今回は弁護士保険加入者が多い職業の一つである美容師さんのお話です。
フリーランスの美容師に多い面貸しというワークスタイル
美容業界では美容室の正社員として働く形態のほか、フリーランス(個人事業主)としてサロンと業務委託契約を結び、働く「面貸し」という形態が一般的です。
私が通っている美容室でもオーナーだけが法人を保有しており、その他のスタッフは全員個人事業主ということでした。
面貸しの場合、収入は歩合制というリスクがある一方で、集客と場所や資機材の確保はサロンがやってくれるうえ、勤務時間等はある程度自由に決められるため、いずれ独立を目指す美容師を中心に個人事業主として面貸しで働く人は多く存在します。
しかし、最近この面貸し美容師の方が、弁護士保険に加入する例がとても増えています。
個人事業主の中でも美容師は特に訴訟トラブルになりやすい業種と言われていますが、実際どのようなトラブルが多いのでしょうか。
顧客とのトラブル
美容師が抱えやすいトラブルの1つ目は、お客さんとのトラブルです。
-カットやカラーをしたらイメージと違うとクレームをつけられる
-お任せと言われたので似合いそうな無難な髪型にしたら納得して貰えず、後日無償でやり直しした
-髪が傷んでいるお客さんに、パーマや縮毛矯正をかけたらますます髪が傷んでしまうことを説明しても、納得せず施術せざるを得なくなった。 施術後に予想通り髪が傷んでしまい、文句を言われた
なんていうのは日常茶飯事です。
慎重なサロンでは、予め承諾書にサインしてもらうようにしているところもあるほどです。
しかしながら、更に発展して実際に裁判に至ったケースも多く発生しています。
・パッチテストや頭皮チェックもなくカラーリングをされ、でリンパ液が出てくるほど頭皮がただれ、医者にカラー剤による接触性皮膚炎と診断されたため、損害賠償請求をされた。・結婚式にストレートパーマを2回にわたってかけたところ、毛先から25cmが縮れ「ビビリ毛」状態になり、髪の毛を15cm切らざる得なくなったり、結婚式が台無しになったとして約490万円の損害賠償請求をされた
・お客さんの耳を切ってしまって治療費と慰謝料で220万円の支払った
・コールドパーマのせいで皮膚炎や耳鳴りに悩まされていると損害賠償を求められ400万円の支払い(パーマ液を塗って30分以上も放置した使用法や洗髪のやり方にミスがあったと裁判所が認定)
などがあります。
また、縮毛矯正をかけたところ、失敗して髪の毛がチリチリになってしまい訴訟に発展したケースなどもあり、ひどい場合には訴訟の影響でインターネット上で叩かれ、サロンの評判が落ち、都内で廃業に追い込まれた美容室もあるとのこと。
特に、安さを売りにしている美容室はお客さんを同時に掛け持ちすることが多いため、パーマや縮毛矯正の時に必要以上に放置してしまい、髪を痛めてしまい、クレームにつながることが多いようです。
このようにクレームが来て治療費とか請求された時のためにサロン向けの損害賠償保険に入っていることが多いようですが、安易に返金や慰謝料に応じると、それにつけこんでくることが多いため難しいところです。
美容室はお店のイメージが大切であることもあり、顧客とのトラブルによる悪影響は計り知れません。
特に現在どの美容室も集客のメイン媒体としているホットペッパーに顧客から直接クレームが入ると、ホットペッパーからそのサロンの掲載情報を削除されてしまい、来店数が激減するケースもあるので死活問題です。
また、予約の無断キャンセル、すっぽかしも増えてくると売上にも大きく影響を及ぼします
お店とのトラブル
美容師が抱えやすいトラブルの2つ目はお店とのトラブルです。
その中でも必ず揉めるのが、『独立の時の顧客情報の持ち出し』についてです。
美容師が独立して自分のお店を出すとき、一番不安なのは『自分の新しい美容室にお客さんが来てくれるのか?』という点です。
できるだけ早くお客さんを獲得したいため、それまで自分についていたお客さんはもちろんのこと、サロンに来ている他のお客さんにも宣伝をしたいという心理になります。
一方で、美容室のオーナーとしては、これまでの顧客はコストをかけて獲得した大切なお店の資産。
新しい美容室に顧客を盗られるのは困ると考えるケースがほとんどです。
実際には入店時に『辞めるときにはお客さんには宣伝しません、顧客データは持ち出しません』と誓約書にサインをするケースが多いようですが、そもそもの契約書に不備があったり、契約を無視してこっそり顧客情報を持ち出し、新しいサロンのDMを送るなどの行為が頻発しています。
このトラブルを防ぐには、
・契約書を作る段階で弁護士にリーガルチェックを受ける
・電話や住所などのデータの閲覧制限をかける
・データの持ち出しは違法行為であることを認識させる
などの措置がお店側にとっては重要です。
また、中にはサロンのオーナーが独立した元スタッフに対して、営業妨害を目的に損害賠償や調停を起こすケースもあります。
このような場合、独立した美容師は、新規開業費用と訴訟費用が重なって、キャッシュが回らなくなり、独立してすぐに廃業に追い込まれる事も少なくありません。
このように、美容師は顧客とお店との間にトラブルを抱えやすい職業であり、かつ個人事業主が多いため、個人事業用途でも活用できる弁護士保険Mikataへの加入者が増えています。
加入している美容師の皆さんは、訴訟リスクに備えるだけではなく弁護士直通ダイアルで事業に関する問い合わせをするなど、弁護士保険を顧問弁護士代わりにうまく使っている方もいらっしゃいます。
美容師も独立して個人事業主という形態で働く人が国民健康保険に加え、弁護士保険にも入るのが当たり前の時代になってきたと感じる今日この頃です。
「弁護士費用保険の教科書」編集部

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