痴漢の犯人に示談金を払わせるのに「弁護士」が必要な理由

今回は、女性が日常生活の中で最も恐れていることの1つである「性犯罪」への対策について考えてみたいと思います。

性犯罪とは具体的には、痴漢、のぞき、強制わいせつ、強姦などを指しますが、ここでは特に頻発している「痴漢」についてフォーカスしたいと思います。

痴漢は「満員電車に乗らない」「女性専用車両に乗る」といった行動により、一定の予防は可能です。

しかしながら、常に予防策が取れるとも限らず、誰でも被害者となってしまうリスクがあるのも事実です。

特に「体を触られたことを他人に知られるのが恥ずかしい」という心理から、我慢して誰にも言えずに泣き寝入りする被害者が多いのです。

でも、見知らぬ男に怖い思いをさせられて黙ってはいられない!

そんなときに味方につけると最も心強いのが「弁護士」です。

ここからは弁護士を味方につけることで、法により性犯罪者を裁く方法について、「民事」と「刑事」という2つの裁判方式を踏まえて、詳しく見てみたいと思います。

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痴漢の犯人にお灸をすえる2つの方法

痴漢をした人への法的な「おしおき」は大きく分けて2種類存在します。

1つは、国が「犯罪」として処罰する刑事裁判。

その刑事裁判にかかる事件のことを刑事事件といいます。

もう一つは、被害者が「私の権利を侵害したから金で賠償しろ」という民事裁判。

この民事裁判にかかりうるもめごとのことを民事事件といいます。

このように被害者の立場を刑事と民事の2つの観点から守れるように法律は作られています。

 痴漢で刑事告訴するための弁護士費用

参考ページ:これでスッキリ!民事事件と刑事事件の違い

この刑事と民事の一番の違いは、「和解があるかどうか」です。

この「和解」こそが、痴漢の犯人を懲らしめるための重要なキーワードになりますので、詳しく見ていきましょう。

痴漢被害者と犯人の心理とは?

痴漢被害者の立場からすれば、「刑事で懲役などの罰を受けさせ、民事で慰謝料を払わせる」のが最も犯人に罰を与える方法です。

一方で、犯人の方は、

「刑事は絶対に避けたい。なんとか民事で和解に持っていきたい」

と考えるのが普通です。

なぜなら刑事罰を受けると、前科がつき、会社をクビになったり、家族が白い目で見られ、社会生活に著しい悪影響があるからです。

それでは皆さんは痴漢による刑事罰がどのくらい重いものなのか、ご存知でしょうか?

刑事事件としての痴漢の処罰

痴漢行為が刑事事件としてどのように処罰されるかを表に整理してみましたのでご覧下さい。

犯罪種別(刑事事件) 親告罪かどうか 行為 刑罰(初犯の場合)
迷惑防止条例違反 非親告罪 衣服の上からさわる、足をさわるなど 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金※東京都、埼玉県、千葉県の場合
強制わいせつ罪 親告罪 スカートの中に手を入れる、または暴行・脅迫が手段として用いられた場合など 6ヶ月~10年の懲役

まず行為の程度によって、親告罪と非親告罪の2つに分類が可能となります。

親告罪については、犯人を罰するか否かを「告訴」により被害者が選択することできます。

一方で、非親告罪については親告罪とは逆で、ほぼ自動的に刑事事件になります。

「ほぼ」と留保を入れたのは、起訴をして刑事裁判にするかどうかは検察官に任されているからです。
(※起訴便宜主義。詳細は後述します。)

ここで疑問に思った方も多いと思いますが、どうして罪の重い行為の方が、親告罪として被害者の告訴を要するのでしょうか?

それは、犯罪の軽重だけではなく、被害者の利益(名誉など)を保護する観点も含めて法律が作られているからです。

強制わいせつは、迷惑防止条例違反の行為に比べ、より被害の度合いが強い行為であるはずですが、この場合、法的には「被害の度合いが強い行為を一般に公開されない自由」は「犯罪を犯した犯人を処罰する必要」よりも重いと考えられていることが分かります。

親告罪として被害者の感情を尊重することによって、この自由が保護される必要があるためと考えられています。

痴漢に対する刑事罰の種類と背景をご理解いただいたところで、次は実際に痴漢にあった際の対処方法について解説していきます。

電車で痴漢にあった際の対処マニュアル

痴漢をされ、犯人を捕まえたシーンを想定してみて下さい。

その時、あなたならどういう行動をとりますか?

法的に有利になる行動をとれますか?

