学生が大学教授に対し根拠のない告発による名誉毀損~損害賠償請求が認められたケース

ある大学の学生による、研究者である大学の総長の研究不正疑惑を告発したホームページが、裏付けるに足りる十分な証拠がないとして、教授に対する名誉毀損を認めたというケースをご紹介します。

また、今回の事例で争点となった、学術論文に対する「不正行為」が成立する要件についても、ご説明していきたいと思います。

【事例で学ぶ】学生が大学教授に対し根拠のない告発による名誉毀損~損害賠償請求が認められたケース

今回ご紹介する事例は、研究者である大学の総長が発表した論文にねつ造・改ざんがあるとして、学生が自身で公表しているホームページで告発したというものです、

大学総長は、告発した大学生によって名誉毀損をされ精神的苦痛を被ったとして、約1100万円の損害賠償請求を行っています。

裁判所は訴えを認め、110万円の支払いを命ずる判決を出しています。

ケースの概要

研究者である大学総長は、金属材料科学分野に関する論文を発表していましたが、この論文にねつ造ないし改ざんがあるとして、大学生が公開している「原告の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム)」のホームページ上で告発したというものです。

告発の経緯としては、大学に対する匿名の投書に始まっています。

「論文について研究不正の疑いがある」などと記載された投書が、大学をはじめとして、文部科学省、報道関係者などに複数回送付されています。

そのため、大学はこの投書に対する対応として調査委員会を立ち上げ、予備調査を行っていました。

ただ、この調査において投書内容に合理的な根拠がないとして、本調査を実施する必要がないと、文部科学省に対して調査報告書を提出しています。

また、日本金属学会に対しても研究不正の告発がありましたが、科学的合理的理由があるものとは認められず学会からは不受理、研究者に直接問い合わせて回答を得れば解決できる範囲の問題だとしています。

研究者である大学総長は、この問い合わせに対して、論文を訂正するなどの対応を行ってきましたが、

匿名の投稿を行った学生は「説明や証明がない限りねつ造ないし改ざんがあると断定せざるを得ない」とし、「原告の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム)」ホームページを開設、一連の経過と共に告発文を掲載しています。

この告発文に対して研究者である大学総長は、虚偽情報を不特定多数の人に印象付け、社会的評価を著しく失墜させたとして、本訴を提起したことを発表しています。

裁判所は訴えを認め、110万円の支払いを命ずる判決を出しています。

争点となった内容

本件において、争点となった内容には6点あります。

  • 今回の告発によって研究者である大学総長の社会的評価が低下したかどうか
  • 告発した大学生の行為について目的の公益性はあるか
  • 告発内容は真実であるか
  • 真実であると認められない場合の真実だと信じた相当な理由はあるか
  • 報道機関に対する公表は不法行為に該当するか
  • これらの損害について

原告である大学総長は、今回の告発は普通に読めば「論文にねつ造ないし改ざんがあった」という主張があると理解されるもので、説明や証明がない限り疑惑が払しょくされないとの主張は、疑惑であるとしても社会的評価は低下すると主張。

研究機関から研究不正がないとの判断があった後も、告発文を掲載している行為には、目的に公益性は認められないとしています。

それに対して、被告である学生は学術的な疑問に対する説明責任は果たすべきで、告発には公益性があると反論しています。

報道機関への公表については、原告は何ら研究不正を行ったものではないために、研究不正の追及を防ぐために提訴したものではなく、告発行為は学問、研究及び表現の自由の保護に値しないものであるとしています。

これに対して被告は、学問、研究及び表現の自由の抑圧を狙った不当違法なものである上に、事実的法律的根拠を欠くものであると主張しています。

そのような経緯により、原告は損害額として1100万円(慰謝料1000万円、弁護士費用100万円)の支払いなどを求めています。

被告は反訴によって損害額622万562円(本訴に関する弁護士費用72万562円、慰謝料500万円、反訴にかかる弁護士費用50万円)を請求しています。

裁判所の判断

裁判所はこれらの主張に対し、各関係機関から告発が不受理などになっている状況を踏まえたうえで、ねつ造ないし改ざんがあるか否かは証拠によって決することが可能としています。

告発行為に対する目的の公益性については、論文のねつ造や改ざんを明らかにするものであるから、公益性があると判断されました。

また、告発文全体の位置づけや表現方法などで判断し、論文にねつ造や改ざんがあるとの印象を与えることは明らかだとして、原告の社会的評価を低下させるものだとしています。

真実性については、過去の判例などもふまえて検討した結果、虚偽やねつ造,改ざんがあるということはできないとしています。

さらに、日本金属学会に対する投稿においても、科学的合理的理由が認められないと不受理されている理由などで判断すれば、この時点で決着を図るべきものであるとしています。

報道機関への公表については、原告と被告の見解の相違が明らかになっていることに留まっていることから、社会的評価を低下させるものではなく、不法行為に当たらないと判断されました。

そのような経緯を踏まえ、原告の名誉毀損による精神的苦痛が生じたと認められ、慰謝料100万円、弁護士費用10万円の支払いを命じています。

学術論文に対する不正行為とは具体的にどのようなものなのか

 

今回ご紹介した事例においては、論文にねつ造ないし改ざんといった「不正行為」があると、告発されたことによって起こりました。

「不正行為」があったのかどうかという点が大きな争点となったのです。

では不正行為とはどのようなものかというと、裁判所は次のような内容を述べています。

  • 研究者倫理に背馳している
  • 研究活動および研究成果の発表において本質ないし本来の趣旨を歪めている
  • 研究者コミュニティの正常な科学的コミュニケーションを妨げる行為

これらの具体的な行為が、データ結果に対するねつ造ないし改ざん、盗用、同じ研究結果の重複発表などとしています。

ただ、それらの研究成果が、科学的に適切な方法で正当に得られたものであれば、仮に誤りであるとしても、それは不正行為に当たらないとしています。

そのため、今回のような告発によって疑惑を晴らそうとする場合には、科学的根拠を示して説明する必要があり、またその機会が保障されます。

基本的な要素の不足によって証拠を示せない場合であれば不正行為であるとみなされますが、善良な管理者の注意義務を履行していたにもかかわらず示すことができない場合など、正当な理由がある場合には認められないとしています。

まとめ

大学の学生による研究不正疑惑を告発したホームページが、裏付けるに足りる十分な証拠がないとして、研究者である大学教授に対する名誉毀損を認めたというケースをご紹介しました。

また、裁判所で争点となった学術論文に対する「不正行為」が成立する要件についても、ご説明しました。

今回のように、不正行為を告発するためには、その要件を満たしておく必要があり、根拠と共に真実を明らかにする必要があります。

それらが認められない場合においては、名誉毀損に該当することがあるのです。

そのため、本件のようなケースにおいては法律の専門知識がないことには、うまく対処することは難しいのではないでしょうか。

名誉毀損や不正行為によって困っている場合には、放置せずに弁護士に相談するようにしてください。

弁護士に相談する際は、弁護士保険に加入しておくと弁護士費用の負担を軽減できます。

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