「自分の力で稼ぐ個人事業主になる」
そんな目標を抱く方も多いのではないでしょうか。
しかし、いざ開業しようとすると何から始めたらいいのか迷ってしまうかもしれません。
そこで今回は、個人事業主になるための具体的な手順と準備について、分かりやすく解説します。
開業届の提出方法や青色申告の手続き、必要な資金の準備など、独立前に知っておきたい情報を紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
こんな疑問にお答えします
Q.個人事業主になるにはどうしたらいいですか?
A.個人事業主になるには、開業届を提出する必要があります。開業届さえ提出すれば、学生や主婦、会社員、定年退職者、フリーターであっても個人事業主になれます。
ただ、個人事業主になるには、いくつか注意すべき点があります。事前準備を徹底して、事業をスタートしましょう。
個人事業主は誰でもなれるの?
個人事業主を目指す方にとって「特別な資格や資金など、個人事業主になるには条件があるの?」という疑問が浮かぶかもしれません。
結論、個人事業主になるための特別な資格や免許は必要ありません。開業していいかどうかは年齢や現在の置かれている状況によって異なりますが、基本的に個人事業主は誰でもなれます。
開業届を提出すれば個人事業主になれる
個人事業主になるには、開業届を提出する必要があります。開業届を提出すれば、学生や主婦、会社員、定年退職者、フリーターであっても個人事業主になれます。
現在会社員の方は、会社を辞めないと個人事業主になれないということもありません。会社員であっても副業として開業が可能です。
ただし、会社員で副業をする場合は、職種によって禁止しているところがあるので注意が必要です。後に詳しく解説しますが、会社が副業を禁止しているのに無断で開業したことが発覚すると、何らかのペナルティを課されるおそれがあるでしょう。
また、未成年者で個人事業主になる場合は、親権者の同意が必要です。また、法務局に「未成年者登記」をする必要があります。
開業時の手続き費用はかかる?
個人事業主の開業時の手続き費用は、基本的にかかりません。
ただし、次のようなケースでは費用が発生する場合があります。
- 郵送で開業届を提出する場合:切手代や封筒代の費用がかかる
- 税理士に開業届の作成や提出を依頼する場合:税理士への報酬が発生する
- 商号や商標を登録する場合:登記申請費用がかかる
上記のケースを除けば、開業手続きは無料です。
個人事業における開業届の作成は簡単なので、自分で行えるでしょう。
商号は、会社や個人事業主が営業上使用する名称で、商標は商品やサービスの識別のために使用する標識のことです。登録することで、他の事業者が同じ屋号を使用するのを防げるメリットがありますが、開業時に必ず登録する必要はありません。
個人事業主の手続きにかかる期間はどれくらい?
個人事業主になるための開業届やその他書類の申告自体は、1日あれば完了します。
ただし、開業するまでの下準備に関しては、事業内容や規模によって大きく異なるでしょう。必要な機材や備品、オフィスを設けるのであれば数ヶ月かかるケースもあります。資金が必要な場合は、資金集めも準備期間中に必要になるかもしれません。
開業をスムーズに進めるために、事前準備をしておくことが重要です。
個人事業主になるために事前にやっておくべきこと
個人事業を開始するための下準備は、現在の状況によって異なります。ここからは、状況別に個人事業主になるためにやっておきたいことを解説します。
脱サラして個人事業主になる場合
会社を辞めて個人事業主になるには、以下の準備をしておくといいでしょう。
退職届を提出する
独立する場合は、会社に退職届を提出する必要があります。
退職届の提出期限は会社によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
退職後の生活設計を考えておく
退職すると、今後の生活設計を考えなければなりません。会社員を辞めて個人事業主になる場合は、国民健康保険や国民年金に加入する必要があります。
退職前に事業用のクレジットカードを申し込んでおく
退職前に、事業用のクレジットカードを申し込んでおくといいでしょう。退職後の収入が不安定な場合は、審査に通らない可能性があるからです。
事業用のクレジットカードは必ずしも必要ではありませんが、専用カードがあることで経理業務の効率化に役立ちます。
雇用保険被保険者証・源泉徴収票・年金手帳を受け取る
退職時には以下の3つの書類を受け取る必要があります。
- 雇用保険被保険者証
- 源泉徴収票
- 年金手帳
これらの書類は、退職後の手続きや個人事業主になってからも必要になるので、忘れずに受け取ってください。
書類を受け取るタイミングは会社によって異なりますが、一般的には退職日の前日または当日になります。
会社に所属しながら副業で個人事業主になる場合
会社に所属しながら副業で個人事業を始める方は、以下の準備をしておきましょう。
