フリーランス保護新法とは?発注者に求められる実務対応をわかりやすく解説

フリーランスの権利を守る法律として、2023年4月28日に成立した「フリーランス保護新法」。個人で事業を営む事業者が、安定して仕事に取り組めるよう環境を整える目的があります。

フリーランス保護新法の施行開始に向けて、どういった実務対応が必要なのか準備を始めようとしている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、フリーランス保護新法の概要や、発注者に求められる具体的な実務対応を解説します。違反した際の罰則についても触れているので、ぜひ最後までご覧ください。

こんな疑問にお答えします

Q.フリーランス保護新法はどういった法律ですか?

A.フリーランス保護新法とは、ビジネスにおいてフリーランスの権利を守るために作られた新しい法律のこと。個人で事業を営む事業者が、安定して仕事に取り組めるよう環境を整える目的があります。施行開始後、発注者側はいくつか遵守すべき項目があります。違反するとペナルティが課されることがあるので注意しましょう。

フリーランス保護新法とは

フリーランス保護新法とは、ビジネスにおいてフリーランスの権利を守るために作られた法律のこと。ここでいうフリーランスとは、特定の企業や団体に所属せずに業務委託で働く事業主を指します。

フリーランス保護新法は、2023年2月24日に通常国会にて提出され、同年4月28日に成立しました。現時点(2023年11月現在)における正式な施行日は未定ですが、2024年秋ごろの予定が有力とされています。

フリーランス保護新法の目的

フリーランス保護新法の主な目的は、個人で事業を営む事業者が安定して仕事に取り組める環境を整えることです。

フリーランスは、労働基準法が適用されません。そのため、取引する企業との力量関係によって突然の契約変更を余儀なくされたり、期日どおりに報酬をもらえなかったりと、あらゆる問題に巻き込まれることが多々ありました。

フリーランス保護新法は、すべてのフリーランスがこのような不利益を被ることがないように作られた法律なのです。

フリーランスのよくあるトラブル事例が気になる方は、こちらの記事をご覧くださいね。

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下請法との違い

ここで、フリーランス保護新法と下請法の違いも整理しておきましょう。

下請法とは、取引先による不当な取引条件や支払いの遅延から守られるための法律のこと。正式には「下請業者の保護に関する法律」を指します。

フリーランス保護新法と下請法の大きな違いは、「保護が適用される資本金の制限」「保護の内容」です。具体的には、以下のような違いがあります。

【保護が適用される資本金】

  • 下請法:資本金の制限あり(発注側の資本金規模と取引の内容で異なる)
  • フリーランス保護新法:資本金の制限なし。

 

【保護の内容】

  • 下請法:主に報酬の支払いがメイン
  • フリーランス保護新法:報酬支払いや就業環境の整備、ハラスメント対策なども含まれる

下請法による保護が適用されるかどうかは、事業者の資本金規模と取引の内容で決まります。

資本金の最低基準でみていくと、元事業者が資本金1,000万円超で、下請である受託事業者が資本金1,000万円以下の場合にしか適用されません。

つまり、元事業者が資本金1,000万円以下である時点で、下請法の保護対象から外れるということです。

一方で、フリーランス保護新法では資本金の額に関係なくすべてのフリーランスが保護を受けられます。

就業環境が守られるという点においても、大きく異なるでしょう。

不当な扱いからフリーランスを守るという点においては、フリーランス保護新法と共通するかもしれません。下請法は、もともと「独占禁止法」の一貫として位置付けられているため、フリーランス保護新法と保護内容や適用条件が異なるのです。

独占禁止法や下請法について理解を深めたい方は、こちらの記事をご覧ください。

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フリーランス保護新法の対象

フリーランス保護新法の対象者や対象となる取引を解説します。

保護対象は誰?

