※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。
ボーナスの季節になりましたね。
ボーナスとは、毎月の賃金とは別に、会社の業績や労働者の働きぶりなどを考慮して臨時的に支給されるものです。
ボーナスの支給条件は、労働契約や就業規則などで定められているのが一般的ですが、支給の要件や時期、金額の計算方法などは会社が自由に決めているのが実態です。そのため、会社によって支給条件に大きな差が生じるのです。
ボーナスに関する一般的な就業規則の規定
その前提を踏まえて、まずは、一般的な就業規則の規定をみてみましょう(厚労省モデル就業規則をもとに作成)。
。
算定対象期間 | 支給日 |
---|---|
12月1日から5月31まで | 6月15日 |
6月1日から11月日まで | 12月15日 |
3 第1項の支給日に在籍しない労働者には、賞与を支給しない。
直前6か月の勤務成績に応じて、6月と12月の15日にボーナスが支給される規定ぶりとなっていますね。
※関連ページ→「就業規則の周知義務。見たことがない規則に効力はある? 」
ボーナス支給日前に退職したら賞与は支払わなくても良い
ここで注意しなければならないのは、第3項の「支給日に在籍しない労働者には、賞与を支給しない」という規定です。
これは「支給日在籍要件」といって、賞与の算定対象期間(評価期間)に勤務していても、支給日前に退職した労働者には賞与を支払わない、という条項ですが、このような規定を設けること自体は法的にも有効とされており(大和銀行事件・最高裁昭和57年10月7日判決)、実際にこのような規定をもつ会社はたくさんあります。
例えば、就業規則に先ほどの「第46条」の規定がある会社に勤めているAさんが、6月10日づけで自主退職した場合を考えてみましょう。
Aさんにしてみれば、12月から5月までの半年間頑張ってきたぶんのボーナスをもらう権利があるはずだと考えるのは自然です。
しかし、この場合、会社としては、第3項の「支給日在籍要件」を盾に、Aさんにはボーナスを支払わなくてよい、という結論になります。
また、会社の就業規則に第3項のような明文の規定がなかったとしても、以前から支給日に在籍している労働者のみにボーナスを支給していたという慣行が労使間で成立しているといえる場合には、同様にAさんにはボーナスを支払わなくてよいことになります。
その一方で、会社の就業規則に第3項のような規定がないうえに、これまでの退職者には月割りで賞与が支払われていた実績があるような場合には、その慣行に従って、Aさんにもボーナスを請求できる余地が出てくることになります。
解雇・契約期間満了・定年退職の場合は?
ところで、Aさんの退職が自主的なものではなく、会社都合の解雇や契約期間満了、定年退職の場合には、Aさんが自らの意思で退職日を選べるわけではありませんが、その場合でも支給日在籍要件は有効なのでしょうか。
裁判所は、定年退職の場合であっても、支給日退職要件は受給資格者を明確な基準で確定する必要から定めているのだから有効、と判断していますが(カツデン事件・東京地裁平成8年10月29日判決)、学説では反対意見も多くあります。
今後の裁判例の蓄積により結論が変わる可能性があるといえます。
ボーナス支給日前に退職届を出し、支給日後に退職する場合は?
最後にもうひとつ問題。
Aさんがボーナス支給日より前に退職届を出したが、実際の退職予定日は支給日より後の6月30日である、という場合に、会社がAさんにボーナスを支給しないことはできるでしょうか。
先ほど申し上げたとおり、会社はボーナスの支給条件を事実上自由に決めることができるので、例えば「支給日以降に退職が予定されている場合は賞与を減額して支給することができる」などという規定を置くこと自体は可能です。
なぜなら、ボーナスには過去の貢献だけでなく将来の期待も含まれると考えられるからです。
ただし、過去には、退職予定者のボーナスを8割カットした事例で、「将来の期待部分として減額できるのは2割まで」とされた裁判例もありますので(ベネッセコーポレーション事件・東京地裁平成8年6月28日判決)、Aさんが退職予定だからといっても、ボーナスを全額支給しない、などという極端な取扱いは法的に許されないこととなります。
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平賀 律男(パラリーガル)

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