過失割合でゴネ得したがる加害者への対処法は?弁護士への相談もおすすめ

一般的に交通事故が起きた際は、示談交渉で加害者と被害者の過失割合を決めることになります。

過失割合は双方の交通違反の程度をもとに決めます。しかし、示談交渉中に加害者側が納得せずゴネ始めるケースが後を絶ちません。
加害者がゴネ続けていると、問題解決するまでに時間が掛かります。場合によっては、加害者側に有利な結果となってしまうこともあるでしょう。

そこで本記事では、過失割合でゴネ得したがる加害者への対処法を紹介します。
ぜひ参考にしてください。

こんな疑問にお答えします

Q:交通事故の示談を進めているところですが、加害者側が過失割合に関してゴネてきます。示談交渉が長引いて困ってるので、対処法を教えてください。

A:加害者がゴネるときは、以下の方法で対処します。

  • 法的根拠に基づいて過失割合を臆さず主張する
  • 過失割合の修正要素を主張する
  • 加害者側の保険会社に過失割合の根拠について書面提出を求める
  • 加害者側の保険会社に証拠を提出する
  • 加害者に内容証明郵便で請求書を送付する

過失割合で納得できない場合、決して泣き寝入りする必要はありません。適切に対処していきましょう。

交通事故の過失割合とは

交通事故の過失割合とは、加害者側・被害者側それぞれの過失の度合いを割合で示すものです。
例えば「加害者側:被害者側=70:30」のように全体を100として、各々の過失を決めることになります。

交通事故では、双方に何らかの過失がある場合が多くみられます。そのため、被害者側にも過失責任が生じることは少なくありません。

過失割合の決定方法

では、過失割合はどのようにして決まるのでしょうか。

一般的に、交通事故の過失割合は加害者と被害者が示談交渉をして決めます。
ただ、当事者同士が冷静に話し合いをするのは困難であるケースが多いため、双方の保険会社の担当者間で交渉が行われることもよくあります。

基本となる過失割合は、法律の専門書である「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版] 別冊判例タイムズ38号 別冊38号(判例タイムズ社)」から該当する事故類型を探して決定します。

一見、過失割合は警察が決めるようにも思えるでしょう。しかし警察には「民事不介入」の原則が適用されるため、過失割合の決定には携わりません。

過失相殺とは

過失割合を決定した後は損害賠償額を確定させますが、その際は「過失相殺」が適用されます。

過失相殺とは、過失割合の大きい方から小さい方を差し引いて支払う方法です。
では、以下のようなケースを例にとってみてみましょう。

加害者 被害者
過失割合 70 30
損害額 100万円    1,000万円  
相手に支払う損害賠償額 1,000万円×70%=700万円 100万円×30%=30万円

このケースにおいては、以下の計算式で加害者が支払う金額を算出します。

700万円(加害者が支払う損害賠償額)ー30万円(被害者が支払う損害賠償額)=670万円(相殺された損害賠償額)

したがって被害者から加害者への支払いは発生せず、加害者が「相殺された損害賠償額」である670万円を支払います。
上記のように、大きい過失割合の損害賠償額から小さい過失割合の損害賠償額を差し引いて支払額を最終決定するのが、過失相殺です。

加害者が過失割合でゴネ得したがる理由

そもそも、なぜ加害者は過失割合でゴネ得したがるのでしょうか。
その理由は、主に以下の2つになります。

示談成立を先延ばしにできるため

まず、示談成立を先延ばしにできるためです。

加害者側は、被害者に対して損害賠償額を支払う必要があります。
保険会社が全額負担する場合については、加害者自身に支払い義務は生じません。しかし、それ以外の場合は加害者にも負担が生じます。

加害者にも負担が生じる場合、「なんとかして支払い自体をせずに済ませたい」「どのようにしてお金を用意すべきか」などと考えている可能性があります。

そこで、「示談成立を先延ばしにすれば、支払いのタイミングも遅らせられる」と考えてゴネる場合があるのです。

示談金を減額できる可能性があるため

次に、示談金を減額できる可能性があるためです。

示談成立までに時間を要すると、被害者には大きな精神的負担が掛かります。
そのため、ゴネて示談交渉を長引かせることにより、被害者側が金額面で折れる可能性も出てきます。
それを期待して、ゴネることもあるということを把握しておきましょう。

