家賃の滞納トラブルは賃貸不動産の運用の中でも最も多いトラブルのひとつです。
賃借人から確実に回収したいものの「家賃滞納が発生したけど何をすればいいか分からない」「入居者とのトラブルを避けたい」と対処方法に悩むオーナーさんも多いのではないでしょうか?
最悪の場合は裁判を経て強制退去を求めることも可能ですが、裁判の金銭的・精神的負担は避けて通れないでしょう。
またオーナーが自力で家賃回収しようとすると状況を悪化させるだけでなく、知らぬうちに違法行為に触れてしまい回収はおろかオーナー側が訴えられてしまうような事態に発展しかねません。
そこで本記事では、家賃滞納が発生した場合に不動産オーナーが取るべき適切な対処法を解説します。また、対応時に不動産オーナーが絶対にやってはいけないNG例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
こんな疑問にお答えします
Q.家賃を支払ってもらえません。どう対応すべきですか?
A.まず管理会社に報告し、支払い督促をしてもらいましょう。それでも未払いの場合は、内容証明郵便の送達や任意での明け渡し請求が有効です。場合によっては、法的措置を検討してもいいでしょう。
家賃滞納が発生したら不動産オーナーはどうすべき?
家賃の滞納が発生した場合の初動対応から最終的に法的措置を取るまでの全体の流れについてみていきましょう。
ここでは管理業務を特定の管理会社や保証会社に委託しているケースで説明しますが、自主管理を行っている場合はオーナー本人がこれらの対応を行っていくことになります。
賃借人に支払い督促するよう管理会社に依頼する
家賃滞納を確認したら、まずは管理会社を通じて賃借人に支払いの督促を行います。
通知は電話や直接訪問、あるいは書面により行い、滞納が発生している事実や支払いを催促する旨、および支払期限を明確に伝えましょう。
管理会社には、賃借人が滞納する背景に一時的な問題(失業、病気など)を抱えていないか確認してもらうことも重要です。
一時的な問題が原因であれば、分割払いや一時的な家賃の減額など柔軟な対応を検討します。
管理会社から連帯保証人に連絡してもらう
通知後も支払いが滞るようであれば、連帯保証人にも家賃滞納の事実を通知し支払いの督促を行います。
連帯保証人は賃借人と同等の責任を持つため、家賃滞納に対する支払いの責任を負う義務があります。
保証会社にも連絡する
保証会社へ加入している場合は、保証会社へ連絡し滞納となっている家賃を代わりに支払ってもらうことも可能です。
保証会社は、家賃以外にも賃貸契約で規定された義務(たとえば、退去時の修繕費用)に関して賃借人が履行できない場合に、費用を負担してくれます。
この場合、保証会社が家賃の支払いを行ったうえで、保証会社側で賃借人へあらためて督促を行っていくことになります。
管理会社から内容証明郵便を利用して催告してもらう
書面通知や事情確認をしても家賃が1ヶ月以上支払われない場合は、内容証明郵便を利用して正式な催告を行いましょう。
内容証明郵便とは、送付する文書の内容と発送日時を郵便局が証明するサービスのこと。この制度は、契約書、催告書、解除通知など重要な文書を送付する際によく利用されます。
内容証明は後に法的なトラブルが生じた場合や将来的に証拠が必要になった際に非常に重要になるでしょう。
家賃滞納に関する内容証明郵便には、滞納金額、支払期日、振込先、および期限までに支払わなければ法的措置を検討する旨を記載してください。
また、ここで理解しておきたいのが、法的強制力についてです。
内容証明郵便には法的措置に向けた証拠としての役割を果たしますが、書面自体に法的な強制力はありません。ただし、この手続きを経ることで、賃借人に対してより強い支払いの促進効果が期待できるため、有効な手段といえるでしょう。
