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退職勧奨は行為自体が違法?パワハラ?強要されたらどうする?

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投稿日:2015年8月30日 更新日:


※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。

さて、今日は退職勧奨(退職勧告)についてです。

退職勧奨は会社が従業員に自主退職してもらいたいがために、退職を進めてくることです。それ自体法的な規制があるものではないため、様々な会社でいろいろなパターンの退職勧奨がされていると思います。

そのなかで強要されすぎるなどで違法になるものはないのか、また、執拗な退職勧奨に応じさせられてしまったらどうするかなどを考えてみましょう。

会社にとって解雇しなくて済む、便利な退職勧奨

会社が従業員を辞めさせたい場合には、

ストレートに従業員を解雇してしまうか、

それとも従業員に対して退職勧奨(退職勧告)をして自主退職(または合意解約)に持ち込むか、

という2つの選択肢があります。

現実問題として、会社が従業員を解雇するのはリスクある行為だといえます。

解雇をしたはいいけれど、そのあと従業員から解雇無効の訴えがなされた場合、会社は訴訟のなかで解雇の正当性(解雇に正当な理由があるか、解雇に先立って従業員に対して指導などを尽くしたかなど)を証明する必要があります。

その立証に失敗すれば、会社が解雇権を濫用したものとして解雇が無効になってしまうのです。

それに比べて、自主退職や合意解約は、従業員を説得しさえできれば、解雇のような法的制限は一切ありませんので、会社にとってはこれほど都合のいいことはないでしょう。

退職勧奨とは、会社からの退職の「お願い」なわけですから、それ自体は違法なことでもなんでもない、というのは会社にとって重要なポイントだといえます。

「勤務成績・態度に改善が見られない」という理由で退職勧奨してよいのか

解雇というのは、会社がとりうる最後の手段であり、そう簡単に行使することはできません。

成績や態度の悪い従業員を解雇しようとする場合には、会社は解雇を回避するために教育的指導や配転などの手段を尽くして、そのうえでも従業員に変化が見られず、解雇をもって臨むしかない、という状態になって初めて解雇ができることとなります。

また、整理解雇(いわゆるリストラ)の場合にも、新規採用の中止や配置転換、希望退職の募集など、会社がとるべき手段を行ってからでなければ、従業員を解雇することができません。

それに比べて、退職勧奨は、先ほども申し上げたとおり、解雇のような厳しい規制はありませんので、解雇ができるほどの事情でなかったとしても、退職勧奨することができます。

社長が「この会社に向いていないんじゃないか」とか「私とは性格があわないと思わないか」とか、およそ解雇の理由になりえないようなことを言ってきたとしても、従業員が「ああ、確かにそうですね」と同意できたのなら、退職勧奨は一応成功だといえます。

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従業員にとってもおいしい話になりうる

一般に、会社から解雇を言い渡されるのと、退職勧奨に応じて自主退職や合意解約するのとを比べると、従業員にとっても退職勧奨に応じることにメリットがある場合もあります。

具体的には、退職金等が上乗せされたり、退職にあたって何らかの手当が出たり、場合によっては次の就職先をあっせんされたり、というような条件が示されることもあります。

会社としては、従業員を退職に持ち込むために、そのような条件で「釣る」というわけです。

会社が交渉のカードとして切ってくるものですので、もちろん、単に「辞めてくれないか」とだけ言われる場合もあります。

退職勧奨に応じる義務はない


退職勧奨をされるのは嫌なものですが、するほうもあまりいい気持ちではありません。

会社としては、その従業員を「理由もなく辞めさせたい」のではなく、「辞めてほしい理由はあるけどクビにするほどではない」という状況で退職勧奨を行うことが多いはずです。

お願いだから退職してくれ、という状態なわけで、だからこそあの手この手で退職をしてもらうよう仕向けるのです。

従業員の立場からすれば、このような会社の退職勧奨(お願い)に応じるかどうかは基本的に自由です。

どんなリーズナブルな提案がされたとしても、退職という人生の一大事を冷静に考えるためには、とにかくそのときにイエスと言ってしまわないことが大切です。

従業員がクビを縦に振らない限りは、会社としては解雇というリスキーな選択を避けて、自主退職に向けた説得を続けるほかないからです。

退職勧奨を受けていても、応じる義務はありません。
退職勧奨は、従業員に向けて自由な意思に基づき、退職を促すということであり、従業員が退職するかどうかを自由に決めることができます。

本当に「自主退職」なのか?

退職勧奨は俗に「肩たたき」とも言われます。

上司が従業員に対して「トントン、会社を辞めてもらえませんか」などと退職を促すわけで、言い得て妙だなと思います。

しかし、上司が「トントン」ではなく、グーパンチや灰皿で殴りつけてきた場合はどうでしょうか。

これでは従業員は痛みに耐えられず、「辞めます!」と答えざるをえませんよね。

会社が従業員に対して度を超した退職勧奨をすることは、それ自体が不法行為として損害賠償の対象になります。

執拗な退職勧奨で損害賠償が認められた裁判

判例でも、月に何度も役職者に呼び出され、毎回数十分から2時間ほどにわたる執拗な退職勧奨を行ったことにより、従業員が精神的な苦痛を受けたとして、会社に損害賠償責任が認められた判例があります(下関商業高校事件・昭和55年7月10日最高裁判決)。

この事件では、会社がときには大人数で退職勧奨を行ったり、退職に応じるまで勧奨しつづけるなどと繰り返し述べたり、従業員に必要のないレポート提出を求めたりと、退職の「お願い」というレベルを明らかに超えた勧奨行為が繰り返されていたため、慰謝料請求が認められたわけです。

