退職後に失業手当を支給された方は、確定申告が必要かどうか迷うかもしれません。
結論からいうと、失業給付金自体は非課税のため原則として確定申告は不要です。
しかし、失業期間中に他の収入があった場合や、還付を受けられる可能性がある場合など、申告が必要になるケースもあります。退職後に個人事業主(フリーランス)として開業を検討されている場合も、確定申告が必要になる可能性が高いでしょう。
本記事では、退職後の申告手続きについてわかりやすく解説します。
こんな疑問にお答えします
A.失業手当を受ける場合、確定申告の必要はありません。失業手当自体に税金がかかることはなく、手当を受けたからといって申告手続きする必要はありません。
ただし、失業期間中に他の収入があった場合や、還付を受けられる可能性がある場合は、申告が必要になる可能性があるでしょう。
失業手当に確定申告は不要
失業手当を受ける場合、確定申告の必要はありません。
失業手当は次の仕事が決まるまでの収入にはなりますが、最低限の生活を保障するお金です。そのため、失業手当自体に税金がかかることはなく、手当を受けたからといって申告手続きする必要はありません。
ただし、他に収入がある場合や税金が控除されていないその他の収入がある場合には、総合課税の対象として確定申告が必要になることがあります。
そもそも失業手当とは?
失業手当とは、離職した際に生活を安定させながら再就職活動ができるよう、雇用保険から支給される給付金のことを指します。正式名称は「基本手当」で、一般的には失業手当や失業保険と呼ばれます。
失業手当は、以下の条件を満たした場合に受給されます。
- 雇用保険に加入し、保険料を支払っていること
- 離職の日以前2年間に、一般の離職者の場合は12ヶ月以上、特定受給資格者・特定理由離職者の場合は6ヶ月以上の被保険者期間があること
- 就労の意志と能力があり、求職活動を行っていること
上記に共通するのは「失業の状態」であることです。ハローワークによると「失業の状態」は、就職する意思や能力があるにもかかわらず、いかなる努力をしても就職できない状態を指します。
たとえば、退職しても就職しようと考えていない人、怪我や病気、出産などで就職が難しいとされる方は、失業手当の給付対象になりません。
これから起業を考えている人は失業手当を受け取れる?
退職後に個人事業主(フリーランス)として開業を考えている方もいらっしゃるでしょう。
基本的に、退職した後にすぐ起業する場合は、失業保険の受給はできません。
しかし、起業を視野に入れている方でも退職後に求職活動をする場合は、失業手当の受給対象になります。
退職後に確定申告が必要になる・したほうがいいケース
退職後に確定申告が必要になるかどうかは、個々の状況によって異なるかもしれません。
たとえば、退職金を得たり開業したりして収入を得た場合は、確定申告が必要になるでしょう。
一方、確定申告をする必要がなくても、申告することでメリットがあるケースがあります。
ここからは、確定申告が必要になるケースと、した方がいいケースの両方を紹介します。
退職金を得た場合
退職金を受け取った場合、確定申告が必要になる ケースがあります。
具体的には、会社が「退職所得の受給に関する申告書兼退職所得申告書」を用いて税金の計算を行っていない場合は、個人が受け取った退職金全額に対して自分で税金を計算し申告しなければなりません。
退職金にかかる税金は、所得税・復興特別所得税・住民税で構成され、受け取り方によって計算方法が異なります。
一時金として受け取る場合の計算方法
退職金を一時金として受け取る場合の計算方法は、以下のとおりです。
1.課税退職所得金額を計算する
課税退職所得金額=(退職金 ー退職所得控除額)× 1/2
退職金:受け取った退職金の全額
退職所得控除額:勤続年数に応じて算定される控除額。国税庁のホームページで確認できます。
2. 所得税額を計算する
所得税額=課税退職所得金額 × 所得税率ー控除額
控除額:扶養控除、社会保険料控除などの所得控除の合計額
3. 復興特別所得税額を計算する
復興特別所得税額=所得税×2.1%
4.住民税を計算する
住民税=退職所得金額×10%
5. 合計税額を計算する
退職金を一時金として受け取る場合の合計税額は、所得税額と復興特別所得税額、住民税の合算で決まります。
年金形式で受け取る場合の計算方法
退職金を年金として受け取る場合、公的年金等控除が受けられます。前もって雑所得の計算が必要です。
1. 雑所得金額を計算する
雑所得金額=年金額ー公的年金控除額
控除額は、国税庁のホームページで確認できます。
2. 所得税額を計算する
所得税額 = 雑所得金額×所得税率
所得税率は、退職金を一時金として受け取る際と同様の税率で計算します。
3. 復興特別所得税額を計算する
復興特別所得税額=所得税×2.1%
4.住民税を計算する
住民税=雑所得×10%
4. 合計税額を計算する
