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オワハラを無視して内定を辞退したら損害賠償請求されてしまうのか?

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投稿日:2015年9月12日 更新日:

内定辞退を申し出る大学生
※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。

今回は内定取消しとは背中あわせになる、学生側からの「内定辞退」について考えてみたいと思います。

今年度の大学生の就職活動(選考開始)時期について、学業への影響を懸念して、4年次の8月から行うこととし、経団連加盟の大手企業はそれに従って今までより時期を大きく後ろ倒ししたのは前回も触れたとおりです。

しかし、経団連に加盟していない企業を中心に、従来どおり4月ごろから選考を始めている会社も多く、それらの会社が学生に内定を出したとしても、後でその学生を大企業にかっさらわれてしまう可能性があります。

それを避けようとして発生するのが、内定辞退をさせないように会社が圧力をかけてくる「オワハラ」(就活終われハラスメント)です。
(なお、経団連は、企業間の競争が過熱したこともあり、来年は選考解禁を4月に戻す考えを示しました。どうにも右往左往している感じですね。)

オワハラの具体例

「オワハラ」という言葉は新しくても、事例は新しいものばかりではありません。

古典的には、内定辞退の申し出をしたら大人数で囲まれて激怒されたとか、人事担当者に水やコーヒーをぶっかけられたとかいう話を聞きます。

現代では、就活終了と引き換えでなければ内定を出さないとか、他社への選考を受けさせないように妨害するとか、強要に近い慰留をするとかいう、より実質的な不利益を被る形でのハラスメントを行ってくる例があるようです。

学生としては、そのようなハラスメントを実際に受けたり、または受けたらいやだなと尻込みしたりして、いつまでも内定辞退を申し出ることができないこともあるでしょう。

法的には、内定辞退はどのタイミングまでに伝えればよいのでしょうか。

労働契約の解約と同じように考える

前回もお話をしたとおり、内定というのは、法的には学生と会社との間に「効力(就労)始期付解約権留保付労働契約」が結ばれている状態であり、事情があれば互いが持っている解約権を行使することができるのが原則となります。

ただし、会社側が解約権を行使することには制約があって、相当な事情がなければ内定取消しはできない、というお話でしたね。

逆に、学生が解約権を行使する場合はどうでしょうか。

ふつうの労働者が会社に対して退職の意思表示をすることを「自主退職」や「辞職」などと呼ぶわけですが、この自主退職の意思表示は、会社が同意するとか拒否するとかとは全く関係なく、会社に到達してから2週間経てば必ず退職の効果は発生することになっていました。

※関連ページ→「意外と知らない退職願と退職届の違い。どっちを出せば良いの?

この原則は、採用内定の場面にもあてはまることであり、会社がどんなことを言おうとも、学生側からは2週間の期間をおいて内定辞退の意思表示をすることができるといえます。

つまり、4月1日入社の会社の場合は、3月中旬ころまでに内定辞退をするのはオッケーということです。

そうは言っても会社は黙っていない

内定辞退で怒る会社

法的には3月中旬まで内定辞退が可能だといっても、10月に内定式を終えて、「貴社に就職します」なんていう誓約書も提出して、場合によっては研修もスタートしていて、会社は社宅まで用意していて、それで3月になって内定辞退となると、会社が、テメエ今さらふざけんなよ、と怒るのも無理はありません。

会社は、広告費、や通信費、人件費、研修費に交通費と、採用者1人に対して数十万から数百万円の費用を掛けているのです。

これらがすべて無駄になったのであり、会社は学生に対して損害賠償を請求してくる可能性は否定できません。

会社の損害賠償請求はまず認められない

内定辞退と裁判

ただし、私の知る限りでは、内定辞退で会社が損害賠償請求の訴訟を提起して、それが認められた例というのは寡聞にして知りません。

内定辞退の判例(X社事件)

実際にあった事件では、4年次の6月に採用内定を受けた学生が、会社担当者による辛辣な研修指導に耐えかねて3月31日に内定辞退を申し入れ、会社に対して留年費用や慰謝料等の損害賠償を請求したところ、逆に会社のほうからも、この内定辞退が信義(社会生活上で相手方の信頼を裏切らないよう行動することです)に反するとして、採用費用118万円の損害賠償請求をしたという事件がありました。

裁判所は、学生の内定辞退の申入れが入社日の直前にずれ込んだことは、信義則上の義務に大きく違反するといえなくもないが、研修における会社担当者の一連の発言が穏当なものではなかったことを考えると、「内定辞退の申入れは、信義則上の義務に著しく違反する態様で行われたものであるとまではいい難く」学生は損害賠償責任を負うものではない、と判断しました(X社事件・東京地裁平成24年12月28日判決。なお、学生側の損害賠償請求も認められませんでした)。

内定者に損害賠償請求義務が生じるのは非常に例外的

この裁判例の意味するところは、学生に損害賠償義務が認められるのは、あまりにも信義に反する態様で内定辞退をした場合という、非常に例外的な場面に限られるということです。

また、会社側としても、内定辞退と損害との関係を証明するのが困難であるうえ、損害額に対して訴訟の労力がはるかに大きいこと、さらに、そもそも学生を訴えるということが企業イメージに大きくキズをつけることなどから考えると、実際に訴訟を提起してまで損害賠償請求をすることは、そうそうないことだといえます。

ですから、学生の皆さんが仮に「オワハラ」を受けた場合には、会社の側にもハラスメントに出たという落ち度があるわけですから、会社の損害賠償請求などという脅しなど気にせず、キッパリと内定辞退を申し出るべきだといえるでしょう。

迷惑は掛けないに越したことはない

以前、バックレ退職と損害賠償義務のお話をした際にも、突然勝手に会社を辞めることは無用な争いを生む、ということを述べましたが、それは内定辞退にも共通して言えることです。

※関連ページ→「仕事を退職届も出さずにバックレ!これって損害賠償請求されるの?

なかなか言い出せないからといってズルズルと内定辞退を先延ばしにしていると、そのことで会社が損害を被ること自体は事実だからです。

特に中小のオーナー社長などであれば、社長が気持ちを害したことで感情的になり、後先を考えず訴えてくるケースもあり得ないとはいえません。

また、度を超したオワハラにより、直接会社と連絡を取ることすら恐ろしいなどと場合もあるでしょう。

そのようなときには、弁護士に相談して、代わりに会社と交渉してもらうという手段もあることを忘れないでください。

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平賀 律男(パラリーガル)

平賀 律男(パラリーガル)

1982年,北海道生まれの33歳。北海道大学大学院法学研究科にて労働法を専攻し,修士号を取得。2008年からは,パラリーガル(法律事務秘書)として法律事務所に勤務し,企業法務・破産管財などの法律実務に携わるかたわら,在野の労働法研究者としての活動も続けている(2005年より日本労働法学会会員)。著作(共著)に『ワークルール検定問題集』『おしえて弁護士さん 職場のギモン48』(以上,旬報社)『18歳から考えるワークルール』(法律文化社)など。好きな食べ物はラーメン。
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