会社員が個人事業主として副業するには?必要な手続きや注意点も解説

働き方の多様化によって、会社員をしながら副業するという選択が注目されています。

会社員でも個人事業主として副業を始めることで、収入源を増やし自己実現のチャンスを広げる有効な手段となるでしょう。

しかし、副業をスタートさせるにあたり、税金や法的知識、下準備など、多くの課題に頭を悩ませている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そこで本記事では、会社員が個人事業主として副業を始める際に必要な手続きや注意点をわかりやすく解説します。

こんな疑問にお答えします

Q.会社員をしながら個人事業主になれますか?

A.会社員が個人事業主として副業を行うことは可能です。ただし、個人事業主として副業する際は、会社の方針や税金、失業保険など注意すべき点がいくつかあります。本業と副業のバランスを考慮して進めていきましょう。

会社員をしながら個人事業主になれる?

会社員が、個人事業主として副業を行うことは可能です。

ただし、副業が可能かどうかは、勤務先の方針や業種、さらには副業を行う個人の専門性やスキルによって大きく異なるでしょう。

副業の種類には、在宅でできる仕事が多く含まれ、帰宅後の時間を有効に活用して追加収入を得る機会が増えます。

ただし、本業と副業のバランスを考慮し、どちらも効率良く進めることが肝心でしょう。

そもそも個人事業主とは

個人事業主とは、法人組織を設立せずに個人が独立して継続的な事業を運営する人のことを指します。

ここでいう「継続的な事業」とは、一時的で偶発的な活動ではなく継続的に行われる経済活動を指します。

宝くじで賞金を得たり、一度だけネットオークションで出品したりという行為は、継続性がなく個人事業にはなりません。

あくまで継続性が重要なポイントであり、単発の取引やたまに行う趣味の範囲を超えた活動が、個人事業主に該当します

また、会社とは別でアルバイトやパートなど雇用契約を結ぶ場合は、個人事業主には該当しません。

個人事業主になるには、管轄する税務署に開業届を届け出る必要があります。開業届を提出することによって、正式に個人事業主として認められます。

会社員で副業するには開業届は必須?

会社員で副業する場合に限らず、開業届の提出は義務ではありません。

ただ、個人事業主と認められるには、開業届を提出したという事実が必要になります。副業として個人事業主になる場合でも、開業届を提出しなければ個人事業主を名乗れません。

開業届を提出するタイミングは、事業を開始してから1ヶ月以内です。この届出によって、税務署は事業活動を認識できるようになります。

個人事業主のメリットとして後述しますが、適切な税務処理ができるようになると青色申告を選択する資格が得られ、税務上のメリットを受けられるようになるでしょう。

会社員をしながら個人事業主になる目安は?

会社員をしながら個人事業主になる目安は「所得」「事業の継続性」を考慮するといいでしょう。

本業の給与所得以外に、年間20万円以上の事業所得があれば確定申告が必要になります。開業届を提出しなくても確定申告はできますが、青色申告で控除が受けられないため節税効果は期待できないでしょう。

また、所得があっても、事業を継続できるか分からず開業届を提出すべきか迷う方もいるでしょう。

確かに、副業として事業を始める初期段階では「継続的な事業」として成立するかどうか、自身でも判断が難しいかもしれません。このような不確実性を抱える期間を「試行期間」と考え、事業活動の成果や持続可能性を見極めてもいいでしょう。

ただし、この期間中にも事業から収入が発生した場合は、納税義務が生じることに注意が必要です。

副業として事業で継続性や成功が不確実な場合でも、事業から収入が得られる見込みがあるなら開業届の提出をおすすめします。

会社員をしながら個人事業主として開業する手続きは、こちらの記事で詳しく解説しています。

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個人事業主ではない副業とは何が違う?

副業と一言でいっても、個人事業主ではないケースも存在します。その違いは、開業届を提出しているかどうかという点です。

個人事業主として認められるには、開業届の提出が必要と解説しました。開業届は必須ではありませんが、税法上のメリットを得るきっかけになります。

開業届を提出するメリットは、青色申告を選択できるようになり節税効果が期待できる点でしょう。ただし、副業で得た事業所得が20万円以下の場合は、確定申告する必要がありません。

また、本業とは別の会社で雇用されたり、パートやアルバイトで働く形態も個人事業主ではない副業に該当するでしょう。雇用契約のある副業は、収入が給与所得として扱われるため個人が直接税務申告を行う必要はありません。

個人事業主になるには、開業届の提出をし、かつ雇用関係にない働き方をしているケースが該当します。

会社員をしながら個人事業主になるメリット

会社員をしながら個人事業主として副業すると、多くのメリットがあります。

特に税務面での利点が大きく、事業の柔軟性や経済的な利益を増やせるようになるでしょう。

具体的なメリットを見ていきましょう。

青色申告が選択できるようになる

まず、青色申告が選択できる点です。

青色申告は、事業所得や不動産所得がある個人が利用できる税務上の制度で、より多くの税務上のメリットを得られます。

青色申告を選択すると、青色申告特別控除(最大65万円)を受けられ、納税額を大幅に軽減できる可能性があるでしょう。

青色申告をするには「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。提出するタイミングは事業開始後から2ヶ月以内なので、開業届の提出と同時に行うとスムーズでしょう。

