フリーランス、個人事業主が知っておきたい法律のこと~独占禁止法と下請法を徹底解説!

わが国のフリーランス人口は増え続けています。

会社に雇用されずに働くことができ、ストレスフルな人間関係から開放されるなどのメリットが大きいために、今後も増え続けることが予想されています。

しかし、自由な働き方ができる一方で、弱い立場に置かれやすく、トラブルが生じやすいといった側面も持っています。

会社に雇用されている労働者に適用される労働基準法は、フリーランスに対して原則として適用されることがないからです。

そのため、フリーランスとして働き続けていくためには、労働者との違いについて明確にしておき、フリーランスにあった働き方を意識しておく必要があります。

フリーランスの弱い立場を守ってくれる法律として「独占禁止法」や「下請法」が用意されており、発注者からの強要などから保護する役割を持っています。

これらの法律がどのような特徴を持っているのか知ることによって、さまざまなトラブルを回避することや、事前に対応策を準備することが可能となります。

ここでは、フリーランスと労働基準法を中心に、労働に関するさまざまな情報を詳しくお伝えしていきます。

こんな疑問にお答えします

Q:フリーランスを保護する法律はありますか?

A:弁護士保険の教科書編集部の回答サマリー

フリーランスは、会社に雇用されて働いている訳ではなく、業務委託によって仕事をしていますので、原則として労働基準法は適用されないことになっています。しかし、フリーランスに対する優先的地位の濫用は、「独占禁止法」「下請法」において問題となる行為であり、フリーランスの立場はそれらの法律に保護されているのです。

増え続けるフリーランスを保護する法律

 

内閣官房日本経済再生総合事務局が令和2年に発表した「フリーランス実態調査結果」によりますと、わが国のフリーランスの人口は462万人。

現在も増え続けている状況にあります。

同調査結果によりますと、働き方に満足しているフリーランスは多く、「仕事上の人間関係」「就業環境」「プライベートとの両立」などにおいて、8割以上が「非常に満足」もしくは「満足」を選んでいます。

ただ、フリーランスとして働くうえで、就業時間や休日に関する規制がないことや、契約条件があいまいになりがちな部分が障壁となっていることも見受けられます。

フリーランスとして働き続けたいと考えている割合は、おおむね8割であることが分かっています。

ただ、サラリーマンのように保護されるものがないことがデメリットであり、続けるための障壁となっていることも考えられるのではないでしょうか。

その最大の理由として、フリーランスには『労働基準法』が原則的に適用されないことが挙げられるでしょう。

それは、会社に雇用されている訳ではなく、多くのケースにおいて業務委託によって仕事をしているからです。

労働基準法が適用されるサラリーマンであれば、残業すれば残業代が支給され、妊娠出産の際には産休・育休が取得できます。

しかし、そのような補償はフリーランスであれば受けることができないのです。

では、フリーランスには保護してくれる法律はないのでしょうか。

フリーランスが増え続けている中で、安心して働くことができるように、また参入の障壁とならないように、「独占禁止法」「下請法」が用意されており、それぞれに適用となるケースがあります。

また状況によっては、フリーランスでも労働者として認められて、労働基準法の適用となることもあるのです。

そもそも労働基準法とは?

労働基準法とは、労働条件の最低基準を定める法律です。1947年に日本国憲法第27条第2項に基づき制定されました。

労働基準法の目的は、労働者が持つ生存権を保障するためのものです。
具体的には、労働契約や賃金、時間や休日、災害補償や就業規則など、労働に関するあらゆる項目の最低基準が定められています。

つまり、雇用する側(会社側)は、労働者との労働契約をする際に労働基準法で定める最低基準を下回ってはいけないという規則が成立します。

フリーランスは労働基準法が適用されない!?

フリーランスは、会社に雇用されて働いている訳ではなく、業務委託によって仕事をしていますので、原則として労働基準法は適用されないことになっています。

では、そもそも労働者とフリーランスにはどのような違いがあるのでしょうか。

また、雇用されていないフリーランスであっても、労働条件によっては労働基準法が適用されるケースも存在します。

フリーランスと労働基準法の関係について、詳しくお伝えしていきましょう。

労働者とフリーランスの違い

労働者は基本的に会社と雇用契約を結んでおり、会社の就業時間に合わせて働いています。

始業時間が来れば働きはじめ、勤務時間が終了すれば退勤することができ、残業すれば残業手当が支給されます。

また、働き方改革によって残業時間の制限などが設けられるなど、労働者に対して保護する姿勢がどんどん強くなっていると言えるでしょう。

それに対してフリーランスは会社に雇用されずに、業務委託によって仕事をする働き方です。

そのため、働く時間は自由で短時間でやめることや休憩も取らずに長時間働くことも可能です。

ただ、業務委託の場合には残業手当が支給されることはなく、休日に働いても休日出勤による手当が発生することもありません。

また、場合によっては業務による成果物の受け取りを拒否されたり、報酬支払いが遅延したりするようなトラブルが生じることも少なくありません。

このような労働者とフリーランスの差は、労働基準法によるものであると言えるでしょう。

労働基準法は戦後の日本で、力の格差がある使用者から労働者を守るために作られたものです。

そのため、労働者であれば労働時間は1日8時間、1週40時間と定められており、労働時間が6時間を超える場合には休憩も与えなければならないことになっています。

賃金に関することも定められており、遅延や現物払いなどは労働基準違反として罰せられることになっているのです。

しかし、フリーランスには原則としてそのように労働基準法によって保護されることはありません。

フリーランスと労働基準法・その他法律について

フリーランスは会社と雇用契約を結ばずに業務委託として働いているために労働基準法上の労働者には該当しません。

そのため、原則的にフリーランスには労働基準法は適用されないのです。

労働基準法第9条において「『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定められている通りだからです。

