【事例で学ぶ】プロ野球選手の妻に対する誹謗中傷で約190万円の損害賠償請求

 

メダルラッシュに沸く東京オリンピックですが、選手に対する「誹謗中傷」でも大きな話題となり注目されることになりました。

また、2020年に女子プロレスラーの木村花さんが、SNSでの誹謗中傷において自らの命を経ってしまったのは、記憶に新しい出来事です。

SNSはスポーツ選手が日々の情報を発信するための有効なツールであり、多くのファンから応援メッセージが届くと、モチベーションを高めることができます。

ただ、その中にほんの僅かでも心無い誹謗中傷が混じっているとすれば、逆にテンションを下げてしまうことになり、最悪の事態に陥ってしまうこともあるのです。

ここでご紹介する事例は、誹謗中傷を受けたプロ野球選手の妻が、ネット掲示板に書き込んだユーザーに対して約190万円の損害賠償請求を行ったというものです。

まだ当時は現在のように、スポーツ選手に対する誹謗中傷によって損害賠償請求が行われるといった事例がほとんど見られていませんでした。

そのため、テレビなどの報道においても注目されるものとなり、現在での誹謗中傷に対する措置への流れとなったものであると言えます。

どのようなケースであったのかご紹介し、「名誉毀損」「プライバシーの侵害」「名誉感情の侵害(侮辱)」などの違いについてお伝えしておきたいと思います。

こんな疑問にお答えします

Q.ネットの誹謗中傷にはどのような種類がありますか?被害を受けた場合は慰謝料請求ができますか?

A.ネットの誹謗中傷には「名誉毀損罪」「侮辱罪」などがあります。また、権利侵害として「プライバシーの侵害」に該当することがあります。
また、慰謝料を請求できるケースがあります。ただし、匿名の加害者に損害賠償を請求するには「発信者情報開示請求」もしくは「発信者情報開示命令」を行う必要があります。
法的措置をとる際はいくつか注意点があります。事前に学んでおきましょう。

【事例で学ぶ】プロ野球選手の妻に対する誹謗中傷で約190万円の損害賠償請求~その概要

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この事例は、ネット掲示板に対して書き込まれたプロ野球選手の妻に対する誹謗中傷によって、名誉が侵害されたとして書き込んだ女性に対して191万円9,686円の損害賠償を請求したというもの。

2018年当時においては、このようなネットでの誹謗中傷に対して、スポーツ選手が訴訟や損害賠償を行うといったことが少なかったことから注目を浴びることになりました。

また現在では社会問題となっているネットでの誹謗中傷に対する対策として、ネット投稿者に対して衝撃を与えたケースでもあります。

どのような内容であったのか見ていきましょう。

プロ野球選手の妻に対する誹謗中傷から損害賠償請求まで

ネット掲示板に対して書き込まれた内容は「そりゃこのブスが嫁ならキャバクラ行くわ」といったものでした。

このプロ野球選手は現役で活躍されていて、オールスターに何度も選出されていることも知られています。

このプロ野球選手本人ではなく、妻に対する誹謗中傷が目立ってきたのが、損害賠償請求を行う3年ほど前からだったようです。

さらに当時1歳にも満たない子供に対する誹謗中傷も投稿されるようになったことから、弁護士に相談されています。

その後、いったんは収まっていた誹謗中傷ですが、2017年ごろから再度繰り返されることになりました。

事実と異なることが多く、またプライベートな書き込みも多数あったことから、子供の将来も考え、約190万円の損害賠償請求に至っています。

ネット投稿者に衝撃を与えた損害賠償請求

今回ご紹介する事例は、ネット投稿者に対して衝撃を与えるきっかけとなり、現在でも繰り返されている誹謗中傷問題に対して一石を投じるものとなりました。

というのも、匿名であったネット掲示板に書き込まれた内容から本人を特定し、損害賠償請求を行ったというケースがまだまだ少なかったからです。

書き込みがあったのが2017年7月ごろであると言われており、この投稿者に対して通知文、また訴状が届いたのが12月半ばです。

投稿者は20代の女性会社員でしたが、ほんの軽い気持ちでの投稿であり、また匿名での投稿だったために、まさかこのようなことになるとは思っていなかったようです。

今では知られるようになりましたが、ネット掲示板に対して情報開示請求を行い、知り得たIPアドレスからネット提供会社を通じて氏名や住所などの個人情報を掴むことができます。

