侮辱罪とは、公然の場において人を侮辱し、人格を軽視する行為する言葉や言動によって処罰される犯罪のこと。
昨今ではSNSの普及から、ネット上での侮辱行為も多発しやすく、侮辱罪は多くの人が被害に遭いやすい犯罪となりました。
実際のところ人命に関わる被害も起きています。
本記事では、侮辱罪が成立する要件や事例、処罰の方法と注意点を解説します。
こんな疑問にお答えします
Q.侮辱罪として認められる要件と、加害者を訴える方法を教えてください。
A.侮辱罪とは、公然の場において人を侮辱し、人格を軽視する言葉や言動によって処罰される犯罪です。侮辱にあたる行為に悩んだ場合は、刑事対応と民事対応で訴えられます。侮辱罪での告訴など法律が絡む手続きは、慣れない人にとっては非常にストレスとなるものです。侮辱や誹謗中傷に対し訴訟を検討する場合は、まずは弁護士への相談がおすすめです。
侮辱罪とは
侮辱罪とは、公然の場において人を侮辱し、人格を軽視する言葉や言動によって処罰される犯罪のこと。
ここで示す「公然の場」とは、不特定多数の人が認識する場所を意味します。
侮辱罪は、刑法231条件で次のように定められています。
刑法第231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
引用:刑法|e–Gov法令検索
侮辱罪と認められる成立要件
侮辱罪は、次の成立要件を満たした場合に認められます。
- 事実を指摘していない
- 公然の場で行う
- 他人をおとしめる言動をする
まず、侮辱罪が認められる1つ目の要件として、侮辱に当たる内容が、根拠となる明確な事実や理由を示していない点が該当します。
例えば、「アホ」「バカ」「無能」といった抽象的な言葉は、偏った価値観によるもので、事実とは言えません。
こうした内容は、事実の摘示ではないため、侮辱罪に当てはまります。
続いて、公然性があることも要件のひとつです。
先述の通り、不特定多数の人が認識できる公然の場で「Aさんは不細工だ」「Bさんはアホだ」など、人を侮辱する行為をした場合、成立要件として満たされます。
実際に多くの人が集まる公共の場や、誰でも閲覧可能なSNSやインターネット掲示板上も該当します。
3つ目の成立要件は、他人をおとしめる言動であるかどうかです。
公然の場で、社会的評価を下げるような内容の場合は、侮辱罪として成立します。
侮辱罪と認められないケース
ここで、侮辱罪として認められないケースも確認しておきましょう。
侮辱罪に該当しないケースは、先に挙げた成立要件を満たさない場合です。
例えば、手紙や1対1のメール・DM、など、不特定多数の人が認識しない手段で侮辱した場合は公然性がないため、侮辱罪と判断されません。
さらに、侮辱の内容が「Aは仕事の納期を守らないから無能な人間だ」「あの店の衛生環境は最悪だ」など、事実の真意に関係なく具体性のある場合は、侮辱罪として認められず、次に説明する名誉毀損罪に該当する可能性があります。
名誉毀損罪との違い
侮辱罪と混同されやすい犯罪として、名誉毀損罪があります。
侮辱罪と名誉毀損罪は、事実が摘示されているかで違いが判断されます。
名誉毀損罪は、刑法230条で次のように定められています。
“第230条
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。”
引用:e-Gov 法令検索
名誉毀損罪は、事実の摘示が重要な要素となります。
例えば、「〇〇社はパワハラやセクハラが横行していて評判が悪い」など、事実が真実か虚偽かに関係なく社会的評価を落とすような内容は名誉毀損罪に当てはまります。
対し、侮辱罪は、「アホ」「バカ」「ブス」「ケチ」など、事実の摘示に当たらないものが該当します。
侮辱罪の刑罰
侮辱罪の刑罰は、2022年6月の刑法改正で厳罰化しています。
改正内容は次の通りです。
侮辱罪の厳罰化
従来の法定刑 | 改正後の法定刑(2022年7月7日施行) | |
---|---|---|