前述の通り、痴漢の犯人に対する「おしおき」は刑事事件の側面(国からのおしおき)と民事事件の側面(被害者の「金よこせ!」)とがあります。

しかし、これらの2つの側面は、起こっている事実だけを見るとどちらに該当するのか区別しづらいものです。

そのため、以下では痴漢にあった直後にとるべき行動や手続について、順を追って説明しつつ、各手続きが刑事事件の側面と民事事件の側面とでどのような意味を持っているのかを解説していきます。

専門的かつ具体的に役立つ知識になりますので、じっくりとお読み下さい。

①駅事務室・警察等に移動

・痴漢を捕まえたら、逃げられないように駅事務室に移動しましょう。
・駅係員が警察を呼んでくれます。
・駅係員や警察は中立の立場ですので、自分の味方である弁護士に連絡し、対応方針(犯人と戦うかも含め)を相談しましょう。

民事の観点からは、この時点で被害者が「なかったこと」にして、(すなわち賠償金を取ることを諦めて)日常生活に戻ることも可能です。

刑事の観点からは、犯人が刑事事件として処罰されるかどうかは、事件の性質(親告罪か非親告罪かどうか)と警察・検察の裁量にかかっています。

実際に犯人が逮捕されて刑事事件となった場合には、以下の流れで進行します。

②事情聴取

(逮捕による留置期間は最大3日+勾留によるものが10~20日間)
留置期間中に、取り調べ(刑事)と示談交渉(民事)が行われます。

取り調べで明らかになった事実関係をもとに「刑事」と「民事」の側面から、処罰方針が決まっていきます。特に以下の点が罰の重さに影響を与えるポイントとなります。

A. 示談交渉の成否
・「刑事」に影響があるのは被疑者が犯行を認めているかどうか。
(犯行を認めている場合、示談の内容を含めた反省の態様。)
・「民事」に影響があるのは交渉の内容や賠償額の多寡など。B. 被害者の処罰感情
・「刑事」に影響あり。示談の内容に影響を受けやすい項目となります。C. 犯情
・悪質かどうかが損害額に影響を与え得ることもある。「刑事」と「民事」に影響あり。D. 前科の有無
・「刑事」に影響がある。

③刑事と民事の処罰方針が決まる

A. 刑事:不起訴or起訴。
起訴の場合、以下のいずれかとなります。
・略式請求(100万円以下の罰金等の財産刑が課される)
・公判請求(公開の法廷での裁判を請求すること)

B. 民事:示談の内容で満足するorもっと大きな金額を請求するor訴訟にする

以上が痴漢を捕まえた後に、
犯人の処分が決定されるまでの大まかなプロセスになります。

上述の通り、刑事については警察・検察が次にどうするかを決めますが、民事については、被疑者(犯人)側から示談の要求が来た際に、それに対して応じるのかどうかを被害者の方で意思決定をする必要があります。

この示談交渉について、どのように行えばいいのかについて、ご説明させていただきます。

示談交渉は弁護士なしでも成立するのか

示談についてですが、多くのケースでは被疑者の勾留期間中に、被疑者側から示談交渉の要求がきます。

この際、自分だけで示談交渉を行うことは可能なのでしょうか?

結論から言いますと、示談は弁護士を挟まずに成立しえます。

ですが、あまりおすすめ出来る方法ではありません。

示談の本質は、民法に類型化された契約のうちの、和解契約(695条)です。

民法は、原則としていつでもだれでも契約ができると定めています。

ですので、示談もまた、いつでもだれでもできます。

しかし、当事者になるとどうしてもパニックになり、冷静な判断はできなくなります。

後になって「あー、あれを言っておけばよかった!」ということにならないように、冷静な判断のできる弁護士を味方につけておきたいところです。

また、弁護士に依頼することで公の秩序が保たれるというメリットもあるように思われます。

もちろん弁護士を挟まずに交渉しても、当事者が納得しているのならそれで問題ないかもしれません。

しかし、示談の内容や示談金の相場を考慮に入れず、好き勝手に交渉できてしまうのであれば、痴漢の常習犯で示談交渉に慣れている犯人が相手だった場合などに、被害者が不利になってしまう可能性があります。

そんなとき、様々な紛争の正当な解決に精通している弁護士のアドバイスを受けることで、その交渉の内容が正義に適うものであるといいやすくなるはずです。

そのような解決は、後々にまでしこりを残しづらいものになるともいえそうです。

さらに、被害者の立場からすれば、

「周りからがめつい女だと思われたらイヤだ」
「事件のことを知られたくない」

このように思うのも当たり前です。

では弁護士を使って、周囲に痴漢事件のことを知られないようにするには、どうすればよいのでしょうか?

弁護士なら事件を公にせずに示談にもっていくことが可能

優秀な弁護士であれば、被害について賠償金を求めるにあたり、裁判にしないようにしていわゆる「示談」にもっていくよう交渉していくことができます。

そして、よほど不当な条件でない限り、交渉の内容がそのまま実現されることになります。

例えば、「事件のことを口外しない」という約束も示談の内容として守られなければなりません。

そして、担当する弁護士が有能であればある程、良い内容の示談が実現できるのは当然のことですよね。

しかし、いざ弁護士に頼むとなったら時間も弁護士費用(最低でも20-30万円以上)もかかります。

弁護士も、示談で取れるお金よりかかる弁護士費用が高くつくときは、依頼者の経済的メリットを考慮して手を出さないことは多いものです。

(むしろ、依頼者にとって割に合わない事件を無理やり進めようとする弁護士がいたら、依頼することは控えたほうがいいかもしれません)。


そんなとき弁護士保険加入者であれば、金銭負担(弁護士費用)を気にせず、有能な弁護士をフル活用して「せめて金くらいよこせ!」という主張を人知れず行うことだってできるんです。

つまり、リスクに備えて弁護士保険に加入しておき、痴漢にあった時はにはその保険料の中から弁護士を使って示談交渉を有利に進めるという方法が、痴漢に備える最適な方法の1つと言えます。

警察は弁護士の代わりにならないのか?