過失割合の修正要素とは

先述したとおり、基本的な過失割合は法律の専門書を基準にして決定します。

しかし、各交通事故の特有事情を考慮して基本的な過失割合を修正すべき場合もあります。その際の基準になるのが「修正要素」です。
修正要素が適用されれば、一度決定した過失割合を変更できます。

修正要素には、以下のようなものが挙げられます。

  • 当事者自身の行為に注目した修正要素
  • 道路の性質に着目した修正要素
  • 事故当時の状況に着目した修正要素
  • 当事者の性質に注目した修正要素

当事者自身の行為に注目した修正要素

まずは、当事者自身の行為に注目した修正要素です。

通常の過失は、すでに基本的な過失割合に含まれています。

しかし、通常の過失を超えた「著しい過失」「重過失」があった場合は、その行為が修正要素となり、過失の割合が加算される可能性があります。
過失の大きさは、「重過失>著しい過失」となります。

自動車の場合、著しい過失と重過失にあたる具体的行為は以下になります。

過失の種類 該当する行為
著しい過失 ・脇見運転等の著しい前方不注視
・不適切なハンドル・ブレーキの操作
・携帯電話等の無線通話装置を通話のため使用、画像を注視しながらの運転
・おおむね時速15キロメートル以上30キロメートル未満の速度違反(但し高速道路を除く)
・酒気帯び運転
重過失 ・酒酔い運転
・居眠り運転
・無免許運転
・おおむね時速30キロメートル以上の速度違反(但し、高速道路を除く)
・過労や病気及び薬物の影響その他の理由により正常な運転ができない恐れがある場合

次に、単車(自動二輪車・原動機付自転車)の場合であれば、著しい過失と重過失にあたる具体的行為は以下になります。

過失の種類 該当する行為
著しい過失 一般道でのヘルメット不着用
重過失 ・高速道路におけるヘルメット不着用(自動二輪車)
・故意による危険な体勢での運転

道路の性質に着目した修正要素

道路の性質に着目した修正要素もあります。

幹線道路や交通量の多い道路に進入する際は、それ以外の道路よりも注意して進入する必要があります。
そのため、路外から幹線道路に進入する車両と幹線道路走行中の車両による事故が起きた場合は、路外から進入した車両の方に過失割合が加算される可能性があります。

事故当時の状況に着目した修正要素

次に、事故発生時が夜間の時間帯であった場合など、事故当時の状況に着目した修正要素です。

夜間の場合、周囲が暗いので車両側から歩行者を発見するのは決して容易ではありません。
また、本来歩行者側の立場からすれば、ライトにより車両を発見するのは簡単です。
このような場合は、歩行者の過失割合を加算する修正要素となり得ます。

歩行者が集団横断・通行をしていた場合の修正要素

歩行者が集団で道路を横断・通行していた場合も、修正要素になります。

集団の歩行者であれば、車両側からも見つけるのは容易であると考えられます。したがって車両側の過失割合が加算される可能性があります。

当事者の性質に注目した修正要素

当事者の性質に注目した修正要素は、例えば歩行者が交通弱者であった場合に適用されます。

交通弱者には、以下の人が該当します。

  • 幼児…6歳未満の子ども
  • 児童…6歳以上13歳未満
  • 高齢者…おおむね65歳以上
  • 身体障害者

交通弱者は完全に交通ルールを遵守するのが困難なこともあります。
そのため被害者が交通弱者であることは修正要素として考慮され、加害者側の過失割合が加算される可能性があります。

加害者が過失割合でゴネるときの対処法

ここでは、加害者が過失割合でゴネるときの対処法を紹介します。

法的根拠に基づいて過失割合を臆さず主張する

まずは、法的根拠に基づいて過失割合を臆さず主張することです。

加害者側の保険会社も法的根拠に基づいた過失割合を主張してきますが、ゴネている加害者の意見に配慮しているのが実情です。そのため、被害者側も過失割合に納得できないのであれば、臆さず法的な根拠をもとに主張をすべきです。

