【事例で学ぶ】似顔絵の無断投稿による著作権侵害~削除依頼に対して「○害予告された」と名誉毀損のあったケース

 

著作権は、仮に自分自身が所有している創作物であるとしても、著作者に許可なく利用したような場合に侵害していることがあります。

 

例えば、プロの漫画家に似顔絵を描いてもらった場合に、自宅に飾るなど個人で楽しむ分には問題ありませんが、これを無断でネットにアップロードするような行為は著作権侵害となってしまうのです。

 

今回ご紹介する事例は、まさにそのような行為が発端となったケースです。

 

削除を求めた著作者からあたかも殺害予告を受けたようなコメントをツイッターに投稿したとして、名誉毀損として損害賠償請求を行っています。

 

ここでは、判例をもとにして、著作権侵害、また名誉毀損についても詳しくお伝えしていきましょう。

 

【事例で学ぶ】漫画家の描いた似顔絵を無断投稿による著作権侵害~削除依頼に対して「○害予告された」と名誉毀損のあったケース

漫画家である原告が、自身の描いた似顔絵の無断投稿を行った被告に対し、削除依頼を出したところ、被告はツイッターで殺害予告を受けたかのようなツイートしたという事例です。

 

原告である漫画家は、無断で似顔絵を画像投稿サイトに投稿したことは著作権を侵害し、かつ著作者人格権を侵害するものである、

 

また、削除を求めた原告から、あたかも殺害予告を受けたような記事をツイッターに投稿したことは、名誉棄損に該当するとして、損害賠償として400万円請求しています。

 

ケースの概要

原告はプロの漫画家であり、著作についてはドラマ化や映画化もされていることでも知られています。

 

漫画家が所属する会社のサービスの一環として、原告の作品を購入したお客様に対して、希望する人物の似顔絵を色紙に描いてプレゼントするという企画がなされていました。

 

被告は、原告の作品を購入し、サービスの似顔絵については「昭和天皇」「今上天皇」をリクエストし、漫画家である原告から色紙を受け取っています。

 

 被告は、ツイッターの自身のアカウント上において、「天皇陛下にみんなでありがとうを伝えたい。陛下の似顔絵を描いてくれるプロのクリエイターさん。お願いします。」などと投稿、さらに原告である漫画家がこの投稿に応じたように見せかけて、今回の色紙を撮影した写真をアップロードしています。

 

この状況に気付いた原告の漫画家が、「政治的、思想的に利用するのはご遠慮ください」といった旨を投稿したところ、被告は謝罪のコメントを掲載し、投稿サイトから画像を削除しています。

 

しかしその後、被告はツイッターにおいて、この漫画家から「○害予告されました」と投稿。あかたも殺害予告を受けているような投稿を行っています。

 

原告は、無断で似顔絵をアップロードしたことは著作権侵害である、また、あたかも殺害予告をしたような投稿は名誉毀損であるとして400万円の損害賠償請求を行っています。

 

判決については、著作権侵害を認め、損害20万円、慰謝料30万円、訴訟費用の一部を負担するよう命ぜられています。

 

争点となった内容

 

この判例において争点になった内容として、

 

  • 画像の投稿によって著作権および著作権人格権を侵害したかどうか
  • 「○害予告されました」と投稿したことが名誉毀損に当たるかどうか

 

という点です。

 

原告の主張は次の通りです。

 

今回アップロードされた似顔絵は、被告に著作権がなく、しかも漫画家である原告から許諾を得ていないことから、著作権侵害については悪意がある、

 

さらに、原告である漫画家は、第二次世界大戦当時を舞台とした漫画を連載していることから、今回の投稿によって政治色の強いプロジェクトに賛同しているといった誤解を生じさせるとして著作者人格権を侵害していると主張しています。

 

また、「○害予告」が「殺害予告」を意味することは、ツイッター利用者であれば誰でも容易に想像がつくことから、原告の社会的な評価を低下させるものであり、名誉を毀損するとしています。

 

被告の主張としては、次の通りです。

 

過去に原告のイラストをアップロードした際には、事後承諾を受けることができたので、今回も承諾を得られるだろうと事前に打診するものの返答はなく、問題があってもあとで軽く謝罪する程度で済むと考えていた、

 

また、今回のプロジェクトは冗談で、政治的な思想に基づくものではないとしています。

 

さらに、「○害予告」については、原告から「全力で潰します。」とツイートされたことに対する「妨害予告」であると主張しています。

 

裁判所の判断について

 

被告による行為は著作権侵害にあたる行為であり、著作者人格権をも侵害する行為であると認められています。

 

自作自演の投稿であるにも関わらず、漫画家本人が「陛下プロジェクト」なる企画に賛同したかのように似顔絵を投稿したことは、一定の政治的傾向ないし思想的立場に基づくものと評価されてしまう可能性が大きいとしています。

 

また「○害予告されました」と漫画家である原告を名指ししたうえで投稿したことについて、「妨害予告」の意味であればそもそも伏字にする必要がないことからしても、文字通り「殺害予告」と受け取ることができ、原告の社会的な評価を低下させるものであると認められています。

 

原告からの「全力で潰します」といったツイートについては、投稿内容から作品のアップロードを全力で阻止するといった趣旨であることが理解できるために、これを持って攻撃的な言動とは受け取れないとしています。

 

ただ、画像がアップロードされていたのは4時間程度であって、閲覧者が多数いたとは言い難い状況であることから、損害の額は20万円が相当であるとしています。

 

同様の理由によって、「○害予告されました」との投稿による人格権の侵害、名誉毀損についてもそれぞれ15万円、合計30万円が相当だと判断されています。

 

今回のケースにおける「著作権侵害」「著作者人格権」について

今回の判例においては、「著作権侵害」と共に「著作者人格権」も争点になっています。

 

著作権侵害とは、今回の判例のように創作活動によって作り出された著作物を、インターネットにアップロードされるなどによって権利を侵害された行為のことを指しています。

 

「著作者人格権」とはどのような権利であるのかというと、著作物を作った著作者の人格を保護することを目的としたものです。

 

今回の判例において言えば、被告が立ち上げた「陛下プロジェクト」なる企画に対し、漫画家がその趣旨に賛同したかのように似顔絵を投稿したという行為が、著作者人格権の侵害に当たるとして認定されています。

 

そもそも今回登場する漫画家は、第2次世界大戦当時の状況を作品にしているものもあることから、今回のプロジェクトに漫画家が投稿したとなれば、政治的・思想的に賛同していると受け取られてしまうことになります。

 

そのような、恐れのあるものに対して認められているものが、著作者人格権であると言えます。

 

今回のケースにおける「名誉毀損」について

今回の判例では、「名誉毀損」についても争点となっていましたが、これは「○害予告され ました」といった投稿による社会的評価の低下が、名誉棄損に該当すると認められています。

 

名誉棄損に該当すると認定される要件として、多くの人に伝わってしまう公の場で、社会的な評価を低下させてしまう具体的な事実が掲載される、といったものがあります。

 

「○害予告され ました」という投稿は、まさにその要件に該当するものであると考えられるでしょう。

 

まとめ

今回は、漫画家が描いた似顔絵を無断投稿したことによる著作権侵害、削除依頼に対して「○害予告された」と名誉毀損のあったケースについて判例をもとにしてお伝えしました。

 

著作権侵害についてはネット上においてよく見受けられるケースであり、また人格権や名誉毀損についてもたびたび問題になっています。

 

そのような要件を満たしていると判断できるケースについては、訴訟を視野に検討することをおすすめします。

 

泣き寝入りするのではなく、ぜひ弁護士にご相談ください。