一般の人には難しいためにプロ野球選手の妻は弁護士に相談し、弁護士費用などで77万円を要していますが、損害賠償請求にはこの費用も払えとしています。

このケースによって、仮に匿名で誹謗中傷を受けたとしても泣き寝入りする必要はなく、また投稿者側からしても場合によっては訴えられる可能性があると認識されることになりました。

テレビなどでも注目

ネットでの誹謗中傷は、スポーツ選手だけではなく芸能人などの著名人に対しては、日常的に見られている光景でした。

そのような中で「見て見ぬふりをする」ことが当たり前であったことから、今回のように裁判を起こすといった行動に出ることは社会から注目されるケースとなったのです。

「もっと酷いものもある」

「これぐらいで損害賠償は…」

といった意見もあったようですが、このケースによってインターネット掲示板などネットサービスが、それだけ公共性のあるものだと認識できるものとなりました。

人に対して直接的には言わないのに、匿名になると攻撃的になってしまうという時代の幕切れであるように報じられたことも印象的です。

そのうえで、「今後このようなケースは増えていくだろう」とも報じられました。

名誉毀損・プライバシーの侵害・名誉感情の侵害(侮辱)の違い

今回のケースの発端となったのは「そりゃこのブスが嫁ならキャバクラ行くわ」というコメントの掲載によるもの。

誹謗中傷があった場合に、ポイントとして考えられることは「名誉毀損」「プライバシーの侵害」「名誉感情の侵害(侮辱)」に該当するかどうかという点です。

それぞれの違いについては、次のようにまとめられます。

  • 名誉毀損:具体的な事実によって社会的な評価を低下させてしまう行為
  • プライバシーの侵害:自己の情報をコントロールできる権利
  • 名誉感情の侵害(侮辱):限度を超える侮辱行為による人格的利益の侵害

「そりゃこのブスが嫁ならキャバクラ行くわ」という言葉が、名誉棄損に該当するかどうかというと、「ブス」は中傷的な言葉であり、「キャバクラ行くわ」は社会的評価を低下させるとまで言えないことから、該当するとは言えないでしょう。

ただ、「キャバクラ行くわ」は個人の秘密を暴露され、干渉や侵害されていると判断できるために「プライバシーの侵害」に該当すると考えられます。

「このブスが嫁なら」という言葉は、妻に対するプライドが傷つけていることから、「名誉感情の侵害(侮辱)」であると言えるでしょう。

名誉毀損罪と侮辱罪の違いについては、こちらの記事にまとめています。参考にしてみてください。

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ネット上で受けた誹謗中傷への対応方法と注意点

SNSが普及した昨今では、ネット上の誹謗中傷が社会問題となっています。

被害者にとっては大きな精神的苦痛となり、法的措置をとって加害者を罰したいという気持ちがあって当然でしょう。

ネット上で受けた誹謗中傷への対応方法

では具体的に、ネット上で受けた誹謗中傷への対応方法には次のようなものが挙げられます。

  • 誹謗中傷コメントやDMは相手にしないこと
  • 誹謗中傷の証拠を残しておく(スクリーンショット、画面の印刷)
  • サイト運営会社に削除要請を行う
  • 発信者情報開示請求で加害者を特定し訴訟を起こす
  • インターネットトラブルに強い弁護士の助けを借りる

