【事例で学ぶ】在日韓国・朝鮮人に対する差別的な記事の投稿~慰謝料額など130万円の賠償を命じる判決に

2016年に施行された「ヘイトスピーチ解消法」。

「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」という言葉が一般的に理解されるようになったなったと感じます。

しかし、すでに法律の施行後から5年が経過していますが、まだまだ解消されたとは言えない現状があります。

ヘイトスピーチとは、特定の国の出身であることや、その子孫であるということを理由にして、日本から追い出そうとしたり、暴言や危害を加えようとする行動のことを指しています。

また、ヘイトクライムとは、人種差別的な暴言や嫌がらせ行為などのことを言います。

「○○人は出ていけ!」「○○人は殺せ!」などといったヘイトスピーチによるデモ行進などが社会問題となっていたことは記憶に新しい方も多いでしょう。

民族や国籍を問わず、合理的な理由もなく、そのような排除や排斥をあおり立てるような行動は許されるものではありません。

それを見聞きした方々にとっては、悲しみと共に恐怖や絶望感に繋がることになるからです。

ここでご紹介する判例は、在日韓国・朝鮮人の母親を持つ男性が中学生時代に、インターネットのブログ上において差別を受けたというものです。

今後、私たちが人権を尊重する社会を築くうえで、とても重要な判例になるのではないかと考えています。

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【事例で学ぶ】在日韓国・朝鮮人に対する差別的な記事の投稿~慰謝料額など130万円の賠償を命じる判決に

著しく在日韓国・朝鮮人であることを侮辱するなど差別的な記事を、被控訴人のブログに掲載したことによって、当時中学生だった控訴人の名誉を毀損し、侮辱して、人格権を侵害したとして、損害賠償を請求したという事例です。

慰謝料額100万円に加えて、弁護士費用その他の損害30万円の合計130万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。

ケースの概要

このケースは、在日韓国・朝鮮人である男性が中学生時代に、インターネットのブログ上において著しく侮辱を受けるなど、不当に差別的な内容の記事を投稿されたことによって名誉感情を侵害し、侮辱して、人格権を侵害されたという判例です。

不法行為による損害賠償請求権に基づいて、慰謝料などの合計300万円などを請求しています。

慰謝料の額について控訴人の主張としては。個人の尊厳をはじめとして人格権の侵害、差別的な発言による名誉毀損などを考慮して、慰謝料は少なくとも200万円は認められるべきで、弁護士費用として100万円が認められるべきとしています。

そのブログには「通名などを使うことによって日本人に成り済ましている」などといった投稿がなされており、また「悪性外来寄生生物種」との表現によって日本社会に害を与えている、といった表現もみられています。

しかし、ブログを投稿した被控訴人は、ブログの読者だけの記事によって社会的評価を下げるようなものではないと主張しています。

また「成り済ます」「悪性外来寄生生物種」といった表現の内容についても、同様に社会的評価を低下させるようなものではないとしています。

判決は、慰謝料額100万円に加えて、弁護士費用その他の損害30万円の合計130万円の賠償を命ぜられています。

争点となった内容

本件において、争点となった内容には2点あります。

  • 投稿は不法行為による名誉毀損に当たるのか
  • 名誉毀損などによる損害賠償額は妥当なのか

「投稿は不法行為による名誉毀損に当たるのか」という点において、双方の意見は大きく異なります。

控訴人の主張として、本件の投稿については違法性が大きく、しかも悪質性が高いということから、単なる名誉毀損よりも不利益が大きいとしています。

そのような点を考慮すれば、名誉毀損などによる損害賠償額(200万円、弁護士費用等100万円、合計300万円)は妥当であるだろうとしています。

しかし被控訴人の主張としては、社会的な評価を決めるのは、控訴人を取り巻く社会的環境であり、今回の投稿での読者のみではないと主張。

また、控訴人が自らが在日韓国、朝鮮人ないしその子孫であるということを明らかにしていることから、この投稿は社会的評価の低下とは関係ないとしています。

裁判所の判断について

上記でお伝えした通り、本件は控訴人が在日韓国・朝鮮人であることを理由に著しく侮辱され、不当に差別的な内容の記事によって社会的な評価が低下したと主張。

それによって、「名誉毀損」「著しい侮辱」「差別による人格権侵害」があったとして損害賠償を請求しています。

慰謝料額については、名誉感情を害するということだけではなく、個人の尊厳、人格権の侵害など、投稿行為には違法性が大きく、悪質性も考慮すれば少なくとも200万円が認められるべきと主張しています。

一審判決においては「著しい侮辱」「差別による人格権侵害」が認められて被告に91万円の支払いが命じられていますが、「名誉毀損」については認められず、認定を求めて控訴されています。

東京高等裁判所による判決では、一審判決と同様に名誉感情の侵害による不法行為は成立するものの「名誉毀損」には当たらないとしています。

当ブログの読者層には韓国、朝鮮を忌み嫌い、排外思想を有する人物が多いということから、控訴人の社会的評価を低下させるといった主張は採用できないとされたのです。

ただし、控訴人は当時、中学3年という多感な時期にあり、精神的苦痛によって成長に悪影響を及ぼしかねないということが言えることからして、一審よりも賠償額が増額されています。

被控訴人からは、反省と謝罪の意思を示す文書を控訴人に送付し、ブログを非公開にすると対応もみられていますが、それらを考慮しても精神的苦痛に対する慰謝料額は100万円とするのが相当であるとし、その他弁護士費用などの損害30万円が認められることになりました。

ヘイトスピーチ・ヘイトクライムの現状について

冒頭にお伝えしましたが、ヘイトスピーチ解消法が施行されてすでに5年が経過していますが、ヘイトスピーチは後を絶ちません。

ヘイトスピーチはわが国だけではなく、世界でも大きく注目されている問題です。

例えばアメリカでは、新型コロナウイルス感染症の拡大によってアジア系住民に対するヘイトクライムが問題になっていることは、報道でご存じの方も多いでしょう。

自治体などの取り組みをみていると、条例の制定など新たな対策も行われていますが一部のみで、全体としては不十分であることは否めません。

ヘイトスピーチによる人権侵害にあたると認定されたデモなどに対して同様の行為を行わないように勧告するなど対処が行われています。

確かに大規模なデモについては減少しているように感じられますが、今回ご紹介した判例のように、ネット上においては水面下でヘイトスピーチが見られます。

そして、在日外国人に対する被害は、今もなお続いているのです。

特にツイッターなどSNS上においては、匿名で悪質な書き込みをされることが続いており、改善を求めてもなかなか改善されずにいます。

そのため、まだまだ被害者の多くは泣き寝入りしている状態で、ヘイトスピーチをなくす難しさを感じざるを得ないのです。

まとめ

今回は、在日韓国・朝鮮人であることを理由に著しく侮辱するなど不当に差別的な内容の記事をブログに投稿し、著しい侮辱や差別による人格権心ががあったというケースについて、判例をもとにしてお伝えしました。

ヘイトスピーチ解消法が施行されて5年が経過、まだまだ被害者は泣き寝入りしている状態で、問題解決の難しさを感じることができます。

ツイッターなどのSNS上において、ヘイトスピーチを見かけたという方も多いのではないでしょうか。実際に被害を受けている方も少なくないはずです。

SNSの多くは匿名であり、それがヘイトスピーチを助長してしまうといった側面もあるでしょう。

上記の裁判は終わりましたが、まだまだ課題の残された問題であると言えます。

本件のような不法行為に困っているときには、弁護士に相談するようにしましょう。

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