法的根拠に基づく主張をする際は、以下の専門書を参考にするのがおすすめです。裁判所が実際の事件を取り扱う際も、これらの書籍に掲載されている基準を参考にしています。

  • 民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(日弁連交通事故相談センター東京支部編)
  • 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版] 別冊判例タイムズ38号 別冊38号(判例タイムズ社)

過失割合の修正要素を主張する

過失割合の修正要素を主張して対処するのも方法です。

修正要素とは、先述したとおり基本的な過失割合を修正するときに使われる基準です。
保険会社が提案してきた過失割合は絶対的なものではないので、修正要素を根気強く主張することで被害者側が有利になる場合もあります。

加害者側の保険会社に過失割合の根拠について書面提出を求める

過失割合の「根拠」について書面提出を求めるのも、選択肢です。

加害者側の保険会社としても「根拠を書面に残す」となれば心理的な圧迫を与えられるため、一方的な主張がしづらくなります。
また、後から「言った言わない」の水掛け論になることを防ぐためにも、書面を残しておくのは有効です。

加害者側の保険会社に証拠を提出する

加害者側の保険会社に証拠を提出するのも良いでしょう。

ここでの証拠とは、以下のようなものが該当します。

ドライブレコーダーの映像

ドライブレコーダーに、事故前後の映像がきちんと記録されていれば、重要な証拠として利用できます。

ただしSDカードの容量が満杯になると、古い映像データは削除されます。
証拠として利用する可能性のある映像データは、早い段階で保存しておきましょう。

防犯カメラの映像

事故現場周辺に防犯カメラが設置されている場合、事故当時の状況が録画されている可能性があります。
ただし、防犯カメラの映像は基本的に警察にしか開示されません。

防犯カメラが現場周辺にあった場合、早めに警察に連絡して映像の開示を依頼しましょう。

目撃者の証言

第三者の目撃証言も、重要な証拠となります。
事故現場に目撃者がいたならば、名前と連絡先を聞いておきましょう。利害関係のない「第三者の目撃証言」は非常に役立ちます。

実況見分調書

警察が交通事故の現場で事故当時の状況を調査した結果をまとめた書類のことです。
書類には現場の写真も添付されるため、過失割合決定の際にも重要な証拠になります。

実況見分調書を証拠として利用する場合は、事故証明書に記載された警察署へ連絡し指示された検察庁に実況見分調書の謄写・閲覧を申請してください。

加害者に内容証明郵便で請求書を送付する

加害者に内容証明郵便で請求書を送付するのも、一つの手です。

内容証明郵便とは、「いつ、どのような内容を、誰が誰に送ったか」について法的に証明できるサービスです。したがって、内容証明郵便で請求書を送付すれば加害者に心理的圧迫を与えられます。
これにより、支払いは免れないことを覚悟する加害者もいるでしょう。
さらに、裁判へと発展した際には証拠としても役立てられます。

過失割合の示談が成立しないときの対処法

前項で、加害者が過失割合でゴネるときの対処法を紹介しました。
それらの対処法を試しても、過失割合の示談が成立しないときはどのように対処すべきでしょうか。
以下、紹介します。

ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する

一つ目の対処法は、ADRを利用することです。

ADRとは、Alternative Dispute Resolution(裁判に代替する紛争解決手段)の略称です。当事者と利害関係のない第三者が、双方の言い分を聴きつつ専門家の立場から問題解決を支援します。
訴訟を起こすのに比べてADRの場合は、「簡易的な手続きで済む」「問題解決までの時間を短縮できる」「費用が安い」「非公開で問題解決できる」といったメリットがあります。
解決手段にはあっせん、調停、仲裁があります。

また、もしADRを利用する際に不安があれば弁護士に相談するのも良いでしょう。

本段階で弁護士に相談しておけば過失割合の決定で有利になるためのアドバイスをもらえたり、ADRでの示談交渉自体を代行してもらうこともできます。

訴訟を起こす

二つ目の対処法は、訴訟を起こすことです。

その場合は、最終的に裁判所が当事者双方の主張や証拠を基に過失割合と損害賠償額を決定します。
ADR利用時と同様に、訴訟を起こす際も弁護士に相談すれば安心して手続きを進められます。