法定刑 | 30日未満の勾留、および1万円未満の科料 | 従来の法定刑に加え、1年以下の懲役・禁錮、30万円以下の罰金、が追加 |
時効 | 1年 | 3年 |
具体的に、従来の法定刑の「勾留・科料」に加え、改正後は新たに「懲役・禁錮・罰金」が追加されました。
時効も1年から3年に延びています。
そのため、施行日以降に侮辱罪として認められた場合は、厳しく処罰されることになります。
侮辱罪と認められた事例
それでは、実際に侮辱罪として認められた事例を紹介します。
Yahoo!ニュースのコメント欄で侮辱する内容を書かれ訴訟を起こす
トヨタ自動車グループの愛知製鋼の技術を外部に漏らした疑いで、不正競争防止法違反罪に問われた、元専務・本蔵義信さんが、無罪確定後にYahoo!ニュースのコメント欄に侮辱的な内容を書き込まれた事例です。
書き込んだとみられる男性に対し、損害賠償を求めた訴訟により、男性は約93万円の支払いを命じられました。
参考:産経新聞
プロレスラーの女性がインターネット上で誹謗中傷による被害を受ける
ネットいじめによる被害も社会問題となっています。
2020年5月、フジテレビの恋愛リアリティーショーに出演していたプロレスラーの木村花さんが、SNS上で誹謗中傷を受け、22歳という若さで自らの命を経ちました。
警察は、書き込みを行った犯人のうち2人に対し、課した刑罰は科料9,000円。
当時の侮辱罪は時効が1年しかなく、新たな犯人の特定に限界を迎えてしまいました。
これにより、ネットいじめへの厳罰化を求める声が高まったのです。
参考:文春オンライン
侮辱罪で刑事対応をする方法と注意点
侮辱にあたる行為に悩んだ場合は、どのような方法で対処すればいいのでしょうか。
主な対処方法として刑事告訴と民事告訴の2つがあげられますが、まずは刑事告訴する際の手順と注意点を解説します。
- 侮辱された証拠を集める
- 情報の開示請求をする
- 告訴状を提出する
- 刑事告訴をする際の注意点
侮辱された証拠を集める
告訴が受理されるためには、証拠が必要になるため、まずは侮辱にあたる証拠を集めておきましょう。
昨今被害の多いSNSなど、ネット上で被害を受けた場合の証拠の収集方法は下記の通りです。
- 該当の書き込みをスクリーンショットで持っておく
- 該当箇所をプリントアウトする
- 該当箇所の写真を撮っておく
ネット上の被害の場合は、発信者によって書き込みやページ自体が削除される可能性があるため、発見したらなるべく早く記録をとっておきましょう。
情報の開示請求をする
続いて、情報の開示請求をしましょう。
告訴をするには、加害者の情報が必要です。
しかし、ネット上の被害の場合は匿名性が高く、発信者の特定は難しいもの。
そのため、該当する書き込みの運営元に、発信者の情報開示請求をする必要があります。
開示請求を求めるには次の手続きを行います。
- サイトのプロバイダにIPアドレスの開示請求を行う
- IPアドレスをもとに、発信者の契約するプロバイダを特定
- プロバイダに対し、発信者の情報を提供してもらうよう請求
ただし、プロバイダ業者が開示請求に応じてくれないケースもあります。
その場合は、裁判所に申し立てを行い、強制的に開示決定を得る必要があります。
告訴状を提出する
侮辱罪は親告罪といって、被害者が加害者に対して告訴をしてはじめて処罰を求められるようになります。
ここで意識したい点は、被害届との違いです。
被害届は、「被害を受けた」と申告するだけのもので、処罰を求めるものではありません。
従って、処罰を求めるのであれば、告訴をしましょう。
告訴の方法は、口頭と書面のどちらでも受理してもらえますが、記録として残すために書面(告訴状)を提出する方がいいでしょう。
告訴状は、警察署へ提出するのが一般的です。
捜査機関が告訴状を受理した後、捜査が始まります。
刑事告訴をする際の注意点
刑事告訴をする際の注意すべき点は、警察に事前に相談したうえで、集めた証拠を印刷してを持っていくことです。