また、会社員が副業として個人事業を行い青色申告を選択した場合、給与所得に対して給与所得控除の適用が可能です。これにより、事業からの収入と給与収入の両方に対して効果的に税負担を軽減できるでしょう。副業ならではのメリットといえます。

事業に必要な支出を経費にできる

個人事業主になることで、事業運営に必要な様々な支出を経費として計上できます。

これにより、事業から得た収入から支出を差し引いた額に対してのみ税金がかかるため、実質的な税負担を減らせるようになるでしょう。

経費にできるものは、以下のようなものがあります。

  • 事務用品の購入費
  • 通信費(インターネット利用料、携帯電話料金など)
  • 旅費交通費
  • 広告宣伝費
  • レンタルオフィスや自宅オフィスの使用に関する費用(一定の条件を満たす場合
  • 専門書や研修費用

経費の種類はさまざまですが、事業に直接関係ないものは計上できません。たとえば、事業とは関係ない食費やプライベートの旅行は経費として認められないので注意が必要です。

本業と副業の利益と損失を相殺できる

個人事業の損失があった場合、その損失を他の所得(例:給与所得)と相殺が可能です。

個人事業の損失とは、事業からの収入が事業運営に必要な経費を下回った場合に生じるもの。同年中に得た他の所得(給与所得、不動産所得、配当所得など)と相殺すれば、全体としての課税所得を減らし、節税対策ができるでしょう。

家族に事業を手伝ってもらった場合は経費にできる

家族が事業を手伝った場合、その報酬を経費として計上できるようになります。家族を雇用する形で事業運営の効率化を図りつつ、税負担の軽減が可能になるでしょう。

ただし、家族に副業を手伝ってもらうには、実際に働いていることを示す証拠が必要です。
これは、正しく税務申告をするためです。

証拠を残すには、報酬の支払いを確認できる記録(振込み記録、領収書など)があると便利でしょう。

事業の信用度が向上する

個人事業主として正式に事業を行うことで、取引先や顧客からの信用度が向上する可能性があります。

将来的に会社員を辞めて独立したいと考える方には、ビジネスチャンスの拡大や取引条件の改善につながるでしょう。

自然と経営者のスキルが磨かれる

副業すると、経営者としてのスキルやビジネスセンスを磨く良い機会になり得ます。

副業を通じて、通常のサラリーマン生活では経験できないさまざまな知識やスキルを身につけられるため、自然と経営者としての資質が養われるでしょう。

会社員をしながら個人事業主になる場合の注意点

会社員をしながら副業するには、いくつか注意すべきポイントがあります。

開業届を提出すると、確定申告が必要になる

開業届を提出し、事業からの収入があれば確定申告を行わなくてはなりません。

確定申告は収入と支出を正しく計算する必要があり、本業で忙しい方であればこうした事務作業は負担になる可能性があるでしょう。さらに、青色申告を選択すれば、複式簿記での記帳や貸借対照表と損益計算書の添付とさまざまな条件を伴います。

少しでも事務負担を減らすには、会計ソフトを活用したり税理士の助けを借りることをおすすめします。

税金

個人事業では、一定基準を超えると所得税がかかります。収入が増えてくると、消費税の納税義務が生じる場合もあるでしょう。

利益だけでなく、事業に関連する経費も適切に管理し、税務申告で計上することが重要です。

個人事業主の税金については、こちらの記事で詳しく解説しています。参考にしてみてください。

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社会保険

社会保険については、社会保険が増額するケースとそうでないケースがあります。

アルバイトやパートとして雇用されて副業する場合に、本業とは別で社会保険を支払うケースがあるでしょう。

ただ、これには所定労働時間や月の収入が関係しています。加入条件を満たしてしまうと、二重の保険料を支払わなければなりません。

一方、副業で個人事業主になった場合は、会社と個人事業のどちらか一方に加入していれば問題ありません。

会社員であれば、すでに会社の社会保険に加入しています。そのため、副業で個人事業主になったとしても、追加で社会保険に加入する必要がありません。

会社によっては副業を禁止しているところがあるので注意

副業で個人事業主になる際は、会社が副業を認めているかどうかも確認しましょう。

会社によっては、副業を禁止しているところがあります。無断で副業していることが発覚したら、ペナルティが課されるおそれがあるかもしれません。

副業に関する情報は、大体が就業規則に記載してあります。

ただ、記載方法は会社によって異なり、副業という言葉を用いていない可能性があるでしょう。

よくある文言が「会社の許可を得ないで、他の会社に雇用され、あるいは、自己営業を行い、会社が不都合だと認めたとき」と書かれているパターンです。自己営業というのは、個人事業を指しています。

