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内定取り消しで損害賠償賠償請求できるケースを法律と事例つきで説明します

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投稿日:2015年9月5日 更新日:

内定取り消しで損害賠償賠償請求できるケースを法律と事例つきで説明します
※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。

私が大学生だったのは10年以上前ですが、ちょうど「就職氷河期」と呼ばれていた私の世代では、3年生の秋頃になると就職活動をしはじめていました。

3年後期から4年前期にかけては、友人たちはほとんど講義に顔を出さず、企業研究や自己分析、資格取得に精を出していました。

実は、私自身は就職活動をしたことがないものですから、これほど学業をおろそかにしないと望みの就職はできないのか、と思って横から眺めていました。

現在は、経団連が本格的な就職活動を3年次の3月から、選考の時期を4年次の6月からと大きく後ろ倒しにしたこともあって、学業がおろそかになることはひとまず減りました。

しかし、就職活動がいわゆる短期決戦化することによって、特に会社側にとっては内定辞退のリスクが高まったものと思われます。

現実に「オワハラ」などという言葉も生まれましたね。

また、学生側としては、もし内定取消しを受けてしまうと、主要な企業の選考に間に合わず、手遅れの状態になってしまうリスクが高まってしまいました。

このように、就職時期の後ろ倒しには功罪両方があるといえます。

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そもそも内定って何?

内定をもらって喜ぶ学生
学生は、3月に学校を卒業して4月から働き始めるのが普通ですが、会社は、学生が働き始めるよりずっと前の、例えば10月ごろに学生に内定通知を送ります。

内定通知がされたあと、学生と会社との間にはどんな法律関係があるのでしょうか。

実は、採用内定がなされた時点で、法律的には学生と会社との間に労働契約が成立したものと考えるのが一般的です。

ただし、その時点で学生が働き始めるわけではありませんし、また、何らかの事情があれば会社側からも学生側からも、内定を取り消す(辞退する)ことができます。

このような契約を「就労(効力)始期付解約権留保付労働契約」といいます。

長ったらしい名前は忘れてもらってもいいのですが、意味は覚えてください。

「就労始期付」とは働き始める時期をあらかじめ指定するということを、「解約権留保付」とは労使双方に解約権があるということをそれぞれ表しています。

どんな場合でも解約できるの?

内定取り消しを言い渡す会社
「解約権留保付」と呼ばれるくらいですから、労使ともに好きなときに解約できそうな感じがします。

でも、だからといって入社ギリギリまで引っ張って3月31日に解約する、となると、相手が大迷惑をこうむるのは明らかです。

この点について、法的にはどのあたりを落としどころと見ているのでしょうか。

裁判所では、会社側が内定取消しを自由にできるものとは考えていません。

なぜなら、「解約権留保付」とはいえども、労働契約自体は成立しているため、解雇に準じて考える必要があるからです。

具体的には、解約権留保の趣旨や目的に照らして合理的で、社会的に相当である場合に限って解約権を行使できます。

内定取り消しが可能になる理由

ただし、すでに雇った労働者を解雇する場面とは状況が違いますので、内定取消しが可能なのは主に以下に挙げるような場面になります。

・学生が卒業できなかった場合
・健康診断の結果、働くことができる健康状態ではなかった場合
・履歴書や誓約書にウソの記載をした場合
・内定通知後に突然経営が悪化し、会社として人員削減を行わざるを得ない場合 など

学生側に問題がない限り、会社としては学生の内定を取り消すことはかなり限られた条件のもとでしか認められないといえます。

また、採用内定の当時知ることができた事情については、あとで内定取消しの理由とすることはできません。

最高裁まで争われた事件で、「採用面接時に陰気な印象があり、不適格と思ったがとりあえず内定を出した。しかし、あとでそれを打ち消す材料が出なかったので内定を取り消した」という事件がありました(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決)。

これについて最高裁は、陰気なのは最初からわかっていたのだから、あとで陰気を理由として内定取消しをするのは解約権の濫用だ、と判断しました。

どうでもいい話ですが、労働法の世界では、この事件の会社名にかけて「陰気(インキ)が怖くて印刷屋ができるか!」というギャグがあります。非常に古典的なギャグなのですが、未だに愛用されています。