誹謗中傷を受けた際に気をつけることは、基本的に相手にしないことです。反論することで加害者の行為がエスカレートする恐れがあるからです。

誹謗中傷の証拠は、後に法的措置をとるためにスクショや印刷をして残しておくようにしましょう。

その後、サイト運営会社に削除要請を行い、必要に応じて投稿者の特定を行ってください。

削除要請の方法は、こちらの記事で解説しています。

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法的措置をとるなら発信者情報開示請求が必要

匿名の加害者に損害賠償を請求するには、発信者情報開示請求もしくは発信者情報開示命令を行う必要があります。

発信者情報開示請求とは、Webページやネットの掲示板で権利侵害を受けたときに裁判手続を通して加害者の情報開示をプロバイダ等に求められるというものです。

特定の加害者に法定措置をとるには、開示請求を行うようにしましょう。

発信者情報開示請求で加害者を特定する手順や費用相場については、こちらの記事を参考にしてみてください。

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名誉毀損の時効には注意しよう

名誉毀損で加害者を訴えるには、時効に注意しなければなりません。

名誉毀損の時効は「刑事」と「民事」で異なります。さらに、ネット上で被害を受けた場合は、犯人特定にかかる期間も考慮する必要があります。

時効が成立する前にトラブルを解決するためにも、スムーズに動くようにしましょう。

名誉毀損の時効については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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一連の手続きが不安な場合は、専門家のサポートを借りるのも一つの手です。

まとめ~スポーツ選手に増えている誹謗中傷

2021年8月、新型コロナウイルス感染症による影響によって1年遅れとなった東京オリンピックによって注目された一つの話題があります。

それは、オリンピック選手に対する誹謗中傷。

卓球混合ダブルスで金メダルに輝いた水谷隼選手が、自身のSNSアカウントにおいて、「誹謗中傷のDMが送られてきた」と明らかにしたことがきっかけです。

「死ね!くたばれ!消えろ!」「ありえねぇーだろう?お前嫌われてんだよ」「迷惑をかけるゴミクズめ」といったメッセージであったようです。

また、この発言を契機として、ほかのアスリートも誹謗中傷を受けていることが発覚、大きく注目されることになりました。

この報道の中で、水谷選手は「しかるべき措置を取る」といった旨を公開し、誹謗中傷されたDMについては画面保存していると言います。

「しかるべき措置」とは、訴訟などを意味していることは理解できます。

ただ、情報開示請求など、一般の個人が行うにはとても難しいこともありますから、うまく弁護士を活用しながら進めていくことが必要であるように感じます。

誹謗中傷で悩んでいるのであれば、ぜひ速やかに弁護士にご相談ください。

弁護士の探し方

誹謗中傷に関する悩みを解決したいときは、インターネットトラブルや誹謗中傷に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。

権利侵害に強い弁護士を選んでもいいでしょう。自分に合った弁護士を探してみてください。

弁護士の探し方は、インターネットでの検索で自宅や職場からアクセスしやすい法律事務所に問い合わせてみましょう。

地域の法律相談窓口を利用するのもひとつの手です。

弁護士への相談は、無料で行っているところがあります。おすすめの窓口は、こちらの記事で紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

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弁護士費用に不安があるなら弁護士保険の利用も視野に

弁護士へ相談するにあたり、気になるのは弁護士費用の負担でしょう。

そこでおすすめしたいのが、弁護士保険です。

弁護士保険は、日常生活の個人的トラブルや事業活動の中で発生した法的トラブルに対し、弁護士を利用した時にかかる弁護士費用を補償する保険サービスです。

通常、弁護士を通してトラブルを解決しようとすると、数十万から数百万単位の弁護士費用がかかる場合があります。
弁護士保険に加入しておくことで、法的トラブルが発生した場合に弁護士に支払う費用を抑えられます。
誹謗中傷に悩んだ際は、弁護士保険の利用も視野に入れましょう。

弁護士保険の特徴について詳しくは、こちらの記事で解説しています。

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記事を振り返ってのQ&A

Q.ネットで誹謗中傷を受けた場合はどういった対応が適切ですか?
A.ネット上で受けた誹謗中傷への対応方法には次のようなものが挙げられます。

  • 誹謗中傷コメントやDMは相手にしないこと
  • 誹謗中傷の証拠を残しておく(スクリーンショット、画面の印刷)
  • サイト運営会社に削除要請を行う
  • 発信者情報開示請求で加害者を特定し訴訟を起こす
  • インターネットトラブルに強い弁護士の助けを借りる

Q.匿名の加害者へ慰謝料を請求することはできますか?
A.可能です。ただし、匿名の加害者に損害賠償を請求するには、発信者情報開示請求もしくは発信者情報開示命令を行う必要があります。

Q.ネットの加害者を訴える際の注意点はありますか?
A.誹謗中傷で訴える場合、時効には注意してください。名誉毀損や侮辱罪には犯人を処罰できる期間が定められています。犯人特定にも一定の時間がかかるため、スムーズに進めましょう。