会社の就業規則を確認する
会社によっては、副業を禁止または制限しているところがあります。
副業を始める前に、必ず会社の就業規則を確認しましょう。禁止している会社で無断で個人事業を始めてしまうと、ペナルティを課されるおそれがあります。
確定申告について理解しておく
会社員をしながら副業を行う場合、副業の所得金額によって確定申告が必要かどうかが変わります。所得金額とは、総売上から経費を引いた額のことです。
副業で確定申告が必要なケースは、次のとおりです。
- 副業の所得金額が年間20万円を超える場合
- 医療費控除や住宅ローン控除を受ける場合
- 青色申告で節税したい場合
副業の所得金額が年間20万円を超える場合は、確定申告が必要です。複数の副業をする場合は、それぞれの所得金額を合計して判断しましょう。
会社員をしながら個人事業主になる手順や注意点については、こちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
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主婦が個人事業主になる場合
配偶者がいて個人事業主になるには、控除や扶養を検討しなければなりません。
確認した方がいい項目は、以下のとおりです。
配偶者控除
配偶者控除を受けるには、年間の所得合計額が48万円以下と決まっています。
ただし、所得合計額が48万円〜133万円以下の場合は、配偶者特別控除の対象になります。
配偶者特別控除については、国税庁のサイトより確認できます。
社会保険
続いて、社会保険です。被扶養者になっている方は、扶養内で個人事業をしたいと希望する方もいるでしょう。扶養に入れる条件は、扶養者が加入する保険によって異なります。
たとえば、協会けんぽの扶養に入れる条件は以下のとおり。
- 配偶者の年収の半分以下
- 年間収入が130万円未満
扶養から外れて完全に独立するのであれば、扶養を受けなくても済む収益があるといいかもしれません。ご自身の事業内容や見込利益で検討してみてください。
新卒で個人事業主になる場合
新卒で個人事業主になる方も増えています。
新卒で個人事業を始める際は、次の準備をしておくといいでしょう。
特定のスキルを身につけておく
特定のスキルを身につけておくと、個人事業主として仕事をスタートしやすくなります。
新卒の場合、社会経験や実践的なスキルが少なく、案件獲得が厳しくなる可能性があるでしょう。
学生時代のうちから、ビジネススキルやマーケティングのノウハウを習得しておくことをおすすめします。
積極的に人脈を増やしておく
事業の拡大に人とのつながりは欠かせません。
個人事業主が集まりやすいイベントに積極的に参加し、人脈を広げるのも一つの手です。
案件獲得の難しさに関しては、個人事業主全体のデメリットにも挙げられますが、いずれにしても地道な努力と強いメンタルが必要でしょう。
専門スキルを磨いていけば、早い段階から会社員よりも高収入を目指せるかもしれません。
個人事業主のメリット・デメリットについてはこちらの記事をご覧ください。
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個人事業主になるための手続き
個人事業主になるためには、開業に関する書類の提出と、その他検討した方がいい項目があります。
個人事業主になるために必要な手続きを見ていきましょう。
まずは開業届を出そう
個人事業主として事業を開始した日から1ヶ月以内に、管轄の税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出しましょう。
出典:国税庁『個人事業の開業・廃業等届出書(提出用・控用)』
申請書類には「事業内容」「事業所住所」「屋号」など、事業に関する情報を記入します。
記入方法は、国税庁のホームページより確認できます。
提出方法は、原本を郵送または持参で提出しましょう。正しく記入できているか不安な場合は、直接税務署へ出向いて確認してもらいながら提出すると安心かもしれません。
開業届が受理されると、税務署から受領書が発行されます。受領書は、大切に保管しておいてください。
開業届は、税務署のホームページからダウンロードもしくは所轄の税務署で受け取れます。
青色申告承認申請書を提出しよう
青色申告で確定申告を行うためには、事業開始日から2ヶ月以内に「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。開業届を同じタイミングで提出するといいでしょう。
青色申告とは、確定申告の種類の一つで、所得税や消費税の納税を申告する制度のこと。青色申告の手続きをすることで、以下の優遇を受けられます。
- 最大で65万円の特別控除を受けられる
- 個人事業主で最大3年間の赤字繰越ができる
- 青色事業専従者給与(家族への給与を経費にできる)が可能