フリーランス保護新法の保護対象となるのは「特定受託事業者」です。

特定受託事業者とは、業務委託の相手となる事業主で、かつ従業員を雇っていない人のこと。たとえば、個人事業主や、従業員のいない一人経営者が該当します。

フリーランス保護新法で保護対象となる事業者は、特定受託事業者に当てはまれば職種は問いません。フォトグラファー、デザイナー、Webライター、コンサルタントなど、さまざまな職種が対象です。

フリーランス保護新法で保護される対象は、あくまで業務を受ける特定受託事業者のみです。業務委託する事業者が保護される法律ではないので、念頭においておくといいでしょう。

対象となる取引

フリーランス保護新法の対象となる取引は、業務を発注する「委託事業者」が特定受託事業者であるフリーランスに仕事を依頼した際に適用されます。

ここでいう委託事業者は、従業員を雇用する個人事業主や法人を指します。

従業員を雇っていない個人事業主が別のフリーランスに業務を発注した取引は、フリーランス保護新法が適用されません。

フリーランス保護新法で発注者に求められる実務対応

では具体的に、フリーランス保護新法の施行が開始された際に、発注側に求められる実務対応をみていきましょう。

正確な募集内容を掲載する

発注側は、正確な募集内容の記載が求められます。

たとえば、業務委託を行うためにクラウドソーシングや求人サイト、SNS等で業務委託の募集内容を掲載するとします。

このとき、具体的な仕事内容や募集要項、契約期間や募集人数などを正確に記載しなければなりません。誤解を招くような表現や偽の情報は認められないので注意が必要です。

掲載後に募集内容が変更になった場合は、速やかに新しい情報に更新するようにしましょう。

業務委託した際は取引条件を提示する

発注側は、業務委託した際の取引条件を明確に提示する必要があります。

報酬の種類や報酬金額、支払期日をまとめた書面や電子データを受託事業者であるフリーランスに交付しなければなりません。

取引条件を明確に提示したうえで、発注を行うことが原則になります。

報酬支払期日を徹底する

フリーランス保護新法の施行後は、報酬支払期日の徹底が求められます。

報酬の支払期日は、原則として成果物を受領した日から60日以内です。また、正当な理由なく報酬を減額したり成果物の受け取りを拒否してはいけません。

支払いサイトを利用している場合は、稀に支払期日である60日を超えてしまうケースがあるでしょう。

その場合は、支払期日を短く設定したり期日内で支払えるサイトに変更するなど工夫しておくことをおすすめします。

継続して委託する際の禁止行為を把握する

受託事業者に継続して委託する際は、禁止行為が定められています。長期間の取引が行われる際、フリーランスが不利益を受けないようにするためです。

フリーランス保護新法で定められる禁止行為は、以下の項目が挙げられます。

  • 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
  • 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
  • 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
  • 通常相場に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること
  • 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
  • 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
  • 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

引用:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の概要(新規)

発注側は、上記の項目を遵守しなくてはなりません。

ハラスメント対策や就業環境を整備する

フリーランス保護新法が施行されると、特定受託事業者に対するハラスメント対策就業環境の整備が求められます。労働におけるハラスメントとして、セクハラ、マタハラ、パワハラが挙げられます。

繰り返しになりますが、フリーランス保護新法の目的は「個人事業を営む事業者が安定して仕事に取り組める環境を整えること」です。

一例ですが「妊娠や出産、育児や介護における個人的な事情を考慮した発注内容にする」「ハラスメントが発生した場合に相談体制を整える」といった環境整備が必要です。

また、受託事業者からハラスメントの相談があった際は、無視したり不当な契約解除を行ったりしてはいけません。適切な対策を講じましょう。

パワハラやマタハラの定義やよくある事例については、こちらの記事でまとめています。

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解除に関する制限を守る

フリーランス保護新法では、解除に関する制限を遵守することも求められます。

受託事業者に対して契約の解除を行う場合は、最低でも30日前に解除の旨を通知しなければなりません。

ここで、受託事業者から「契約解除の理由を教えてほしい」と要求されることもあるでしょう。このような要求に対しては、委託事業者は理由を伝える必要があります。

フリーランス保護新法に違反したら?発注者への罰則

ここまで、フリーランス保護新法が施工後に求められる発注側の対応をお伝えしました。

では、フリーランス保護新法に違反した場合の罰則があるのか気になるところです。

結論からいうと、フリーランス保護新法に違反していることが分かった場合、違反している委託事業者に対して行政指導が行われます。具体的には、立ち入り検査や注意勧告、報告徴収や指導が含まれます。