合計税額は、所得税額と復興特別所得税額、住民税の合計です。
上記はあくまで一般的な計算方法であり、個々の状況によって異なるでしょう。具体的な計算方法や確定申告方法について不明な点がある場合は、税務署に相談することをおすすめします。
年度途中に退職し再就職していない場合
確定申告は、払い過ぎた税金を取り戻す手続きでもあります。
年度途中に退職しその年の年末まで再就職していない場合は、確定申告することで払いすぎた税金が戻ってくる可能性があります。
会社を途中で退職すると、その会社で年末調整ができません。年末調整していない場合、給与から適切な税金が差し引かれていない可能性があります。
そのため、確定申告を行うことで正しい課税額を計算し、過徴収の場合は還付を受けられ、過少徴収の場合は納税することになります。
会社から受け取った源泉徴収票をもとに、税の調整をしましょう。
年度途中に退職し次の勤め先で年末調整していない場合
年度途中に退職しその後再就職した場合は、給与所得の総額を正確に把握し、適正な納税をするためにも確定申告が必要です。再就職先で年末調整が行われていない場合、その年に得た所得全体に対して税金の調整を行わなくてはなりません。
確定申告に必要な書類には、退職した会社から発行された「給与所得の源泉徴収票」や、その他の控除を証明する書類があります。税理士や税務署に相談することで、正確に申告できるようサポートを受けるといいでしょう。
再就職したが年末調整前に無職になった場合
再就職後に退職して再度無職となった場合、その年に得た給与所得の合計額に基づいて正確な納税を行うために、確定申告が必要です。給与所得以外の収入がある場合も、正しく所得を申告し、納税する必要があります。
また、年度途中で仕事を辞めた場合、源泉徴収されていた所得税が過剰に支払われている可能性があります。確定申告することで、過剰に支払った所得税の還付を受けられるかもしれません。
医療費控除の適用を受ける場合
年末調整で適用されない所得控除や税額控除を確定申告で適用することで、最終的に支払うべき税額が減る可能性があります。特に、医療費控除は申告が必要な代表的な控除です。
医療費控除は、病気やケガなどで医療費が多くかかってしまった人が税金を取り戻せる仕組みです。出産にかかる費用も医療費控除の対象です。
原則として、年間の医療費から10万円を引いた金額が医療費控除の額です。しかし、退職した年の所得が少ない場合、緩和措置により年間5万円以上の医療費を支払った場合も医療費控除の対象になります(源泉徴収票に源泉徴収税額の記載があれば、その金額が上限となる)。
女性で出産を機に退職した例では、出産費用がかかることがあるでしょう。控除制度を活用すれば、最大で200万円の控除が適用されるかもしれません。
個人事業主(フリーランス)として副収入がある場合
個人事業主(フリーランス)として副収入がある場合は、確定申告が必要になる可能性が高いでしょう。所得税法では、副収入も含めたすべての所得が課税対象とされているからです。
確定申告が必要かどうかを判断する基準は、主に以下の2点です。
所得の合計額
副業としての収入を含めた年間の総所得額が、給与所得メインである場合は20万円以上であると確定申告の対象になります。
経費の申告
個人事業主(フリーランス)としての副収入がある場合、事業に関連する経費を適切に計上することによって所得税を節約できます。経費を申告することで、総所得から控除され最終的に支払う税金を減らすことが可能です。
正確な申告のためには、収入や経費の記録をしっかりと残し、帳簿や領収書を整理しておきましょう。
会社員時代に個人事業主になる目安についてはこちらの記事で詳しく解説しています。会社員として給与がある方で副業されている場合は、参考にしてみてください。
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退職後に個人事業主(フリーランス)として開業し収入を得た場合
脱サラして個人事業主(フリーランス)として開業し収入を得た場合は、確定申告が必要になる可能性が高いでしょう。
個人事業主(フリーランス)は、1年間の収益を確定してから税務署に税の申告をしなければなりません。従って、退職後に開業した場合は確定申告する必要があります。
退職後に確定申告する際の手続き
退職後に確定申告する必要のある方は、以下に注意して申告手続きをしてください。
- 確定申告に必要な書類を準備する
- 確定申告の手続き期間内に申告する
- 退職後の確定申告で記載する項目例に注意する
- 確定申告の方法は3通りから選べる
確定申告に必要な書類を準備する
確定申告する際は、以下のような書類を準備しましょう。
- 確定申告書:税務署で入手するか、国税庁のウェブサイトからダウンロードします。