上記の優遇制度を受けられるので、節税効果が期待できるでしょう。
白色申告と迷う場合
確定申告の方法には、青色申告のほかに白色申告があります。
白色申告は、「簡易帳簿」という会計方法で済むので、青色申告に比べて確定申告の負担がかかりません。
青色申告をしない場合は、自動的に白色申告になります。ただし、白色申告の場合は青色申告で得られる優遇制度が受けられないので、節税対策という点では青色申告を選ぶことをおすすめします。
インボイス制度への対応も検討しよう
インボイス制度への対応も検討してみましょう。
インボイス制度とは、2023年10月1日から導入された「適格請求書(インボイス)」と呼ばれる請求書を発行・保存することで、課税事業者が仕入税額控除を受けるための方式のことです。
インボイス制度へ登録することで、課税事業者の扱いになるため消費税の申告が必要になります。
個人事業主の場合、過去2年間の課税売上高が年間1,000万円を超える事業者は、課税事業者になります。ここで、課税売上高が1,000万円を超えなければ免税事業者となり、消費税の申告は必要ありません。
しかし、インボイス制度に登録すると、売上に関係なく課税事業者になり消費税の申告義務が必要です。
個人事業を始める際は、事業内容や取引状況によってインボイスへ登録するかどうかの判断をすることになるでしょう。
その他提出が必要なもの
上記で紹介したほかにも、場合によっては提出した方がいい書類があります。
具体的には、以下のものです。
申請書の種類 | 概要 |
---|---|
青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書 | ・青色申告で確定申告を行う際に、青色事業専従者給与を経費として計上するために必要 ・提出期限は開業日から2ヶ月以内 ・納税地の税務署に提出 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | ・源泉徴収義務者が、給与等の支払金額から源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を、年2回まとめて納付できる特例を受けるための申請書 ・提出期限は特になし |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | ・給与等の支払事務を取り扱う事務所を開設、移転、廃止した際に、所轄税務署長に提出 ・提出期限は開設・移転・廃止した日から1ヶ月以内 ・提出先は給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長 |
上記はケースバイケースで提出する必要があるので、ご自身の状況に応じて判断してみてください。
個人事業主になったら必要になること
個人事業主になった後にも、いくつか対応すべきことがあります。
国民健康保険への加入
個人事業主になったら、国民健康保険へ加入する必要があります。
国民健康保険加入が一般的ですが、特定の業界に特化した任意保険の団体や協会もあるので、ぜひ調べてみてください。
ただし、配偶者の扶養に入っている場合は、主婦起業の項目でお伝えしたように年間収入の額によっては社会保険への加入は必要ありません。扶養者が加入している健康保険の条件を確認してみてください。
国民年金への加入
個人事業主は、国民年金への加入が必要です。
国民年金とは、老後に年金を受け取るための公的年金制度のことで、日本に住所がある20歳から60歳未満の全ての人が加入対象です。
会社員の場合は、厚生年金保険料の中に国民年金が含まれているため、加入する必要がありません。しかし、個人事業主になると国民年金を自分で支払う必要があります。
国民年金の金額は、所得によって異なりますが月額16,610円程度です(2023年の保険料)。年間で約20万円ほどになります。
ただし、国民年金の支払いが免除される場合もあります。それは、前年度の所得が67万円以下という条件を満たす場合です。
たとえば、去年1年間の事業収入が132万円以下で、青色申告をしている場合は、最大控除65万円を差し引くと事業所得は67万円以下になります。
この場合、国民年金を支払う必要がありません。
毎年の確定申告
個人事業主になった場合、毎年の確定申告を行う必要があります。
確定申告とは、1年間の所得を計算し、申告・納税するための手続きのこと。毎年2月16日から3月15日までの期間に、管轄の税務署に申告手続きを行わなければなりません。
確定申告を行うには、日々の帳簿付や収入や経費の整理が必要です。
また、開業のために支払った備品は開業費として計上できるので、支出がある場合は必ず領収書を保管しておくようにしましょう。
初めて確定申告を行う方は、慣れない作業に時間がかかるかもしれません。提出期間内に申告できないと、延滞税や無申告加算税が発生する可能性があるため、早めに準備を始めるといいでしょう。