内容証明郵便の書き方については、こちらの記事で解説しています。
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任意で明け渡しを求める
家賃滞納に対しては、訴訟を提起する前に賃借人に対して物件を自発的に明け渡すよう求められます。あくまで「明け渡しに対する提案」として位置づけられるため、相手に有益な条件を提示すれば、より柔軟かつ迅速な解決が期待できるでしょう。
具体的には、賃借人に対して家賃滞納の状況と賃貸契約違反を指摘した正式な通知を書面で送付します。この通知には、滞納金額、滞納期間、そして任意の明け渡しを求める期限を記載します。
期限内に物件が明け渡されない場合、法的措置を検討する可能性があることを告知しておくといいでしょう。
この時点で和解が見込まれる場合、支払い計画の再調整や家賃の一時的な減額など、双方が納得する解決策を提示することが望ましいです。合意に至った場合は、和解契約を文書化して正式に結びます。
法的措置を検討する
任意の明け渡しを求めたものの問題が解消されない場合は、法的措置の検討が必要になります。法的措置には、家賃債務の支払い請求や強制退去を求める訴訟の提起が含まれます。ただし、訴訟には時間と費用がかかるため法的措置は最終手段と考えておきましょう。
不動産オーナーとして家賃滞納に対応する際には、まず法的措置以外の解決策から試みることが賢明です。これには、書面通知や任意の明け渡し交渉が含まれます。これらの方法で問題が解決しない場合は、法的手段を検討することが推奨されます。
いずれの場合も、専門家の助言を仰ぐことが重要です。
家賃滞納が発生した際に不動産オーナーがやってはいけないNG行為
家賃滞納は、不動産オーナーにとって大きな問題です。しかし、焦って対応すると、状況を悪化させてしまうだけでなく、違法行為に触れてしまいオーナー側が訴えられる事態に発展してしまう可能性があります。
ここでは、家賃滞納が発生した際にやってはいけないNG行為を詳しく解説します。
早朝や深夜に支払い督促の電話・訪問する
家賃滞納が発生した際、焦って早朝や深夜に電話や訪問するのは避けましょう。賃借人の生活を脅かし、トラブルに発展する可能性があります。
民法1条3項では「権利の濫用は、これを許さない」と定められており、早朝や深夜の督促は権利の濫用とみなされる可能性があります。
家賃滞納に関する連絡や訪問をする際は、賃借人のプライバシーを尊重する必要があるでしょう。
適切な訪問時間は、相手の生活スタイルや仕事の都合を考慮する必要があります。一般的には、午前9時から午後6時までの時間帯が社会的に受け入れられやすいとされています。
無断で物を撤去する
家賃滞納があったとしても、賃借人の同意なしに勝手に物を撤去してはいけません。
賃貸物件においては、賃借人にはその物件内での平穏な使用と享受の権利があります。この権利は、賃借人が物件を使用し、自分の所有物を自由に置けることを保証します。
不動産オーナーが賃借人の同意なしに物件内の物を撤去する行為は、賃借人の法的な権利を侵害することになり、私的侵入、盗難、または賃借人の平穏な使用と享受の権利の侵害と見なされる可能性があるでしょう。
無断で鍵を交換する
家賃滞納があったとしても、賃借人の同意なしに鍵を交換することは違法行為とみなされる可能性が非常に高くなります。
このような行為は、賃借人の居住権を侵害してしまいます。
賃貸契約において、賃借人には契約期間中、物件を使用し生活する権利が保障されています。不動産オーナーが一方的に鍵を交換することは、賃借人がその権利を行使することを妨げ、賃借人の権利を侵害することになるため注意してください。