不当な内定取消しへの2つの対処法


会社から内定取消しを受けたが到底納得がいかない場合、学生は会社に対してどのような要求ができるでしょうか。

①内定取り消しを無効にする

まず、内定取消しの理由が合理的なものでない場合には、内定取消し自体が無効になりますので、予定通り会社に雇ってもらうことができます(裁判上は「(労働者としての)地位確認請求」と呼びます)。

日本テレビのアナウンサーが、夜のお店でのアルバイトを理由に内定取消しをされた事件は記憶に新しいところですが、学生側が裁判を起こし、結局入社することになりましたね。

あの裁判自体は和解で終わりましたが、仮に裁判で争い続けても、ちょっとしたアルバイトの経歴だけをもとに裁判所が内定取消しを認めるかといわれれば、結局会社に対して厳しい判断が下っていたのではないかと思います。

②損害賠償請求をする

また、学生側としては、会社に損害賠償を請求することもできます。

内定取消しに関するやりとりによって会社との間で信頼関係が破壊されてしまったような場合には、入社をしても仕事がしにくいと考えられますが、仮に入社していれば給料がもらえるはずだったわけで、学生にもらえなかった給料分の損害が発生しているといえます。

それに加えて、内定取消しを受けたことで、その学生は新卒採用への応募を断念せざるを得なくなったとか、留年することになったとかという状況に追い込まれてしまうため、その精神的苦痛が損害にあたるとして慰謝料を請求できる可能性もあります。

新卒学生の事案はそれほど多くなく、内々定の例になってしまうのですが、内定通知書授与日の2日前になって会社が一方的に内々定を取り消したという事案で、学生が会社との間で確実に労働契約が締結できるという期待を侵害したとして、慰謝料85万円を認めた裁判例があります(コーセーアールイー事件・福岡地裁平成22年6月2日判決)。

また、学生ではなく社会人の転職の場面においても、転職先から内定通知を受けたため会社に退職届を出すなどの身辺整理を行ったにもかかわらず、内定を保留・撤回され、転職先で働けないばかりか職も失い再度の就職活動を余儀なくされた事案で、慰謝料100万円が認められました(オプトエレクトロニクス事件・東京地裁平成16年6月23日判決)。

内定取消しと戦うために

会社から内定取消しを受け、地位確認や損害賠償を請求したいと思っても、資料がなければ戦うことができません。

内定や内定取消しに関する通知書のようなものがあればベストですが、会社によっては口頭で内定通知や内定取消通知をしてくることもありますので、そのような場合には、文書での通知を求めるとともに、口頭で告知された日付やその内容などを克明にメモしておくべきだといえます。

また、内定取消しの理由が「当社の都合により」とかいう場合には、そもそも納得しろと言われても無理な話ですので、会社に内定取消しの理由を明示するよう求める必要があります。

さらに、前回お話しした「退職勧奨」と同様の状況になることも考えられます。

すなわち、「内定を辞退してくれないか」と会社が迫ってくる、ということです。

この場合も、退職勧奨の場合と同様に、納得がいかないのであれば絶対にイエスと言ってはいけません。

仮にその会社で働く気がなくなったとしても、学生としては今後の就職活動に大きな影響を与えるものですから、会社側の責任を明確にしておく意味でも、内定辞退に応じるべきではないといえます。

会社と内定取消しの効力について争う場合には、最終的には訴訟で決着をつけることとなりますが、話し合いの段階から有利に事を進めるためには、早めに専門家に相談しておくことが重要です。

訴訟を起こして解決するだけでなく、それ以前に会社と交渉することや、訴訟に向けた証拠収集など、準備段階でも専門家の助力を得て行うべきことがたくさんあるからです。

スムーズな問題解決のためには、病気と同じく、こじらせてしまう前に「早期発見」することが重要だといえます。

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平賀 律男(パラリーガル)

平賀 律男(パラリーガル)

1982年,北海道生まれの33歳。北海道大学大学院法学研究科にて労働法を専攻し,修士号を取得。2008年からは,パラリーガル(法律事務秘書)として法律事務所に勤務し,企業法務・破産管財などの法律実務に携わるかたわら,在野の労働法研究者としての活動も続けている(2005年より日本労働法学会会員)。著作(共著)に『ワークルール検定問題集』『おしえて弁護士さん 職場のギモン48』(以上,旬報社)『18歳から考えるワークルール』(法律文化社)など。好きな食べ物はラーメン。
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