開業する前に、会社の就業規則をしっかり確認してみてください。

両立に対する負担

本業と副業の両立は、時間的、精神的に大きな負担になることがあります。

事業内容や働く頻度にもよりますが、本業に差し支えないように注意してください。

効率的な時間管理とストレス管理が必要になります。

失業保険を受け取れない可能性がある

会社を辞めて失業保険を受け取る際、副業で収入があると失業保険の支給対象外となる可能性があるので注意しましょう。

失業保険は、本来仕事を失った人が次の仕事を見つけるまで生活を支えるものです。副業から安定した収入がある場合は、受け取れない可能性があるでしょう。

もし、副業収入が不安定な状態で会社を辞める場合は、廃業届を提出してから退職することをおすすめします。

会社員をしながら個人事業主になる際に準備しておきたいこと

会社員をしながら個人事業主になる際は、次の準備をするとスムーズです。

必要書類や手続きを把握する

会社員をしながら個人事業主になるには、開業届を提出します。これだけで事業を進められますが、以下の手続きを進めておくとよりスムーズなスタートを切れるでしょう。

  • 青色申告承認書を提出する
  • 会計ソフトを導入する
  • 屋号を決めておく

会計ソフトは、収入と支出を正しく管理するために役立ちます。副業にかかる負担を少しでも軽減するためにも、導入を検討してみてください。

必要に応じて事業用の銀行口座を開設しておく

必要に応じて、事業用の銀行口座を開設しておきましょう。

法的に専用の銀行口座を持つことが義務付けられているわけではありません。しかし、事業用の銀行口座を持つことで、事業に関するお金の動きが管理しやすくなります。

また、会計ソフトと事業用の口座を連携すれば、経理処理が簡素化され税務申告時の計算ミス防止につながるでしょう。

事業上のリスクに備えておく

事業上のリスクにも備える必要があります。

個人事業主であっても、事業活動は常に予期せぬリスクに直面する可能性があります。リスクに適切に対応できない場合、事業の継続に影響を及ぼしかねません。

事業リスクにはさまざまな形がありますが「報酬未払い」「契約トラブル」「著作権や肖像権など法的トラブル」などがあります。

特に、報酬未払いトラブルは発生しやすいため、適切な対処が必要です。

個人事業主を守る法律はいくつかあるので、いざというときのために学んでおきましょう。

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会社員が個人事業にチャレンジするなら事前対策を念入りに

会社員をしながら個人事業主になる場合は、さまざまな準備が必要です。

事業を継続するためには、リスク対策も検討しましょう。

また、個人事業主のトラブルには、法的要素を伴うことがあります。裁判や慰謝料請求に発展することも珍しくありません。そのような場合は、法律のプロである弁護士のサポートを借りることをおすすめします。

弁護士費用の負担軽減に、法人・事業者向けの弁護士保険を活用しよう

事業を進めるうえで弁護士に解決を委任しようとすると、一定のお金が必要になります。

そこで頼りになるのが、法人・事業者向けの弁護士保険です。

法人・事業者向けの弁護士保険は、事業上で発生した法的トラブルに対し、弁護士を利用した時にかかる弁護士費用を補償する保険サービスです。

あらかじめ弁護士保険に加入しておくことで、法的トラブルが発生した場合に弁護士に支払う費用を7割近く抑えられます。

実際のところ、80%もの中小企業が「法的な課題を抱えている」といわれています。個人事業主も例外ではなく、適切に対応できずに泣き寝入りするケースは珍しくありません。

何が起きても弁護士のサポートを受けられる、そのような体制をとっておくことで安心して事業展開できるでしょう。

記事を振り返ってのQ&A

Q.会社員をしながら個人事業主になれますか?
A.会社員が個人事業主として副業を行うことは可能です。ただし、副業が可能かどうかは、勤務先の方針や業種、さらには副業を行う個人の専門性やスキルによって大きく異なるでしょう。

Q.会社員で副業するには開業届は必須ですか?
A.会社員で副業する場合に限らず、開業届の提出は義務ではありませんが、個人事業主と認められるには、開業届を提出したという事実が必要になります。副業として個人事業主になる場合でも、開業届を提出しなければ個人事業主を名乗れません。

Q.会社員をしながら個人事業主になる目安は?
A.会社員をしながら個人事業主になる目安は「所得」と「事業の継続性」を考慮するといいでしょう。納税義務が生じた場合、開業届を提出していれば青色申告で節税が可能です。

Q.会社員しながら個人事業主になる注意点は?
A.個人事業主になると、確定申告にかかる事務負担が増えます。また、会社によっては副業を認めていないところがあるので注意してください。
さらに、会社を退職する際に個人事業をしていると失業保険をもらえない可能性があります。