過失割合でゴネ得させない!弁護士に相談するメリットとは

過失割合でゴネ得されそうなときは、弁護士に相談するのも有効です。
以下、弁護士に相談するメリットを紹介します。

過失割合を変更できる可能性がある

まず、過失割合を変更できる可能性があります。

専門家である弁護士に過失割合を再検討してもらうことは、非常に有意義でしょう。過失割合が変更されれば、損害賠償額を増額できる可能性も上がります。

過失割合が1割分上がっただけで、損害賠償額が数十万円から数百万円単位で変わることもあります。

過失割合で納得がいかないのであれば早めに弁護士に相談する方が良いでしょう。

加害者が譲歩の姿勢を示す可能性がある

加害者が譲歩の姿勢を示す可能性もあります。

被害者が弁護士への相談をしていない場合、加害者側は強気な態度に出ることもあるでしょう。

しかし弁護士が介入すれば、それまでとは一転して譲歩の態度を見せることも期待できます。
弁護士に相談することで、過失割合でゴネ得することを諦めさせるきっかけになるでしょう。

示談交渉のストレスから解放される

弁護士に相談することで、示談交渉のストレスから解放されます。

示談交渉は想像以上にストレスが掛かるものです。
加害者のなかには、威圧的な態度をとって被害者に精神的ストレスを与える人もいます。
自身で加害者との交渉をするのに疲れたのであれば、弁護士に相談するのも良いでしょう。

問題解決までの時間を短縮できる

最後に、問題解決までの時間を短縮できることが挙げられます。

交通事故自体も心身ともに大きな負担を強いられるアクシデントですが、過失割合の示談交渉が長引いた場合、さらに疲弊してしまうでしょう。

そこで弁護士に相談すれば、法律の専門家として適切なアドバイスをもらえるので効率的に問題解決を図れます。
必要以上に交渉期間を長引かせないためにも、弁護士に相談するのがおすすめです

まとめ

交通事故が起こった際は、過失割合を決めることになります。

過失割合は、損害賠償額に直結するので非常に重要です。納得のいかない結果で終わらせないためにも、泣き寝入りしてはいけません。
また、基本的な過失割合はあるものの、修正要素の主張により過失割合を変更できる可能性もあります。
過失割合でゴネられると、示談交渉の期間が長引きストレスに晒され続けます。また、損害賠償を受け取るまでに時間が掛かるでしょう。

過失割合で加害者にゴネられて困っている場合は、本記事で紹介した対処法を利用し、必要に応じて弁護士への相談も視野に入れてください。

弁護士に相談する場合には、弁護士保険がおすすめです。保険が弁護士費用を負担してくれるので助かります。

記事を振り返ってのQ&A

Q:過失割合はどのようにして決まるのでしょうか?
A:一般的に、交通事故の過失割合は事故の当事者である加害者と被害者間での示談交渉で決まります。
ただ、当事者同士が冷静に話し合いをするのは困難であるケースが多いため、双方の保険会社の担当者間で交渉が行われることもよくあります。

Q:修正要素とは何ですか?
A:基本的な過失割合を修正する際に使われる基準です。
加害者がゴネた際に、修正要素を根気強く主張することで被害者側が有利になる場合もあります。

Q:加害者がゴネて示談が成立しそうにないときは、どのような対処をすべきですか?
A:以下の対処法があります。

  • 法的根拠に基づいて過失割合を臆さず主張する
  • 過失割合の修正要素を主張する
  • 加害者側の保険会社に過失割合の根拠について書面提出を求める
  • 加害者側の保険会社に証拠を提出する
  • 加害者に内容証明郵便で請求書を送付する

Q:加害者がゴネるときの対処法を試しても、示談交渉が終わらない場合はどうするべきですか?
A:ADRを利用する方法、訴訟を起こす方法があります。

Q:過失割合でゴネ得されそうなとき、弁護士に相談するとどのようなメリットがありますか?
A:弁護士に相談することで以下のような複数のメリットがあります。

  • 過失割合を変更できる可能性がある
  • 加害者が譲歩の姿勢を示す可能性がある
  • 示談交渉のストレスから解放される
  • 問題解決までの時間を短縮できる

過失割合の問題でお困りであれば、弁護士への相談も視野に入れましょう。