ただ、フリーランスには、『独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)』や『下請法(下請代金支払遅延等防止法)』が適用となります。

独占禁止法は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動するためのもので、この独占禁止法を補完する目的として下請法が用意されています。

独占禁止法と下請法については、次の章で詳しくお伝えしていきます。

フリーランスでも労働基準法が適用されるケース

フリーランスは、原則的に労働基準法は適用されませんが、あくまで原則的であって、雇用契約を結んでいないとしても実質的に労働者と言える場合には適用されることもあります。

そのようなケースにおいては、フリーランスでも最低賃金や残業代の支給などが認められることもあるのです。

労働基準法においてフリーランスの「労働者性」を判断する材料として、次の要件が挙げられます。

  • 発注者からの仕事の依頼や業務の指示があった際に自分の意思で拒否することができない
  • 業務の内容や進め方について具体的に指示や命令を受けている
  • 発注者から勤務場所や勤務時間が指定されていて、自分の意思で変更することができない
  • 発注者から受けた仕事を他人がすることや、補助者を活用することが認められていない
  • 支払われる報酬額が作業時間をベースにして決められている
  • 他の発注者の業務を受けることを制限されていたり時間的な余裕がない
  • 仕事に必要な機械など発注者側が所有しているものを活用する
  • フリーランスの報酬が労働者と比較して同程度である

これらの基準に該当するからといって、ただちに労働者性が認められる訳ではありませんが、労働関係法令の保護を受けることができる可能性が考えられます。

個人事業主で労働基準法が適用された判例

それでは、個人事業主で労働基準法が適用された実際の事例を紹介します。
平成23年4月に判決が下された事件「INAXメンテナンス」です。

本件は、住宅設備機器を販売するA社と業務委託契約を締結した個人事業主のカスタマー・エンジニア(Cさん)、そして労働組合の間で起きた事件です。
Cさんは、A社の修理補修業務を請負い、後に労働組合に加入します。

労働組合はA社に対し労働条件の団体交渉を申し入れたところ、A社の反応は「こちらのカスタマー・エンジニアは個人事業主であり、労働組合上の労働者ではない」と回答。労働組合の申し出に応じる義務はないと判断しました。

この回答に対し、労働組合はA社に対して不当労働行為にあたると指摘。この問題に対して最高裁は「本件のカスタマー・エンジニアは労働組合上の労働者である」と判決を出したのです。

労働組合側の主張が認められた理由は、A社はCさんに対して業務遂行において必要不可欠な存在として組織上の労働者に組み込んでいたからです。

また、CさんとA社の業務委託契約内容を見ると、A社の定めた「業務委託に関する覚書」で一方的に決定されたものでした。

報酬面も適用された理由のひとつです。
Cさんの労働に対してA社が決定した顧客への請求金額に、A社が決定した級ごとに定めた一定率を乗じ、時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていた点も適用されていたのです。

これらの状況から、CさんはA社の規律に従って業務を行い、労務を提供していたことになります。つまり、CさんはA社の労働者であると判断でき、労働基準法が適用されます。

繰り返しになりますが、前項で示した基準を満たせば必ず労働者基準法が認められる訳ではありません。労働関係法令の保護を受けられる可能性があると考えておきましょう。

フリーランスに適用される独占禁止法と下請法とは

 

フリーランスの働き方に対して適用される法律に「独占禁止法」と「下請法」があります。

フリーランスが事業者と取引をする場合には、その取引すべてに対して独占禁止法が適用となります。

また、相手の事業者が、資本金1000万円を超えている場合には下請法も適用されることになります。

そのようなことから、フリーランスとして安心して働き続けるためには、これらの法律についてしっかりと把握しておくことが大切であると言えるでしょう。

ここでは、フリーランスに適用される法律「独占禁止法」と「下請法」について、詳しくお伝えしていきます。

優越地位の濫用とは

フリーランスと事業者が取引を行う場合には「優越的地位の濫用」が禁止されています。

フリーランスは主に個人で、仕事を発注する事業者との間には、弱者と強者の関係になってしまうことが少なくありません。

そのような状況の中では、フリーランスに対して不利益な要請を強要する行為が発生するリスクが高くなり、仕事を受けざるを得ない状況となってしまうこともあるでしょう。

このような弱者と強者の関係を盾にした強要行為のことを「優越的地位の濫用」と呼んで、フリーランスが著しく不利益にならないように保護しているのです。

例えば、発注事業者が取引条件を明確にして、書面として交付しないことは、正当な理由のない限り、独占禁止法上において不適切であると考えられています。

また、資本金1000万円を超える事業者が発注する場合に、このような取引条件を明確にした書面を交付することを義務付けしています。

独占禁止法と下請法とは

フリーランスに対する優先的地位の濫用は、「独占禁止法」「下請法」において問題となる行為であると考えられています。

「独占禁止法」とは、発注者が優先的な地位を利用して、フリーランスに対して不利益な要請がないようにして保護することを目的としています。

そもそもこの法律は、大企業が市場を独占するような行為を禁止するためのものでしたが、発注者の行為によっては人材獲得市場に悪影響を及ぼすものになると考えられるようになりました。

