意外と知らない退職願と退職届の違い。どっちを出せば良いの?

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※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。

・サービス残業が多すぎてもうイヤだ
・会社がいつまでたっても昇進させてくれない
・とにかく部長が嫌いで一緒にやっていけない
・実は他の会社からいい話が来ている
・こんな会社辞めてやろうと思って、机の引出しの奧にひそませているこの退職届、いつ上司の机に叩きつけてやろうか……。

ちょっと待って! 

 

それ、ホントに「退職届」でいいの?

今日は、自主的に退職する場合の法的な取扱いについて見てみましょう。

こんな疑問にお答えします

Q:今勤めている会社を退職したいと考えていますが、「退職願」と「退職届」の違いがよくわかりません。何が異なるのですか?

A:退職願と退職届は混同されやすいですが、明確な違いがあります。

退職願は、会社へ退職を願い出るための書類で、退職するには会社からの合意も必要になります。
一方、退職届は退職を申し出るための書類になります。会社からの合意がなくても、退職届を提出すれば2週間で退職できます。

労働契約の終わり方には3種類ある

退職願と退職届の違いを知るには、まず退職(労働契約の終了)のパターンを知らなければなりません。

定年退職や契約期間満了、死亡などの場合を除けば、必ず労働者か会社どちらかの意思によって、労働契約が終了することになります。

退職のパターンを図にまとめてみました。意思表示の矢印に注意して見てください。

退職願 退職届 どっち

①自主退職

労働者が自主的に退職の意思表示をすることを「自主退職」や「辞職」などといいます。

②合意解約

労働者と会社が合意して労働契約を終了することを合意解約といいます。

③解雇

会社から一方的に退職をするように言われることを解雇といいます。

カンのいい方はもうお気づきかもしれません。

「退職届」は労働者の一方的な意思表示なので①の自主退職にあたりますし、退職「願」は労働者から退職に合意してほしいとお願いしていることになるので②の合意解約にあたります。

③解雇は会社からの意思表示なので、退職願も退職届も関係のない話となります。

辞表と退職願、退職届の違いは?

少し話が逸れます。

退職届や退職願のことを俗に「辞表」と呼ぶこともありますが、これは、会社の役員や公務員の場合に用いる言葉です。

間違いとまでは言いませんが、一般的な会社の労働者が用いるには若干違和感のある言葉だといえます。

また、自主退職と合意解約のどちらの意思表示も、ペーパーではなく口頭で行っても有効なのです。

ただし、会社所定の書類か、なければ自作の書類を出すのが一般的でしょう。

どちらも、単なるビジネスマナーの問題なのかもしれませんね。

それでは、話を元に戻して、①の自主退職と②の合意解約は何が違うのかを考えます。

自主退職と合意解約の違い

労働者が自主退職の意思表示を行った場合、つまり退職「届」を会社に提出した場合、会社の代表者や人事部長など権限のある人に到達した時点で効力が発生します。

この「効力が発生する」というのは、もうその時点で撤回ができなくなるということを意味します。

この場合、民法の規定により、原則として意思表示から2週間で辞職の効果が発生します(民法627条1項)。

これはつまり、どんなに慰留されたり、または「考えておく」などと言わたりしていつまでも会社が退職を認めてくれない場合であっても、2週間経てば会社を辞めることができる、ということです。

したがって、強く引き留められることがことが予想される場合は、退職届を提出することで早く退職できるでしょう。

一方、労働者が合意解約の意思表示を行った場合、つまり退職「願」を会社に提出した場合、会社の代表者や人事部長など権限のある人がそれに合意した時点で効力が発生します。

つまり、退職願の提出は合意解約の「申込み」に過ぎず、会社の責任者の承諾によって合意解約が「成立」するまでは、労働者は合意解約の意思表示を撤回できるのです。

円満退職を目指すのであれば、退職願を提出するのがおすすめです。強引に退職しようとすると、引き継ぎや退職日のあいさつもスムーズに行うことができます。

この違いを端的に表現するのならば、自主退職は「会社が何と言おうとオレは絶対に会社を辞める!」という勢いがある一方、合意解約は「会社がいいと言うならオレはこの会社を辞めよう。」と円満な退職を実現しようという気持ちがある、という違いになります。

裁判例でも、「使用者の態度如何に関わらず確定的に雇用契約を終了させる旨の意思表示が客観的に明らかである場合に限り」自主退職の意思表示と考えるべきだとしています。

なお、退職の意思は固まっているけど、穏便に済ませようと思ってとりあえず退職届を提出したが、会社の慰留がしつこくていつまでも承諾してくれない、という場合でも、2週間経てば上の自主退職と同様の効果が発生します。

退職願と退職届の違い

これらは、いずれも雇用保険上の「自己都合退職」に当たるので、基本給付を受けられるまでに3か月待たなければいけません。

退職願と退職届の書き方

上述したように、退職願と退職届のうちどちらを提出すべきかは個人の状況によって変わってきます。

どちらを提出するべきか決まった際は、早速準備に取り掛かりましょう。

準備するもの

  • 退職願もしくは退職届の用紙…会社指定のフォーマットを利用する
    (※会社指定のフォーマットがない場合は、自身で便箋を用意する)
  • 封筒…郵便番号枠なし・白色無地・二重構造のもの
  • 筆記用具…黒の万年筆もしくはボールペン
  • 認印