特に、ネット上の被害の場合は投稿元が重要な証拠となるため、告訴を提出する前に削除依頼は出さないようにしましょう。
また、告訴できる期間にも注意が必要です。
親告罪として、被害者が告訴できる期間は「犯人を知ってから6ヶ月以内」です。
具体的には、加害者の氏名や住所を特定できていなくても、「誰なのか」が分かる程度の情報を知った日から6ヶ月以内という意味です。
侮辱罪で民事対応をする方法
侮辱的な行為を受けた場合は、民事対応も可能です。
民事対応では「慰謝料請求」と「削除請求」をすることになります。
慰謝料請求
民事訴訟においては、侮辱による精神的苦痛や被害を金額に換算して、慰謝料を請求できます。
慰謝料の相場は、10万円以下が一般的です。
決して高くはありませんが、加害者に対し反省を促すという意味では有効でしょう。
削除請求
ネット上の被害の場合は、侮辱に当たる書き込みや投稿を削除するよう、サイト運営者や加害者に対し、削除請求ができます。
しかし、削除請求は強制力が低く削除が完了するまで時間がかかるため、民事の裁判手続により、削除の仮処分の申し立てが可能です。
仮処分とは、裁判所から仮の権利を認めるものです。
暫定的な処分に過ぎませんが、裁判所からの命令があれば、サイト管理者は削除請求に応じる可能性が高くなります。
侮辱や誹謗中傷を受けたら弁護士へ相談を
侮辱罪で告訴をする方法を解説しましたが、法律が絡む手続きは慣れない人にとって非常にストレスとなるものです。
ネット上の侮辱や誹謗中傷に対し訴訟を検討する場合は、まずは弁護士への相談がおすすめです。
弁護士へ相談することで、訴訟の手続きや証拠の収集がスムーズになります。
侮辱による被害を弁護士へ相談するメリット
侮辱や誹謗中傷による被害を弁護士へ相談することで、以下のメリットがあります。
- 侮辱罪として認められるか判断してもらえる
- 証拠収集のアドバイスを受けられる
- 訴訟手続きをすべて任せられる
- 加害者が手続きに応じない場合、弁護士による強制力を持たせられる
- 加害者との直接的なやりとりを減らせるため、ストレスを軽減させられる
- 加害者の態度が一変した場合も、弁護士に柔軟に対応してもらえる
被害者にとって侮辱による精神的な苦痛は大きく、実際のところ人命を奪う事件も起きています。
ひとりで悩まずに、まずは弁護士へ相談してみましょう。
費用に不安を感じたら弁護士保険も検討しよう
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しかし、弁護士保険に加入しておくことで、法的トラブルが発生した場合に、弁護士に支払う費用を抑えられます。
侮辱や誹謗中傷の被害に対応するのであれば、弁護士保険も視野に入れましょう。
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記事を振り返ってのQ&A
Q.どのような行為が侮辱罪として認められますか。
A.侮辱罪とは、公然の場において人を侮辱し、人格を軽視する言葉や言動によって処罰される犯罪のことで、次の成立要件を満たした場合に認められます。
- 事実を指摘していない
- 公然の場で行う
- 他人をおとしめる言動をする
Q.侮辱罪と名誉毀損罪の違いを教えてください。
A.侮辱罪と混同されやすい犯罪として、名誉毀損罪があります。
侮辱罪と名誉毀損罪の大きな違いは、「事実の摘示」があるかどうかです。
Q.侮辱にあたる行為に悩んだ場合は、どのような方法で対処すればいいのでしょうか。
A.刑事対応と民事対応が可能です。
刑事対応では、以下の方法で訴訟を進めます。
- 侮辱された証拠を集める
- 情報の開示請求をする
- 告訴状を提出する
このとき、告訴が可能な期間は、犯人を知った日から6ヶ月以内と定められているため、なるべく早めに行いましょう。
一方で、民事対応では「慰謝料請求」と「削除請求」が可能です。慰謝料の相場は10万円以下となります。