ここで、立ち入り検査への拒否や命令に違反した場合は、50万円以下の罰金に処されます。

参考: 法令検索 e-Gov 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律

まとめ:事業の法務対応に悩んだら弁護士のサポートを受けよう

フリーランス保護新法では、契約内容の交付や支払い条件、就業環境の整備やハラスメント対策など幅広い対応が求められます。

2023年11月現在における具体的な施行日は未定ですが、特定受託事業者と取引をする事業者は、早い段階から施行に向けての準備が必要になるでしょう。

フリーランス保護新法の規定を遵守するために、対応マニュアルを作成しておいてもいいかもしれません。

とはいえ、ビジネスにおける法律の内容は規定は非常に細かく、バックオフィス業務に時間を割くことが難しいという事業者もいるでしょう。

もし、事業の法務対応や準備に悩んだら、顧問弁護士のサポートを視野に入れることをおすすめします。

事業の法務対応を顧問弁護士に相談するメリット

顧問弁護士とは、企業の顧問として法務関係のアドバイスを行う弁護士を指します。顧問弁護士に依頼することで、法的トラブルの対処やリスクの回避を一任できます。

フリーランス保護新法のように、ビジネスにおける法律は日々アップデートされています。新しい法律に対しても、顧問弁護士が近くにいることでいつでも相談でき、新体制に向けてサポートしてくれるでしょう。

顧問弁護士を雇うことで、自社に法務部を設置しなくても済みます。顧問弁護士に依頼する価値は大きいといえるでしょう。

顧問弁護士の費用相場や通常弁護士との違いについては、こちらの記事を参考にしてみてください。

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弁護士費用に負担を感じたら弁護士保険の利用がおすすめ

弁護士と聞くと、弁護士費用に負担を感じる事業者も多いかもしれません。

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法人・事業者向けの弁護士保険とは、弁護士費用にかかる負担を抑えられる保険サービスのことです。

通常、弁護士を通してトラブルを解決しようとすると、数十万から数百万単位の弁護士費用がかかる場合があります。

法人・事業者に向けた弁護士保険に加入しておくことで、法的トラブルが発生した場合に弁護士に支払う費用を抑えられます。

事業におけるトラブル被害を早期解決するためにも、法人・事業者に向けた弁護士保険の利用を視野に入れましょう。

記事を振り返ってのQ&A

Q.フリーランス保護新法はどんな法律なの?
A.フリーランス保護新法とは、ビジネスにおいてフリーランスの権利を守るために作られた新しい法律のこと。個人で事業を営む事業者が、安定して仕事に取り組めるよう環境を整える目的があります。

Q.フリーランス保護新法の保護対象は誰?
A.フリーランス保護新法の保護対象となるのは、特定受託事業者です。
特定受託事業者とは、業務委託の相手となる事業主で、かつ従業員を雇っていない方のこと。

Q.どんな取引が対象ですか?
A.業務を発注する「委託事業者」が特定受託従業者であるフリーランスに仕事を依頼した際に適用されます。

Q.フリーランス保護新法で発注者に求められる実務対応はどんなものがありますか?
A.主に、以下の実務対応が求められます。

  • 正確な募集内容を掲載する
  • 業務委託した際は取引条件を提示する
  • 報酬支払期日を徹底する
  • 継続して委託する際の禁止行為を把握する
  • ハラスメント対策や就業環境を整備する
  • 解除に関する制限を守る

Q.フリーランス保護新法に違反すると罰則はありますか?
A.フリーランス保護新法に違反していることが分かった場合、違反事業者に対して行政指導が行われます。立ち入り検査への拒否や命令に違反した場合は、50万円以下の罰金に処されます。