- 源泉徴収票:退職した会社から発行される書類で、その年に支払われた給与や源泉徴収された税額が記載されています。2019年4月以降、税務署への提出は不要ですが申告書に内容の記入が必要です。
- 支払調書:個人事業主(フリーランス)として副業の収入がある場合、その収入を証明する書類があると便利です。
- 控除証明書や明細書:生命保険、国民年金保険料などの控除証明書や医療費控除の明細書などが必要です。
- 銀行口座の通帳:還付金を振り込んでもらうために、申告書に還付先の銀行口座情報を記載します。
確定申告の手続き期間内に申告する
確定申告は、毎年2月16日から3月15日までに行う必要があります。ただし、最終日の3月15日が土日にあたる場合は、翌週の月曜日が期限となります。
提出期限に遅れてしまうと、無申告加算税や延滞税がかかってしまい、余分な税金を納めることになりかねません。期限内に申告できるよう、早い段階から準備しておきましょう。
また、還付申告の場合は、所得があった年の翌年1月1日から5年間受け付けています。
退職後の確定申告で記載する項目例に注意する
確定申告書を記入する際、以下の項目を確認しましょう。
- 源泉徴収票の支払金額:退職した会社から発行された源泉徴収票にある「支払金額」を申告書に記入します。
- 給与所得:源泉徴収票の給与項目に基づき、申告書に所得額を記入します。
- 収入金額・源泉徴収税額:源泉徴収票をもとに「収入金額」「源泉徴収税額」「源泉徴収税額の合計」を記入します。
- 社会保険料控除:源泉徴収票をもとに「社会保険料控除」を申告書に記入します。
- 生命保険料控除:各種生命保険に加入していれば「生命保険料控除」の欄に必要事項を記入します。
個々の状況に応じて記載項目が異なります。記入内容に心配があれば、市町村が開催する確定申告の相談コーナーや管轄する税務署へ相談するなどして進めてみましょう。
確定申告の申請は3通り
確定申告の提出方法には以下の3つの方法があります。
- 所轄の税務署へ郵送する:確定申告書と必要書類を所轄の税務署に郵送します。
- 所轄の税務署へ直接持参する:確定申告書を直接税務署に持参します。
- e-Taxで電子申告する:国税庁のe-Taxを利用し、オンラインで確定申告します。
e-Taxは、オンライン上で税の申告や申請・届出などの手続きができるシステムです。電子申告すれば税務署に足を運ぶ必要がなく、税務署の執務時間外であっても書類の提出が可能です。
申請手順については、国税庁動画チャンネルの動画で確認できます。
失業手当の確定申告は不要だが、退職後は個々のケースに応じて申告手続きをしよう
失業手当は確定申告の必要がない「非課税所得」に分類されますが、退職後はそれぞれの具体的な状況に応じて申告手続きが必要になる場合があります。
特に、退職後に個人事業主(フリーランス)としての収入や投資収入などがある場合は、これらの所得に対して確定申告しなければなりません。
収入状況を正確に把握し、必要に応じて専門家に相談することが重要です。
退職後に個人事業主(フリーランス)になる場合は事前準備を欠かさずに
退職後に個人事業主やフリーランスとして活動を始める場合、事前準備が非常に重要です。特に、リスク回避は徹底しておいたほうがいいでしょう。
事業活動においては確定申告以外にも、取引先とのトラブルや労働問題、製品事故や消費者トラブルなどリスクが潜んでいます。
こうしたリスクが発生した場合、多額の費用がかかったり事業存続の危機に直面したりする可能性があるでしょう。
事業リスクを回避するには、弁護士保険への加入をおすすめします。
弁護士保険とは、事業活動において発生した法律問題について、弁護士に相談したり訴訟を依頼したりする費用を補償する保険のこと。弁護士保険に加入することで、弁護士費用を抑えられたり早期に弁護士に相談することで問題を解決しやすくしたりと、経済的・精神的な負担を軽減してくれます。
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記事を振り返ってのQ&A
A.失業手当を受ける場合、確定申告の必要はありません。失業手当自体に税金がかかることはなく、手当を受けたからといって申告手続きする必要はありません。
Q.退職金を受け取ったら確定申告は必要ですか?
A.会社が「退職所得の受給に関する申告書 兼 退職所得申告書」を用いて税金の計算を行っていない場合、退職金に対して確定申告する必要があります。
Q.年末調整前に退職した場合は、確定申告しなければなりませんか?
A.確定申告する必要があるでしょう。年度途中に退職しその年の年末まで再就職していない場合は、確定申告することで払いすぎた税金が戻ってくる可能性があります。
Q.副業している場合は、会社員を退職しても確定申告をする必要がありますか?
A.個人事業主(フリーランス)として副収入がある場合は、確定申告が必要になる可能性が高いでしょう。所得税法では、副収入も含めたすべての所得が課税対象とされているからです。