「学校裏サイト」という言葉をお聞きになったことがある方も多いのではないでしょうか。
2007年に起こった高校の自殺事件は「学校裏サイト」による悪質ないじめが引き金であったと報じられたことから注目されるようになりました。
学校裏サイトとは、誰もが閲覧でき書き込みができるサイトで、いじめの温床となっていると言われています。
2008年時点では、そのサイト数は約38,000サイトもあると文部科学省(当時:文部省)から発表があり、驚いた方も少なくはないでしょう。
現在では、「LINEいじめ」など、SNSを活用した学校裏サイトが現れるなど、複雑化している現状があります。
学校裏サイトよりも秘匿性が高く、新しいツールにどんどん乗り換える傾向がありますので、なかなか実態が掴みにくい特徴があります。
さてここでは、学校裏サイトによるネットいじめで、誹謗中傷を書き込んだ元同級生に慰謝料請求をした事例をご紹介します。
また、今後も同様のケースが増えていくことも予想できることから、ネットいじめに対する情報についてもご紹介しておきましょう。
【事例で学ぶ】学校裏サイトによるネットいじめ~元同級生に慰謝料請求したケース
今回ご紹介するケースは、茨城県のとある学校裏サイトが舞台となっており、高校入学後間もない時から中傷された女性が退学を余儀なくされたとして、慰謝料請求を行ったというものです。
「学校裏サイト」とは冒頭でもお伝えした通り、学校が運営している公式サイトではなく、非公式に学校の情報を取り扱うサイトのことを言います。
無料の掲示板が活用されているケースが多く、誰でも書き込みができますが、検索されにくい特徴があり、親などが知らない間に運用されていることがほとんどです。
そのため、いじめの温床となってしまうことが多く、社会問題となっています。
ケースの概要
茨城県のとある高校に入学した女性が、全校生徒の大半が閲覧するという学校裏サイトに中傷を書き込まれ、退学を余儀なくされたとして元同級生と両親を相手取って200万円の慰謝料を求める民事訴訟を提訴されたというものです。
この女性は2005年4月にこの高校に進学したのですが、入学後間もない頃から「消えろよ、虫けら」「調子に乗りすぎ」「めざわり」「やめるの楽しみにしているよ」といった、この女性を名指しした投稿が相次ぎました。
この学校裏サイトは全校生徒の大半が閲覧していることから、入学後からこの女性に近寄らないようになってしまい、学校でも完全に孤立状態だったようです。
また「いい子ぶってると殺すぞ」といった脅迫するような内容まで書き込まれるようになり、本当に殺されるのではないかという恐怖から学校に通えなくなってしまったのです。
その間、女性は学校や警察にも相談、書き込みを行っていた元同級生にも直談判するなど解決策に取り組まれてきました。
しかし問題に進展はなく、結局は入学した年の6月には退学することを余儀なくされてしまったのです。
翌年2月、女性は書き込みを行った元同級生と両親を相手取って、200万円の慰謝料を求める民事訴訟を提訴しています。
提訴前には元同級生から和解案が提示されていますが、断って提訴したと報じられています。
ネットいじめではどのような責任を問うことができるのか
- 損害賠償
- 名誉毀損罪
- 侮辱罪
上記でご紹介したケースにおきましては、学校裏サイトに中傷や脅迫を書き込んだ元同級生に対して、「損害賠償」を請求したと報じられました。
学校裏サイトだけではなく、近年ではSNSなどさまざまなツールに対して、いじめを目的とした誹謗中傷などの書き込みがみられることがあります。
そのような不適切な投稿をした人に対して、刑事・民事の責任を問うことができるケースがあります。
具体的には上記3つの責任を問うことができると考えられます。詳しくご紹介していきましょう。
損害賠償
平成30年にあったケースにおいて、「実名」「あだな」のネットへの書き込みがプライバシー権の侵害に当たるとして、プロバイダー業者に対して発信者情報の開示を命ずる判決が出されました。
学校裏サイトをはじめ、SNSなどでは匿名での投稿も多くありますが、発信者情報の開示によって投稿者を特定することによって、名誉棄損など損害賠償の請求が可能となります。
上記にご紹介したケースの場合、名指しで中傷や脅迫を書き込まれていたことから、生命や身体などに対して危険が及ぶ可能性がありました。
また、学校中の誰もが知ることができる状態であったために、学校裏サイト上だけではなく、さらに大きな被害にあう可能性も考えられます。
精神的に疲弊することによって、うつ病などメンタル疾患を発症するリスクも考えられることから、大きな影響を及ぼすものになることは間違いありません。
そのような内容が裁判によって認められるのであれば、損害賠償の請求も可能になります。
名誉毀損罪
「名誉毀損罪」とは刑法230条に規定されているもので、不特定多数の人の中で、社会的な評価を下げるような行為をした場合に罰せられる内容となっています。
刑法230条の条文を見てみると、下記の通り、規定されています。
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。」
つまり、真実の有無に関わらず、社会的評価を下げるような誹謗中傷の書き込みの場合、名誉棄損罪に問われる可能性があります。
ただその反面で、名誉棄損に該当するためのハードルは高いと言われていることから、今回のようなネットいじめに対する誹謗中傷などに対して、迅速かつ適切に対応できる法整備が必要であるといった声も高まっています。
侮辱罪
「侮辱罪」とは刑法231条に規定されているもので、「公然と人を侮辱」して社会的な立場を低下させた場合に成立するといった内容となっています。
「公然」とは、今回のケースのように学校全体に広まるようなものや、職場の同僚などの前で侮辱するようなケースを指しています。
名誉毀損では人の行動や行為に対する事実について指摘されるものですが、侮辱においては「バカ」「虫けら」などと中傷的な言葉や意見によって侮辱したものが対象となっています。
人気女子プロレスラーだった木村花さんがSNSにおいて度重なる誹謗中傷を受けたことによって命を絶ってしまったというケースについては、侮辱罪によって立件されています。
『死ね』『気持ち悪い』といった中傷的な言葉ばかりだったために、名誉毀損での立件が出来なかったという報道も見られています。
木村花さんのケースでは侮辱罪で立件されたものの、刑法の中では罪が軽いと言われているものであり、1万円未満の科料となっています。
まとめ~ネットいじめに対する具体的な対応は
ここでは、学校裏サイトによるネットいじめについてご紹介しました。
ネットに誹謗中傷を書き込む側としては、ほんの軽い気持ちなのかもしれませんが、その書き込みが個人に与える影響ははかり知れません。
そのため、そのような問題で悩んでいるのであれば、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
具体的には、下記のような対応を行う必要があると考えられます。
- ネットの書き込みの削除
- 発信者情報開示請求
- 損害賠償請求の通知や訴訟の提起
ネットの書き込みについては、削除されない限りは、生命の危険をはじめ、友人関係、将来の就職、結婚などに大きな影響を及ぼす可能性があります。
精神的な疲弊にも繋がるでしょう。
そのためしかるべき方法において、運営しているサイトなどに対して、削除依頼を行うことが大切です。
また、悪質な誹謗中傷を書き込んだ犯人が匿名のために分からない場合であれば、発信者情報開示請求によって特定することが可能です。
犯人を特定することができれば、損害賠償を通知することができますし、それに応じなければ民事訴訟を提起することができるのです。
ネットいじめで悩んでいるのであれば、ぜひ速やかに弁護士にご相談ください。
「弁護士費用保険の教科書」編集部

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