確定申告をスムーズに行うための会計ソフトを利用するのもおすすめです。
事業用の口座やクレジットカードの準備
個人事業を開始するにあたり、事業用の口座やクレジットカードがあると便利でしょう。
事業用の口座やクレジットカードを準備することで、以下のメリットがあります。
- プライベートと事業のお金の混同を防げる
- 経費の管理がしやすい
- 確定申告が楽になる
事業用の口座があれば、プライベートと事業のお金が混同することがなくなり、お金の流れを把握しやすくなります。事業で利用した経費が明確になり、確定申告の手間が省けるでしょう。
個人事業主になる前に気をつけたいこと
個人事業主は、なってからが本当の勝負です。自由度が高い働き方ができる分、気をつけるべき点もいくつかあります。
契約書の作成から経理まですべて自己管理
個人事業主は契約書からお金の管理まですべて自分で行わなければなりません。そのため、契約書の作成や経理を正しく行わないと、後にトラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。
不安な場合は、電子契約作成ツールの活用や税理士に相談してみるのも一つの手段です。
取引する相手によっては、トラブルに巻き込まれてしまうことがある
個人事業主は、トラブルに巻き込まれることがあります。
よくあるトラブル事例は、以下のようなものです。
- 報酬未払い
- 一方的な報酬減額
- 突然の契約解除
- ハラスメント(パワハラ・セクハラ)
トラブルの内容によっては、裁判沙汰になるリスクもゼロではありません。
適切な対処をするためには、以下のことを意識してみてください。
- 契約書を締結する
- 見積書や納品書を発行する
- お金の管理を徹底する
- 情報セキュリティ対策を講じる
- トラブル発生時の対応を事前に準備しておく
- 事業向けの弁護士保険に加入しておく
予め対策しておくことで、リスクを最小限に抑えられるでしょう。
万が一トラブルに巻き込まれてしまった場合は、早めに弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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個人事業主になるには事前準備が重要
個人事業主は、必要な手続きを行えば誰でもなれます。
ただ、同時にさまざまなリスクを伴う可能性があるので事前準備が重要になってくるでしょう。
特に、事業トラブルは金銭が絡むことが多く、裁判に発展するケースは少なくありません。
裁判を自力で挑むには相当の精神力を要するため、弁護士など専門家によるサポートが不可欠です。
ただ、弁護士に依頼するとなると弁護士費用が気になるところでしょう。通常、弁護士にトラブル解決を委任すると数十万単位のお金が必要になります。個人で事業を営む方にとっては大きな負担になってしまいます。
そうした負担を大幅に減らす手段でおすすめなのが、法人・事業者向けの弁護士保険です。
法人・事業者向けの弁護士保険を活用しよう
法人・事業者向けの弁護士保険は、事業上で発生した法的トラブルに対し、弁護士を利用した時にかかる弁護士費用を補償する保険サービスです。
あらかじめ弁護士保険に加入しておくことで、法的トラブルが発生した場合に弁護士に支払う費用を7割近く抑えられます。
実際のところ、80%もの中小企業が「法的な課題を抱えている」といわれています。個人事業主も例外ではなく、適切に対応できずに泣き寝入りするケースは珍しくありません。
何が起きても弁護士のサポートを受けられる、そのような体制をとっておくことで安心して事業展開できるでしょう。
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個人事業主や中小企業は大手企業と違い、顧問弁護士がいないことがほとんど。法的トラブルや理不尽な問題が起きたとしても、弁護士に相談しにくい状況です。いざ相談したいと思っても、その分野に詳しく信頼できる弁護士を探すのにも大きな時間と労力を要します。
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記事を振り返ってのQ&A
A.個人事業主になるための特別な資格や免許は必要ありません。開業していいかどうかは、年齢や現在の置かれている状況によって異なりますが、基本的に個人事業主は誰でもなれます。ただし、個人事業主になるには開業届を提出する必要があります。
Q.個人事業主になるための手続きを知りたいです。
A.まずは、開業届を提出しましょう。このとき、青色申告承認申請書を提出すると節税につながります。インボイスに関しても検討しましょう。
Q.個人事業主になったら注意すべきことはありますか?
A.個人事業主になった後にも、次のような対応をしましょう。
- 国民健康保険への加入
- 国民年金への加入
- 毎年の確定申告
- 必要があれば事業用の口座やクレジットカードの準備