物件の電気や水道などのライフラインを遮断する
家賃滞納を理由に、電気や水道などのライフラインを故意に遮断することは、人道に対する配慮を欠く行為であり、法的に許されていません。
このような行為は、賃借人の生活を脅かすものとして不法行為に見なされる可能性があります。
生活保護法や水道法などに違反する可能性もあるため、ライフラインの遮断は絶対に避けましょう。
物件へ不法侵入する
賃借人の同意なく物件に侵入することは、明確な違法行為です。不動産オーナーには、緊急時以外、賃借人の許可なく物件に入る権利がありません。
勝手に侵入した場合は、民法第130条「住居侵入罪」に該当する可能性があります。
借主への嫌がらせや脅迫行為を行う
賃借人に対する嫌がらせ、脅迫、暴言は、問題を解決するうえで決して許される行為ではありません。このような行為は、法的な罰を受ける可能性があり、状況をさらに悪化させてしまいます。
正当な理由なく借主の職場や学校へ連絡・訪問する
正当な理由なく賃借人の職場や学校へ連絡・訪問することは、プライバシーの侵害になります。賃借人の職場や学校への無関係な事由での接触は、個人の生活や仕事への不当な介入とみなされ、オーナーに対する法的な責任や反感を招く原因になるでしょう。
もし、どうしても賃借人と連絡をとるために職場や学校へ連絡しなければならない場合は、以下のことに注意してください。
- 賃借人に直接連絡を取り、職場や学校への連絡の意図とその理由を説明し同意を求める
- 連絡する際は、問題の解決に必要な最小限の情報のみを共有し、不必要な詳細や個人情報の共有は避ける
賃借人が携帯電話を所持しておらず、連絡がとれない場合もあるでしょう。このようなときに職場や学校へ連絡する場合は、トラブルの詳細は公表せず本人に取り次いでもらうようにしましょう。
張り紙やネットで情報公開して家賃滞納の事実を広める
張り紙やインターネットを通じて家賃滞納の事実を広める行為は、賃借人の名誉を毀損する可能性があり、プライバシーの侵害や個人情報保護法に違反する恐れがあるでしょう。
適切な対応としては、書面をポストへ投函するか個別連絡をするなど、第三者に分からない方法で通達してください。
家賃滞納に対する効果的な予防策
家賃滞納は不動産オーナーにとって頭痛の種ですが、適切な予防策を講じることでリスクを最小限に抑えられます。家賃滞納を防ぐための効果的な対策を3つ紹介します。
入居者の審査を徹底する
家賃滞納の問題を未然に防ぐためには、入居前の審査を徹底的に行うことが重要です。
入居希望者の信用情報をチェックし、過去の家賃支払い履歴、収入証明、勤務先情報などを基に検討しましょう。また、前の賃貸オーナーからの推薦状や、連帯保証人の確保も有効な手段になります。
こうした審査を経ることで、信頼できる賃借人を選別し、滞納リスクの軽減に役立ちます。
家賃保証サービスを利用する
家賃保証サービスの利用も有効です。
家賃保証サービスとは、賃借人が家賃を滞納した場合に、代理で家賃を支払う機関のこと。家賃滞納の回収サービスも行ってくれるところが多く、不動産オーナーは家賃収入の安定性を確保できます。
保証会社は、入居前の審査も行ってくれるため、入居者選定の際の安全網にもなり得ます。家賃保証サービスを導入するのは多少の費用がかかりますが、滞納リスクを大幅に軽減することができるためコストパフォーマンスは高いといえるでしょう。
自動振替やオンライン決済を導入する
家賃の支払い方法をオンライン決済にすることも、滞納を防ぐ効果的な手段です。
家賃未払いの理由には「うっかり振り込むのを忘れていた」というケースがあるかもしれません。
口座振替やオンライン決済の導入により、賃借人は毎月の家賃支払いを忘れるリスクを減らせるでしょう。
家賃滞納に困ったら弁護士へ相談すべき?
