SNSが急速に拡大したことにより、情報をいち早く掴むことができるようになった半面で、デマ情報によって混乱に陥るようなこともあります。
例えば、2020年に新型コロナウイルス感染症が蔓延した当初に、「トイレットペーパーが不足する」といったデマ情報によって、店舗で実際に購入できない事態に陥ったことは記憶に新しいのではないでしょうか。
多くの人が、コロナ禍である中で、不安に感じている時期であったがために、情報がより早く広まってしまったのではないかと考えられます。
デマ情報を投稿する側からすれば、悪気はないのかもしれませんが、ついうっかり呟いた内容が思いもよらずに広がってしまい、上記のように大問題へと発展してしまうことがあるのです。
デマを流したというだけでは犯罪であるとは言えませんが、そのデマによって他人の信用をおとしめるような結果を招くようなことがあると「名誉棄損罪」などが成立する可能性があります。
ここでは、ブログに掲載した情報がデマあり、内容が名誉毀損にあたるとして、ブログ管理者を訴えたというケースをご紹介します。
また、デマ情報によってどのような罪に問われる可能性があるのかについても、ご説明していきたいと思います。
【事例で学ぶ】マンション近隣トラブルによってデマ情報をブログに掲載~100万円の損害賠償が認められたケース
今回ご紹介する事例は、マンション管理組合の理事長が運営している匿名のブログで、マンションに隣接している土地で作業するA商店に対する誹謗中傷する記事を掲載されたというものです。
その記事により、名誉を侵害され社会的評価が低下したとして、約541万円の損害賠償請求を行っています。
裁判所は訴えを認め、100万円の支払いを命ずる判決を出しています。
ケースの概要
A商店は、マンションに隣接する土地において、産業廃棄物の積替え保管場所として作業を行っていました。
マンション管理組合の理事長と、A商店との間では、普段からいざこざが絶えなかったと言います。
そのようなことも背景にあって、理事長が運営する匿名ブログにおいて、「A商店最期の日」というタイトルの記事を掲載しています。
その記事には、
「作業中は舞い散る粉じんによって窓は開けられない」
「けたたましい重機の騒音によってテレビの音も聞き取れない」
「粉じんで汚れる窓やバルコニー、隣接するマンション駐車場の車は砂だらけ」
などといった状況を解説。
また、
「苦情を伝え改善対策をお願いするも誠意ある対応は一切なし。」
という記述も見られています。
このマンションに隣接する土地は空き地になっているような状態であり、作業を開始する前にはマンション管理組合に対して挨拶を済ましており、マンション住民からは特に問題視するような意見はあがっていませんでした。
また、作業が進むにつれて廃材や残土が増え、マンション住民から粉塵や騒音に対する苦情を受けたために、仮柵を設置する、作業開始時間の徹底、日曜日の作業の廃止等の対応をとられていました。
そのような経過があり、記事の内容については誇張され過ぎたものであるとして、損害賠償として100万円の支払いを命ぜられています。
争点となった内容と裁判所の判断
本件において、争点となった内容には3点あります。
- 掲載した記事の目的が、公益を図るためであると言えるかどうか
- 記事の内容が真実に基づくものであるかどうか
- 理事長が掲載した記事によって、A商店の社会的評価が低下したかどうか
理事長は今回の記事の掲載については、紛争の経緯や結果を掲載することによって、同様の立場にある一般市民の参考になればという意図があり、公益を図る目的があったと主張しています。
ただ、今回掲載された記事は匿名の管理者による私的なブログであり、記事には「A商店最期の日」と実名を挙げており、誇張した表現も見られている、
また「謝罪があれば記事を削除してあげてもいい」といった趣旨のコメントをしている事実もあることからしても、公益を図る目的であるとは容易に認めることはできないとしています。
真実に基づいた内容であるのかどうかについては、記事を掲載した理事長は真実であると主張しています。
ただ、当初マンション住民からの苦情などはなく、作業の経過と共に生じた問題については適宜柵を付けるなど対処されていることが分かっています。
マンション住民59世帯に対するアンケート調査においても、作業により「かなり迷惑」を選択したのが10戸、騒音被害について「かなり迷惑」としたのは8戸に過ぎないため、真実に基づいた記述とは言えないとしています。
以上によって裁判所は、今回の記事はA商店の社会的評価を低下させるもので、不法行為によって損害を賠償すべきであるとしています。
今回の記事は、A商店からの度重なる削除要請にも関わらず3年にわたって掲載されていることもあり、一切の事情をふまえて損害額は100万円と認められるとしています。
デマ情報によってどのような罪に問われる可能性があるのか
冒頭からデマを流したことによって訴えられたというケースをご紹介しましたが、そもそもデマ情報を流すことはどのような罪になるのでしょうか。
デマを規制する法律はある?
海外においては、デマそのものを規制するような法律がある国も存在しますが、わが国の現行法においてはデマを流したからといって処罰するような法律はありません。
仮に、社会で大きな混乱を生じさせたとしても、デマを流した事実だけで処罰されたり、逮捕されたりするようなことはないのです。
ただ、上記でご紹介したケースのように、デマ情報によって社会的評価が低下してしまうような結果を招いてしまった場合には、名誉毀損や偽計業務妨害罪が認められる可能性があります。
デマは削除してしまえば罪に問われない?
デマを流すことは罪に問われないとはいえ、そのデマが社会に広まってしまい、収集がつかない事態になってしまうと、「大変なことをしてしまった」と投稿を削除してしまうことも多いでしょう。
ただ、上記でもお伝えした、名誉毀損や偽計業務妨害罪が認められる場合には、その行為そのものによって罪に問われる可能性があります。
仮に、具体的な侵害が発生していないとしても、危険をもたらす行為であるとして、罪が成立してしまうことになるのです。
また削除したとしても、「デマを流した」という事実は残りますし、完全にその証拠を消去することはできずに残っています。
そのため、情報開示請求を行えば、投稿した本人を特定することができますので、匿名だから、削除すれば、と安易に考えない方がいいでしょう。
まとめ
マンションの近隣トラブルによって掲載されたデマ情報で社会的評価が低下したことによって損害賠償の支払いを命ぜられたというケースをご紹介しました。
SNSをはじめインターネットが急速に普及するなかで、いち早く情報が掴めるメリットがある反面で、デマであっても真実のように拡散されてしまうことがあります。
冒頭でご紹介したコロナ禍でのトイレットペーパーもその一つですし、大地震が発生した地域で「動物園のライオンが逃げ出した」というものもありました。
「ライオンが逃げた」という投稿については、動物園の業務を妨害したとして、投稿をした20歳の会社員の男が逮捕されるまでに至っています。
「悪ふざけ」と供述しているようですが、それで済まないほど社会は混乱してしまいました。
「デマを流す」という行為に対して規制される法律はないものの、冒頭からお伝えしている通り、社会的評価が低下するなど状況によってはさまざまな罪に問われる可能性があります。
そのため、本件のようなデマ情報によって困っている場合には、放置せずに弁護士に相談するようにしてください。