スマートフォンの普及によってネット社会となり、SNSのユーザーが増えることによって、情報を拡散させることが容易になりました。
しかし、それらの情報が常に正しい訳ではなく、自身が正しいと思って投稿した情報が実は誤ったもので、気付いた時には拡散されてしまったということもあります。
つまり、その間違った情報によって、個人の社会的な評価を著しく低下させてしまう可能性があるということになります。
ここでご紹介する事例は、元市議会議員が事件とはまったく無関係の女性を犯人の関係者であるとSNSで拡散させ、この女性の名誉を毀損してしまったというものです。
この女性のSNSアカウントには1000件を超える誹謗中傷のメッセージが届くようになってしまいました。
女性の訴えに対して裁判所は、損害賠償として33万円の支払いを命ぜられています。
近年、社会問題となっている、SNS上での誹謗中傷に対する対処法についても踏まえながら、解説していきたいと思います。
【事例で学ぶ】元市議会議員が事件とは無関係の人をSNSで拡散~デマ情報に対し損害賠償請求が認められたケース
今回ご紹介する事例は、元市議会議員である男性が、無関係の女性であるにも関わらず、ある事件の関係者であるとSNSで投稿し、拡散されて社会的評価を低下させてしまったというものです。
この女性は、元市議会議員によって名誉毀損をされたとして、慰謝料など110万円を求めて訴訟を起こしています。
裁判所は訴えを認め、元市議会議員に対して33万円の支払いを命ずる判決を出しています。
ケースの概要
今回ご紹介する事例は、2019年8月に常盤自動車道において発生したあおり運転事件に関連するものです。
加害者の男性が被害者の男性に対してあおり運転を行い、車両を停車させ暴行を加え、一週間の負傷を負わせたという事件です。
この加害者の車両にはドライブレコーダーの映像から同乗者の女性がいることが分かっていて、後に「ガラケー女」と俗称されています。
このガラケー女に対する情報について、さまざまな情報が拡散されることになったのですが、誤った情報も多く存在しました。
しかし、これらのデマ情報を信じた元市議会議員は、自身のアカウントによって情報を引用して女性の顔写真の投稿を行い、「早く逮捕されるように拡散お願いします」などと書き込んでいました。
このデマ情報の拡散によって、女性が経営している会社に対して1日に約280本もの迷惑電話が入るようになり、女性のSNSアカウントに対しては1,000件を超える誹謗中傷メッセージが届くようになりました。
女性は元市議会議員に対して110万円の賠償を求めて提訴し、裁判所は33万円の支払いを命ずる判決を下しています。
争点となった内容と裁判所の判断
今回の事件によって争いとなったのは元市議会議員だけではなく、約18万人ものチャンネル登録数を持っているユーチューバーに対しても提訴されています。
被害にあった女性は、情報の拡散に関わったと申し出た複数の関係者とも和解されていますが、和解の応じない場合には訴訟を検討するとしていました。
元市議会議員は今回の裁判の中で、女性の損害は不特定多数の書き込みによるものであると主張しています。
また、損害賠償については、ほかの加害者からの和解金によって損害は補填されているとしています。
裁判所はこれらの主張を退けたうえで、女性に対する名誉毀損による社会的評価の低下が生じたと認め、33万円の支払いを命じています。
ネット上で誹謗中傷を受けた時の対処法
今回ご紹介した事例は、元市議会議員の実名による投稿による誹謗中傷でしたが、被害を受けた女性は複数の匿名アカウントからも誹謗中傷を受けていました。
ネット上での誹謗中傷が社会問題となっていますが、これはSNSなどでの匿名性を悪用したことが原因になっていると考えられます。
このような状況から政府は、2021年2月、プロバイダ責任制限法の改正を閣議決定し、ネットでの誹謗中傷を受けた被害者が訴えやすいように、裁判手続きが簡略化されることになりました。
では、実際に実名や写真などを晒されてしまい、誹謗中傷を受けているような状況であれば、どのように対処すればいいのでしょうか。
具体的に解説していきましょう。
ネット上で誹謗中傷を受けた時の対処法
- SNSなどに対する情報の削除依頼
- 投稿者の特定『発信者情報開示請求』
- 損害賠償請求や刑事告訴
SNSでは、情報がかなり早く拡散されてしまいますから、誹謗中傷を受けているような状況であれば速やかな対処が必要です。
まず、証拠となるツイートや画像を保存し、被害を証明する証拠を残しておきましょう。
ツイッターでは、特定の人物に対する暴言や個人情報の晒し行為などを禁止していますので、違反報告をしたうえで対象のツイートの削除依頼を行うことが可能です。
また、損害賠償請求や刑事告訴を考えている場合には、加害者を特定することが必要となります。
SNSでの誹謗中傷は、多くが匿名によるものです。そのため、プロバイダに対して情報の開示を請求する『発信者情報開示請求』を行います。
IPアドレスや契約者情報などを開示してもらう必要がありますが、個人で対処することは容易ではありません。
そのため、損害賠償請求や刑事告訴もふまえて、経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
ネット上で誹謗中傷を受けた時の相談先
今回の事例のように、事件にまったく無関係だとしても情報が拡散されてしまうことによって誹謗中傷を受けてしまい、個人ではなかなか対処できない状況となっています。
そのため、そのような状況に置かれた場合には、各種相談窓口をうまく利用することをおすすめします。
相談窓口は次の通りです。
- 法務局
- 警察署
- 弁護士
法務省では、ネットでの人権侵害をなくすために、さまざまな啓発活動が行われています。
ネット上で誹謗中傷などを受けた場合、プロバイダなどに情報の削除依頼が必要となりますが、自らが削除を求めることが難しい場合には法務局が削除を要請することもできます。
警察署では、サイバー犯罪の撲滅に力を入れています。
各都道府県警察本部においてネット上での誹謗中傷などの相談に応じています。
弁護士は、個人で対処することが難しいプロバイダへの情報の削除依頼や、損害賠償請求、告訴に向けた手続きなどのサポートを行っています。
まとめ
元市議会議員である男性が、無関係の女性であるにも関わらず、ある事件の関係者であるとSNSで投稿し、拡散されて社会的評価を低下させてしまったという事例をご紹介しました。
また、ネット上での誹謗中傷に対する対処法についてもお伝えしています。
SNSの情報拡散能力はとても優れているために、知りたい情報をいち早く掴めるといったメリットがあります。
しかしその反面、まったくのデマ情報が拡散されてしまうこともあり、その情報によって被害を受けてしまうような事件も増えています。
最近では、ツイッターでの他人の投稿をリツイートしただけで名誉毀損が成立したという司法判断も示されています。
そのため、誹謗中傷を受けてお悩みの場合であれば、まずその証拠となる投稿や画像を保存し、実績豊富な弁護士に速やかに相談することをおすすめします。