退職願の書き方

まず、一行目には「退職願」と記載します。

退職理由については、具体的に記載するのではなく「一身上の都合により」と書くのが基本です。

二行目の最下部には、「私儀」と記載します。

これは、「わたくしごとではありますが」という意味を表します。

次に、本文の退職日については会社側と相談して決めた年月日を記入します。また、退職願の末尾は「退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。」と記載します。

その後は、退職願を提出する年月日を記載のうえ、署名捺印してください。

最後に、社名と代表取締役社長の名前を記載しましょう。

作成中に書き間違いが生じた場合は、修正液を使わずはじめから書き直すのが鉄則です。

退職届の書き方

退職届の内容も、退職願とほぼ同様です。

異なる点は、本文の末尾を「退職いたします」と書くことです。

それ以外の点は、退職願の書き方を参考にしてください。

封筒のルール

最後に、封筒にもルールがあることを把握しておきましょう。

封筒には退職願もしくは退職届を三つ折りにして入れるのが一般的です。

封筒の表には「退職願」もしくは「退職届」、裏書には所属部課と氏名を記載します。

茶封筒はマナー違反になるので、必ず白色無地のものを使用してください。

売り言葉に買い言葉


退職願や退職届の提出をするように、労働者の意思がはっきりしている場合はいいのですが、社長や上司との些細ないざこざが大きなトラブルに発展することもあります。

労働者が

「こんな会社辞めてやる!」

 

と叫んだ場合を考えてみましょう。

この労働者の発言は、辞職の意思表示でしょうか。それとも合意解約の申込みでしょうか。

ふつう、労働者は退職するときに、退職届をたたきつけるトラブル感満載の退職よりも会社の承諾を得て円満に退職するほうがよいと考えるでしょう。

今回のように労働者の意思表示が自主退職か合意解約の申込みかがはっきりしない場合には「合意解約の申込み」のほうにあたると考えるのがよいでしょう。

なぜなら、これを自主退職と考えると撤回ができず、取り返しがつかない状況となってしまいますので、会社の責任者が承諾するまでは意思表示を撤回できる合意解約の申込みと理解するほうが、より慎重な取扱いができるからです。

ただし、労働者が「辞めてやる!」と言ったとしても、その場の雰囲気から感情的になって言ってしまっただけで、本当は辞めるつもりなど全くなかったというケースがあります。

この場合は、単なる口げんかのなかで売り言葉に買い言葉で言ってしまっただけであり、労働者には自主退職や合意解約の申込みをしようという気持ちがあったとはいえないので、退職の効果は発生しません。

翌日、労働者が「昨日はすみませんでした」と出勤したら、まず間違いなく社長に「君は辞めたんじゃなかったのかね」などとイヤミを言われるでしょうが、とにかく平謝りして会社の業務に戻してもらいましょう。

会社側から退職の提案があったら

退職届と退職届はどっちが効力があるか

先ほど、合意解約は「労働者と会社が合意して労働契約を終了すること」だと説明しました。

労働者側からの合意解約の申込みについてはすでに述べたとおりですが、逆に、会社側から合意解約の申込みをして、労働者がそれに合意するという退職のしかたもあります。

これを、労働者側からの申込みと区別して「退職勧奨」と呼びます。

俗に「肩たたき」などとも言われますね。

使用者側からの合意解約の申込みは、単に「申込み」に過ぎませんから、労働者が承諾しないかぎり効力は発生しません(具体的には、使用者の求めに応じて退職届(願)を提出する場合が多いようです)。

しかし、会社からの圧力というのは相当のものですので、労働者はそのプレッシャーに負けて合意してしまうのがほとんどでしょう。

これは、事実上の解雇(クビ)みたいなものだといえます。

そのため、退職勧奨による合意解約は、雇用保険上は解雇扱いとして「会社都合退職」になり、自己都合退職の場合と違って3か月待たなくても基本手当が支給されるという違いがあります。

そのため、合意退職のなかで退職勧奨を特に区別する必要があるのです。

もし、会社を辞めようとする際に、会社から不当な扱いやハラスメントを受けているなら弁護士へ相談して解決を図ることをおすすめします。

また、弁護士に相談する場合には、弁護士保険がおすすめです。保険が弁護士費用の負担をしてくれるので助かります。

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記事を振り返ってのQ&A

Q:労働契約の終わり方にはどのような方法がありますか?
A:以下の3種類あります。

  • 自主退職
  • 合意解約
  • 解雇

Q:退職願を提出するのが良いのは、どのようなケースですか?
A:円満退職を望んでいる方は、退職届の提出を検討するのがおすすめです。会社からの合意を得た退職になるため、気持ちよく引き継ぎや退職時のあいさつができるでしょう。

Q:退職届を提出するのが良いのは、どのようなケースですか?
A:どうしても早くに退職したい場合や退職を申し出ると引き留められそうな場合は、退職届の提出を検討してください。

Q:退職願と退職届の書き方に違いはありますか?
A:本文の末尾が、下記のように異なります。

  • 退職願の場合は「退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。」
  • 退職届の場合は「退職いたします。」

提出前は、内容に漏れや誤りがないかをきちんと確認しておきましょう。