また、退職勧奨のしかたによっては、従業員が自主退職や合意解約の意思表示をしたとしても、その意思表示が無効とされることもあります。

もし、従業員の「辞めます」という気持ちそのものに「瑕疵(かし)」(法律上の欠点のことです)があれば、従業員の自主退職等の意思表示自体を取り消すことができるのです。

従業員の意思表示に瑕疵があるといえるのは、主に4パターンあります。
裁判例とともに紹介しましょう。

「錯誤」による退職願が無効になった退職勧奨の判例

裁判例では、会社が、合法的な解雇ができる状態にない従業員に対して「解雇がイヤなら自主退職してくれ」と退職勧奨したため、従業員が「自主退職しないと解雇される」と思って退職願を提出したという事件で、実は退職勧奨に応じなくても解雇が有効とはならなかったのに、退職勧奨に応じてしまったという「錯誤」(民法95条。勘違いして判断してしまった、という意味です)があったので、従業員が提出した退職届は無効と判断された例があります(昭和電線電纜事件・横浜地裁川崎支部平成16年5月28日判決)。

「強迫行為」による退職の意思表示が無効になった退職勧奨の判例

そして、18歳のバスガイド見習いの従業員に対して、上司が懲戒解雇するぞなどと激しく叱責しながら、親権者と相談する余裕も与えず退職願を提出するよう要求され、従業員がやむなく自主退職の意思表示をしたという事件では、その場の状況や立場・年齢等からみて違法な「強迫」(民法96条。相手に恐怖を与えて意思表示させた、という意味です)行為にあたり、その退職の意思表示は無効であると判断されました(石見交通事件・広島高裁松江支部昭和48年10月26日判決)。

退職勧奨と退職強要の明確な違いはありません。このように程度がひどいものを退職強要と呼びます。

「心裡留保」や「通謀虚偽表示」の場合でも退職勧奨は無効になる

このほかにも、従業員の「辞めます」という意思表示が本心ではないと会社が知っている場合(「心裡留保(しんりりゅうほ)」といいます。民法93条)や、会社と従業員がともに本心ではなく形式上だけで合意解約をした場合(「通謀虚偽表示」といいます。民法94条)の場合にも、それらの意思表示が無効となります。

いずれも、従業員の辞めますという気持ちが本心ではないからです。

このように、会社の退職勧奨のしかたが不適切であれば、従業員は勘違いさせられたり強要されたりして自主退職等の意思表示をしてしまうため、そのような意思表示は無効となるのです。

退職勧奨されたことをどう立証するか


退職勧奨という行為は、それ自体が何か法的効果を持つわけではないので、会社の従業員に対する退職勧奨のしかたはさまざまです。

インターネットで「退職勧奨通知書」などと検索すると、いろいろなひな形が出てきますが、会社としては書面で渡すことに必ずしもこだわる必要はなく、口頭で述べたって構わないわけです。

会社が通知書など書面ではなく、突然口頭で退職勧奨を行ってきた場合には、従業員としては準備のしようがありません。

特に、会社が1回の面談で退職を決めさせようと、執拗に従業員に対して退職を迫るような場合には、そのプレッシャーに屈して退職届を出してしまい、無効を主張したいのに何の証拠も残っていない、という最悪の状況も考えられます。

そのような場合、一番いいのは退職勧奨の様子を録音することです。

携帯電話には音声メモを残しておける機能が付いていることも多いので、それを使えばICレコーダーがなくてもやりとりを録音することができます。

また、あまりに突然のことで何の準備もできず、そのまま押し切られて退職届を出してしまった場合には、せめて退職勧奨の際にどんなことを言われたかなど、やりとりをすぐにメモするなどして備えなければなりません。

繰り返しますが、従業員に退職勧奨に応じる義務はないのですから、何があっても1回目でイエスと言ってはいけません。
そして、その後も退職勧奨が繰り返されることを想定して、従業員としてもできる限りの準備をすべきだといえます。

あまりにも退職勧奨が繰り返される場合、退職を強要しているとして、強要罪という犯罪になる可能性もあります。

退職勧奨を拒否したら解雇されるかも…と思ったら?

従業員側にも多少マズい事情があると、退職勧奨を断ったら実際に解雇されてしまうという可能性もないとは言い切れません。

会社との面談のなかで、解雇理由はこうこうで、自主退職すれば解雇のときよりも条件に差をつける、などと説明されると、つい「断ったら解雇されそうだし、自主退社した方がトクかもしれない」と思ってしまうこともあるでしょう。

しかし、退職届を提出してしまうと、いくらあとで無効となる可能性があるとはいっても、裁判を通じて退職届の効力を覆してもらうには多くの時間や資力が必要となります。

ですから、退職勧奨をされたとしても、必ず一度持ち帰ってきてください。

退職する必要があるかないか、退職するにしても条件面での上積みが望めるのではないか、そもそも会社の退職勧奨のしかたは違法なのではないか、など、冷静になって判断しなければならないことはたくさんあります。

退職届を提出するという行為は、かなり取り返しのつかないことですから、その場でひとりで判断しようとせず、必ず専門家の助力を仰ぐべきことだといえます。

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平賀 律男(パラリーガル)

平賀 律男(パラリーガル)

1982年,北海道生まれの33歳。北海道大学大学院法学研究科にて労働法を専攻し,修士号を取得。2008年からは,パラリーガル(法律事務秘書)として法律事務所に勤務し,企業法務・破産管財などの法律実務に携わるかたわら,在野の労働法研究者としての活動も続けている(2005年より日本労働法学会会員)。著作(共著)に『ワークルール検定問題集』『おしえて弁護士さん 職場のギモン48』(以上,旬報社)『18歳から考えるワークルール』(法律文化社)など。好きな食べ物はラーメン。
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