さて、少し話は変わりますが、痴漢に関する示談交渉に警察は協力してくれないのでしょうか?

確かに、まったく協力してくれないというわけではありません。

しかし、示談の「金よこせ!」の場面において、警察はあくまでわき役です。

私の知る限り、「金よこせ!」の場面で警察がかかわる場面は、以下の3パターンが考えられます。

①訴訟をするかどうかのほぼ第一次的な助言役。
②訴訟をするにあたって必要な証拠集め。
③示談交渉をするにあたり、被害者側のカードとして「告訴」、つまり「捜査機関に犯罪を申告し訴追を求める意思表示」(噛み砕いていえば、「こいつを罰してくれ!」と伝えること。)

このように、警察は被害者が最初に頼る場所であるといえますし、示談交渉を有利に進めるにあたり、警察との連絡を密にすることでより有利な交渉ができるでしょう。

しかし、「金よこせ!」と言いたい場面において警察はわき役です。

そうすると、自分の要求を実現するためには、やはり弁護士の助力が必要になってくるといえそうです。

交渉のカードとしての告訴をどのように使うか

③について、なぜ告訴が交渉の場面で関わるのかという疑問がわく方もいらっしゃると思います。

それには、日本という国が犯罪に対処するシステムに原因の一部があるのです。

日本では、刑事事件に対して、起訴便宜主義(きそべんぎしゅぎ)という考え方に基づいたシステムが用いられています。

「大したことない事件だったら、まあ今回は大目に見てやる」という考え方です。

これには、「今回は大目に見てやるから、もう二度とするんじゃないぞ」というメッセージを伝えることにより、手続きの負担を軽くしながら再犯を防止し、更生をはかるという効果も期待されています。

加えて、現実の問題として小さな事件だと警察も最後までつきあっている余裕がないこともあります。

仕事をされている方であれば、たとえば繁忙期に無理やり割に合わないタスクが詰め込まれるような辛さ、一度や二度じゃなく体験しているのではないでしょうか。

加えて、まあ水に流してしまったほうがお互い楽でいいんじゃないという発想はどうしても出てきてしまうものです。

そんなときに、示談にもっていきつつ、「余計なことしたらどうなるかわかってますよね?」というように訴追意思をちらつかせるのは、交渉の手段として認められる限り、意味があると考えられます。

だから、「きちんとお金(慰謝料)払ってくれるのなら水に流してもいいけど、そうじゃないなら前科がつく可能性があるかもしれませんよ?」という態度で臨みえます。

このような交渉も良し悪しあるかもしれませんが、腕の良い弁護士であればこのカードを適切に使えるのではないでしょうか。

ただ、盗撮くらいなら上記の交渉態度もできそうですが、強制わいせつや強姦になると被害者への精神的ダメージも大きいので、どこまで強気に出ていいのかは悩ましいところです。

裁判になってしまうとすべてが白日の下にさらされてしまうからです。

そうすると、被害者の心情を慮りつつ適切な交渉ができる有能な弁護士がなおさら必要になってくるのです。

おわりに

自分だけは性犯罪の被害に遭わないだろうと思う方や、性犯罪に遭うことなんて想像もしたくないと思う方は多いと思います。

また、性犯罪に備えて弁護士保険に入るなんて、かえって性犯罪に遭うことを予定しているようで不吉だと思う方もいるかもしれません。

そう考えるのも、まだ日常生活で弁護士を使う習慣の無い日本では仕方のないことでしょう。

ですが、今後、性犯罪に限らず、セクハラやパワハラを含む労働問題、離婚や相続を含む家庭問題、各種詐欺やもらい事故などを含めると、個人が背負うリスクは多岐に渡ります。

そしてこのようなトラブルに巻き込まれた時、弁護士を使って解決するのが、最も自分や家族を守ることに繋がります。

弁護士に相談する場合には、弁護士保険がおすすめです。保険が弁護士費用を負担してくれるので助かります。

 

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一人でも多くの国民が弁護士保険を知ることで、「自分の人生を自分で守る」意識が高まるのではないかと思います。

その結果、日本社会が、トラブルに対して、泣き寝入りしなくて済む社会となることを切に願っています。

※本記事に記載された刑罰の程度については、あくまでも目安となりますので、実際に被害にあった際には必ず専門家である弁護士にご相談下さい。
※示談金・慰謝料・賠償金はそれぞれ厳密には法的な取り扱いは異なりますが、本記事では全て同じ意味として扱っております。