一部の週刊誌などにおいて頻繁に、政治家や芸能人などのゴシップが報じられています。
しかし、そもそもこのような報道は名誉毀損に当たるものではないのかと、疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、週刊誌「FRIDAY」の紙面およびウェブサイトに掲載された記事によって名誉毀損されたとして、原告である市長が損害賠償を求めた事例をご紹介します。
また、政治家のような公人に対する報道が、どこから名誉毀損として認められることになるのかについてもご紹介していきます。
【事例で学ぶ】週刊誌の疑惑記事が名誉毀損に~市長が損害賠償請求を行った裁判事例
週刊誌「FRIDAY(平成29年4月28日号)」と運営するウェブサイト「FRIDAIデジタル」に掲載、
この内容の記事によって原告は名誉毀損されたと主張し、慰謝料1000万円、弁護士費用相当額100万円の合計額1100万円を求めたケースです。
裁判所は原告の主張を認め、 慰謝料150万円、弁護士費用相当額15万円の合計額165万円の支払いを命ぜられています。
どのような内容の事例なのか、詳しくお伝えしていきましょう。
ケースの概要
週刊誌「FRIDAY(平成29年4月28日号)」と運営するウェブサイト「FRIDAIデジタル」において、「茨城 守谷市長の『黒すぎる市政』に地方自治法違反疑惑」と題する記事を掲載。
この記事は、「守谷市の市長である原告の経営するオーナー企業が、守谷市の公共事業の入札で有利な落札をしているのではないか」という疑惑を指摘した内容となっています。
原告である市長はこの記事に対して、市長および守谷市議会議員である期間内に、企業での経営に関与している事実は存在しないと主張しています。
また、守谷市が発注する際に行われる競争入札において、不公平な形で落札業者を決定するような官製談合を行った事実もないとしています。
そのため、記事内容である「市政運営は真っ黒である」といった事実はまったくないと主張されました。
被告であるFRIDAY側は、「今でもオーナー経営者ではないか」「落札からみると守谷市の入札はゆがんでいるのではないか」という疑惑を指摘した意見、ないし論評であると主張。
守谷市における公共事業の入札を監視し、問題提起するという公益を図る記事であると主張し、原告の主張に反論されています。
争点となった内容
本件において、争点となった内容には4点あります。
- 記事の事実と社会的評価の低下の有無について
- 違法性がないとして処罰されない事情があるかどうか
- これらの損害について
- 名誉回復措置が必要であるかどうか
原告の主張としては、本件の記事は、地方自治法および守谷市の条例に違反するものであり、官製談合を行い、市政運営は真っ黒であるといった事実を適時したものであるために、社会的評価を低下させることは明白であるとしています。
また、証拠もなく、客観的事実に反する記事を掲載したことは極めて悪質であり、公益を図る目的などないと主張。
そのため、被った精神的苦痛の慰謝料は1000万円を下ることはないと主張し、弁護士費用と合わせて1100万円、また、同時に謝罪広告の掲載も求めています。
被告であるであるFRIDAY側は、あくまで「疑惑」として報道しており、読者はすべて事実として捉えていないと主張しています。
記事の内容は公共的関心ごとであるために、問題提起する公益を図る記事であるとしています。
裁判所の判断
今回の記事では「茨城 守谷市長の『黒すぎる市政』に地方自治法違反疑惑」という見出しと共に、「地方の殿様の闇」「自らのオーナー企業で市の公共事業を次々と落札」といった文言が記載されています。
その内容からしても、「疑惑」という記述はされているとしても、地方自治法や守谷市の条例に違反し、官製談合などの違反や不正が行われている印象を抱かせるものであるから、社会的評価を低下させるものだと認められるとしています。
FRIDAY側の主張に対しては、地方自治体の首長ないし議員と関連企業との関係性について問題提起することは正当なものであったといえ、守谷市政治倫理条例違反に関する論評については違法性が阻却されると認定されています。
それらの事情を考慮すれば、慰謝料150万円、弁護士費用相当額15万円の合計額165万円の支払いが相当だと認められています。
また、損害賠償義務が認められることによって、名誉回復も想定されることから、謝罪広告の掲載が必要とまでは認められないとしています。
政治家に対する記事や投稿は名誉毀損になるのか
政治家に対する誹謗中傷など、SNS上で見かけるようなことがありますが、それらの投稿や記事は、どこから名誉毀損となるのでしょうか。
デマだけではなく事実であるとしても名誉毀損と認められる可能性が
一般的にSNSなどのネット上においてデマを流すような行為は、名誉毀損として認められ、損害賠償義務が生じる可能性があります。
では、デマではなく事実であれば、名誉毀損として認められることはないのでしょうか。
不倫などのスキャンダルが公になって、社会的評価が低下してしまったという政治家や芸能人は珍しいことではなくなってきたように感じます。
仮にこの不倫が事実であるとしても、名誉を毀損してしまうことは明らかです。それが一般の方だけではなく、政治家や芸能人であっても同じなのです。
刑法230条には次のように定められています。
『公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。』
つまり、SNSなどに投稿した内容が、事実の有無に関わらず名誉毀損として成立すると定められているのです。
政治家に対する名誉毀損は成立するのか
上記でもご説明した通り、名誉毀損について刑法230条で定められていますが、政治家については刑法230条の2の2項において次のように定められています。
『公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。』
つまり、政治家をはじめ公務員は公人として存在していますから、公人そのものの名誉よりも、国民の利益が尊重されているのです。
そのため、事実の真否を判断して、真実であるとの証明があれば、名誉毀損が成立しないことになります。
さらに、虚偽であるとしても、真実であると信じたことについて、相当の理由があると認められた場合においても、名誉毀損は成立しないとされているのです。
冒頭でご説明したケースにおいて、次のような点が争点とされていました。
- 記事の事実と社会的評価の低下の有無について
- 違法性がないとして処罰されない事情があるかどうか
「記事の事実」と「違法性がないとして処罰されない事情」について争点とされていたのですが、これがまさに政治家に対して名誉毀損が成立するかどうかのポイントだったわけです。
「事実の真否」、そして虚偽であるとしても「真実であると信じたことについて相当の理由があるかどうか」ということに注目されたと言えるでしょう。
まとめ
週刊誌に掲載された政治家に対する疑惑の記事が、名誉毀損に当たるとして損害賠償を命ぜられたケースについてご紹介しました。
政治家をはじめとする公務員は、公人であるがために、国民の利益が尊重されることになりますので、名誉毀損に該当しない可能性があります。
もし、誹謗中傷などによってお悩みの場合であれば、実績豊富な弁護士に速やかに相談することをおすすめします。
「弁護士費用保険の教科書」編集部
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