「業績の悪化」が理由で減給は正当?給与の不利益変更の合理性とは

 

給与 減額 不利益変更
※この記事は『ワークルール検定問題集』などの著者であり、労働法の研究者である平賀律男氏による寄稿文です。

ニュースでは「景気がいい」などと報じられている一方で、業績が悪化して廃業する会社は年々増え続けています。

売上げが減少して、会社の経営状態が厳しくなったとき、営業を継続させるためにとられるコストダウンの手段の一つが、賃金カットです。

賃金カットによって人件費を抑えることは、確かに経営改善にはつながるものの、労働者の意欲・士気の低下や優秀な労働者の流出などを起こしかねない劇薬だといえます。

今日は、使用者による賃金カットの方法について考えてみます。

労働条件はどのようにして決められるの?

労働契約は労働者と使用者の間で結ばれる「契約」ですので、その内容は当事者が自由に決めることができます。これを「契約自由の原則」といいます。

しかし、契約自由とは言っても、現実には使用者にとって自由なだけで、交渉力に劣る労働者は使用者と対等な立場で契約内容について話し合いを行うことなどできません。

労働条件の下支え

そこで登場するのが、労働基準法(労基法)です。

労基法は、賃金や労働時間などについて、オール・ジャパンの最低基準を定める法律であり、この法律に違反した契約内容はその部分が無効となり、労基法の基準に置き換えられます(労基法13条)。

例えば、1日10時間働くという契約内容は、労基法32条の基準である1日8時間に置き換えられます。

また、最低賃金法も、労基法の関連法規として、皆さんの賃金の下支えを行っています。

また、以前の記事(就業規則の周知義務。見たことがないその規則に効力はある?)でも触れた就業規則は、その会社での労働条件の最低基準となります。

労契法12条は「就業規則で定める基準に達しない労働条件……は、就業規則で定める基準による」と定めており、例えばいくら契約で月給18万円と合意しても、就業規則で月給が20万円と定められていれば、就業規則の規定に従うことになります。もちろん、契約で月給を22万円と定めた場合は、就業規則よりも労働契約のほうが優先します。

もう一つ、労働組合が会社と締結する「労働協約」も、労働条件を決めるもののひとつとなります。

労働者が労働組合を結成して会社と交渉し、組合員となった労働者の労働条件を決定するというシステムです。

ただし、必ずしも就業規則のように下支えとなるものではなく、就業規則や労働契約で定める労働条件に対して有利であるか不利であるかを問わず、労働協約の規定が必ず優先します。

つまり、月給について、労働契約で18万円、就業規則で20万円と定めていても、労働協約で16万円と定めた場合には、その労働者の月給は16万円となります。

以上の関係を図に整理してみると、このようなイメージになります。

労働協約がない場合……労働者に有利なものが適用される
労働協約がない場合の給与の不利益変更の合理性

労働協約がある場合……有利不利を問わず労働協約の規定が適用される
労働協約がある場合の給与の不利益変更の合理性

使用者(会社)が労働条件を変える手段は?

使用者が労働条件を変えたいときには、上の図の労働契約・就業規則・労働協約のどれかを使って、新しい労働条件を定めます。

労働者にとって有利に変更する場合は何の争いも起きませんし、労働協約は有利・不利のどちらでも優先しますので、ここでは、不利益に労働契約・就業規則を変更する場面で見てみましょう。

まず、労働契約ですが、冒頭でも述べたとおり、これは労使間の合意による「契約」ですので、労使双方で合意をすれば、その契約内容を変更することができます(労契法8条)。

しかし、特に大きな会社等では、労働条件を変更したくても、たくさんの労働者一人ひとりと個別に合意するのは非常に手間が掛かります。

そこで、今度は就業規則を用いて労働条件を変えることを考えます。

就業規則による不利益変更は原則としてできない!

労契法9条は、就業規則について

「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」

と定めています。

原則として、就業規則を不利益変更するだけでは労働条件を変えられませんよ、ということです。

しかし、この例外として労契法10条があります。

「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が(中略)合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」

というなんとも長い条文ですが、就業規則によって労働上意見を変更するときには、以下の要件を満たしていないといけない、ということです。

つまり、

①変更後の就業規則を周知させること

②就業規則の変更が合理的であること

の2点です。

どのような場合に不利益変更が許されるのか

要件のうち、①の周知については(以前の記事で触れたとおりですが、②の変更の合理性については、どのような判断要素で合理的かどうかを判断するのでしょうか。

これは、裁判例の蓄積により、主に以下の5点で判断することになっています。

・個々の労働者が受ける不利益の程度
・会社が労働条件を変更しなければならない必要性
・変更後の就業規則の内容自体の相当性
・変更に際して労働者側との間で講じた手続
・その他の就業規則の変更にかかる事情

これでやっと最初の問題に戻れますが、変更の合理性は、事例ごとにこれらの要素を総合的に考慮して判断されるため、個別の事案についての合理性判断はケースバイケースというほかなく、予測ができないのが実情です。

ただし、例えば会社が倒産しそうなほど切迫した状態なら、給料をある程度大幅に減額することも許されますし、倒産しそうではないけど経営改善の必要がある状態なら、許される給料の減額幅は小さくなる傾向はあります。

これに対し、会社は黒字だけど今後の会社経営のために戦略的に給料を下げたい、という場合ですと、合理性が認められるのは難しいでしょう。

会社の経営状況と比較して給料の減額幅が大きすぎるという場合は、その就業規則の変更が無効となる可能性がありますが、無効かどうかの最終的な判断は裁判所に委ねるしかありません。

就業規則の不利益変更が不当ではないかと感じたら、弁護士に相談してみるのがよさそうです。

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平賀 律男(パラリーガル)

平賀 律男(パラリーガル)

1982年,北海道生まれの33歳。北海道大学大学院法学研究科にて労働法を専攻し,修士号を取得。2008年からは,パラリーガル(法律事務秘書)として法律事務所に勤務し,企業法務・破産管財などの法律実務に携わるかたわら,在野の労働法研究者としての活動も続けている(2005年より日本労働法学会会員)。著作(共著)に『ワークルール検定問題集』『おしえて弁護士さん 職場のギモン48』(以上,旬報社)『18歳から考えるワークルール』(法律文化社)など。好きな食べ物はラーメン。
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