家賃滞納のトラブル対応をしようと考えている不動産オーナーの中には、弁護士に相談しようか迷っている方もいらっしゃるでしょう。
結論からいうと、法律のプロである弁護士に相談して適切な方法で家賃回収を行うのが最適といえます。
家賃滞納の対応は、弁護士なしでも可能です。しかし、自力での対応は、一歩間違えると賃借人から不法行為として訴えられてしまう可能性があり、問題が大きくなってしまいます。
このほかにも、弁護士なしでの対応はさまざまなリスクを伴うため注意が必要です。
弁護士なしでの支払い督促はリスクが多い
弁護士なしでの支払い督促は、以下のようなリスクを背負うことになってしまいます。
賃借人が音信不通になり泣き寝入りの可能性がある
まず、賃借人が音信不通になり、適切な措置が取れず泣き寝入りしてしまうケースです。
賃借人と連絡が取れるうちは、交渉や支払い請求が何とかできそうですが、賃借人が無断で転居してしまい行方が分からなくなってしまっては回収ができません。
通常、他人の転居先を調べることは非常に難しいもの。プライバシー保護の観点から個人の住所情報は厳格に管理されており、特定の合法的な理由や許可なしにこれらの情報を得る手段はほとんどありません。
転居先が分からないとなると、督促手続きを進められず泣き寝入りせざるを得なくなってしまいます。
法的措置は専門知識が必要で難しい
家賃滞納問題を解決するための法的措置を講じるには、専門的な知識が必要です。
たとえば、支払い督促の申立てには、正確な書類作成と適切な手続きをしなければなりません。
誤った手続きを行ってしまうと、申立てが却下されたり訴訟で敗訴したりする可能性があるでしょう。
こうしたリスクを避け、家賃回収をスムーズに進めるには不動産トラブルに強い弁護士の助けが欠かせません。
家賃滞納トラブルで弁護士を活用するメリット
家賃滞納トラブルを弁護士に依頼することで、以下のメリットがあります。
- リスクを回避し、滞納分の家賃を確実に回収してくれる
- 法的措置を一任できるため、時間と労力を軽減できる
- 賃借人が音信不通になっても、所在調査や財産調査などの手段を用いてスムーズに解決してくれる
弁護士は、督促状の作成や交渉の代行、訴訟手続きなど問題解決に向けた具体的なサポートをしてくれます。法的措置を取る取らないに関係なく、適切な方法で不動産オーナーの権利を守ってくれるでしょう。
また、相手が転居してしまって連絡が取れない場合でも、弁護士であれば強制力を持って相手の情報を入手してくれます。「泣き寝入りしか選択はない」と心配する必要はありません。
家賃滞納問題に直面した際は、早期の段階で弁護士に相談することをおすすめします。
不動産トラブルに備えて弁護士保険に加入しておくのがオススメ
家賃滞納問題を含め、不動産トラブルが発生した際の法的費用や弁護士費用は高額になることがあります。
こうした費用を抑える手段が弁護士保険の存在です。
弁護士保険は、法的トラブルが発生した際の訴訟費用や弁護士費用をカバーし、不動産オーナーの負担を軽減してくれる保険のこと。予期せぬトラブルに巻き込まれた際に、迅速かつ適切な対応をするための安心の網になります。
法人・個人事業主の方で法的トラブルにお困りの場合には、法人・個人事業主向けの弁護士保険がおすすめです。
家賃滞納トラブルを弁護士保険で解決した事例はこちらから
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個人事業主や中小企業は大手企業と違い、顧問弁護士がいないことがほとんど。法的トラブルや理不尽な問題が起きたとしても、弁護士に相談しにくい状況です。いざ相談したいと思っても、その分野に詳しく信頼できる弁護士を探すのにも大きな時間と労力を要します。
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記事を振り返ってのQ&A
Q.家賃滞納が発生したらどう対応すべきですか?
A.まずは管理会社へ連絡し、賃借人へ支払い督促をしてもらいましょう。内容証明郵便の送達や明け渡し請求も有効です。場合によっては法的措置も検討してみてください。
Q.家賃滞納の対応時に注意すべきことはありますか?
A.無断で物を撤去したり、鍵を交換したりすることはNGです。物件への不法侵入やライフラインの断絶もやってはいけません。これらは違法行為になり得るので、注意してください。
Q.家賃滞納を未然に防ぐ方法はありますか?
A.入居者審査を徹底しましょう。家賃保証サービスへの加入も有効です。あらかじめ、不動産トラブルに備えて弁護士保険を利用するのもいいでしょう。