質な嫌がらせに悩まされている方は、発信者情報開示 …

費用面に不安のある方は弁護士保険の活用もおすすめ

しかし弁護士に相談や依頼をする際は、費用やどの弁護士に依頼すべきかで悩むこともあるでしょう。

弁護士に相談する場合には、弁護士保険がおすすめです。保険が弁護士費用の負担をしてくれるので助かります。

法人・個人事業主の方には、法人・個人事業主向けの弁護士保険がおすすめです

弁護士保険に加入しておくことで、法的トラブルが発生した場合に、弁護士に支払う費用をおさえることができます。弁護士保険に加入することで、万が一トラブルが発生した際も、無理なく相談できる環境を得られます。

弁護士保険の内容については、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください

関連記事

【2024年最新】弁護士保険の人気4社を徹底比較!補償内容や保険料、注意点を詳しく

「弁護士保険はいろいろあるけれど、何を基準に比較したらいいのか分からない」 弁護士保険に加入しようとしている方は、どこの保険会社を選んだらいいのか悩む方もいるでしょう。 本記事では、弁護士保険の人気4社の補償内容や保険料 …

まとめ

殺害予告は、「脅迫罪」「業務妨害罪」「威力業務妨害罪」「偽計業務妨害罪」などの罪に問われます。
なお、民法上の不法行為にも該当するので、損害賠償責任を問われることもあります。

そして、殺害予告をした人は逮捕されるケースが多いです。
ただし例外として、「明らかに空想である」とわかる内容を書いた場合に関しては、逮捕されません。

とは言え、殺害予告は内容に関わらず他者に恐怖や混乱を与える「あってはならない行為」であることは間違いありません。

もし、殺害予告をされた場合は、可能な限り証拠を保存しておきましょう。証拠を集めておけば、告訴をする際に役立てられます。

なお、損害賠償責任を追及する際は、弁護士に相談することも視野に入れてください。
弁護士に相談すれば、安心して効率的に各手続きを進められるメリットがあります。

記事を振り返ってのQ&A

Q:殺害予告は、どのような罪に問われますか?
A:脅迫罪、強要罪、威力業務妨害罪、偽計業務妨害罪に該当する可能性があります。

Q:殺害予告は損害賠償責任の対象にもなるのですか?
A:その通りです。

Q:殺害予告はいたずらであっても罪に問われますか?
A:たとえいたずらでも、各罪の要件を満たせば罪に問われます。

Q:殺害予告を受けた時は、弁護士に相談した方が良いですか?
A:弁護士に相談するのがおすすめです。
殺害予告を受けた被害者は、「発信者情報開示請求」「損害賠償請求」「刑事告訴」の手続きをする可能性があります。
弁護士の力を借りれば、これらの手続きを迅速かつ効率的に進められます。