年俸制のメリット・デメリット、残業代や賞与はどうなる?

年俸制のメリット・デメリット、残業代や賞与はどうなる?

プロ野球選手の報酬は「推定年俸○億円」などと報じられるとおり、1年間の総額で決められていますが、実際の支払いは、均等に12分割して毎月支払われることになっているんですって。

日本の社会にも徐々に浸透しつつある年俸制について、今日は考えてみましょう。

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年俸制の導入は進んでいるのか

古いデータになりますが、平成24年時点で、年俸制を導入している会社は全体の13.3パーセントという調査結果が出ています(平成26年には9.5パーセントに減少)。

しかし、その会社の全労働者が年俸制の適用を受けているわけではなく、導入している会社のうち16.8パーセントの労働者だけが年俸制で働いているとのことです(以上、厚生労働省平成24年就労条件総合調査による)。

つまり、平成24年時点では日本の全労働者のうち約2.2パーセントだけが年俸制の適用を受けていることになりますが、現在はもう少し減っているかもしれません。

年俸のいろいろな支払方法

年俸の支払いは分割?

「年俸制」といっても、会社によっていろいろな支払いかたがあります。

労基法上、給与は必ず月1回支払わなければならないことになっていますが、ボーナスの支払いかたは自由なので、その部分で会社ごとの差が出てきます。おおむね以下の3つに分けられるでしょう。

年俸を単純に12分割して支払う

冒頭で紹介したプロ野球選手の支払いかたと同様で、決定された年俸を12で割って毎月支払う方法です。

この場合は、ボーナスがないともいえますし、ボーナスが年俸に含まれているという言い方もできます。

これが一番単純な方法であり、実際にもこのタイプの年俸制が一番広く使われているようです。

年俸のほかにボーナスを支給する

決定された年俸は12分割して月給として支払うほか、例えば夏と冬の年2回、年俸とは別にボーナスを支払う方法です。業績や個人成績などによって、○万円とか○か月分とかといったボーナスが支給されたり、年によってはボーナスが支給されなかったりすることもあります。これは、一般的な労働者の給与の支払われかたに近いものです。

年俸にボーナス部分を含み、さらに別にボーナスを支給する

(1)と(2)の合わせ技で、決めされた年俸を例えば14で割り、毎月の給与のほか夏冬に1か月分ずつボーナスを支払い、さらに業績等によってボーナスを上乗せすることもありうる、という支払いかたです(私はこれです)。

月給制と比べた時の年俸のメリット・デメリット

会社が労働者の勤務成績を給与に正確に反映させている限りは、年俸制であろうと月給制であろうと、給与に差は発生しないはずです。

しかし、月給制に比べて年俸制のほうが成果主義賃金になじみやすく、給与のアップダウンが激しくなる傾向にあります。

若いうちから成果を認められて給与がドンドン上がる可能性もある一方、仕事のできによっては来年の年俸がガクンと下がる可能性もある、ということです。

従来の年功序列型賃金のように、年齢や役職に応じてある程度安定して給与が上がっていくのに比べると、どちらがよいかというのは一概には言えませんが、やる気のある若者や、そのような若者の働きに期待するベンチャー企業にとっては、年俸制は魅力的かもしれません。

年俸制=残業代がでないは間違い!

プロ野球選手だと、「早出特打ち」とか「居残り特打ち」とかいって、決められた練習時間の前後に練習をすることも多くあります。

しかし、早出や居残りをしたからといって、残業代が出るわけではありませんよね。

このイメージもあってか、年俸制イコール残業代なし、という考えが一般の労働者にも定着している感じがあります。

しかし、それは間違いです!

年俸制だとしても、ふつうの労働者には残業代が発生します。

労基法41条2項の「管理監督者」に該当すれば、残業代を支払わなくてもよいことになっていますが、管理監督者にあたらない労働者が残業をした場合には、年俸のほかに残業代を支払わなければならないのです。

管理監督者とは?

ここで、「管理監督者」とはどんな人を指すのでしょうか。

厚生省(当時)の通達を見てみましょう(昭63.3.14基発150)。

「法第41条第2号に定める『監督若しくは管理の地位にある者』とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。」(以降筆者要約)

(1) 原則……企業が任命する役付者であれば全てが管理監督者として残業代支払いの例外的取扱いが認められるものではない。

(2) 適用除外の趣旨……役付者のうち、労働時間や休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務と責任を有する者に限って管理監督者として適用除外が認められる。

(3) 実態に基づく判断……管理監督者の範囲を決めるにあたっては、企業内の資格や職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要がある。

(4) 待遇に対する留意……賃金等の待遇面においても、定期給与やボーナス等についても役付者以外の一般労働者に比べて優遇措置が講じられているかに留意する必要がある。

(5)(略)

一時、「名ばかり管理職」「名ばかり店長」などと呼ばれる、課長とか店長とか立派な肩書きは付いていても、実際には十分な権限や相応の待遇が与えられていない労働者が社会問題化したのは記憶に新しいところです。

権限面や待遇面で一般の労働者と大差ない場合には、労基法41条2項の管理監督者とはいえず、会社には残業代支払いの義務が発生することになります。

(余談ですが、先ほどの「基発150号」という通達は、労基法のほとんど全ての条文についての行政解釈が網羅的に記載されていて、労基法のことをもっと詳しく知りたいときには非常に役に立つ通達となっています。インターネットでも見ることができるようなので、困ったときは一度読んでみてください。こちらです

年俸制で起こる問題

年俸制と残業

年俸制のもとでは、残業代だけではなく、もうひとつ「査定」について問題が起こりやすいといえます。

年功序列型の賃金であれば、基本給があって、役職手当があって、そして業績手当がある、というように、査定は給与の一部に影響を与えるに過ぎません。

しかし、年俸制の場合は、勤務成績に対する評価が給与の金額自体に直結してくることも多くあります。

そもそも、査定は会社側の権限で行うものであり、労働者から文句が出がちな分野だといえます。

プロ野球選手のように、会社側との交渉で高い年俸を勝ち取るだけの力を持つ労働者であれば別ですが、ふつうの労働者にはそこまでの力はなく、おおむね会社の言い値によって次の1年間の給与が決まってしまうからです。

いくら会社と労働者が面談をして目標設定や業務の評価をするとはいっても、会社が適切に査定制度を運用できるとは限りませんし、また、会社としてはやはり人件費を抑える方向にどうしても動いてしまうということもあります。

さらに、多くの労働者の仕事はプロ野球選手のように数値やデータなどで評価ができるものではなく、会社の評価が適切かどうかを他の人の年俸と比べて確かめてみるわけにもいきませんので、査定の結果や制度全体に対して労働者の不満が溜まることにつながるのです。

査定制度自体や査定結果が不公正だったり、年俸の下げ幅が大きすぎたりする場合には、裁判上、会社が人事権を濫用しているとして、標準的な労働者との賃金の差額について損害賠償請求が認められるケースもあります。

しかし、裁判所で会社の査定が違法かどうかを判断してもらうには長い時間が掛かり、また、会社に所属している状態でその会社を訴えるというのもなかなかできないことです。

ある程度大人数の労働者を抱えている会社であればともかく、小さな会社であれば評価に不公平感が漂い、また会社の誤解のもと残業代も支払われないとなると、その不利益を被るのは労働者です。

自分の給与制度や査定制度が法に則ったものといえるかどうか、今一度確認するのがいいかもしれません。

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