そのため公正取引委員会において、フリーランスに対しても適用する方向で検討されたのです。

「下請法」は、発注者の資本金が1000万円を超えている場合に適用されるもので、取引条件を明確にした書面の交付をはじめとして、成果物受領後60日以内に代金を支払う、支払いが遅れた場合には遅延損害金、などが義務となっています。

独占禁止法を補完することによって、フリーランスの立場を保護しています。

独占禁止法と下請法上において問題となる行為

  • 報酬の支払い遅延
  • 報酬の減額
  • 著しく低い報酬の一方的な決定
  • やり直しの要請
  • 一方的な発注取消し
  • 役務の成果物にかかる権利の一方的な取扱い
  • 役務の成果物の受領拒否
  • 役務の成果物の返品
  • 不要な商品または役務の購入・利用強制
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務等の一般的な設定
  • その他取引条件の一方的な設定・変更・実施

※参考:公正取引委員会「独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法上問題となる行為類型」より

フリーランスに対する具体的な優越的地位の濫用にあたる行為として、上記の通り、具体的に示されています。

例えば、契約に定められた支払期日が過ぎても支払いされない場合には、「報酬の支払い遅延」として独占禁止法と下請法上において問題となります。

発注事業者から「忙しい」「待って」などと言われると、立場の弱いフリーランスであれば従わねばならない状況となってしまいます。

まさにそれが優越的地位の濫用にあたる行為であり、問題となる行為になるということなのです。

また、契約に基づいた仕様通りに業務を遂行したのにやり直しを強要されたり、契約範囲外のサービス提供を求められるようなことも起こりがちです。

それらも、問題となる行為累計として考えられています。

まとめ

フリーランスや個人事業主に対する労働基準法やその他関連する法律の適用についてお伝えしました。

会社に雇用されずに個人で企業などから業務委託を請け仕事をする「フリーランス」として働く人が増え続けています。

自由に働ける半面で、サラリーマンのように残業代や有給休暇、産休・育休、労災などが認められていません。

それは、フリーランスには労働基準法が原則的に適用とならないからです。

ただ、フリーランスには「独占禁止法」「下請法」が適用となり、弱い立場を守るために、発注者からの優越的地位の濫用を防いでいるのです。

もし発注者との関係にお悩みの場合であれば、それは独占禁止法・下請法で問題となる行為かもしれません。

そのため、そのような場面があった場合には、労働関係の法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

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記事を振り返ってのQ&A

Q.フリーランス・個人事業主は労働基準法は適用されますか?
A.原則として適用されません。フリーランスは会社に雇用されて働いている訳ではなく、業務委託によって仕事をしていますので、原則として労働基準法は適用されないからです。
しかし、例外としてフリーランスや個人事業主であっても、労働条件によっては労働基準法が適用されるケースも存在します。

Q.フリーランス・個人事業主でも労働基準法が適用されるケースはどのような場合ですか?
A.実質的に労働者といえる場合は、適用される可能性があります。
具体的には、以下の要件が挙げられます。

  • 発注者からの仕事の依頼や業務の指示があった際に自分の意思で拒否することができない
  • 業務の内容や進め方について具体的に指示や命令を受けている
  • 発注者から勤務場所や勤務時間が指定されていて、自分の意思で変更することができない
  • 発注者から受けた仕事を他人がすることや、補助者を活用することが認められていない
  • 支払われる報酬額が作業時間をベースにして決められている
  • 他の発注者の業務を受けることを制限されていたり時間的な余裕がない
  • 仕事に必要な機械など発注者側が所有しているものを活用する
  • フリーランスの報酬が労働者と比較して同程度である

ただし、これらの要件を満たしても必ずしも適用されるとは限りませんが、労働関係法令の保護を受けられる可能性があると考えておきましょう。

Q.他に、フリーランスや個人事業主を守る法律はありますか?
A.「独占禁止法」「下請法」という法律が存在します。これらは、弱い立場を守るために発注者からの優越的地位の濫用を防ぐ法律です。
「独占禁止法」とは、発注者が優先的な地位を利用してフリーランスに対して不利益な要請がないようにして保護することを目的としています。
「下請法」は、発注者の資本金が1000万円を超えている場合に適用されるもので、取引条件を明確にした書面の交付をはじめとして、成果物受領後60日以内に代金を支払う、支払いが遅れた場合には遅延損害金などが義務となっています。